手帳が好きな人の究極の夢は、"自分にぴったりの手帳を作ること"です。

手帳は、いろいろな使い方ができる道具です。予定管理やタスク管理以外に、習慣のチェックや健康管理にも利用できます。そして自分なりに手帳活用するようになると、専門の記入欄や、サイズ、六曜や月齢の有無や紙に至るまですべて自分で決めたくなります。システム手帳の自作リフィルにあきたらず、綴じ手帳をまるごと一冊作ってしまうのです。

「トコだけ手帳」を作っているイマイさんはそれを個人で実現している数少ない方です。その完成度は、手帳メーカーの方も驚くほどで、小さな一冊の各部に工夫が凝らされています。今回は、この「トコだけ手帳」について、2007年から現在までの制作の実際や工夫と苦労、そしてその今後について紹介します。

  • 「トコだけ手帳」、2018年版の表紙はシルバー。右下のロゴは共通

イマイさんが求める条件

イマイさんが手帳を作り始めた動機は、「市販の手帳に満足するものがなかった」。それまで多くの手帳ユーザーと同じように、各種の手帳を使ってこられたイマイさんの条件は、以下のこと。

・月曜始まり 
・24時間の時間軸
・土日も平日と同じサイズ
・ヴィトンのポッシュというカバーのサイズにぴったり収納できること

これらを満たすものがないので、自作を決断したのが2007年のことでした。

  • 表紙を開いたところ。「座右の銘」「お気に入り」などユニークな記入欄が並ぶ

トコだけ手帳ができるまで

イマイさん自身は、グラフィックデザインの仕事をしていたこともあり、冊子をデザインするスキルはあったそうです。難題は印刷会社でした。個人で制作するため、少部数(百数十という数)の制作を引き受けてくれるところが見つかりませんでした。見積もりをお願いしても高額だったり、やめた方がいいといさめられたりしたそうです。

そんな中である印刷会社の方が、親身になってくれてできたのがパイロット版。実はこの時点で筆者も相談を受けていました。

  • 縦開きの4カ月予定。上下にドットがあり、記入欄を分割するなど応用が可能。これが1年分含まれている

引き受けてくれる印刷会社が見つかったとはいえ、作成には十数万円の費用がかかります。そこでイマイ氏は、手帳を販売した利益を制作費用にすることを考え、ネット販売に挑戦することにしました。

  • 月間ブロックのページ。六曜、祝日、月齢などが記されている。欄外もチェックボックスやメモ欄があり、ムダがない

2008年は、表紙などを整えたため、制作費用は大幅アップ。制作したのは最低ロットの部数でしたが、十数冊が売れ、その半数ほどが見ず知らずの方だったそうです。

2009年は、部数を倍にするかわりに、WebサイトのURLを掲載するという協賛システムを導入。協賛してくれた会社には希望冊数進呈としました。

2010年には、Yahoo!知恵袋の「ルイ・ヴィトンの手帳カバーにあうレフィルを探しています」という質問に対してトコだけ手帳を紹介してくれた方がおり、年末には問い合わせが増えたそうです。

2011年には、オリジナルドメインを取得。トコだけ手帳は3月始まりですが、同年7月29日に完売。わずかながらですが、黒字化を達成しました。

2012年にはフォーマットを大幅変更。それまでの縦開きから、サイズはそのままに上下に開く横型にスタイルを刷新。私のイベントにパネラーとして登場してくださったのもちょうどこの頃です。販売数は大幅に伸び、6月には完売したそうです。

以降現在に至るまで、時期の違いはあれども、完売するようになりました。また、2013年版は手帳と同サイズのノートを制作。2014年にはかねてより計画していたオリジナル革カバーを制作して追加販売します。

そして2015年は、3月10日に完売という最速記録ができました。以後の年も時期の違いはあれど完売しているとのこと。

2016年は10周年。増刷して300冊。オリジナル革カバーに、革しおりとストラップを追加しました。また10周年を記念して、平野恵理子さんイラストをあしらった手帳、カレンダー、IDメモ、メモ版を制作。イラスト原画展をH&H Collection(自由が丘)で開催したそうです。

2017年には協賛制度を廃止して自立し、現在は2018年版が発売中です。

  • 10周年の時点の集合写真

手帳好きはトコだけ手帳と同じことができるか

一般のメーカーの手帳は、大量の部数が文具店雑貨店オンラインショップで販売されています。一方、イマイさんは数百冊を制作してご自身のWebサイトを使って販売しています。自分でデザインした数百冊を一人で完全に売り切っているのはまさに驚異だと言えます。

  • 日の出日の入り時刻(旧東京天文台)

さて、手帳好きの方に同じことはできるでしょうか。例えば、イマイさんはMacを利用しており、基本デザインを「Adobe Illustrator」で、ページレイアウトは「QuarkXPress」で行っているそうです。これらは、デザインのプロが使うソフトです。また、ページ割りや日付、暦管理は「Excel」で、顧客・送付などは「FileMaker」を使っていると言います。

つまりこれらのスキルがあり、販売用Webサイトを作ることができれば可能性はありそうです。もっともこれらはイマイさんご自身が長年かけて身につけたスキルでもあり、実行するのは大変そうでもあります。

  • 週間予定欄。時間軸は横方向で、午前5時から翌日午前4時まで。方眼で記入しやすい

また、制作面に限らず、連絡や梱包、送付準備、Webサイト制作などの作業がたくさんあって大変だそうです。筆者は毎年献本いただいていますが、ある年は校正漏れをフォローするために専用のシールを制作して送付したこともあったかと記憶しています。

イマイさんはこういうご苦労もありながらも、「ご愛用者の方に励まされてここまで来られました。感謝でいっぱいです」と言います。また今後もデザインを熟考し、サブノートを用意するなど関連の制作物を充実させる予定だそうです。

  • メモページは方眼。分割線として利用できるドットが細かく用意されており使いやすい

舘神龍彦

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手帳評論家、ふせん大王。最新刊は『iPhone手帳術』(エイ出版社)。主な著書に『ふせんの技100』(エイ出版社)『システム手帳新入門!』(岩波書店)『意外と誰も教えてくれなかった手帳の基本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)『手帳カスタマイズ術』(ダイヤモンド社)など。また「マツコの知らない世界」(TBS)、「ワールドビジネスサテライト」(テレビ東京)などテレビ出演多数。手帳の種類を問わずにユーザーが集まって活用方法をシェアするリアルイベント「手帳オフ」を2007年から開催するなど、トレンドセッターでもある。手帳活用の基本をまとめた歌「手帳音頭」を作詞作曲、YouTubeで発表するなど意外と幅広い活動をしている。

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