JR九州は自社線内と九州の私鉄の快速・普通列車に乗り放題の「旅名人の九州満喫きっぷ」を通年販売している。3回分で1万500円(大人・こども同額)。購入日から3カ月間有効だ。「青春18きっぷの九州版」というだけでなく、JR九州も含めて九州の鉄道事業者16社局の路線も乗り放題! なんて素敵なきっぷだろうか。

しかし九州は広い。このきっぷで乗れる路線に全部乗りたくても、3日間だけではさすがに無理。そこで今回は熊本、鹿児島、宮崎を巡り、SLと路面電車とブルートレイン(?)を楽しむことにしよう。裏ワザで特急にも乗っちゃうぞ!

鹿児島市交通局7000形「ユートラムII」が鹿児島市内を走る

JR九州といえば各地で観光列車を走らせているけれど、ほとんどが特急列車だから、「旅名人の九州満喫きっぷ」では乗れない。今回の旅を南九州メインにした理由は、「旅名人の九州満喫きっぷ」でも乗れる「SL人吉」(別途座席指定券が必要)や「いさぶろう・しんぺい」があるからだ。熊本と鹿児島には路面電車もあるし、熊本に元東急5000系「青ガエル」もいる。これらを全部盛り込んでみた。

最南端の電停とツル飛来地へ

今回の旅のルート

初日は鹿児島から肥薩おれんじ鉄道で熊本へ向かうが、その前に鹿児島市電に乗り尽くそう。鹿児島市電1系統の終点・谷山電停は現在、「日本最南端の電停」として売り出し中で、記念碑もできたそうだ。

ゆとりを持って全線制覇しようと思ったら、出発は朝7時すぎになった。前日に鹿児島入りして泊まりたい。おすすめは「JR九州ホテル鹿児島」。トレインビュープランはないけれど、鹿児島中央駅のそばにあり、在来線と新幹線を眺める部屋があるという。

鹿児島市電を乗り尽くした後は、快速「オーシャンライナーさつま2号」で出水へ。この列車は川内駅まで鹿児島本線、川内駅からは肥薩おれんじ鉄道を走行する。土曜、休日のみの運転だから、実際にこのプランで乗るなら、翌日の「SL人吉」と運転日の組み合わせに気を付けよう。肥薩おれんじ鉄道は九州新幹線が開業するまで鹿児島本線だった路線。薩摩高城駅から折口駅までは海岸沿いを走る。出水駅には11時28分到着。

次の列車も快速で行きたい。熊本行の快速「スーパーおれんじ4号」がある。この列車も八代駅から鹿児島本線に乗り入れ、熊本駅まで直通する。出水駅の発車は15時1分で、待ち合わせは3時間もある。熊本へ急ぐなら、もっと早い時刻の八代行に乗ってもいい。しかしここで降りる理由は、出水が「世界一のツルの飛来地」とアピールしているから。

ツル観察センター」は11月から3月までオープンしており、観光周遊バスで30分(出水駅から約10km)の場所にある。ただしこのバスの運行期間は12月から3月まで。今回の旅に盛り込んだ「SL人吉」は11月までの運行なので乗れない。ならばレンタカーかタクシーか……、いや、ここはレンタサイクルにしよう。観光案内所で、半日500円で電動自転車を貸してくれるとのこと。「そんなに遠くまで行くのはつらい!」という場合は、「ツル博物館クレインパークいずみ」(出水駅から約3km)に行こう。

出水駅から快速「スーパーおれんじ4号」に乗り、熊本駅には16時40分に到着。11月ならあと1時間くらいは明るいから、熊本市電A系統を往復しよう。終点の健軍町電停は軍に由来する地名で、近くに自衛隊駐屯地がある。でもいきなり行っても見学はできないからすぐ引き返す。途中で夕暮れの水前寺公園を散歩してもいいし、日本で唯一という味噌の神様「味噌天神」をお参りしてもいいかも。

この日は熊本泊。おすすめホテルは「JR九州ホテル熊本」だ。熊本駅に隣接し、予約時に線路が見える部屋を希望できるとのこと。

今回の旅の行程表

青ガエルとSLとブルートレイン(?)に乗る

翌日はかなり早起き。なんと熊本駅5時51分発の普通列車で隣の上熊本駅へ。熊本電気鉄道と熊本市電B系統に乗れるけれど、熊本電鉄の始発列車は7時20分発。そこで熊本市電B系統に乗り、熊本城・市役所前電停へ。これで熊本市電を制覇した。ここから熊本電鉄の藤崎宮前駅は近く、Google地図でルート検索したところ、徒歩15分ほどのようだ。そこで移動時間を約1時間程度取り、迂回して熊本城公園内を散歩したい。

藤崎宮前駅から熊本電鉄で終点の御代志へ。ここでは元都営三田線の6000形が走っている。菊池線はかつて菊池まで到達していたけれど、御代志~菊池間は廃止された。御代志駅は菊池行などのバスの結節点となっていて、同じホームの片方が電車、もう片方がバス停になっている。各地のLRT構想で見かける「電車とバスのスムーズな乗り継ぎ」の理想図が、ここではすでに再現されている。帰りは藤崎宮前駅まで行かず、北熊本駅で乗り換え。北熊本駅から上熊本駅までが、元東急電鉄の「青ガエル」5000形と、元南海「ズームカー」22000系を改造した200形が走る区間だ。

熊本駅に戻ったところで、9時44分発の「SL人吉」に乗車。別途座席指定券(大人800円)が必要だ。球磨川に沿う景色が良さそう。ゆるやかな上り坂もあるからSLの煙も多く、動作音もひときわ大きくなるだろう。人吉駅までは約2時間半の乗車だ。

人吉駅前にはからくり時計が

人吉駅でも約3時間の散策の時間を設けた。これだけあれば、転車台でSLが方向転換する姿や石造車庫も眺められる。石造車庫は肥後の石工技術で造られた最も大きな構造物で、車庫としては国内唯一とのことで見ておきたい。15時に人吉駅前のからくり時計も見物しよう。

その後、くま川鉄道に乗り、この日の宿へ。ちなみにくま川鉄道のほうは、駅名が人吉駅ではなく人吉温泉駅となる。人吉温泉駅15時26分発の列車で湯前駅へ。駅に隣接した「湯~とぴあ」でお土産を品定めしたい。

湯前発の列車で折り返し、多良木駅で下車する。ここにはブルートレインの車両を使った簡易宿泊施設「ブルートレインたらぎ」がある。ここを今夜の宿としよう。付近には「多良木町ふれあい交流センターえびすの湯」がある。

ラストは特急に乗って宮崎空港へ

3日目。くま川鉄道で人吉に戻り、普通列車として運行している観光列車「いさぶろう」で吉松駅へ。ここからは吉都線で都城へ向かう。都城駅から日豊本線に乗り換えて宮崎駅へ。宮崎駅から宮崎空港へ。空の便で帰途につく。宮崎~宮崎空港間は普通乗車券で特急に乗れるという特例がある。快速・普通列車限定の「旅名人の九州満喫きっぷ」で、ラストは特急に乗車。まさに「旅名人」らしい締めくくりだ。

「いさぶろう・しんぺい」が停車する矢岳駅には、D51 170が静態保存されている

古い木造駅舎で知られる肥薩線の嘉例川駅にも寄り道したいところ

都城へ向かう前に、ちょっと寄り道をして肥薩線で嘉例川駅へ行くのもいいだろう。趣のある木造駅舎で、登録有形文化財に指定されている。嘉例川駅は無人駅だけど、訪問日が土休日なら駅弁「百年の旅物語かれい川」が販売される。JR九州が実施する「九州の駅弁ランキング」で3年連続1位の名物駅弁だ。このプランでは1日目も2日目も土休日限定の列車に乗っているから、「百年の旅物語かれい川」を食べたいなら祝日を含めた3連休で出かけたい。したがって11月23~25日の限定プランとなる。