漫画家・コラムニストとして活躍するカレー沢薫氏が、家庭生活をはじめとする身のまわりのさまざまなテーマについて語ります。
突然重いテーマだ。
まだ伝説の投げやりテーマ「宇宙」の方が気持ち的には楽である。
子育て同様、未経験者が語るには憚られるテーマだが、日本は超少子高齢化社会である。 子育ては本人の意志でスルーできても、部屋のホコリを集めて作られたという人間でなければ「介護」を避けて通れる人間は少なくなっていくだろう。
私も明らかに部屋に落ちている謎の陰毛を集めて作られたようなビジュアルをしているが、意外なことに親がいる。
そして、介護を含む老後をテーマにした漫画の連載をしていたりもする。
よって、それらの資料を読むことにより「親に介護が必要になったらこうしよう」というようなノウハウ知識だけはある。
しかしノウハウというのは「モテたければまず現金で2兆円用意しましょう」のように「言うは易し」であることが多く、そこまで極端でなくても「貯金したければ、食費は実家から送られてくる米と野菜で賄いましょう」のように、それができれば苦労はしないことが書かれていることが多い。
施設と人手の不足から、国や自治体は「自宅での介護」を推奨しているようだが、専門家や介護経験者は「絶対家族だけでやろうとするな、必ずプロや外部を挟め」と、口をルービックキューブ状に揃えて言っているので、これは間違いないのだと思う。
よって自分も漫画に「必ず外部に助けを求めよ」的なことを描いたのだが、実際それがコミュ症である自分に出来るのかは甚だ疑問であり、わかっていても誰にも相談できず、家庭内で心中や殺人を起こす典型のような気がする。
このように「知っていてもできない」ため、そのまま死ぬ人間も多いのだが、逆に言うと「知っていれば死なずに済んだ」人も多いということだ。
よって私は途中から「俺は死ぬけど、やれば出来るお前は死ぬな」という気持ちで書いている。近い将来、私が家庭内での事件事故、腐乱死体で発見されても「あんな漫画を描いていたくせに」とは思わずに「必然」と思っていただければ、故人も救われる。
ともかく「介護は家庭内、まして1人でやろうとする」というのは間違いないようだ。
つまり、プロに任せるのが一番であり、極論を申せば、介護施設に入っていただくのが、介護する側にとっては一番負担が少ない、ということだ。
それも当事者でない時は「なるほど完全に理解した」となるのだが、実際介護する段階になって、親が「施設はつらい、家で暮らしたい」と言った時「いや、それは悪手中の悪手なんで」とスーパードライなアサヒ対応できるかというと別である。
それに、ノウハウに従い合理的に対処したことが親の死後「消えぬ後悔」になってしまうケースもある。
他人に任せるのが一番であるとわかっていながら、心情的に介護の負担を背負ってしまっている人は多いと思われる。
しかし介護というのはされる側より「介護する側」の心身を重視した方がいい。
何故ならされる側の命はする側にかかっているため、する側が倒れてしまったら結局共倒れになるか、事件が起こってしまうからだ。
「される側のためを思って負担を背負うことが、結局される側を殺すことになる」ということは、背中か足の裏に和彫りしておくべきことである。
また、介護も「施設or完全自宅介護」の二択というわけではない。
うちの実家もババア殿が自宅介護の状態だが、デイサービスや訪問介護などを利用している。
ともかく「一部でも他人にまかせ、介護する側が介護から離れる時間が重要」ということだ。
「介護」と聞くと、まだ多くの人が「する側」視点で考えてしまうと思うが、将来自分も「される側」になる。
おそらく多くの人が「介護が必要になる前に死にたい」と思っているとは思うが、大多数がそう都合よくは死なず、自分で終わらせるガッツもないから、今介護が問題になっているのだ。
自分も高確率で介護される側になると思った方が良い。
確かに、若い内は「介護が必要になってまで生きたくない」と思うかもしれないが、いざその段階になると、意外と思わないのかもしれない。
うちのババアも90過ぎの要介護であり、私が来るたびに「子どもは作らないのか」と、戦前生まれ特有のハラスメントを1秒間に10回ほどしてくるが「早く死にてえ~!」と言っているのは1回も聞いたことがないし、デイサービスは楽しいかと聞くと「うん」と言っている。
まだ40にもなっていない、一応介護なしで生きている私の方が「死にてえ頻度」が高いのではないかとすら思える。
このように「生きる意欲や楽しさ」というのは、年齢、そして心身の健康に必ずしも比例するというわけでもない。
よって、年を取り体が動かなくなったら何の楽しみもない、その前に死にたい、などと加齢に対して悲観的にならないで欲しい。
年を取っても今と変わらず、何の楽しみもないし死にたい、と思って欲しい。