寒い、疲れた、もう限界。いますぐ整う場所が必要だ。そうだ、銭湯へ行こう。“ワンコインとちょっと”で味わえる、天国みたいな時間。大きな湯船に全身を預け、浮遊感を味わいながらポカポカ温まる安らぎの場、それが銭湯だ――この連載では、毎週末の銭湯巡りを趣味とする街歩きライターが、都内&近郊の選りすぐり銭湯を訪ねて、湯の特徴や整うポイント、ちょい寄りスポットまで紹介する。日々の疲れは、湯船に置いて帰ろう。


今回は、毎週末の銭湯巡りを趣味とする筆者・デヤブロウが、椎名町駅周辺にある豊島区内の銭湯3軒を紹介。椎名町周辺の散策情報や、かつて椎名町にあった『トキワ荘』と漫画家達、そして銭湯との関わりにも触れてみたい。

  • 都内随一の商業エリア、池袋は実は「お風呂やさん」が多い

    都内随一の商業エリア、池袋は実は「お風呂やさん」が多い

1日の乗降者数が230万人を越える、東京都豊島区の池袋駅。全国でも新宿と渋谷に次ぐ第3位の利用者数を誇る巨大ターミナルだが、実はこの周辺に銭湯や温浴施設が少なくない。池袋駅から北方向にしばらく歩いた先では『平和湯』など3軒の銭湯が現役だ。また、駅東側の『サンシャインシティ』近くにある『タイムズスパ・レスタ』、駅の西側の『サウナ&ホテル かるまる池袋店』といった、2軒の高級温浴施設も有名である。

  • アニメの広告やアニメファンの往来がひしめくサンシャイン60通り

    アニメの広告やアニメファンの往来がひしめくサンシャイン60通り

また、現在の池袋といえば都内屈指のサブカル・コンテンツ集積地。アニメ・漫画・映画・書店・ゲーセンといったエンタメが山盛りである。『アニメイト』『K-BOOKS』などで推し活グッズを買い、サンシャインシティで『ちいかわパーク』や水族館などを楽しんでから、近隣の湯処でリフレッシュ……という休日プランも良いだろう。

  • 椎名町は池袋から1駅とは思えないほど昭和っぽさが漂う

    椎名町は池袋から1駅とは思えないほど昭和っぽさが漂う

しかし、とりわけ銭湯が好きな人ならばブクロ巡りのついでに、池袋駅から西武池袋線で1駅隣の『椎名町』へ行ってみてほしい。2010年代以降の再開発で変貌した池袋とは対象的に、椎名町はのんびりした下町風景を保っている。安価な飲食店や渋い居酒屋が数多あるうえに、設備充実でモダン&清潔なハイエンド銭湯が集中している穴場なのだ。

室内に「露天風呂風」スペース? 『湯~ゆランドあずま』

池袋から椎名町は電車交通のほか、徒歩でも十数分ほどの距離。立教大学の脇を通る『西池袋通り』がキレイに整備されているので、散歩感覚でゆったり行ってみるのも気持ち良い。

  • 西池袋通りの通行中、この看板を見かけたら道を曲がると良い

    西池袋通りの通行中、この看板を見かけたら道を曲がると良い

西池袋通りを西方向に行くと、山の手通りの手前で緑道と交差する。丁度その辺りにあるのが『湯~ゆランドあずま』だ。東京都浴場組合の公式キャラクター「ゆっポくん」をあしらった看板が、銭湯の目印となっている。

  • 写真右が銭湯、見切れているが写真左端が緑道である

    写真右が銭湯、見切れているが写真左端が緑道である

湯~ゆランドあずまがあるのはごく普通のマンションの一階。造りそのものは昔ながらのビル型銭湯だが、フロントや脱衣所の内装にブルー・グリーン・オレンジなど様々なカラーリングが用いられている。現在の温浴施設は白いナチュラルテイスト、もしくは温泉旅館を思わせるシックな内装が多い。そうしたなか、この銭湯はカラフルで個性的だ。

浴室内設備は大きな岩風呂のほか薬湯・電気風呂・バイブラ・水風呂・サウナなど、かなりボリューミー。露天スペースは無いものの、所々にゴツゴツした岩盤タイルや和洋折衷の飾りが用いられ、内装そのものが露天風呂風になっている。浴室奥にある荘厳な滝のタイル絵を、じっくり眺めながら湯に浸かるのも良いだろう。

なかでも「ととのい」度が高いのは岩風呂である。浴槽と壁面の全体に岩盤があしらわれ、窓の外には日本庭園をイメージしたであろう植栽が配されている。天窓まであって非常に開放的だ。岩風呂にずっぷりと身を沈め、首の付け根を岩盤に乗せて力を抜くと、都心にいながら山林の温泉地に来たような気分を味わえる。湯温もぬるすぎず熱すぎず、温感と視覚の両面からリラックスさせてくれる風呂だ。


『湯~ゆランドあずま』:東京都豊島区西池袋4-13-9/最寄駅:西武池袋線「椎名町駅」から徒歩8分/15:30~25:30(火曜休) ※日曜日は14:00から営業/料金:入浴550円、サウナ込1000円


お湯に徹底的にこだわる地域代表銭湯『妙法湯』

湯~ゆランドあずまから西池袋通りを進み、山の手通りで左折して住宅街に入ると、そのすぐ近くに『妙法湯』がある。『出没!アド街ック天国』『サウナを愛でたい』などの有名番組をはじめ、TV・雑誌などで多数紹介され、地域の常連から若年のサウナーまで幅広く惹きつける名店だ。

  • 【写真】地元の常連から若年のサウナーまで惹きつける「妙法湯」は、お湯に徹底的にこだわる銭湯だ

    多くのサウナーや銭湯愛好家の御用達となった妙法湯

妙法湯は80年以上前に創業し、2019年に大規模リニューアル。店内はフロント・脱衣所・浴室のいずれも白地+木質のピカピカな内装となっており、初めて訪れると息を呑むほど爽やかだ。脱衣所のロッカーを配置替えして「ととのい」用の椅子を多数設置するなど、ニーズやブームに合わせた改善にも抜かりがない。

妙法湯の公式X(旧Twitter)アカウントのプロフィールには「妙法湯は、銭湯として『水』の原点を見直し、お湯づくりに取り組んでいます」と記載されている。その文言に違わず、お湯にはトロトロの軟水を使用している上に、設備はいずれも心地よさや健康効果へのこだわりが光るものばかりだ。

名物『軟水炭酸シルキー風呂』は日本で初めて導入したものであり、いずれも肌と身体に優しい軟水&炭酸泉&シルキーバス(超微細気泡の溶け込んだ風呂)を一度に味わえるという贅沢さ。乳白色のお湯でじんわり温まれるため、妙法湯では最初に入っておきたい。

隣にある薬湯はジェット・バイブラ・電気風呂を兼ねている。温度も高めながら入りやすいギリギリのラインに調整されていて、こちらも身体がとろけるような湯ざわり。水風呂は浴槽内に深度差があって肩まで水に埋めることができる。サウナ室内は穏やかなリラクゼーションBGMを使用し、水風呂ともども温度調整が絶妙でリラックス度抜群。軟水と硬水の2種類を選べるカランや、人気の『ReFa(リファ)』を使用したシャワースペースなど、浴槽以外にも至れり尽くせりである。

  • 妙法湯でのイベント・キャンペーンを知らせる掲示板

    妙法湯でのイベント・キャンペーンを知らせる掲示板

浴室外でも取り組みは活発だ。妙法湯では様々な企業や製品ブランドのほか、『Re:ゼロから始める異世界生活(リゼロ)』などのような有名アニメ作品とも積極的にタイアップ。椎名町にあるクラフトビール店とのコラボで、なんと銭湯オリジナルのビールまで販売している。風呂上がりにグイッと行きたい一杯である。


『妙法湯』:東京都豊島区西池袋4-32-4/最寄駅:西武池袋線「椎名町駅」から徒歩2分/15:00~25:00(月曜休)/料金:入浴550円、サウナ込950円(タオル、バスタオル込)、レンタルタオルセット130円


シック&モダン&五行思想の活きる大人気リノベ銭湯『五色湯』

妙法湯から西武池袋線の方向に進み、踏切をまたいだ少し先にあるのが『五色湯』である。こちらも70年以上の歴史があり、2022年に大規模な改装を実施。現在は妙法湯とセットで語られることも多い人気店である。休日ともなれば、サウナ客の入店が60分以上の待ちとなるほどだ。

  • 銭湯巡りを趣味とする筆者が、池袋の隣駅・椎名町駅の周辺にあるオススメの銭湯3軒を紹介する

    この店先だけを見たら都心部のお店とは思えないが、豊島区の銭湯である

外観はシックな温泉旅館テイストであり、フロントや脱衣所、そして浴室までがシックな黒ベースで統一。白ベースの妙法湯とは見事に対照的なしつらえだ。脱衣所の床面に畳風のマットが敷いてあるなど、さながら江戸時代の湯屋(ゆや)にトリップしたような気分にもなる。

店名の由来は近隣にある東京の五色不動のひとつ『目白不動』。その五色……つまり五行思想(万物は木・火・土・金・水の5要素から成り、それが互いに影響しつつ循環するという説)が、浴室構成にも反映されているのだという。

中温風呂は湯温40℃前後と人肌に近い。じんわり温めることで副交感神経を優位にし、リラックス効果を上げるよう設計されている。広めの浴槽の一部にバイブラがあるほか、間仕切りで区切られた所に強めの背中ジェットと脇腹ジェットもあり、ゆるんだ身体を圧力でほぐす仕組みだ。

反対に湯温約43℃の高温風呂は交感神経を刺激し、マッサージ効果をより活発化するよう、浴槽の深さまで細かく設計されている。高温+マイクロバブルのシルク風呂がセットになっているため美肌効果も高い。

人気設備のサウナは中くらいの広さで、室温設定は若干高く、スマートな内装も魅力である。テレビ等はなく、イージーリスニング系の音量小さめなサウンドが、瞑想のように集中力や思考を捗らせてくれる。近年リニューアルされた店舗だけあって、サウナから水風呂、そして外気浴への導線もスムーズだ。

  • 五色湯をサウナ込で利用するなら早い時間や平日がおすすめ

    五色湯をサウナ込で利用するなら早い時間や平日がおすすめ

五色湯は椎名町以外の地域も含め、近年のリノベ銭湯でもトップクラスにモダン&オシャレな店舗のひとつ。浴室タイルの一つ一つが部位ごとに巧みに使い分けられて、その細かな違いに注目しながら入るのも面白い。また、浴室奥には秋の渓谷風景のタイル絵が昔から変わらず残っているため、それを見上げながら改装前の姿に思いを馳せるのも良いだろう。


『五色湯』:東京都豊島区目白5-21-4/最寄駅:西武池袋線「椎名町駅」から徒歩3分/平日16:00~24:00、土日15:00~24:00(水曜休)/料金:入浴550円、サウナ400円、タオル50円(フェイス)、100円(フェイス・バスタオルセット)


トキワ荘近くの銭湯が現在の池袋と漫画文化を育んだ?

銭湯へ行った後は近場の居酒屋へ、という人も多いだろう。椎名町での風呂上がりには、ぜひ駅前の商店街へ行ってみてほしい。

  • 椎名町駅前の有名店『南天』。駅側のベンチに腰掛け麺をすする客も多い

    椎名町駅前の有名店『南天』。駅側のベンチに腰掛け麺をすする客も多い

ここには昭和チックなアーケードが今なお残る『すずらん通り』をはじめ、『仲通り』『サンロード』など懐かしさと生活感をたたえた商店街が縦横に走っている。マグロ料理の美味しい『おぐろのまぐろ』、立食いそば・うどんの『南天』など、地元感マシマシながら優れた飲み食いどころにも事欠かない。

  • 夜の椎名町は呑兵衛にとって誘惑の多い街である

    夜の椎名町は呑兵衛にとって誘惑の多い街である

また、椎名町散策で外せないスポットといえば、駅の南側からしばらく歩いた場所にある『トキワ荘マンガミュージアム』だ。手塚治虫、赤塚不二夫、石ノ森章太郎など、昭和を代表する漫画家達が暮らした木造アパート『トキワ荘(1952年~1982年)』を復元した博物館である。

  • 現在のミュージアムは実際のトキワ荘跡地から少し離れた公園に建てられている

    現在のミュージアムは実際のトキワ荘跡地から少し離れた公園に建てられている

著名な漫画家達がトキワ荘で過ごしていた昭和ライフスタイルについても、同館ではかなり細かく紹介されている。入浴習慣に関する説明もあり、「トキワ荘には風呂場がないため、赤塚不二夫や石ノ森章太郎が共同炊事場の流しを風呂代わりにしていた」などというエピソードには、コメディ漫画のようにクスリと頬が緩んでしまう。

彼らは漫画描きの合間に息抜きで散歩や食事に出かけるほか、「鶴の湯」「あけぼの湯」(※現在は両店とも閉業)といった銭湯にも日常的に通っていたらしい。館内には当時(1956~1957年)の物価に関する説明パネルもあり、銭湯の大人料金が15円、対してキャベツ1玉やアイスクリーム1個が20円となっている。2026年現在のキャベツやアイスが概ね100円~200円の枠内ということから換算すれば、銭湯には1回75円~150円で入れるような感覚だ。2026年現在の都内銭湯が基本料金550円(大人料金)となっているのと比べれば、かなり普段遣いもしやすかったはずである。

また、椎名町から池袋への電車賃やバス代は10~15円となっている。決して豊かとはいえない漫画家業の中で日々の風呂代を捻出するため、何かの用事で池袋へ行くときは電車を使わず徒歩で……などといった日常の一コマもあったのかも知れない。

  • 今日も椎名町の夜がふける

    今日も椎名町の夜がふける

トキワ荘で若者達が傑作漫画を描き続けた熱い日々から、数十年。椎名町周辺の銭湯もかなり軒数を減らしてしまったが、銭湯文化そのものは今もなおスタイルを更新し続けながら街に残り続けている。そしてトキワ荘から飛び立って行った日本の漫画文化が世界有数レベルで発展を遂げ、お隣の大都市圏・池袋をも大きく賑わせているのはご存知のとおり。椎名町は「銭湯」「漫画」という2つの日本文化にとって重要なスポットなのだ。