今、世界の金融市場は、6月に米FRBが、今年2回目の利上げを実施することを織り込んで、動いている。具体的には、6月13-14日のFOMC(米金融政策決定会合)で、FRBがFF金利の誘導水準を現行の0.75-1%から、1-1.25%へ0.25%引き上げることを織り込んでいる。

米FF金利先物に織り込まれた、6月利上げ確率の推移は、以下の通り。

FF金利先物に織り込まれた米6月の利上げ確率:2017年4月3日-5月15日 (出所:ブルームバーグより楽天証券経済研究所が作成)

4月中は、6月の利上げ確率は、50-60%で推移していた。それが、5月3日にFOMC声明文が公表されてから、利上げ確率は、80%まで上昇した。FOMC声明文に、「1-3月の米景気減速は一時的」という表現があったことが、材料視された。

4月28日に発表された米1-3月GDPが前期比年率0.7%増と、きわめて低い伸びであったため、米景気失速を懸念する声が出ていた。これでは6月利上げはできないとのムードが出ている中で、FOMC声明文に「米景気減速は一時的」という踏み込んだ表現が盛り込まれたので、注目を浴びた。それには、特別な意味があると受けとめられた。

中央銀行の景気コメントは、どの国でも、純粋な景気予測とは、見られない。金融政策変更の方向性を示すものとして、とらえられる。中央銀行が景気に強気表明をすることは、金融政策を引き締め方向で動かすという示唆になる。今回の米FRBによる「米景気減速は一時的」のコメントは、6月に利上げを実施する決意ととらえられた。したがって、FF金利先物に織り込まれる6月利上げ確率は、一気に8割まで上がった。

5月3日のFOMC議事録で利上げ見通しが強まった後、さらに5月5日発表の4月の米雇用統計が強かったことがダメ押しとなった。これで、金融市場は、6月利上げ確率を90%以上と判断するようになった。米利上げ確率の上昇を受けて、ドル高(円安)が進み、円安に反応して日経平均が上昇した。

もし、6月に米利上げが実施されないとどうなるか? 実は、FF金利先物に織り込まれている利上げ確率は、そのまま実現するとは限らない。この確率は、あくまでも、FF金利先物を売買する投資マネーがつけた値に過ぎない。市場の思惑が外れて、実現しない場合もないとは言えない。

利上げ実施を阻むものとして、以下の2つがある。

(1)トランプ政権の意向(政治圧力)

トランプ大統領は、最近、意識して、為替や米FRBの利上げにコメントをしないようにしているように、見える。ただし、本音で話せば、トランプ大統領は、米利上げとドル高(円安)に反対していることは、明らかだ。

トランプ政権は、これから景気刺激策を実施し、米景気のアクセルを踏みまくることを計画している。ところが、米FRBは、これから利上げを続ける方針だ。利上げするということは、景気にブレーキを踏むということだ。

トランプ政権がアクセルを踏み続けるときに、米FRBがブレーキを踏みまくることを、快く思っていないことは、明らかである。

もし、6月FOMCの前に、トランプ大統領が、米利上げやドル高を問題視する発言をすると、6月利上げのハードルが一気に高くなる。

(2)世界の株式市場の動き

トランプ政権は、米景気が強く、米国株が上昇を続ける間は、米利上げを容認すると考えられる。ただし、世界的に株が下がるようだと、利上げをしにくいムードが広がる。米利上げは、世界中の株式市場に大きな影響を与えるからだ。今のところ、世界の株式市場は堅調だが、来月までになんらかの理由で世界の株式が下がると、利上げをしにくくなる。

日経平均は、2万円前後で動きが小さくなってきているが、6月13・14日のFOMC後には、乱高下する可能性もある。市場予想通り、米利上げが行われれば、円安株高が進む可能性があるが、万一、利上げがないと、円高株安になるリスクがある。

執筆者プロフィール : 窪田 真之

楽天証券経済研究所 チーフ・ストラテジスト。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定アナリスト。著書『超入門! 株式投資力トレーニング』(日本経済新聞出版社)など。1984年、慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネージャー歴25年。運用するファンドは、ベンチマークである東証株価指数を大幅に上回る運用実績を残し、敏腕ファンドマネージャーとして多くのメディア出演をこなしてきた。2014年2月から現職。長年のファンドマネージャーとしての実績を活かした企業分析やマーケット動向について、「3分でわかる! 今日の投資戦略」を毎営業日配信中。

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