値動きから、マーケットのポジションの偏り、相場の方向性、さらにはマーケットセンチメントがわかるということを、第111回「値動き分析の基本」でお話ししました。今回は、その中でも、特によく現れるジリ高についてお話ししたいと思います。

ジリ高・ジリ安とは

ジリ高は、ジリジリ上がるからジリ高です。その対極はジリ安で、ジリジリと下がるからジリ安です。

ジリ高の場合は、戻りを売ろうとして売り上がるため、ポジションがショートになり下がらず上がります。ジリ安の場合は、下がろうとするときに買い下がってポジションがロングになり、上がらず下がります。

普通に考えれば、ジリ高もジリ安も、どちらでも同じように発生すると思えるのですが、経験的に言いますと、ジリ高の方が圧倒的に多いということが言えます。

これがなぜなのか考えてみたところ、次のようなことが言えるのではないかと考えています。それは、ジリ高にせよ、ジリ安にせよ、そうなる「ドラマ(発生原因)」というものがあるということです。

何も全く理由がなくて、ジリ高、ジリ安が始まるわけではないということです。ここで、私の経験談を例にして、ともかくもジリ高についてお話ししましょう。

ジリ高・ジリ安には「ドラマ」がある

私がニューヨークに駐在していた頃のある静かな午後、突然、ニューヨーク連銀(中央銀行)がドル/円で売り介入をしてきました。あまりの唐突な介入にマーケットはパニックとなり、相場は東京時間までには5円急落していました。

この急落相場ではロングの投げが精一杯で、新たにショートを作ることはどこまで下がるかもわからず、なかなか売れるものではありませんでした。

しかし、ニューヨーク連銀が売ったという事実は事実であり、ある意味売れと言わんばかりのことでした。そして相場が下げ止まると、マーケットは底値で売るのは怖いので、戻りを売り始めました。

しかし、所詮戻りが売れるということは、既に売っているものがいて下がらないから買い戻してきているわけで、そこに売っても下がらず、上がれば買い戻すのですが、次のマーケット参加者がまた売ってくるということの繰り返しによってジリ高は作られます。

ジリ高で大事なことは、誰もが「これは売りだ」と信じ込むような強く印象に残るドラマ(発生原因)が必要だということです。もちろんジリ安でも同じように、誰もが「買いだ」と信じ込むような強く印象に残るドラマが必要だということです。

それならば、どちらも同じ頻度で起きておかしくないはずですが、やはりここで言うようなドラマは、上げよりも下げの方が起こりやすいということです。

例えば大きな事件でもリーマンショックにしても、何度もあった欧州危機にしても、そしてブレグジットにしても、どれも売りでドラマが発生しています。買いでドラマが発生しているのは、2016年の米大統領選のトランプ氏の当選ぐらいのものです。

従いまして、常日頃発生する普通サイズのドラマにしても、売りで発生するものが多く、そのためジリ高になりやすいのではないかと見ています。

なお、ジリ高に似た「買い上がり」では、買い戻しで上がるのではなく、相場を上げようとして、買い上がる場合もあります。ジリ高と買い上がりを区別する上でも、初めにドラマがあるかどうかでわかります。

つまり、買い上がりは仕掛けて買っているため、ドラマなしで始まります。

ちなみにそれぞれの最後も違います。

ジリ高は、売り上がってショートになり、それでも下がらず、覚悟を決めて一気に買い戻してきますが、買い上がりは、ロングで稼いだものを高いところで売って利食うため、最後は下がります。

途中は見分けはつきにくいですが、初めと最後に違いが出ますので、注意が必要です。

水上紀行(みずかみ のりゆき)

バーニャ マーケット フォーカスト代表。1978年三和銀行(現、三菱東京UFJ銀行)入行。1983年よりロンドン、東京、ニューヨークで為替ディーラーとして活躍。 東京外国為替市場で「三和の水上」の名を轟かす。1995年より在日外銀において為替ディーラー及び外国為替部長として要職を経て、現在、外国為替ストラテジストとして広く活躍中。長年の経験と知識に基づく精度の高い相場予測には定評がある。なお、長年FXに携わって得た経験と知識をもとにした初の著書『ガッツリ稼いで図太く生き残る! FX』が2016年1月21日に発売された。詳しくはこちら