マツダは2006年度決算で過去最高の1,585億円連結営業利益を記録した。だが、ほんの少し前までマツダは業績不振に苦しんでいたのだ。業績を急回復させ、新生マツダに光をもたらしたのが初代アテンザ(輸出名マツダ6)。初代は2002年に登場しているが、開発資金が苦しい中でエンジニアと工場が一体になって開発。ネジ1本まで新開発するという意気込みでローンチした初代モデルは、見事に大ヒットを記録した。特にヨーロッパで評価を高めることに成功し、全世界で約131万台以上も生産された。日本でも走行性能の高さが評価され、セダン不況、ワゴン不況のなかで堅実な販売を記録。親会社のフォードは傘下のブランドを手放しつつあるが、マツダを手放さないのはこうした優れた開発能力があるからだ。コンパクトカーからSUVにまで一貫しているのは"走り"を重視するという姿勢。こうしたZoom-Zoomのコンセプトがマツダの大きなブランド力になっている。

新型アテンザは鋭い目つきのヘッドライトが特徴。全長は60mmも大きくなったが、その延長分はホイールベース(+50mm)に当てられている。セダンでも空力性能は抜群でCd値は0.27を記録。そのため高速走行での風切り音が抑えられている

ヨーロッパでの販売を考えチルト&テレスコピックステアリングが装備されているため、きちんとしたドライビングポジションを取りやすい。アクティブヘッドレストは全車に標準、DSC(スタビリティシステム)は2.5Lに標準装備。だが、サイド&カーテンエアバッグが全車オプションなのは残念

ホイールベースが長くなったことが、リヤシートの居住性を大きく向上させている。足下を見てもらいたい。フロントシートとの間にかなり距離があるのがわかるはずだ。余裕で足を組むことができるほど広い

空力性能を追求しているためセダンでも大胆にリヤウインドが傾斜しているが、乗降性は予想していたよりも悪くない。ボディ剛性確保のためにサイドシルも高めに設定しているが、ハイヒールでもサイドシルの高さはそれほど気にならない

アテンザはマツダの大黒柱であり、新しい方向性を示す重要なモデル。それだけに2代目の開発には力が入っている。新しい方向性は、"サスティナブルZoom-Zoom"。環境を含めた問題に対処しつつ、走りの楽しさを持続・発展させていくというものだ。新型アテンザは従来と同じボディラインアップ。セダン、スポーツワゴンに加え、5ドアハッチバックのスポーツの3タイプだ。この中でも注目すべきなのはワゴン。現在国内市場ではワゴン人気が過ぎ去り、販売は低迷しているのが現状。そのためミドルクラスからアッパークラスのワゴンが姿を消してしまった。クラウンエステート、カルディナ、ステージア、セフィーロワゴン、ランサーワゴンなどが消滅している。近く登場する新型アコードはヨーロッパにはワゴンを投入するが、日本市場には導入しない可能性が高い。ワゴン不況が続く中でもアテンザがスポーツワゴンを投入するのはライバルが減少したことと、国内のアテンザワゴンユーザーを大切にしているからだ。

Cピラーやリヤコンビランプにエッジ形状を取り入れることで、車体面に沿って流れる空気をうまく剥がして巻き込みを抑制している。トランクのデッキ位置を高くすることとリヤエンドをエッジ化することで、リヤ後方への吹き降ろしを防いでいる。2Lエンジンでもデュアルサイレンサーを装備するため、スポーティなルックスに仕上がっている

トランク部分をダックテール形状にすることで空力特性を向上させている。スポーティセダンと呼べるデザインだ

トランクリッドはハイマウントストップランプと右側に隠されている、オープンボタンを押すこととで開けることができる

トランクスペースは519Lを確保している。6対4の分割可倒シートを採用しているのでより大きな荷物を積み込むことも可能だ

新型アテンザの開発コンセプトは「スポーティかつ品格あるデザインを備えた最高の高速ロングツアラー」というもの。高速ロングツアラーというのがポイントだ。デザインはスポーティでミドルクラス以上の存在感を示している。各ボディに共通するのは切れ上がるシャープなラインのヘッドライト。そこからフロントフェンダーを大きく隆起させたデザインは、スポーツカーのRX-8から続くテイストだ。同社は近年のモーターショーでも"流れ"を意識したコンセプトカーを登場させているが、その源流がこのデザインだ。またサイドを走るキャラクターラインは、フェンダーからリヤコンビランプまで連続しているため、伸びやかでスタイリッシュに見せることに成功している。優雅な流れと力強さを感じさせる塊感がうまくバランスしているデザインだ。

インパネの特徴はセンターコンソールから続く光輝パネルの採用。このセダンはクリスタルタイプのパネルが装備されているため、室内が明るく、パネルそのものの質感も高い。ほかにダークグレー、ライン、ゼブラなどがシートカラーと合わせられているが、この試乗車のようにカームホワイトのインテリアカラーとクリスタルパネルの組み合わせがもっとも高級感が高い

白く見えるクリスタルパネルをよく見ると、大理石のような模様がプリントされている

ATは2.5L、2LのFFは5速ATを採用。4WDはさらに1段多い6速ATを採用している。アクティブマチックのためマニュアルシフト用のゲートも備わっている。マツダは前にレバーを倒すとダウンシフト、後ろに引くとアップシフトになっている

エンジンは従来の2.3Lから2.5Lに変更され排気量は拡大されたが、レギュラー化やトルク重視の省燃費化で実質燃費は向上しているという

新型アテンザは従来のセグメントから一歩抜け出そうとしている。従来はC、Dセグメントの両方をカバーするようなクルマだったが、より高級感、質感が求められるDクラスに迫るクルマに成長させていた。グラスエリアにメタル調のモールを一周させる手法は上級感を狙ったもので、実車を見るとずいぶん立派に見える。アテンザはヨーロッパでもさらに拡販することを考えているため、ヨーロッパ車と競合できる質感を備えている。

走りを重視するマツダらしいこだわりはエンジンルーム内にも見て取れる。重いバッテリーをなるべく車室側に近づけているし、サス取り付け部はアクセラ以降に採用する深いカップ形状で剛性を確保している

新型アテンザの質感はとても高くなっているが、少し気になるのがインテリアの分割線の合わせ目。インパネは分割線自体がこのように多く、試乗車によっては合わせ目が一定していないものもあった

センターコンソールのデコレーションパネルの合わせ目もちょっと気になる

5ドアハッチバックのボディ形状を持っているのが"スポーツ"。よりスポーティなスタイルながらリヤには大きなラゲッジルームを備えているため実用性も高い。日本での5ドアハッチバックの認知度は向上しつつあり、アテンザのベストバイはスポーツだ

シリーズの中核をなすのはやはりセダン。25EXの動力性能は明らかに向上している。エンジンが初代の2.3Lから2.5Lに拡大されたのが確実に効果を表している。それはパワーというより低回転域からのトルクの出方がスムーズになったという感じた。初代のパワーは178馬力だったのに対して、新型は排気量を拡大したにもかかわらず170(4WDは166)馬力に抑えている。スペックだけ追えば2.5Lになったのにもかかわらず、逆に8馬力(FF比)パワーダウンしているが、これは低回転域でのトルクを充実させたためだ。これがうまく効いていてスタートから力強い加速が味わえる。エンジンは高回転域までスムーズに回り吹け上がりも軽いが、高回転域でトルクが盛り上がる特性にしていない。だが加速の伸びは5速ATのギヤレシオに助けられ、高速域でも気持ちのいい加速を示す。トルク特性に合わせてギヤレシオをうまくセッティングしているのだ。

サイドブレーキレバーの根元のパネルに貼られたテープも気になる。これはレバーとパネルが干渉したときに音が出ないように対策したテープだが、見えないようにレバー側に貼って欲しい

リヤビューがとてもスタイリッシュなスポーツ。コンピランプはスポーティなホワイトレンズ仕様になっている。もちろんストップランプは長寿命で光輝度のLEDだ

正面から見るとフェンダーの膨らみがよくわかる。グリルから続くボンネットの分割線も特徴的。全体的に力強く見えるデザインでとてもスポーティだ

エンジンでもう1つのトピックスは、ガソリンが従来のプレミアム指定からレギュラーに変えられたこと。トルクを充実させたセッティングはじつは実燃費の向上を狙ったためでもある。これだけガソリン価格が高くなるとプレミアム指定ではランニングコストが高くつくため、レギュラー仕様としたのは大正解。それに5速ATを組み合わせているから巡航時はエンジン回転数を低く抑えられるため、排気量は拡大されたが燃費の向上が期待できる。エンジンラインアップにはもう1つ2L直4DOHC(150馬力)がある。20Eのグレードに試乗することができたが、正直言って乗り心地は期待はずれだった。というのはこの試乗車にはオプションで用意されている205/60R16タイヤ組み合わされていたのだが、どうやらサスペンションのセッティングと合っていないようで、市街地走行では意外に路面の凹凸を拾い、それが乗員に伝わってくる。ちょうどボディが凹凸に合わせてゆれている感じで、フラット感がもう少し欲しい感じだった。この2Lエンジンもトルク重視の特性なので動力性能自体には満足できるが、60扁平の16インチということを考えると乗り心地は疑問だ。オプション装着ではなく、もう少し幅が狭く扁平率も違う標準装備の195/65R16タイヤでの乗り心地を試してみたい。サスペンション設定は標準タイヤに合わせているはずだから、こうした印象はないかもしれない。

こうしたフェンダーの形状は工場泣かせのデザインだが、製造現場の協力があるから実現できた。そのノウハウはRX-8からのものだ。フォグランプのデザインもユニーク

バンパーロア部をブラックアウトして低くスポーティに見せる手法はヨーロッパ車と同じだ。ここにリフレクターも装備するためよりヨーロッパ車のように見える。エキゾーストは全車左右出し

スポーツは20C、4WDの25Cを除いて全グレードにリヤスポイラーを標準装備

ハッチバックはこのように大きく開くため、大きな荷物も出し入れしやすい

アテンザの走りを存分に味わいたいのならばやはりスポーツだ。スタイリッシュなデザインの5ドアHBはワゴン的にも使えるから、スポーツ性と実用性をうまくバランスさせている。それにうれしいのはマニュアルトランスミッションを設定していることだ。ヨーロッパに向けて開発したことは明らかだが、国内仕様にもMTを投入するというのがマツダらしい。スポーツだけでなくスポーツワゴンでもMTを選ぶことができる。

ラゲッジスペースはとても大きく深さもあるため、6対4分割可倒式のリヤシートを倒せばワゴンに迫る積載性能

シャープなデザインのヘッドライト。明るく安全性に優れるHIDは25Sに以上に標準装備。ただし、25SはロービームのみHIDで、ロー/ハイともHIDなのは25Z以上

複雑なデザインのフェンダー形状であることがよくわかる

フロントタイヤ前に馬蹄形のディフレクターを装備することでタイヤにあたる空気を少なくし、ディフレクターから回り込んだ走行風はブレーキディスクを冷やすように設計されている

ということでスポーツの6速MTに試乗。2.5Lの新エンジンは低回転域のトルク感だけではなく、4500回転くらいからの力強い吹け上がりも魅力。6500回転のレブリミットまでスムーズに回りきり、とても気持ちがいい。多くの場合低速トルク重視でフラットトルクのエンジンはあまり楽しくないはずだが、ミッションのギヤ比がそれをうまくカバーしていて加速に伸びがある。エンジン制御もスマートで、引っ張り過ぎてレブリミッターに当てしまっても急激に燃料をカットしないためか減速感が少なく、走りのテンポを乱されることがない。欲を言えばもう少し高回転側でトルクカーブを上昇させる感じがあったらさらに爽快な走りを味わえるだろう。シフトチェンジをして回転域を自由に使えるMTには十分に走る楽しさがある。スポーツはワインディングでもいい走りを見せる。装着タイヤのダンロップのSPスポーツはハーフウエットでも手応えのあるいいグリップ力を発揮するため、安心して走行できる。さらに走りのペースを上げてフロントタイヤが滑り出してもDSC(横滑り制御機構)がスムーズに作動。じつにうまいセッティングでスポーティな走りを確保しつつ、安定性も両立させている。

スポーツのインパネはモダンブラック、スポーティブラックになるが、25EXはカームホワイトのインテリアカラーにブラックのインパネも選べる

メーターの文字はスポーティなレッド。エンジン回転は6500回転からレットゾーン

インパネセンターには横長のインフォメーションディスプレイを装備。ステアリングリモートコントロールスイッチによってエアコンやオーディオ、トリップコンピューターなどの操作がすべて手元でできる

プッシュボタンスタートシステムはオプション装備

新型アテンザのコンセプトを実感したのは高速走行だ。「高速ロングツアラー」というのがコンセプトだが、アテンザスポーツの6速MTはそれをうまく具現化している。高速巡航からの追い越し加速が6速のままで加速できるほどトルクフルでフレキシブル。高速道路100km/h時のエンジン回転数が意外に高く2500回転に設定されているからだが、シフトダウンしなくても追い越しがこなせるほどだ。それにエンジン音やロードノイズ、風切り音なども静かなため、高速域を維持して走行しても快適なのだ。それに直進性がよく、ステアリングの応答性もいい。この辺はラックドライブ式電動パワステによるもので、電動パワステにありがちな微小舵角でのフリクション感がうまく抑えられている。市街地走行ではトルクがフラットなため低回転まで粘ってくれるため、MTでもシフトチェンジが少なくてすむ。こうしてアテンザスポーツ6速MTをドライブしてみるとスポーツカー的にもワゴン的にも使えるオールマイティなクルマだということがわかる。特にスポーツの6速MTは、走行性能とそのフィールを重視するマツダのモデルらしい味わいだ。

マニュアルシフトレバーのストロークは適切でスムーズにシフトできる。このクラスにマニュアルミッションを残してくれるのはうれしい。さすが走りにこだわるマツダだ

8ウェイパワーシートは25Z以上に標準装備。25Zは本革とのコンビ、25EXは本革シートになる

ヘッドクリアランスはそれほどないが足下は広々している。シートの座り心地がよく、見た目も高級感がある

リヤサイドウインドーガラスが全開になることからもわかるように、リヤに向かってルーフはかなり低くされ、グリーンハウスが小さくされている

スポーツワゴンは、今となっては貴重な存在。前述のようにLクラス、ミドルクラスのライバルがどんどんと消滅しているから、スポーツワゴンの存在が注目を集めるわけだ。ワゴンの本場、ヨーロッパに投入されるだけに使い勝手はよく考えられている。その代表例がラゲッジルームのトノカバーだ。マツダでのお約束どおりこのトノカバーを"カラクリトノボード"と呼んでいる。リヤゲートに連動してカバーが自動的に収納されるため、ゲートを開け閉めしてもトノカバーを手でいちいち操作する必要がないのがいい。同様のものはヨーロッパ車の中にもあるが、その多くは電動などの複雑なシステムだが、カラクリトノボードはバックドアと連動させているため構造がシンプル。そのためスペースも犠牲なっていない。

最近は見ることが少なくなった3ペダル。各ペダルの配置がよく、ヒール・アンド・トゥがしやすい。フットレストの大きさや角度もよく、こうした点が高速ロングツアラーらしい

アテンザから装備されたのが取り扱い説明書のクイックマニアル。分厚く重い取り扱い説明書を読まなくても、運転に必要な基本的なことはこれを読めばわかるようになっている。今後マツダはクイックマニュアルを全車に展開していく予定だという

マツダが新採用した安全メカがリヤビークルモニタリングシステム。後方左右から近づいてくる他車をレーダーで検知。ドアミラー内側のLEDで接近を知らせるとともに、ドライバーがレーンチェンジしようとウインカーレバーを操作すると警報も行う。うっかりレーンチェンジして他車と衝突事故を起こすのを防止してくれる。このシステムはマツダと同じフォード傘下のボルボのシステムと同様だ

ワゴンでもマツダは走りに手抜きがない。ワインディングを走らせるとスポーツと同様にとてもスポーティなフィールだ。スポーツよりリヤの開口部が大きいためボディ剛性が心配だったが、その差はまったくない。しっかりとしたボディ剛性感を感じさせながらワインディングをガンガン走り込める。試乗したのは2.5LのATだが5速化されているためパワーバンドを外すことがなく、ステアリングシフトを使って気持ちいい走行ができる。さらに攻め込むとスポーツに比べ多少リヤの慣性の大きさを感じる場面もあるが、前後タイヤのグリップバランスがいいため気にはならない。6速MTを選べばワゴンでもスポーツと同様の積極的な走りがこなせそうだ。

ワゴンの空力特性もよく、セダンやスポーツのCd値0.27に迫る0.28を記録している

リフトゲート後端にスポイラーを装着することで空力を改善している。リヤ周りの風の巻き込みを防いでいるため、走行によるリヤウインドーの汚れも少なくなる

ワゴンのドアウインドーモールはリヤ部分が太くなっているため、セダンやスポーツよりよく目立つ。美しく輝くこのモールは樹脂にメッキしたものではなくステンレス製。こうした本物がアテンザの質感をより高めている

サスペンションの張り出しが少なく積み込みやすいラゲッジルームだ。ラゲッジ手前の幅はクラストップ1146mmを確保している。5人乗車時でラゲッジルームの容量は519L

走りの質感や使い勝手を総合的に考えると、アテンザのベストバイはスポーツの2.5Lモデル。スタイリッシュなボディとそれに見合ったスポーティな走行性能。大きな荷物も載せられるラゲッジスペース。走りを重視するなら6速MT。5速ATでも走行性能は十分満足できる。

これが"カラクリトノボード"。ボードと呼んでいるが柔らかい材質のカバーだ。リヤゲートと連動してトノカバーが開くためとても使い勝手がいい

カラクリトノボードをバックドアから外すと、巻き取られない部分がこのように少し垂れ下がってしまう

トヨタからOEMを受けるオンデマンドナビのマツダG-BOOK ALPHAは、廉価グレード以外にオプション設定

ワゴンのリヤシートも広く、居住性はトップクラスだ

パーキングセンサーのディスプレイはルームミラーのところに付けられている

アテンザの試乗会は沖縄で行われた。こうした東京から遠方で試乗会を開催するのはアテンザの広報活動に気合いが入っている証拠

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員