1893年に民間初のハカリメーカーとして誕生し、食品業界や物流の現場などを支えてきたイシダ。 その高い技術力により、世界初の組み合わせ計量機や自動計量包装値付機、さらにはX線検査装置や生産・品質管理システムまで、さまざまなパイオニア製品を世に送り出してきました。そして現在、イシダの技術は世界100カ国以上で活用されています。
創業130年を超えてなお右肩上がりで成長を続ける秘訣とは何か。代表取締役社長の石田隆英氏に、激動の時代を乗り越える経営戦略と、未来を見据えたビジョンをお聞きしました。
独自の技術と製品を武器に、世界100ケ国以上で事業を展開
京都市に本社を構えるイシダ。ハカリメーカーとして同社が飛躍するきっかけは、2つの革新的な製品にありました。
1つ目は、1969年に発売した電子計算機能を有する「商業用自動ハカリ」です。当時のハカリは"ばね式"が主流であり、技術的にもデジタル化が非常に困難でした。しかし、イシダは独自の技術力でその壁を突破し、時代を先取りする製品を生み出したのです。
2つ目は、1972年に発明した世界初の「組み合わせ計量機」です。形や重さにバラつきがある商品を自動で計算して一定量ごとにパッケージする製品で、ポテトチップスやチョコレートなどのお菓子工場をはじめとしてさまざまな産業の業務に革命を起こしました。この製品とそれを支える技術こそが、イシダをグローバル企業へと押し上げる原動力となったのです。
この2つのブレイクスルーを礎に、計量のみならず包装、検査、表示、情報、搬送、衛生などの分野に事業領域を拡大。現在では、世界100ケ国以上で事業を展開し、世界トップシェアを誇っています。
創業130年を超えてなお右肩上がり常に成長し続ける理由とは?
石田隆英氏は明治大学とオレゴン大学を卒業後、1997年にイシダへ入社しました。 入社3年目には新規事業のプロジェクトリーダーとして「電子棚札」の開発を成功させ、さらに取締役技術本部長時代には、業務の「見える化」を推進。社内の開発期間を半減させるなど、数々の成果を挙げていきました。 常務取締役だった2007年にマサチューセッツ工科大学でMBAを取得。経営力をさらに磨き、取締役副社長を経て2010年に代表取締役社長に就任しました。
就任後はさまざまな改革を実行し、10年連続で増収増益を達成。現在も、業績はさらに拡大を続けています。 イシダグループの連結売上高は2010年度の711億から2024年度には1,774億となり、わずか15年で2.5倍も伸長しました。 この持続的な成長の背景について、石田氏は「天の時・地の利・人の和」だと力説します。
「働き手不足の時代となり、自動化・業務効率化を実現できるイシダ製品の需要がさらに高まりました。これが"天の時"です。さらに、私たちは世界中のマーケットシェアをいち早く獲得したことで、他社の参入が難しい独自のビジネスを確立しました。これが“地の利”です。そして何より、素晴らしい人材がたくさん集まってくれている。この“人の和”こそが、成長を支えている最大の要因だと考えています」
顧客の"声"に真摯に応え、多彩な製品を開発
民間初のハカリメーカーとしてスタートしたイシダですが、現在では電子棚札や包装機、画像検査装置、ピッキングカートシステムなど、製品を製造・販売しています。 事業領域を拡大し、多彩な製品を開発してきた理由について、石田氏は「イシダの基本戦略である『既存顧客により多く販売する』を突き詰めた結果です」と明かします。
「私たちは元々ハカリメーカーですから、最初は計量機のみをご提供していました。しかし、お客様から『梱包する機械もつくってほしい』『商品を検査する機器もほしい』といったご依頼をいただくようになったのです。既存のお客様のご要望に一つひとつ応え続けた結果、現在のようにさまざまな製品・事業を行うようになったのです」
その言葉通り、イシダ製品の約8割はエンドユーザーのニーズをもとに開発されたものです。今では食品製造現場における商品の計量から箱詰めまで、効率的なラインをイシダだけで構築できるまでになりました。
顧客の"声"に徹底的に応える対応力と、ニーズを満たす製品を生み出す技術力。この両輪こそが、イシダを進化させ続けてきた大きな原動力です。
誰もが発明者になれる! 社員の特許取得を支援
イシダの大きな強みは、手厚い人材育成と積極的な技術開発にあります。
石田氏の「教育と開発にはお金を惜しむべきではない」という信念のもと、イシダでは社員一人ひとりに年間最低10万円以上の教育費を投資。通信教育やビジネススクール派遣、大学院進学支援など多様なプログラムで、個々のスキルアップを強力に支援しています。
技術開発の面では、社員による特許取得を積極的にバックアップし、取得者には報奨金も支給。イシダでは既存製品をただ販売するだけでなく、「一社一台」をモットーに顧客に合わせたカスタマイズを丁寧に行っており、その過程で数多くの特許が生まれているのです。
「営業担当者がお客様の課題を解決するために考案したアイデアが特許になることも多いですよ」と石田氏。実際に、文系出身の営業担当者が特許を取得するケースも少なくありません。
「一社一台」のカスタマイズによって、営業担当者は自信を持って提案ができ、開発担当者は常に新たな製品を創造する喜びを得られる――。この"やりがいの好循環"が社員の成長とお客様満足度の向上に直結し、会社全体の技術力・製品力も高めています。
社員一人ひとりの成長が、会社の成長へとつながっていく。これこそがイシダの揺るぎない競争力の源泉です。
圧倒的な経営基盤を有するイシダ~安定性は公務員以上、挑戦の幅はベンチャー以上~
イシダでは、社内コミュニケーションの活性化にも注力しています。豪華な社員旅行や「イシダレガッタ大会」「ビール祭り」といったユニークな社内イベント、さらにテニスやバスケット、ボルダリングや釣りなど多彩な部活動を通じて、社員同士の絆を深めています。
最近ではクルーザーを導入して、社員の船舶免許の取得費用やボートレンタルができるマリンクラブの入会費を助成。部署の垣根を越えた新たな交流が生まれています。 また、琵琶湖のそばの近江舞子には保養所を建設中。本社前には、社員がシミュレーションゴルフやピラティス、ヨガを楽しめるビルが完成予定だといいます。
社内交流や福利厚生に投資を惜しまない理由について、石田氏は次のように説明します。
「社員がいきいきと働けると、創造性や生産性は自然と高まります。また、部署を越えた交流が活発になれば、新しいアイデアや提案が次々と生まれます。会社の成長に必要不可欠な要素だと考えています」
さらに、イシダは社会貢献活動にも積極的です。東京ドーム約25個分もの森林を保全する「イシダの森」プロジェクトや、地域の子どもを対象としたプログラミング教室など、毎年数千万円規模のCSR活動を継続しています。
このように他社とは一線を画した活動を可能にするのが、イシダの圧倒的な経営基盤です。 「当社は80年以上赤字がなく、無借金経営を貫いています。しかも非上場企業のため、自由な経営が可能です。その結果、利益を従業員に大きく還元したり、積極的な社会貢献活動を行ったりできるのです。イシダはまさに、"安定性は公務員以上、挑戦と成長の幅はベンチャー以上"の会社です」と石田氏は胸を張ります。
前向きな意識で、人生は大きく変わる!
自分良し、相手良し、第三者良しという「三方良し」を企業理念に掲げるイシダ。現在では、食に関わる計量・包装・検査機器業界内では国内1位、世界2位の売上高を誇っています。 今後の目標について、石田氏は笑顔で次のように語ります。
「社員と会社が一体となって成長・発展して、顧客満足を高め、豊かな社会づくりへ貢献する。そんな『三方良し』を追求し続けた結果として、気がつけば世界1位になっていた――そういう成長の仕方が理想ですね」
そんな石田氏から、未来を担う若者へのメッセージをいただきました。
「例えば、皆さんが1時間の授業や講演会を受講するとしましょう。その際に『めんどくさいな……』ではなく、『せっかくなら、一番前で真剣に聞いてみよう』との意識で臨んでみてください。すると1時間の価値が大きく変わります。その積み重ねが、あなたの人生を大きく変えていきます」
前向きな意識で臨む――。この心がけは仕事を楽しむための秘訣でもあるといいます。
「どんな仕事でも、生活のためだけに働くと辛くなるかもしれません。しかし、『新しいアイデアを出してみよう』、『あのお客様をなんとか喜ばせたいな』と前向きに取り組めば、仕事が自然と楽しくなっていきます。スキルや知識を高めるには時間も努力も必要ですが、心の持ち方を変えるのは、今、この瞬間からできます。ぜひ、今日から前向きな姿勢を意識してみてください。人生は驚くほど充実していきますよ!」
<プロフィール>
代表取締役社長 石田隆英
1970年生まれ。明治大学、オレゴン大学卒。1997年イシダ入社。技術本部副本部長、取締役技術本部長、常務取締役を歴任。主に商品開発や品質管理などを担当してきた。取締役副社長を経て、2010年から現職。2007年マサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院修了(MBA)。京都経済同友会代表幹事 。
執筆:山中 悠禅
撮影:町田 安恵
編集:マイナビ学生の窓口編集部

















