“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライター・デヤブロウ氏が、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまでご紹介。今回は「JR中野駅から徒歩圏内の銭湯3軒」
現在の中野と言えば、駅北側の『中野ブロードウェイ』が最も有名だろう。その開館は1966年(昭和41年)で、ショッピング施設と集合住宅の複合ビルとしては日本初のスポットだ。1980年代以降は『まんだらけ』などを核に漫画・アニメ・ホビーなどマニア向け店舗が多数集まり、現在では秋葉原や池袋に並ぶ「オタク・サブカルの聖地」として知られる。ブロードウェイ周辺の商店街や居酒屋街も合わさり、中野駅の北側は混沌としつつ賑やかな風景となっている。
また、2000年代以降の中野は各所で再開発が進み、現在も続行中である。2012年開園の『中野四季の森公園(中野セントラルパーク)』は多くの飲食店・大学キャンパス・ビジネスエリアと隣接し、すっかり憩いの場として定着している。中野駅の新しい商業ビル『アトレ』も2026年に開業予定だ。一方、長らく地域のランドマークだった『中野サンプラザ』は2023年の閉館後、建設コスト高騰などによって再開発計画が白紙化しており、今後の中野区の対応が注目されている。
このように、中野は昭和から令和まで東京の「街作り」「再開発」を最も色濃く表した、良くも悪くも猛スピードで変わりゆく街である。そんな中野だが、時代の荒波や街並みの変化に耐え、昔から愛され続ける銭湯も健在だ。いずれの店舗も懐かしい雰囲気を讃えつつ、「天然温泉」「露天風呂」「サウナ・水風呂」などサービスが充実。中野ブロードウェイの探索後や、四季の森公園で遊んだ後に訪れてみてほしい。
■2013年に天然温泉認定、ブロードウェイの向こうにある下町銭湯『中野寿湯温泉』
中野駅北側のショッピングエリアはブロードウェイだけではない。JR中野駅北口とブロードウェイ南側の間にあるのは、華やかなアーケードで覆われた『中野サンモール商店街』だ。反対のブロードウェイ北側(早稲田通り方向)からすぐ近くには、地元向けの商店街『薬師あいロード』もある。サンモール・ブロードウェイ・あいロードを合わせると、中野駅北口からは実に1km近い長さで商店が連なっているのだ。
その薬師あいロードの途中にある銭湯が、最初に紹介する『中野寿湯温泉』である。店名のとおり、ここの特徴は2013年に公式認定された天然温泉。泉質は保湿効果の高さから「美肌の湯」として知られるメタケイ酸であり、温泉だと示す看板を入り口の上と横に2カ所設置し、のれんまでピンク色にして猛プッシュ。静かな雰囲気の商店街において、かなりのインパクトがある外観である。
商店街に面した部分からは分かりづらいが、建物本体は昔ながらの宮造りタイプ。フロントや脱衣所も落ち着いた雰囲気で、サウナとレンタルタオル込の料金が800円というリーズナブルな設定も嬉しい。浴槽内も天井が高い宮造り銭湯スタイルで、タイル張りの壁面や白い天井が爽やかだ。浴室奥には温泉の質や効能を描いた大きなパネルが設置されているので、入浴中に目を凝らして読んでみるのも良い。
設備は座風呂・寝風呂・打たせ湯・バイブラバスを兼ねた浴槽と、その横に深湯がある。深湯以外は浴槽がつながっており、湯の温度は中程度でじっくり温まれる。天然温泉は浴槽だけでなく水風呂・シャワー・カランと全てに使用されているので、特に意識せずとも普通に入浴しているだけで温泉効果を享受できるだろう。打たせ湯が滝のように流れ落ちる音へ聞き耳立てつつ、首から下をざぶりと湯に浸けていると、天然温泉の成分が身体にじんわりと染み込んでくる感覚だ。
サウナは5~6人ほど入れば満員になる、かなりコンパクトなタイプ。オーソドックスな木質の内装であり、室温は高すぎず低すぎず。水風呂の水温も程よく、浴槽・サウナ・水風呂と全体に無理なくゆったり楽しめる。
また、中野寿湯温泉では毎週木曜日の夜8時、お客さんと銭湯の番台がフロントで映画を見る「木曜映画会」を実施している。ほかにも子供エリアや読み放題の漫画設置など、サービス精神が旺盛で地元に開かれた店舗だ。
『中野寿湯温泉』:東京都中野区新井1-14-13/最寄駅:JR中央線「中野駅」から徒歩7分/16:00~24:30(火曜休)/料金:入浴550円、サウナ込み料金650円(タオルなし)800円(タオル込)/駐車場なし
■中野駅南側の住宅街奥、堅実に満足したい人向けの『香藤湯』
中野ブロードウェイ、中野四季の森公園、中野サンプラザなど、中野といえば駅北側に有名スポットが密集しているイメージが強い。一方、JR中野駅の南側も再開発ビル『ナカノサウステラ』やデパート『マルイ』があるほか、マルイの横にある小路『中野レンガ坂』の先には落ち着いた雰囲気の飲食店やレストランが点在する。中野駅北側の雰囲気に慣れた人にこそ薦めたい、落ち着いた散策スポットだ。
中野レンガ坂から住宅街に入った先には、中野駅に対して南西向きの斜めに伸びる道がある。道中には劇場の『MOMO』や『ザ・ポケット』、中南米の国・ハイチの料理が食べられる『カフェハイチ』など見どころもあるが、そのカフェハイチの少し先に佇むのが『香藤湯(こうとうゆ)』だ。外観は住宅街にマッチしたスマートなイメージで、大きく「北欧サウナ」の字が掲げられている。住所表記こそ「杉並区高円寺南」となっているが、立地的にはむしろ中野駅に近い。
香藤湯は関東大震災があった1923年(大正12年)の創業で、現在の建物は1968年(昭和43年)築のもの。1991年(平成3年)にリニューアルを行っており、時代をまたぐように姿を変えている。赤い絨毯の敷かれたロビー部分はビジネスホテルのようにスッキリとした印象で、天井が高く清潔な脱衣所も居心地が良い。
浴室内は中野寿湯温泉と同じく定番銭湯スタイルで、水色に塗られた壁面や天井、奥壁に描かれた大きな富士山のペンキ絵が鮮やかだ。浴槽は浅めでバイブラ付きのものと、ジェット付き座風呂の2つと、いたってシンプル。湯温は42℃前後あるので、風呂だけでの温冷交互浴もやりやすい。店頭に大きく書かれている北欧サウナは水風呂とともに入口近くにあり、2段組で室温は90℃前後と、程々の設定である。
全体的にシンプルで、いささか地味にも思える構成ながら、それでいて銭湯好きが喜ぶ点をバッチリ網羅している点はむしろ好印象である。モダンな華やかさや強めのサービスよりも、無難で堅実な「銭湯らしさ」を重視する人に好まれそうだ。
『香藤湯』:東京都杉並区高円寺南5-1-7/最寄駅:JR中央線「中野駅」から徒歩7分/16:00〜24:00(金曜休)/料金:入浴550円、サウナ込み料金850円/駐車場なし
■露天風呂スペースが広々&最高!サービスも良質な『高砂湯』
中野駅の南側にある、もう一つの銭湯が『高砂湯』だ。中野の南側を東西に横切る全長約2.3kmの『桃園川緑道』のすぐ近くにあり、周辺は香藤湯よりもさらに閑静で穏やかな雰囲気だ。入り口部分からは分かりづらいが、こちらの建物も宮造りタイプであり、屋根付きの駐輪場も併設されている。夕方になれば地域の方々が多く集まってくる人気店だ。
内装は現代風にリフォームされており、脱衣所も天井は高く圧迫感はない。ロッカーは100円硬貨式で四角型と縦長(内側の棚付き)の2種類あり、休憩椅子や自動販売機も設置されているなど、コンパクトながら利便性が高い造りである。
浴室は壁面が水色に塗られており、奥には富士山のペンキ絵が見える。カランは左右の仕切り壁が無くシャワーが固定式のものと、仕切り壁付きでホース式シャワーのものと2種類あるので、混雑度合いや好みで使い分けると良いだろう。浴槽はL字型の大浴槽と屋外の露天風呂スペースがあり、水風呂とサウナも備わっている。大浴槽はバイブラ・座風呂(2ヶ所)・電気風呂と設備が揃い、湯温は若干高めながらすぐ慣れるレベルなので、ここでしっかり身体をほぐしてからサウナや露天風呂に向かうと良い。
2015年に改装したという露天風呂スペースは薬湯を兼ねており、特にイチ推しの場所だ。銭湯の露天風呂と言えば岩風呂スタイルが多いが、高砂湯では清潔なベージュのタイルが貼られてモダンな雰囲気になっている。湯温は抑えめで長湯も無理なく、頭上も開けていて空が広々と見えるので、遅い時間に夜空を見上げながら乳白色の薬湯に浸る開放感は格別である。
サウナは上下2段で8人ほどが入る広さで、室温は程々なので上段でもじっくり入っていられる。壁面や照明のデザインはレトロな昭和スタイルながら、内装材は新しいもので、こちらも清潔だ。水風呂はやや狭いが、冷えすぎず、ぬる過ぎずの水温が心地よい。上がったら露天風呂スペースに併設の腰掛けで外気浴すると良いだろう。
高砂湯は設備こそ全体にシンプルながら、一つ一つのクオリティや調整が良く、サウナーでも温冷交代浴でもスキなく整うことができる。中野駅南側のウォーキング中に、ぜひ訪れたい良店だ。
『高砂湯』:〒164-0011 東京都中野区中央4-49-2/最寄駅:JR中央線「中野駅」から徒歩7分/15:00〜24:30(月曜休)/料金:入浴料550円、サウナ料金500円(バスタオル込)、フェイスタオル販売70円(※レンタルなし)/駐輪場あり
■中野は「銭湯好き」と「中央線カルチャー」の交わる街
中野駅を含むJR中央・総武線を軸とした地域は、漫画・アニメ・サブカル・音楽・ファッションなど、駅ごとに独特の「中央線カルチャー」を持つことで知られる。同時に中央線沿い(特に東中野駅~西荻窪駅の範囲)には現在でも数多くの銭湯が残っているが、この2要素は実は少なからず相関しあっているのでは、と筆者は考えている。
まず、中央線カルチャーを好む層は街中の店舗や建築についても、画一的なチェーン・ブランドより、「レトロ建築」「独特の趣味」「昭和文化」などの個性や背景を持つ個人経営店に惹かれると思われる。こうした傾向に銭湯はまさに合致するため、サブカル層が銭湯好きを兼ねているパターンは少なくないだろう。
また、個性的な文化の担い手である若年層・学生の存在も、この地域の銭湯にとって重要だろう。中野四季の森公園に隣接する早大・帝京大・明大キャンパスを含め、中央線の近くには大学や専門学校などが多い。こうした所の学生に加えて、JR中央・総武線や東京メトロ東西線などで都心の大学に通う層なども、中央線沿いで暮らしている。活気のある銭湯は若い利用客も多いものだが、学生の多さも中央線沿いの銭湯にとって大きなプラスとなっているはずだ。
加えて、地域文化を飲食とともに味わえる場所として、居酒屋街の影響も大きい。高円寺の純情商店街、阿佐ヶ谷のスターロードなど、中央線沿いはディープな居酒屋街の多さでも知られる。銭湯と酒との相性は非常に良く、一風呂浴びてスッキリしてから近場の酒処へ……というルーチンを好む人も多い。(※もちろん、飲み過ぎには注意。また、飲酒後の銭湯は安全や健康の観点からNGである)
こうした「サブカル」「学生」「飲み屋」そして「銭湯」という、中央線らしい要素を全て兼ね備えているのが、まさに中野という街である。こうした点は街並みの更新や再開発に揉まれながら、現在でも地域の個性として残り続けている。中野は「いい湯」とセットで中央線カルチャーに触れられる入口なのだ。
















