米IBMは、2014年10月に自社の半導体事業部門であるIBM Microelectronicsを米GLOBALFOUNDRIES(GF)に工場、技術者、知的財産だけではなく、現金15億ドルまでも付けて譲渡すると発表して、半導体業界を驚愕させた。

GFは、アラブ首長国連邦アブダビ首長国政府系投資企業の資本で経営されているため、その後、対米外国投資委員会(CFIUS:Committee on Foreign Investment in the United States)の審査を経て翌2015年7月に譲渡が完了した。しかし、IBMは半導体研究部門だけは自社内に残して、そこに30億ドルも投資して次世代半導体研究を強化するというから2度目の驚愕である。もはや製造部門無きIBMの半導体研究部門はどんなビジネスモデルで運営されているのか、誰しも疑問に思うだろう。 

図1 VLSI ResearchのCEO兼会長を務めるDan Hutcheson氏

米国の半導体市場調査企業VLSI ResearchのCEO兼会長Dan Hutcheson氏(図1)は半導体業界でも特異な存在であるIBM Research Groupの300mm半導体研究ファブ(米国ニューヨーク州の州都アルバニー市Albany Nanotech Complex内、図2)を実地調査したという。彼が探り当てたIBM半導体研究グループ独自の研究モデルを紹介しよう。

Albany Nanotech Complexとは?

State University of New York・Polytechnic Institute・College of Nanoscale Science and Engineering(SUNY-Poly-CNSE)を中核に、同キャンパスにひろがるナノテク研究団地。なお、SUNYはニューヨーク州にある多数の州立大学の連合機構、PolyはCNSEとSUNY Institute of Technologyの2校が2014年に経営統合して誕生した工科大学機構。ニューヨーク州のCuomo知事はCNSEキャンパスを世界のナノテク研究の拠点にしようと世界中からの企業誘致を陣頭指揮している。IBM、Applied Materials(AMAT)、東京エレクトロン(TEL)はじめ多数の世界的に著名なハイテク企業がキャンパス内の建物の一部を大学から借りて研究所やオフィスを設置している。中でも、次世代半導体デバイス・プロせス開発に取り組むIBMの300mm研究ファブが最大である。このキャンパスでは、米韓台の先進半導体企業による450mmウェハを用いた製造検討コンソーシアム「Global 450mm Consortium」や、地元のGeneral Electricを核にパワー半導体の実用化を促進する「New York Power Electronics Manufacturing Consortium」、エネルギー省傘下の太陽光発電コンソーシアムなど多くの産官学共同研究が進行中である。Sematechも同地を本拠地として、世界中の主要半導体企業をメンバーとするコンソーシアム活動を行ってきたが、主要メンバーの脱退が相次ぎ、すでにCNSEに吸収されている。

図2 ニューヨーク州立大学CNSEキャンパスに展開されるAlbany Nanotech Complexの全景。赤い矢印のついた横長の半導体ファブのような建物「NanoFab North」が、IBM研究グループの300mm半導体研究ファブ、白いブリッジでつながった奥の白い建物は、「Global 450mm Consortium」の450mm装置評価およびプロセス開発用クリーンルームとEUVリソグラフィ装置設置用クリーンルームがあるNanoFab Xビル、その右手の野球場のような形のビルは省エネルギー・再生エネルギー研究のためのZEN(Zero Energy Nanotech)ビル。手前のビル群は、200mmクリーンルーム(200mm研究ファブ)、講義室、研究室、実験室、教授室、企業へレンタルされているオフィス(企業研究所)などとなっている (出所:CNSE)

IBM研究ファブはまるで先端半導体工場

IBMの300mm研究ファブ(図3)を見学したHutcheson氏の感想は「まるで小ぶりの最先端半導体工場のようだった」である。ただ異なるところは、旧IBM East Fishkill工場(現在はGFが所有)にあるようなファブ内に張り巡らされた300mmウェハ自動搬送システムがなく、FOUP(密閉ウェハ保管箱)は台車で運搬されていることぐらいである(図3左)。IBMは2014年にオランダASML製の300mm EUVリソグラフィ装置を設置し、最近アップグレードした(図3右)。最新型の半導体製造装置や検査装置がずらりとならび(図3中央)、Albany Nanotech Complexに研究所を設置している大手装置メーカー研究所が所有する開発中の装置にもアクセスできる。この研究ファブでは1日当たり1マスクレイヤのスピードでウェハ処理しており、フルフローウェハセットは8週間で流せるという。

図3 IBMの300mm半導体研究ファブ(ニューヨーク州アルバニー)のクリーンルーム内部。左:両側に装置が並ぶ中央通路、中央:透明パーティションで囲われた装置メンテナンス領域、右:オランダASML製300mm EUV露光装置 (出所:VLSI Research)