「人生100年時代」と言われる現代。20代でも早いうちから資産形成を進めることが求められています。一方で、どのように投資・資産運用の目利き力を磨いていけばいいのか、悩んでいる方は多いのではないでしょうか。
この連載では、20代の頃から仮想通貨や海外不動産などに投資をし、現在はインドネシアのバリ島でデベロッパー事業を、日本では経営戦略・戦術に関するアドバイザーも行っている中島宏明氏が、投資・資産運用にまつわる知識や実体験、ノウハウ、業界で面白い取り組みをしている人をご紹介します。
今回は、住友生命保険相互会社 エグゼクティブ・フェロー デジタル共創オフィサー デジタル&データ本部 事務局長の岸和良氏と、同社 情報システム部 システム業務室の上野翔巧氏に、「DX人材とリスキリング」をテーマにお話を伺いました。
テクノロジーに詳しいだけがDX人材ではない
――上野さんは、住友生命保険相互会社の情報システム部でデータサイエンティストとして活躍されているほかに、社内、社外向けのDXビジネス発想研修では講師として登壇されていますが、「DX人材」をどのように定義されていますか? 一般的には「テクノロジーに詳しい人」で、上野さんのようなデータサイエンティストがDX人材なのかなと思うのですが。
上野翔巧氏(以下、上野氏):DX人材にはデータ分析などの専門性ももちろん必要ですが、高い視座でビジネスを捉え、越境的・横断的に広く業務に携われるスキルも必要だと考えています。なにかと専門用語が多くなりがちなのですが、専門用語や専門技術を相手にわかるように伝える力も求められますし、同じ目標に向かってコミュニケーションを取り、プロジェクトを推進していく力も求められます。
岸和良氏(以下、岸氏):上野さんが所属する部署には、現在10名の若手がいます。彼はコロナ禍の入社で、入社当初は週1回の出勤で同期や上司とのコミュニケーション機会も決して多くはありませんでした。新型コロナが落ち着き、オフィスに出勤する頻度も増えて、彼ら彼女らZ世代に対してどんな成長機会を提供できるかを考えたとき、本人たちとディスカッションして幅広い業務を与えることにしました。最初のうちは、社内で「なにをさせているのか」という目もあったのですが、社内勉強会を企画して社内の部門もどんどん越境させ、社外にも越境させることが本人たちの成長機会となり、「Z世代の急成長成功モデル」になってくれると感じています。
入社して間もないうちは、ビジネス力も胆力も政治力も若手は不足しています。さまざまな不条理を経験することもあるわけですが、それらを受け入れ乗り越えることで、会社の将来を支える若手を育成できると信じています。
上野氏:社内外での研修のほかに、金融IT協会という団体で金融機関におけるIT・デジタル活用に必要な知識を問う「金融IT検定」をスタートさせる準備をしており、岸がデジタル人材育成委員長として参加しています。検定の問題などのコンテンツは生成AIも使いながら弊社の社員も一部つくっています。私は現在28歳なのですが、20代のうちにこれほどの経験ができるとは思っておらず、本当に良い機会をいただけていると思います。
1日でDXビジネス発想が習得できる3つのグループワーク
――良い意味で刺激的な20代を過ごせますね。きっと人生の糧になると思います。岸さんや上野さんが講師をされている「DXビジネス発想研修」では、どのようなカリキュラムがあるのでしょうか?
上野氏:ビジネスを考えるステップを学び、ビジネス目線で提案できるようになることをゴールに設定しています。DXとはどういったものなのかを学び、DX関連用語やビジネスモデルの変革事例を調べ、グループワーク形式で新しいビジネスモデルを考えていただきます。短時間(1時間半程度)で新ビジネスを考え、その場で発表するというワークもあります。
【DXビジネス発想研修のカリキュラム】
(1)DXの定義
DXで使われる用語について深く理解する研修を行う。
(2)デジタル時代のビジネスモデル
デジタル時代に使われる4つのビジネスモデルと、それに使われるビジネス用語について理解する。
(3)ビジネス用語の理解と発想
デジタル時代によく使われるビジネスの用語(プラットフォーム、ネットワーク効果、シェアリングなど)を理解し、それを使ってビジネス発想をできるようにする。
(4)3ステップでビジネスを発想
ビジネスを短期間で発想するための3つのステップを学び、顧客価値の高いビジネスを発想するプロセスを学ぶ。
通常は(3)と(4)を1つのグループワークとして、(1)、(2)、(3・4)の3つのグループワークを1日で実施。
――実際に受講した方からは、どのような感想がありますか?
上野氏:「なにがわかっていなかったのか、がわかった」という声をいただいております。「DXという言葉を何気なく使っていた」という方も、ご自分でDXの定義などを言語化できるようになり、気づきのある場になっているのであれば私としてもとても嬉しいです。
受講されているのは30~50代の方が多いのですが、中にはベンダーで働くベテランの方もいらっしゃいました。経験豊富で企画もされている方です。そんな方が、初心に立ち返って学ばれている印象を受け、私としても身が引き締まります。
受講した方々から特に好評なのが、3つのグループワークです。「DX用語を調べて共有し合うグループワーク」「成功事例を調べて発表し、岸からフィードバックを受けるグループワーク」「新しいビジネスモデルをその場で考えて発表するグループワーク」を行っています。新しいビジネスを発想するコツがわかると好評で、座学だけではない研修なので、最後まで楽しんでいただけますし、業務にも活かしていただけると思います。
岸氏:Vitalityは2016年から着手したのですが、ビジネス発想力がなく苦労した経験があります。その苦労話も研修ではどんどんシェアしており、より実践的な研修になっていると思います。
AI時代も「書くスキル」は確実に武器になる
――岸さんはたくさんの本を出版され、さまざまなメディアにも寄稿されていますが、「AIに奪われる仕事」としてライター業・文筆業はよく挙げられると思います。私も書く仕事が多いわけですが、「AIを使っちゃえば良い」という発想です。岸さんはどう捉えていらっしゃいますか?
岸氏:1年くらい本気でAIを学び、リスキリングに取り組めば年収は確実に上がると思います。AIだけでなく、データ分析やマーケティング、ビジネスも学ぶ必要がありますが、それらも含めてリスキリングです。「リスキリング」というと、AIのような最先端技術を学ぶことだと捉えてしまうかもしれませんが、AIを含めた幅広い知識や技術を学ぶことが重要です。
例えば本を出版するにしても、今は必ずしも出版社を介する必要はありません。本を出版し、講演会や研修ビジネスを行い、そこからコンサルティングサービスを提供するとします。これまでは、出版社に企画を持ち込んでプレゼンをしたり、広告を使って集客をする必要があったわけですが、今ならAIを使ってnoteに記事を書いて有料コンテンツにするなど、DtoCで直接的にアプローチすることもできるわけです。自分の力だけで一冊の本を書くのは大変な労力ですが、AIを活用すれば膨大な原稿も早ければ数日で書けてしまう。もちろん、地道な編集が不可欠ですからAIだけで完結はできないのですが、それでもAIを活用することでさまざまな可能性が広がります。
書くスキルを身につけることは、AI時代であっても確実に武器になるので、上野さんのような若手にもぜひ書いてほしいですね。「若手社員からみる、ベテラン社員の悩み」とか、「Z世代を成長させるためのコツ」とかね。
――ぜひ読んでみたいですね。Z世代のマネジメントに悩んでいる経営層も多いので、ニーズがあると思います。私は名刺を廃止してしまったので、本連載のような連載リストを「成長する名刺」と呼んで名刺代わりにお送りしています。中には過去の記事を読んで連絡をくださる方もいらっしゃいますし、講演依頼やコンサル相談につながることもあります。岸さんの仰るとおり、書くことは確実に武器になります。動画が主流になっても、企画やシナリオはやはり文字ですから。
「世界のホットトピックに触れ、ビジネスに活かせる人材になりたい」
――上野さんは新卒で入社されたわけですが、5年後10年後にどのような人材になりたいですか?
上野氏:世界のホットトピックに触れ、ビジネスに落とし込んで実際に活かせる人材になりたいですね。専門職ではあるのですが、仕事の一部ではなく全体を、成果がみえる仕事をしたいと思っています。
現在、協業先の企業様へのDX研修も担当させていただいているのですが、コロナ禍の入社でしたので当時は自宅でのリモートワークが多く、今のように研修で登壇する自分の姿は全く想像もしていませんでした。岸さんからお話をいただいたときも、人前に立ってちゃんと話せるのかとても不安でしたし、実際に研修をしてみて自分に足りないスキルがたくさんあると痛感しました。しかし、その分成長を感じることもできました。これまでとは違う世界をみせていただけたと思います。
専門分野を極めていきたいという思いもあるのですが、教科書だけではわからないことがたくさんあります。ビジネスの現場でしか得られない学びがたくさんあるとますます感じており、他部門との円滑なコミュニケーションが取れる越境スキル、課題発見スキル、ビジネススキルも必要だと思っています。「これは自分に任せて」と胸を張って言えるような人材になりたいですし、さまざまな体験を通じて会社に貢献できるようになりたいと思います。
岸氏:上野さんが所属している部門は、社内でビジネスを支えることが本来の役割なのですが、今は営業的な観点も求められています。そのためには越境することが欠かせません。ネットワーキングや広報、執筆、講演やイベント登壇、ミートアップなどの活動は、意図しないと経験できないことです。保険業界は、これまでは商品や営業が主役でしたが、今後はますますデジタル・データが主役になっていきます。私が入社した当時は想像もできなかった世界が、今まさに現実になっている。時代の変化を生に感じてきたのが私のような世代なので、私の経験を次世代にしっかりとつないでいきたいと思います。若い世代が成長できる機会を、どんどん提供したいですね。