山手線は東京の中心部を周回する。先頭車両からの前方の眺望は楽しく、特徴的な建物が次々に現れ、併走する電車もたくさん眺められる。ところで、山手線の運転台付近から「チン、チン」と鈴の音が聞こえることに気付いただろうか。実はアノ音、安全を守るための重要な装置から発せられている。いったいどんな時に鈴が鳴るのだろうか。

運転台の速度計の周りに指示表示がある

この「チン」という音、実は信号機の音だ。運転士に「速度を変更しなさい」という指示が出た場合に音が鳴る仕組みになっている。運転席の後ろで注意深く聞いていると、「チン」と鳴るたびに運転士がブレーキをかけたり、加速したりしていると気付くはずだ。

山手線には従来の「青、黄、赤」の信号機がなく、運転士に直接「この速度で運転しなさい」という指示が与えられる。運転席の速度メーターの外周に三角のランプが並べられており、運行可能な最大速度のランプが点灯する。例えば、青信号の代わりとして「時速90km」にランプがつき、前方の列車と近づいている時は黄色信号の代わりに「時速40km」などの低速な速度にランプがつくといった具合。停車する必要がある場合は、「時速0km」の部分にランプがつくのだ。このように、ランプ点灯の速度が変わった時に、運転士に注意を喚起するために「チン」と鳴るというわけだ。

導入が進む「ATC」で地上の信号機が消える

この仕組みは「ATC(Automatic Train Control)」といい、山手線以外の路線でも普及が進んでいる。他の路線でも「チン」と鳴っていると気付いた人もいることだろう。最初に搭載された路線は東海道新幹線だ。新幹線は時速200km以上のスピードで走る。従来のような線路脇のランプ式信号機では、あっというまに通り過ぎてしまって確認しにくい。そこで、地上の信号機ではなく運転台に速度を指示する形で信号を表示することにしたというわけだ。運転士が指示された速度を超えようとする場合は自動的にブレーキがかかる。

ATSを使用する湘南新宿ライン(山手貨物線)側には地上信号機がある。ATCの山手線には地上信号機がない

これに対して従来のランプ式信号機は「赤信号を突破したら非常ブレーキ」という簡素な仕掛けだ。これを「ATS(Automatic Train Stop)」という。ATSは列車の運行本数が少ない路線では現在も有効な保安装置として使われている。ちなみにATSを採用した路線では、赤信号に列車が近づくと「ジリジリジリ……」と非常ベルが鳴り続ける。運転士に強く注意喚起する仕組みになっている。

新幹線に搭載されたATCは、その後地下鉄にも採用されるようになった。地下鉄のトンネル区間は狭くて、地上信号機を設置する場所に困る。また、線路がカーブしていると遠くの信号機を確認しづらい。そこで車内信号方式のATCの普及が進んだ。その後、細やかな速度指示ができるため、山手線など混雑した路線にも採用が進んでいる。なお、鉄道会社や路線によっては「チン」という鈴ではなく、電子音になっているところもあるという。