「超怒涛の年」であった2017年を総括するこの話の後編であるこの話は、残り2つの分野を取り上げたい。

2. EVの波は止められない

今年の話題は何といってもEVである。半導体、電子機器の展示会などのテーマもEV、自動運転の話でもちきりだった。車といえば、私がAMDに勤務していたころは、お偉いさんの中に多くの車マニアがいたのを思い出した。全世界の営業・マーケティングを束ねたAMDのナンバー2であったSVPのスティーブ・ゼレンシックはその中でも車に関しては超が付くほどのマニアで、特にフェラーリが好きだった。私がいたころでも、フェラーリを2台、ベンツを1台持っていた。爆音をとどろかせたフェラーリが会社の駐車場に入ってくると「ああ"Z"が出社したぞ」と分かったものだ(ゼレンシックは皆から頭文字で呼ばれていた、もちろん会社の文書の正式署名も怪傑ゾロよろしく"Z"の一文字であった)。

その"Z"と車音痴の私が会話した時のことが忘れられない。私が「Zのフェラーリにはさぞかし高性能のオーディオセットが搭載されているんだろうね」と聞いたら、Zに「フェラーリにオーディオセット? 何をばかなことを言ってるんだ、フェラーリをぶっ飛ばしているときはエンジン音を振動ごと全身で楽しむんだからオーディオなんてまったく必要ない」と一蹴された。つい最近のニュースであの007ジェームズボンドの愛用車アストンマーティンでさえEVになるという話を読んだが、車のEV化は我々が予想しているよりも急激なスピードで進むのではないかと思っている。

100年以上続いた内燃機関の終焉を告げる自動車の電気化については以前のコラムにも書いたように、EVだけでなく、ハイブリッド、FCV(燃料電池車)など他の方式も各社入り混じってまさに主流トレンドを形成するべく、車業界、電機業界、他の異業種からの新規参入者たちが入り混じっての鬼気迫る競争が毎日繰り広げられている。エネルギー保存の法則からいえば、電気を発電するためにはどこかでエネルギーの変換をしなければならないので、電機自動車=エコではないことは明らかだし、変換の効率、実現可能な航続距離を考えると必ずしもEVが最適な解決策ではないというような議論があるのは承知しているが、将来の方向性はEVに決まってしまったのではないかと感じる。

再三宣言しているように、私はエンジニアではないし、車に関してはずぶの素人ではあるが、半導体を巻き込んだ将来のEVへの方向性についてははっきりした風(トレンド)を感じる。私がAMDで経験した時に半導体・コンピュータ業界で起こった急激なパラダイムシフトの時に身をもって感じたあの"ざわざわ"とした特別な感覚はEVには強く感じるのである。この20年くらいの間これほど強く潮目が変わる気配を感じたことはなかった。業界はEVに向かってまっしぐらに進んでいる。だれもこれを止めることはできない。中国を筆頭とする新勢力が一気にEVに向かって国家を挙げて押し寄せてくる中、正攻法な技術論を展開するより1つのトレンドに向かって集中投資をする時期に来ているのではないかと感じる。既存のビジネス基盤を固めてしまうとそれを大きく変更するのには大きな勇気が必要となるが、もはや業界のトレンドは待ったなしのスピードでEVに驀進していると思う。ここでは以前日本の半導体業界で起こったような政府の介入の余地などはまったくないと思う。

  • 内燃機関からEVへの大きなパラダイムシフトは驚異的なスピードで広がる

    内燃機関からEVへの大きなパラダイムシフトは驚異的なスピードで広がる (著者所蔵イメージ)

3. 社会インフラとして確立したIoT/AI、大躍進のNVIDIA

最近のニュースで「韓国の平昌五輪の聖火ランナーにロボットが登場」という面白い話を見た。韓国は今回の冬季五輪で国が持つ技術の最先端を誇示しようと躍起になっているという話だ。AIが秋ごろから次々に発表された金融機関の大規模リストラの受け皿になるのは明らかである。将棋・囲碁界はAIベースの棋士たちとの共存をはかるべく大きく舵を切っている。私が毎日足しげく通う大学の授業でも倫理学、哲学、経済学などの分野の授業では、人間に加えてその対象にロボット・人工知能をはっきり見据えている。さすがに最近取り始めた人類学の分野でロボットを研究対象の他者として意識しているのを知った時には、はっきり言って仰天した。先生曰く「既存の人類学では未開の地域での社会構造、風習、言語などを対象にしていたが、地球のいくら奥地に行っても皆がスマートフォンを持っているし(しかも太陽光発電を電源ソースとしている!!)、現代の人類にとって未知なるものは人類種にはもはやない。対象はAIに広げて研究している」と、まじめに議論しているのだ。

AIについての今年の話題は何といっても名物CEOのジェンスン・フアンが率いるシリコンバレーの半導体会社NVIDIAの大躍進である。1993年に創立されたシリコンバレーの老舗半導体会社NVIDIAは当時としてはまだ市場が小さかったグラフィック・プロセッサの専業メーカーである。グラフィックスの高速処理の市場は当初はCAD、ワークステーションなどのハイエンドの限られたものであったし、NVIDIAの他にも競合がひしめいていた。

その後の熾烈な競争で競合として唯一生き残ったのはATIであった。私が勤務中の2006年に、AMDはATIを買収した。今でもAMDはCPUの王者Intelの競合として活躍しているが、グラフィック・プロセッサのNVIDIAに対する唯一の競合でもある。実は、2006年のAMDによるATI買収には裏話がある。AMDは将来的にCPUコアだけではトータルなソリューションを提供できないと考え、当時としては破格の価格でもってATIを買収した。この決定は今の1チップでのCPU+GPUの集積化を可能とした大きな決定であったが、最初にAMDが買収話を持ち掛けたのはNVIDIAであった。しかし、度重なる交渉の結果、AMDの創業者ジェリー・サンダースからCEOのバトンを受け取ったばかりのヘクター・ルイズが、合併後の新会社のCEOのポジションを巡って一歩も譲らないジェンスン・フアンに対し見切りをつけATIに話を持ち掛けたというのが真相である。

  • ATIの赤いロゴ

    ATIの赤いロゴは今でもグラフィクスの雄としてNVIDIAの緑に対抗している (著者所蔵イメージ)  

その後、NVIDIAは並列計算コンピューティングでの将来に目をつけ、かなり早い時期からサポートインフラを整備し始めた。この将来を見通したジェンスン・フアンの優れた判断が今のNVIDIAの大躍進につながっている。今やNVIDIAの株価は200ドルをうかがう気配で、投資家の間では"もう売り時などでは"などという議論にもお構いなしで、米国のハイテク株を代表とする大手になっている。AMDも今年はグラフィック・プロセッサの新製品を発表して画像処理の分野では立派にNVIDIAの唯一の対抗勢力として頑張っているが、AI、スパコン、車載などの分野では大きく出遅れている。しかし、AMDとNVIDIAが画像処理分野でリードしていることは、半導体の王者Intelにとっては"弁慶の泣き所"のような存在となっていることは興味深い。

AIをめぐっての大きな業界の動きは来年も加速するであろう。最近の米国のニュースでは、最近までAMDでCPUのチーフ・アーキテクトを務めていたジム・ケラーがイーロン・マスク率いるテスラに移ったことで、どうもテスラが独自のAI用のハードウェアを開発しているらしいという噂で持ち切りだ。モデル3の生産で苦労したテスラも、ようやく増産のめどが付いたという話も聞く。来年はEV、AIが業界再編の台風の目になる事は想像に難くない。

どうか来年が皆様にとって良い年になりますように!!

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

・連載「巨人Intelに挑め!」を含む吉川明日論の記事一覧へ