IHS Markit主催の「第38回 ディスプレイ産業フォーラム」において、FPD部材の市場動向について、IHS Markitディスプレイ部門FPD部材調査担当シニアディレクターの宇野匡氏が講演し、平均画面サイズの大型化によって面積に由来するディスプレイ部材の多くも成長してきたが、2020年以降は大型化の動きが鈍化、2023年には面積に対する需要として見た場合、マイナス成長に陥るとの予測を披露した。

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    IHS Markitディスプレイ部門FPD部材調査担当シニアディレクターの宇野匡氏 (画像提供:IHS Markit)

注:本連載はあくまで2020年1月30日時点のIHSによる予測であり、2月に入り本格的に猛威を振るい始めた新型コロナウイルスの感染拡大による影響は考慮されたものではないことに注意していただきたい。

日本勢が強みを発揮するFPD部材分野

2019年、日本政府が韓国に対する半導体・FPD素材の輸出管理の厳格化を実施したことから、素材分野における日本企業の強さに関心が集まった。例えば、中国は10年来の国策として2010年からガラス基板への参入・開発投資を進めてきたが、その黒字化は見通せておらず、いまだに大手3社(米コーニング、AGC、日本電気硝子(NEG))のシェアを崩せていない。ただし、「通常であれば10年も利益を出せなければ、事業を終了(倒産)させるものだが、中国は国策として補助金政策を続けており、この動きが将来の予測を難しくしている」と、日本勢が強みを発揮できている分野としながらも、中国の動向が読み切れないとする。

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    中国のFPD部材メーカーとその状況 (出所:IHS Markit)

また、バックライト分野では年々、直下型のシェアが上昇しているが、そのメリットはモジュールの軽量化とLED数の削減によるコストダウンにある。コントラストを高めるローカルディミングとの親和性も高いほか、フルスクリーンと呼ばれる超狭額縁にも有利であり、こうした技術的優位性がシェアを押し上げる要因となっている。バックライトは長年にわたってコストダウンを第一に要求されてきた部材ながら、ミニLED方式のバックライトにより、高画質化にもつながることが期待されるようになってきた。

懸念されるドライバIC不足

近年、供給がタイトだったCoF(Chip on Film)は、Huawei問題で新規開発案件が減少したことに加え、他のスマートフォン(スマホ)ブランドも最近ではCoG(Chip on Glass)で十分と考えるようになってきたこともあり、需給環境は以前の状態に戻って落ち着きを見せている。そのため2020年はテレビ向けの需要だけがけん引役と言える状況となったといえる。

その一方で、5G、AI(人工知能)、車載関連を中心に半導体市況が回復しつつあることを背景にファウンドリに委託生産しているディスプレイドライバICの生産量を心配する声が出始めている。ファウンドリが利幅の大きな5G、AI、車載向けデバイスの製造を優先することが予想されるためで、プロセスが複雑なわりに利幅が小さいディスプレイドライバICの生産についてファウンドリはこの数年、あまり積極的に生産をする動きを見せてこなかったこともあり、需給にタイト感がでてきているという。

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    ドライバICの設計企業と大型TFT、中小型TFT、有機EL向けドライバICの生産を受託しているファウンドリの関係 (出所:IHS Markit)

ドライバICの設計企業として近年、中国勢の増加が目に付くようになってきた。そのため、大型パネル用ドライバICのシェアは2019年第3四半期のデータとして、Novatekが28%、Silicon Worksが17%、Himaxが14%、Raydiumが10%、Samsungが9%という順になっているという。一方のスマホ向け液晶ディスプレイドライバICはNovatekが23%、Synapticsが20%の2強、ノートPC向けはNovatekが42%、Raydiumが22%の2強状態となっているという。

いずれの分野もNovatekがトップシェアで圧倒的な強みを発揮しているものの、各分野の2位以下は多様化の様相を見せている。ただし、スマホ向け有機EL用ドライバIC市場については、状況がまったく異なっており、 Samsungが60%、Magnachipが27%と韓国勢が圧倒的なシェアを握る状況となっている。

付加価値の高い部材開発が進む自動車市場

ディスプレイの面積需要が飽和すると予測される中において、付加価値の高い部材開発が進められているのが自動車分野である。

自動車(OEM)メーカーやティア1もディスプレイ部材の研究を行っており、自社ブランドの差別化の1つとして新規部材の活用を進めている。例えば車載用光学フィルムでは、夜間にセンターディスプレイの映像がフロントガラスに反射することを防ぐのを目的とした、バックライト上のルーバーフィルムの採用が広がっている。モニタやノートPCに採用されているのぞき見防止板とおなじ構造である。将来的には、メーターフードが撤去されるという話もあり、さらに採用が広がると予測されている。また、車載ディスプレイの最表面はカバーガラスにコーティングする場合と、樹脂板と、飛散防止フィルムを貼合する3種類に分類されるが、内装と質感を合わせるために高価な無反射フィルムを貼合するケースもあるという。

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    さまざまな場所で活用されるようになってきた車載光学フィルム (出所:IHS Markit)

なお宇野氏は、今後、テレビの平均画面サイズの大型化が鈍化し、パネルの面積需要がマイナス成長に転ずると、部材メーカーは新規投資の必要がなくなり、価格競争が激しくなると予測されると指摘しており、「部材市場に淘汰の波が押し寄せると予測される。部材メーカーは来るべき厳しい市場環境に対して、準備を開始する必要がある」と警鐘を鳴らしている。