さて、これは意見の分かれるところだろうが、酸いも酸いも甘いも酸いも噛み分けたバツイチ三十路の筆者としては、流風よりも流水のほうが断然好きだ。なぜなら流風の野郎、いい子ぶっておいて悪意満々に見えるからである。
女が、いつ涙を流すか、ご存じでしょうか? ここぞというときに同情を引いたり、被害者になって話を終結させたい時です。人間、本当にびっくりした時とか、本当に悲しい時には涙は出ないもんだ。涙を流す体力があるということは、それだけ余裕があるということ。ことあるごとにポロッポロポロッポロと涙を流す流風の姿を見ていると、「このぶりっ子め……」と黒い気持ちが込み上げてきてしまうのだ。
女からしてみれば、人前で泣いたら化粧は崩れるし、気恥ずかしいので、なるべく避けたいもの。だから、もし涙が出そうになったらトイレに駆け込むか、必死にこらえますな、普通。ためらいもなく泣き出したら、それは女が自分のペースに持って行きたいという証なので、男性諸君、騙されないように。
そう、女というのは、嘘に長けた生き物である。これは生物学的にも理にかなっているそうだが、もしも腹の子種が自分の夫でない場合、嘘がばれたら死活問題である。そのため、いけしゃあしゃあと嘘がつけるような能力が備わっているのだそうだ。ちなみに男が女に「嘘をついていないなら、俺の目を見て言ってみろ」などと言うことがあるが、そう言われたらこっちのもんだ。男は、嘘をつく時に相手の目を見られないが、女は全く平気で目を見られるという実験結果があるそうだ。これでまんまと騙された男が何百万いるかと思うと、哀れであるなあ。
ま、それでもダメなら泣けばいいんだから、女が世の中を渡るのは楽なものである。そう、てなわけで女は嘘をつくのが上手である。そのため、自分の気持ちに嘘をつくのもうまいのだ。女は自分の悪意を、うま~く不透明なオブラートに包んで、いい人ぶった言動に還元することができる生き物である。流風がやってるのが、まさにこれ。
流水のことを好きな男が出てきたとたん、「二人が幸せになればいいわ」とか言っちゃって、つまりは自分の都合じゃないか。流水が当麻先輩を諦めれば、いさかいはなくなるわけだから。
それ以前に手っ取り早いのは、流風と当麻先輩が別れることで、そんなこと分かっちゃーいるけどやめられないほどの大恋愛ということなんだろうけど、どうにも酸いも酸いも甘いも酸いも噛み分けたバツイチ三十路の筆者には、そんな大恋愛、自己陶酔っぽくてうさんくさくて仕方がない。擦れすぎですかね?
引き替え、流水は、片思いが気に入らないから大暴れ。わかりやすい。おまえが流風をいじめなければ、この2人も熱くなるこたぁないんだが……というツッコミは置いておいて、こいつのほうがよっぽど人間らしい気がする。人間って、欲深いものですよ。一見、いい人そうなことを言うのはカンタンで、そのほうが安全。だけど自分の気持ちを素直に吐露することは、それが一般的に受け入れられないことであればあるほど、勇気のいることだ。
流水、おまえは勇気がある……もちろん、勇気だけじゃなくて、変な力もあるわけだけど。
<『海の闇、月の影』編 FIN>