2011年、女優の萬田久子さんの夫が亡くなり、2人が長年にわたって「事実婚関係」にあったことが話題を集めました。芸能人だけではなく、最近「事実婚」を選ぶカップルをよく見かけます。ちょっと先進的な響きもある「事実婚」ですが、「同棲」や「内縁」とはどう違うのでしょう。そして、そのメリットとは?
「内縁の妻」の暗いイメージから、明るい「事実婚」へ
「事実婚」とは、婚姻届を出さずに夫婦生活を営むカップルのことです。共働きで夫婦別姓を選びたい人や、同性同士のカップルなども事実婚を選ぶケースが多いようです。世間的には「内縁関係」と呼ばれることもありますね。ニュースの報道などではよく、「被害女性は内縁の夫と暮らしており……」といった言い方がなされます。事実、「内縁」と「事実婚」は、婚姻届を出さずに暮らす夫婦という点では同じです。
ただ、「内縁」には何となく「籍を入れられない事情があるのでは」といった偏見や、ほの暗いイメージがありますから、最近では「事実婚」という言い方のほうが好まれるようです。「私たち内縁関係なの」と明るく言う人はあまりいませんが、「私たち事実婚なの」と言うカップルは沢山います。「内縁」は他称、「事実婚」は自称と言ってもよいかもしれません。事実婚の方が何となく「自分たちで選びとった関係」のような雰囲気もありますよね。フランスやスウェーデンの事実婚制度に通じる、おしゃれなイメージもある。元女優の後藤久美子さんも、フランス人F1レーサーのジャン・アレジと事実婚していることで有名です。
同棲カップルが「事実婚」になるには?
同棲カップルにとって、「これって結婚しているのと変わらないよね」と感じることは多いでしょう。が、同棲と事実婚の間には大きな違いがあるのです。「事実婚」であるためには、2人の間に「私たちは夫婦だ」という認識があり、周りからも「あの人たちは夫婦だよね」と思われていなければなりません。ただ一緒に暮らしているだけではダメなのです。
では、どうすれば「事実婚」を公的に証明できるのでしょう。ひとつには「住民票を一緒にする」という方法があります。これを「住民票婚」と呼ぶのが、コラムニストの深澤真紀さん。彼女は婚姻届を出さずに、夫と住民票だけを一緒にしています。住民票の「世帯主との続柄」のところに「妻(未届)」と記入すれば、事実婚の証明になるのですね。住民票を一緒にすれば、住宅ローンも共同で組めて、携帯電話の家族割もでき、飛行機のマイレージも共有できて、会社によっては生命保険の受取人にもなれます。さらに家族と同様、相手のがんの告知なども受けられるといいます(「ボク様=30代未婚男」は、なぜ結婚しないか?」「日経ビジネスオンライン」2009/5/7より)。遺産相続も、遺言書があれば法律婚の夫婦と同じように可能です。ほとんど法律婚の夫婦と同じですね。
どんどん縮まる「事実婚」と「法律婚」の差。"普通の夫婦"って何?
制度的には、「事実婚」と「法律婚」の差はどんどんなくなってきています。「住民票婚」をすれば住宅ローンも組めますし、なんと国民年金の第3号被保険者となることもできるのです(氏家祥美「事実婚でも健康保険の扶養家族になれる」「All About」2011/9/22を参照)。 パートナーの年収が103万円以下の場合に所得税が軽くなる「配偶者控除」は受けられませんが、互いに収入があるなら、この問題はクリアできます。
子供についても、昨年12月に民法が改正され、事実婚夫婦の「非嫡出子」と法律婚夫婦の「嫡出子」の相続分が同じになりました。制度的には、子供への差別もなくなったといってよいでしょう。となると「普通の夫婦」って何だろう? という気がしてきます。"家庭内別居"や"仮面夫婦"状態の法律婚夫婦は、沢山います。固く守られた制度の中で冷めてゆく愛情もあるわけです。籍を入れない事実婚関係は、愛情が冷めれば法律婚よりも簡単に別れることができます。が、すぐに解消できる関係だからこそ大切にする、という考えもありえますね。
「まだ結婚は考えていないけど、この人とずっと一緒に暮らしていきたい」。そんな同棲カップルにとって、住民票だけでも一緒にしてみるのはオススメです。「妻(未届)」と「夫(未届)」。事実婚カップルは、法律婚を「主体的に選ばない」人たちだと思われているフシもありますから、「こういう理由で私たちは事実婚(住民票婚)をしています」と他人に説明しなければならない場面も多いでしょう。事実婚は、互いの関係を「事実」として問い直す機会の連続なのです。その結果、「籍を入れても入れなくても、2人の絆は変わらないなぁ」と思えるなら、とても素敵なことだと思いませんか。同棲カップルの住民票婚、アリではないでしょうか。
<著者プロフィール>
北条かや
1986年、石川県生まれ。同志社大学社会学部、京都大学大学院文学研究科修了。 会社員を経て、14年2月、星海社新書より『キャバ嬢の社会学』を刊行。
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イラスト: 安海