学生時代、誰しも一度は手にする「学習参考書」。日々の予習復習やテスト勉強、受験勉強、そして就職活動のため活用した記憶のある方は多いだろう。でも参考書選びに迷ったり、買って満足して積んだままになったり……ほろ苦い思い出もあるかもしれない。

そんな勉強の悩みを参考書を通して解決していく「参考書コメディ」が、現在コミックDAYS・Dモーニングで連載している漫画『ガクサン』だ。

  • モーニングKC『ガクサン』(講談社)より

出版社のお客様ご相談係を舞台に繰り広げられるお仕事漫画『ガクサン』の作者・佐原実波先生に、参考書の奥深い世界、そしてこれから社会人に出る就活生へのエールを聞いた。

  • 『ガクサン』著者:佐原実波先生

『ガクサン』著者:佐原実波先生
漫画家。1月16日生まれ。神奈川県出身。『ガクサン』が初の週刊連載作品。

「学生の頃に知りたかった!」の声多数!

――『ガクサン』は、タイトルにもなっている"ガクサン"こと「学習参考書」を専門に取り扱う出版社が舞台の漫画です。佐原先生は学生時代から参考書マニアだったのでしょうか?

マニアではなく、学生時代は学習参考書も大して読んでいないタイプでした(笑)。でも勉強は好きでしたね。いざ『ガクサン』を描き始めてみると「参考書って実は自分の悩みに合っていたのでは?」と感じています。

  • 『ガクサン』1巻1冊目「うるし、ヤバめの参考書オタクと出会う」より

――『モーニング』で連載していた『働きマン』をはじめ、「出版社のお仕事」をテーマにした漫画や小説は多々あります。そのなかで「学習参考書の出版社」を舞台にしたきっかけは?

『モーニング』の担当編集者の方から「参考書の漫画を描きませんか?」というお話をいただいたことがきっかけです。『ガクサン』の連載を始めた『モーニング』では"お仕事漫画"が共感されるんですが、参考書の出版社を舞台にした漫画はないなと。そして私自身も元々出版社の編集者として働いていたこともあり、その経験は活かせていますね。

ただ、参考書の出版社について調べたり取材をしてみると、知らない事ばかり。例えば『モーニング』は週刊誌ですが、参考書は年単位で作っていたりと同じ"本の編集"であっても進め方も時間の使い方も全く違います。

――「知らないことばかり」とのことですが、執筆を始めてから参考書や参考書の出版社に関して面白いと感じたところは?

ひとつは、参考書を編集する方の素朴さや真っ直ぐな姿に心打たれますね。例えばずっと理科が好きでそのまま大人になっているなど、ひとつのジャンルを極めるアカデミックな方が多い印象です。

もうひとつは、とてもクリエイティブな仕事だと感じます。参考書は学習指導要領に則って作るため、どうしても似てきてしまうもの。それでも、その狭い範囲のなかで新しいものをつくろう、面白くしよう、と工夫が凝らされているんです。

  • 実際に存在する参考書をもとに、そのこだわりや特徴を解説するシーンも『ガクサン』1巻1冊目「うるし、ヤバめの参考書オタクと出会う」より

――現在5巻まで刊行されています。読者の方からの反響はいかがですか?

『モーニング』読者の方は大人が多いのですが、「学生の頃に知りたかった!」という声をたくさんいただきますね。また参考書がこう作られてるんだな、という種明かし的な面白さも感じてもらえるのかなと思います。それから学生時代を追体験したり、お子さんのいる親御さんから「子どものタメになった」というメッセージももらいました。業界の方からは「結構リアルだ」と言われますね(笑)。

  • 悩める読者に向けて、参考書の活用方法や勉強方法を「参考書オタク」福山がアドバイス。学生の頃に知りたかった……! 『ガクサン』1巻1冊「うるし、ヤバめの参考書オタクと出会う」より

サブカル女子と参考書マニアの凸凹コンビ

――主人公・茅野うるしは、学習参考書出版社・いぶき社に中途入社する「ミーハーなサブカル女子」、同部署の先輩社員・福山譲は「対人能力が壊滅的な参考書マニア」と対照的なキャラクターです。

当初は『モーニング』の連載漫画でしたし(※現在はコミックDAYS・Dモーニングで連載中)、学習漫画の方向に振りすぎるのもなあと思い、学習参考書で読者の悩みを解決するストーリーに仕立てています。主人公のうるしと参考書マニアの福山は、「シャーロック・ホームズ」のワトソンとホームズのようなキャラですね。お互いにちょっとへっぽこで人間臭いふたりが助け合いながら成長していきます。

  • 「参考書オタク」の福山とともに読者の悩みに応える主人公・うるし 『ガクサン』1巻1冊目「うるし、ヤバめの参考書オタクと出会う」より

――出版社を舞台にしたお話だと、編集者が主人公になることが多い印象ですが、『ガクサン』の主人公コンビは「お客様ご相談係」に勤務しています。

編集者の設定にすると、意外と読者と出会う機会が作りづらいんですよね。読者と接点を持てる部署として「お客様ご相談係」にしました。また学習参考書は書店で売るだけでなく、半分ほどは学校で販売している商品です。参考書ならではの営業も描きたかったこともあります。なので、主人公は出版社の営業部内にあるお客様ご相談係で働く、という設定はスッと決まりましたね。

――テーマはどのように決められているのでしょうか?

話のテーマは、2人の担当編集者さんと一緒に決めています。最初はインターネットのお悩み相談を調べてピックアップしていましたが、最近はニュースで話題になったことや、取材を通して聞いた話を参考にしていますね。参考書を執筆される先生はお子さんと触れる方も多いので、リアルなお話が伺えます。

そこから誰に取材をするか考えます。その分野で権威の先生に話を伺ったり、深掘りして話を聞きたい場合は参考書の出版社さんに取材を依頼して、企画の経緯や市場分析などを聞かせてもらうことも。取材をするだけでなく、自分で参考書を読んで「ここが面白いな」と思った点も盛り込んでいます。

――うるしたちお客様ご相談係がSNSで読者の悩みを聞く、というやりとりはイマドキっぽいですね。

主人公のうるしは、中途採用で入社した若くてキャリアのないキャラクターです。保守的な面もある出版業界でどうやっていくか、リアルに想像しやすいところで「SNSの活用」を入れました。これは彼女の飛び道具ですね。

  • うるしのアイデアで、いぶき社のお客様ご相談係のSNSがスタートする『ガクサン』1巻5冊目「うるし、独学受験を考える(1)」より

――ひとつのテーマで数冊の参考書を実名で紹介されています。本の選定はどうされているのでしょうか?

漫画のなかで扱う参考書や勉強方法は、勉強法の取材をさせていただいている先生や参考書を執筆する講師の先生に伺っています。また私が書店で見つけてくることもありますね。

  • 各話で様々な参考書が紹介される『ガクサン』1巻1冊目「うるし、ヤバめの参考書オタクと出会う」より

――この取材の前にも、書店で参考書を買われたと聞きました。

今日も4冊くらい買いました。大体1回のエピソードで5冊、週刊連載なので1ヶ月あたり10~15冊は購入していますね。同じ先生の本をまとめて買うこともあればジャンルがバラバラなこともあるので、地元の書店さんに「よく参考書を買うな」と思われてそうです。まだ『ガクサン』の作者だとはバレてないと思いますが……(笑)。

最近は、デジタルを勉強に取り入れるハードルがほとんどなくなっていることで、媒体に合わせて参考書も変化しているように感じます。図書館に行くと、タブレットを触りながら勉強しているお子さんも見かけますね。

「参考書」は就活のチートアイテム !?

――学習参考書というと受験勉強のため……というイメージが強いですが、「コミックDAYS」で配信されている69冊・70冊目「うるしと就活のための参考書」の回では「就職活動の参考書」をテーマに扱っています。(※購読は各話90ptが必要)

学生だけでなく、大人になっても参考書と付き合う側面はあるよね、ということでこのテーマを描きました。大人が手にする参考書というと、TOEICのような試験対策の本もあれば医学書やプログラミングの本など専門的なものまでかなり幅広いですが、社会に出る前に手にするのが「就活のための参考書」だなと。

――作中に出てくる「参考書は就活というダンスフロアに立つための『チケット』」というキーワードも印象的でした。

以前取材させていただいた先生から「就職活動はまずステージに上がるのが大事、そこから先は大学生活で培ってきたことが必要」と伺ったんです。そこからこのキーワードを作りました。

  • 就活のダンスフロアに立つとは……? 『ガクサン』70冊目「うるしと就活のための参考書(2)」より ※コミックDAYSにて配信中

  • 『ガクサン』70冊目「うるしと就活のための参考書(2)」より ※コミックDAYSにて配信中

――これまで様々な参考書を紹介されてきていますが、「就活のための参考書」ならではと感じたことはありますか?

就職活動の参考書は、目的がシンプルではっきりしているな、と感じます。大学受験だと「こんなのは出ないだろ!?」と思うような問題がのっている参考書もありますが、就活に関してはエントリーシート・SPI・面接……という感じで必要最低限がしっかりのっている気がします。

  • 「今回のガクサン」として紹介された 『早期対策で差をつける 大学1・2年生のための就活の教科書』『マイナビ2025オフィシャル就活BOOK 内定獲得のメソッド 就職活動がまるごとわかる本 いつ? どこで? なにをする?』(ともに岡茂信 マイナビ出版)『ガクサン』70冊目「うるしと就活のための参考書(2)」より ※コミックDAYSにて配信中

それから「業界研究」の本も独特に感じました。とりあえず会社のWebサイトを見ておけばよいか! と思っていたんですが、業界研究の本は情報量がすごい。ネットにも業界研究のサイトはありますが、具体的な社名を出して、売上高や離職率までは載せられないと思うんです。でも『会社四季報 業界地図』などには全部書いてあって。参考書を読むのはある種のチート行為ですよね。

  • 「今回のガクサン」として紹介された『会社四季報 業界地図 2024年版』(東洋経済新報社)『ガクサン』70冊目「うるしと就活のための参考書(2)」より ※コミックDAYSにて配信中

  • 「今回のガクサン」として紹介された『マンガでわかる! 中学入試に役立つ教養 地理153』(旺文社)『ガクサン』70冊目「うるしと就活のための参考書(2)」より ※コミックDAYSにて配信中

――マイナビニュース読者には、就活中の方やこれから就活する学生の方もいます。「お仕事漫画」を描く佐原先生から、これから社会に出る方に向けて一言お願いします。

出版社勤務、そして漫画家としての日々を通じ、つくづく出版物には多くの方が関わっているなと思うんです。でも就活をしていた大学生の頃はそれが見えていなかったし、そもそもどこを見たらよいかわかりませんでした。今思えば、業界研究の本はもちろん、業界のお仕事を描いた漫画に書いてあることも。私自身、啓蒙書や実用書なんて……と思っていたこともありますが、本は視野を広げてくれます。やりたいことへのチート的な近道になってくれるので、利用できるものはどんどん利用して頑張ってほしいなと思います。

――最後に、キャラクター同士の関係や新企画の展開も熱い『ガクサン』に関して、マイナビニュースの読者に一言お願いします。

学習参考書にまつわる話を描く『ガクサン』は、勉強のための漫画でもありますが、お仕事漫画でもあります。でも熱血お仕事漫画ではなく、主人公たちは自分がやりたいことがなんだかわからない、好きだけどうまくできない、そんなちょっとポンコツな人々が社会人としてやっていっています。働く時に、読んだら元気になる、勇気が湧いてくる、そんな気持ちになってもらえると嬉しいですね。


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(c)佐原実波/講談社