夜の東京駅から東海道本線を西へ、朝は東海道本線を上って東京駅へ、ちょっと変わった色の電車が走っている。車体の上半分が赤、下半分がベージュ。日中は品川~田町間にある車両基地で待機しており、他の電車とは違うデザインでひときわ異彩を放っている。
この電車の形式は285系。愛称は「サンライズエクスプレス」。いまは東京駅を発着する唯一の寝台特急となった。運行される列車名は「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」だ。「サンライズ瀬戸」は東京~高松間、「サンライズ出雲」が東京~出雲市間を走る。下り列車は東京駅を22時ちょうどに出発する。このとき、「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」は連結されており、岡山駅で分離してそれぞれの目的地に向かう。逆に上り列車は岡山駅で連結され、東京駅に朝7時8分に到着する。
285系の特徴は外観だけではない。内装も凝っていて、設計と製造には大手住宅メーカーのミサワホームも加わったという。客室の素材には難燃加工した木材を使用している。内装に難燃加工木材を使用した例といえば、水戸岡鋭治氏が手がけたJR九州などの車両が知られている。しかし初めて採用した鉄道車両はこの285系だ。この材料は天然木に燃えにくい樹脂を染み込ませて作る。木材というより、木質感のある複合材料といったほうが正しい。表面のつやは樹脂を染み込ませたためだ。
客室は個室が中心で、A寝台1人用の「シングルデラックス」、B寝台2人用の「サンライズツイン」、B寝台1人用の「シングルツイン」「シングル」「ソロ」がある。「シングルツイン」は広めで、別料金の補助ベッドを使うと2人で利用できる。「シングル」「ソロ」は広さと料金の違いだ。
料金は「ソロ」が従来の2段ベッドと同じ以外は高めの設定だ。カシオペアやトワイライトエクスプレスとまでは言わないけれど、かなり快適な夜行列車ともいえる。一方、サンライズにはカーペット座敷の「ノビノビ座席」も用意されている。こちらは大人が横になれるほどの細長い区画になっていて、寝台料金は不要。指定席特急料金で利用できる。短い区間の利用者に人気がある。
寝台列車サービスの"切り札"として誕生
かつて、長距離旅行といえば寝台特急が最も快適だった。ところが新幹線や旅客機が普及すると、寝台列車の利用者が減っていく。それでも寝台列車が優位に立てる場面がある。出発駅を新幹線の終列車や飛行機の運行終了時刻より後に出発し、翌朝、飛行機や新幹線の一番最初の便よりも早く目的地に到着するケースだ。これなら前日も翌日もまるまる使えて、寝ている間に移動できる。
東京駅を発着する寝台特急のうち、その条件を満たす列車が「出雲」「瀬戸」だった。そこで、この2つの列車の価値を高めるため、電車化によってスピードアップを図り、より便利な時間帯で利用できるようにした。これが285系誕生の経緯である。「サンライズエクスプレス」運行開始は1998年からだ。7両編成で5編成が製造され、JR西日本とJR東海が保有している。
「サンライズ瀬戸」の下りは東京発22時0分、高松着7時27分で、上りは高松発21時26分、東京着7時8分である。まさに効果的な時間帯だ。「サンライズ出雲」の下り出雲市行も、到着は朝9時58分とちょっと遅く、上りは出雲市発18時55分で飛行機に負けてしまうけれど、それでも下りは東京から朝一番の新幹線「のぞみ」と特急「やくも」を乗り継ぐより3時間ほど早く着く。また、岡山駅で「スーパーいなば1号に乗り継ぐと鳥取着が08:38となり、こちらの魅力も大きい。
両列車が連結される東京~岡山間も、深夜発早朝着と便利な時間帯だ。とくに上り列車の場合は、姫路発23時35分、大阪発0時34分、そして東京着が朝7時8分。時間を有効に使いたいビジネスマンに人気だという。