前回、雪中撮影について一通り解説したが、雪が降らなければそもそも撮影は始まらない。雪の少ない地域に住む人はもちろん、雪国であっても、温暖化の影響からか美しい雪景色に出会うチャンスは減っているようだ。貴重な降雪を作品に結びつけるためにはどう動くのか。真島満秀写真事務所所属の長根広和さんにうかがった。

雪景色の撮影は、時間との勝負!

まさに奇跡の雪景色。同時に、空を入れずに森と列車だけに寄ったカットも撮影されている

この写真の撮影地は、JR中央本線の山梨県と長野県の県境付近。雪はあまり降らないところである。たまたま「道の駅」の駐車場で車中泊した長根さんが、いつもの習慣で早起きしたら、うっすらとした雪景色! 驚きつつも「あの撮影地へ行こう!! 」とひらめき、直行したのだ。「普段から、『ここに雪が降ったらどうだろう? 』などと想像しています。だから、迷わず行動できたんですよ。『雪が降ったからどこかへ行こう』では、もう遅いんです。暗いうちに起きて、撮影地には日の出と同時に到着するのが理想的です」。

撮影地が決まれば、次はシャッタースピード。ここは列車が飛ばす区間なので、被写体ブレしないために800~1,000分の1に設定。露出不足にならないためには、太陽が当たるのを待つ必要がある。しかし、枝に付いた雪は日差しであっという間に解けてしまうもの。「撮影ができたのは1時間くらいでした。時間との勝負でしたね」と長根さん。その間にどんな列車が通過するのかは、時刻表を見て素早く頭に入れておく。通過予定時刻を推測するためにも、時刻表の本は必須だ。「本数の多い中央本線だから撮影できたけど、ローカル線だったら列車が来る前に雪が解けちゃたかもしれません」。

ちなみに、長根さんが雪用の絞りを考える場合の基準値としているのは、「TTLより3分の2開ける」こと。ここから経験による勘で微調整していくそうだ。そして、構図についても一言。「橋が宙に浮いて見えないように、左端の橋脚を入れました」。試しに、手などで左の橋脚を隠して見て欲しい。安定感がかなり違ってくる。

車中泊は「道の駅」「高速道路のパーキング」で

さて、素早い行動を可能にした「車中泊」だが、読者にはおすすめできないと長根さんは言う。「特に冬、豪雪地帯や北海道などでは、寝ている間に雪に埋もれたり、凍結で動けなくなる心配があり、危険です。気候のいい季節であっても、物騒な世の中ですからね、変なところに駐車すると、すぐに通報されてしまいますよ。私はビジネスホテルが見つからない地域に限り、道の駅か高速のパーキングでのみ車中泊します」。車中泊の様子は、下のイラストのような感じである。

プロが実践する"早起き"と、兼ね備えている想像する力。とりあえず、機材も腕前もいらないこの2つを「早速マネしたい! 」と思いつつ、今日も夜更かしする筆者だった。

雪国で撮影したのにパッとしなかった例

3月に五所川原で撮影。古い雪だけたっぷりある

筆者撮影。長根さんの作例に比べ、はるかにたくさんの雪が積もった場所でこの出来映え(号泣)。降雪直後を狙いたいものだとしみじみ思う。