“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間。大きな湯船に全身を預け、浮遊感を味わいながらポカポカ温まる安らぎの場、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライター・デヤブロウ氏が、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまで紹介する。日々の疲れは、湯船に置いて帰ろう。


今回は、東京都立川市・立川駅から徒歩圏内にある銭湯3軒をピックアップ。休憩スペースを飾る漫画・フィギュアが名物の人気店、近年になって大規模リニューアルした店舗、渋めな雰囲気の穴場など、個性を持った優れた店舗を紹介する。

全国的に銭湯の軒数が右肩下がりの昨今、それでも東京都内ではいまだに他の道府県よりも数多くの銭湯が営業している。大半は東側の23区内に集中しているが、都内中西部の“とある街”にも銭湯や温浴施設の集まっていることをご存知だろうか。それがJR中央線・青梅線と多摩都市モノレール線(多摩モノレール)の交わる「立川」である。

  • サンサンロードとGREEN SPRINGS(左)、多摩モノレール(右)

    サンサンロードとGREEN SPRINGS(左)、多摩モノレール(右)

立川は多摩地域でも屈指の商業エリアであり、特に駅北側が近年の再開発で大きく変貌を遂げた。とりわけ多摩モノレール沿いのサンサンロードは、2020年開業の大型商業施設「GREEN SPRINGS」をはじめ、有名映画館の「シネマシティ(シネマ・ツー)」、通りの先にはあのIKEAまでもが連なり、休日にはイベント開催も盛んという大賑わいのスポットだ。

  • シネマシティは『ガルパン』『マッドマックス』のロングランや「極爆」上映などで映画ファンに有名

    シネマシティは『ガルパン』『マッドマックス』のロングランや「極爆」上映などで映画ファンに有名

また、立川は『とある魔術の禁書目録(インデックス)』シリーズなど、多くのアニメで舞台のモデルとなっている。フィギュア・プラモで有名なコトブキヤの本社ビルをはじめ、アニメ・サブカルに関連した店舗も数多い。

  • 昭和記念公園の向こうにうっすら見える奥多摩の山々

    昭和記念公園の向こうにうっすら見える奥多摩の山々

サンサンロードの西側には立川市から昭島市までまたがる昭和記念公園があり、さらに西部の奥多摩や高尾山などへのアクセスも良好。こうした観光地の散策後にも、もちろん立川市内の街歩きやショッピング後でも、銭湯に入ってリフレッシュすれば気分は最高である。

休憩スペースはミニ「マンガ喫茶」! 浴室設備が充実で人気の『立川湯屋敷 梅の湯』

  • JR立川駅北口のデッキとアーチ。奥には伊勢丹が見える

    JR立川駅北口のデッキとアーチ。奥には伊勢丹が見える

立川駅北口のペデストリアンデッキは周辺の伊勢丹やヤマダデンキに直結するうえ、高島屋S.Cのほか映画館・ホテル・図書館・オフィスビルの密集するエリア「ファーレ立川」にも、横断歩道などで遮られず徒歩で直行できる。

そのファーレ立川からほど近い場所にあるのが『立川湯屋敷 梅の湯』だ。(※以下「梅の湯」と記載)

  • 梅の湯を訪れた時は外壁の補修中であった

    梅の湯を訪れた時は外壁の補修中であった

梅の湯は戦前の1940年(昭和15年)に創業した老舗銭湯で、2004年にはビル型銭湯へ大幅リニューアル。1階と2階に浴室があり、男女で週替りとなっている。内装で驚かされるのはフロントや休憩室の壁面を埋め尽くすほどのフィギュアと漫画の数々。特にフィギュアは『ワンピース』などを中心に膨大な数が陳列されている。漫画の蔵書は実に1万冊以上にも及び、湯上がりにはテーブル付きのベンチに腰掛けながら、コーヒー牛乳やリラクゼーションドリンクを片手に好きな作品を読んでいられる。

  • 男女どちらが1階か2階かは入口などに掲示されている

    男女どちらが1階か2階かは入口などに掲示されている

浴室の内装は1階と2階で大きく違う。2階の浴室は広々としており、露天風呂スペースには天然石の露天風呂と2つの壷風呂、外気浴用の椅子が設置されている。中温の露天風呂か若干ぬるめの壺風呂でゆったり身体を温め、湯船から出て外気で肌を冷やせば、露天スペースだけでもスムーズに温冷交互浴が可能だ。

室内にも電気風呂やバイブラ風呂があり、ジェット風呂は「座る」タイプ3種に「寝る」タイプ2種の、なんと計5種。水風呂や10人以上が入れるロッキーサウナの温度もちょうどよく、設備の充実ぶりと入浴後のととのい具合は抜群だ。

対して1階浴室は比較的コンパクトながら、こちらも設備はかなり整っている。室内にはジェット5種+電気風呂を備えた大浴槽や水風呂・サウナがあるほか、2階と同じく露天風呂スペースも。露天の浴槽はひとつだけだが、頭上に屋根がなく真上に開けているため、穏やかな温度の湯船に身を預けて空を見上げる開放感はなかなかのものである。

ちなみに店主の佐伯さんは東京都浴場組合の副理事長をつとめ、2020年には京王線府中駅南口の『府中湯楽館 桜湯』リニューアルにも携わるなど、銭湯業界・文化の活性化のため盛んに活動中。佐伯さんをはじめとしたお店の方々のにこやかな接客も魅力で、心をほぐしてくれるお店である。


『立川湯屋敷 梅の湯』:東京都立川市高松町3-13-2/最寄駅:JR中央線「立川駅」から徒歩約7分/15:00~24:00(無休)/料金:入浴550円、サウナ込900円、レンタルタオル100円(バスタオル)、50円(フェイス)


露天風呂スペースが温泉情緒マシマシ! 『松見湯』

定期的に細部のアップデートを続けている梅の湯に対して、抜本的な改築でガラリと変わった銭湯もある。それが立川駅南口から東方向にしばらく歩いた場所の『松見湯』だ。

  • 松見湯の手前には駐車場もあり、車での利用にも便利

    松見湯の手前には駐車場もあり、車での利用にも便利

松見湯の再オープンは、コロナ禍がまだまだ厳しかった2022年4月。現在は若年層やファミリー層を中心に人気と客数も増加し、休日にはサウナ(男性限定)が順番待ちになることも珍しくない。駅からは若干離れているが、ちょっと長めの散歩のつもりで行ってみるとよいかもしれない。

内装は改築して数年もたっていないため、フロントや脱衣場は白くて非常に清潔。フロント部分の天井が高く、休憩用のソファーやテーブルもあるので、多少の待ち時間ならストレスなく過ごしていられる。オレンジ色の浴室内は天井が高く、改築前の宮造り銭湯だった時代を思い起こさせてくれる造りだ。

  • 外壁左上には東京都公衆浴場商業協同組合のロゴマーク

    外壁左上には東京都公衆浴場商業協同組合のロゴマーク

室内にはシルキーバス、ジェットバス、バイブラバス、電気風呂、水風呂を設置。特にボタン式のジェットバスは強い噴射圧が背中のツボをグイグイと圧迫し、体重が軽い人なら身体が移動しそうになるほどだ。バイブラバスも勢い強めで、サウナはしっかり加熱するタイプ、水風呂もかなりキンキンの冷え冷え。全体的に刺激が強めなので、まずはシルキーバスでじんわり身体を慣らしてから他の湯船に入るのが良い。

反対に露天風呂スペースはこじんまりと穏やかな雰囲気で、正方形の湯船や和風の照明が非常に具合が良く、さながら温泉宿のように落ち着いている。ととのい椅子も4つ置かれており、外気浴スペースとしても利用しやすい。

浴室の壁面には富士山のペンキ絵を模したアートパネルが飾られている。ジェットやサウナなどでガッツリと身体を温め、露天風呂などで緊張を緩め……を繰り返した後、のんびり富士山を眺めつつシルキーバスなどに浸かっている頃には、日々のストレスも疲労感もすっかり抜けているだろう。


『松見湯』:東京都立川市羽衣町1-8-12/最寄駅:JR中央線「立川駅」から徒歩約15分、JR南武線「西国立駅」から徒歩約3分/15:00~23:00(毎月2日・12日・22日休み)/料金:入浴550円、サウナ500円(レンタルタオル・バスタオル込)


オーソドックスな昭和スタイル銭湯『美保湯』

松見湯の裏手にある自動車教習所「トヨタドライビングスクール東京」は、JRの中央線の車窓からも眺めることができる。電車内からここを見て「そろそろ立川だな」とカバンを手にしたり、手元のスマートフォンを懐にしまったりする人もいるだろう。

  • 自動車教習のために立川を訪れる人も多いのでは

    自動車教習のために立川を訪れる人も多いのでは

その教習所から直近の、やや奥まった場所にある店舗が、最後に紹介する『美保湯』だ。現代風のモダン銭湯である梅の湯や松見湯に対し、美保湯は昔ながらの宮造り銭湯の雰囲気を色濃く残している。入口の青いひさしに、どことなくスナックのようなレトロ感を漂わせている渋めの銭湯である。

  • 上2つの銭湯に比べると、何とも昔ながらな雰囲気の美保湯

    上2つの銭湯に比べると、何とも昔ながらな雰囲気の美保湯

内装は脱衣所の木床やロッカーが長年使い込まれた風合いをまといつつ、店名のとおり清潔に『美』しく『保』たれているので利用しやすい。浴室内も非常にシンプルで、浴槽はバイブラバス、座風呂、薬湯の3つ。水風呂やサウナ、露天スペースはない。

  • 裏手には薪が積まれ、煙突からは湯気が立ち上っている

    裏手には薪が積まれ、煙突からは湯気が立ち上っている

現在でもお湯をガスでなく薪で沸かしているのが特徴で、どことなく湯の肌触りが優しいのも嬉しいポイントだ。浴室の奥を見上げれば富士山のペンキ絵があるなど、まさに古き良きトラディショナルスタイルである。現在風のモダン&スタイリッシュな銭湯に慣れた人でも、昔ながらの宮造り銭湯の方が心地よい人でも、気軽に昭和へタイムトリップできるお店である。


『松見湯』:東京都立川市羽衣町1-2-18/最寄駅:JR中央線「立川駅」から徒歩約14分、JR南武線「西国立駅」から徒歩約5分/15:00~23:50(毎月7日・17日・27日休み)/料金:入浴550円


移り変わる立川の「お風呂やさん」事情

今回紹介した銭湯以外にも、立川駅南口を出てから諏訪神社方向へ数分歩いた場所に、かつては『高砂湯(たかさごゆ)』という銭湯が営業していた。浴室中央にあった円型のバイブラ風呂や個室型のラドン風呂が非常に心地よく、地元の常連に愛されていた良店だったが、2023年に惜しまれつつ閉業。現在は建物自体も取り壊されて面影すらなく、往年の姿をGoogleマップなどに留めるのみなのが残念である。

一方、立川には近年の再開発やサウナブームに応じてオープンした新しい温浴施設もある。例えば立川駅北口ビックカメラの裏側エリアにある『ガレーラ・サウナ立川』は、2025年4月にオープンした水着着用・男女共用サウナだ。野外に置かれた様々なサウナ棟を時間制限なしで比較的安価に利用でき、敷地内の緑を目の保養にしながら「ととのい」を体感できる。

  • 野外に置かれた様々なサウナ棟を時間制限なしで利用できる、ガレーラ・サウナ立川

    野外に置かれた様々なサウナ棟を時間制限なしで利用できる、ガレーラ・サウナ立川

また、冒頭で上げたGREEN SPRINGS内の『ソラノホテル』10階と11階には、独自掘削の温泉水を使用した『ソラノスパ』が設置されている。超微粒子ナノミストサウナがあるほか、ホテル屋上の『インフィニティプール』では奥多摩の山並みを眺めながら水や空と一体化する、なんとも贅沢なウェルビーイング体験が可能だ。

  • GREEN SPRINGSを西側から撮影。このホテルの屋上がスパになっている

    GREEN SPRINGSを西側から撮影。このホテルの屋上がスパになっている

立川駅南口の飲み屋街・すずらん通りにも、スギ薬局と同じ建物に『サウナ&カプセル ミナミ立川』が入居。サウナが非常に広々としているほか、無料のスポーツジムも併設しているため、身体を「温める」だけでなく「動かす」ことで二重に汗をかける。

  • 同じ建物にスシローもあるので、サウナ利用後に寿司を食べ、薬局で買い物して帰ることも可能

    同じ建物にスシローもあるので、サウナ利用後に寿司を食べ、薬局で買い物して帰ることも可能

なお、立川駅南側は安価な居酒屋・ラーメン屋・焼肉屋が密集している歓楽街。日中はミナミ立川でガッツリととのってから、酒を求めて夜の立川へ……というおひとりさまコースも良いだろう。

  • 南口の歓楽街は客引きも少なくないのでご用心!

    南口の歓楽街は客引きも少なくないのでご用心!

立川は個々人の趣味・目的・ライフスタイルによって様々な楽しみ方を許容する街である。それゆえ、街歩きの後での銭湯の利用法も様々だ。伊勢丹や高島屋でのショッピングの後、GREEN SPRINGSや昭和記念公園の緑でデトックスした後、シネマシティやコトブキヤでアニメ文化を満喫した後で、一風呂いかがだろうか。