コラムニストの小林久乃がドラマや映画などで活躍する俳優たちについて考えていく連載企画『バイプレイヤーの泉』。
第161回はタレントの稲垣吾郎さんについて。中高生の頃、SMAPのファンだった。今でいう推しだったのだろうけど10代で自由も小遣いも少なく、テレビで小さく応援していた程度。でも楽しかった当時の記憶は濃く残っている。今やトップオートレーサーとなった森且行くん推しだったので、2014年放送『武器はテレビ。SMAP×FNS 27時間テレビ』で、森くんからの手紙が読まれたときは「うわ~、森くんの文字だ!」と青春を思い出して感動した。ただ今回は彼ではなく、現在放送中のドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(毎週月曜22:00~ カンテレ・フジテレビ系)に出演する、吾郎ちゃんこと稲垣吾郎さんについて。
「謎めいている」「何を考えているのか分からない」。
『僕達はまだその星の校則を知らない』は、学園モノでもなく、スクールロイヤー(学校内で生じるトラブルについて対応する弁護士)が主軸となる、リーガルドラマでもない。高校を舞台にしたあまり類を見ないドラマだ。
あらすじを紹介しよう。弁護士の白鳥健治(磯村勇斗)は、集団行動に馴染めず不登校になった過去を持ちながら、所属事務所から濱ソラリス高校にスクールロイヤーとして派遣される。制服着用、恋愛、盗撮の誤解……大人視点で辿っていくと、わかりやすい言葉で分解されそうな事件も生徒たちにとっては真剣、急務の問題。白鳥が戸惑いながらも、生徒たちの間で起きる事件に向き合っていく物語である。
このドラマで稲垣さんが演じているのは高校を運営する、理事長の尾崎美佐雄。配役を知った際に「ああ、もう吾郎ちゃんはそんな年齢なのか……」と、51歳とは思い難い彼の見た目を思い出し、ちょっと驚いた。文章をドラマの内容に戻そう。少子化の流れに沿って、男子校と女子校を合併させた尾崎。仕事の敏腕ぶりとは別にどこか謎めいている行動が多く、白鳥の過去と関連性を漂わせている。この役柄のように「謎めいている」「何を考えているのか分からない」。こんなワードを連想させるアンニュイな雰囲気を表現できる中堅の男性俳優といえば、今、日本国内では稲垣さんだ。
役が本人に擦り寄ってくる
先日、このドラマについて立ち飲み屋で大学生と話す機会があった。彼らからすると理事長は「テレビで料理を作っていた人」のイメージがあるらしい。そうか『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)が終了して、もう10年が経とうとしている。20代からすると日本のトップアイドルだったSMAPの印象は薄いだろうし、彼との出会いはテレビではなく音楽の教科書なのかもしれない。
そんな若者に伝えたいのだが、稲垣さんとは実はSMAPで一番の演技担当であること。大昔にファンだった私にはその印象が強い。同グループで言うのなら木村拓哉さんかもしれないけれど、彼よりも早く演技の個人仕事が始まったのは実は稲垣さんだった。ドラマデビューは朝ドラ『青春家族』(NHK総合・1989年)の長男役。この作品に関してさすがに私の記憶は薄い。その後『二十歳の約束』(フジテレビ系・1992年)の赤木純平役にて、月9初主演。これもメンバー内ではもちろん、当時のアイドルでは異例の抜てきだった。
その後の活躍ぶりは大量すぎるので割愛するけれど、2004年以降の『金田一耕助』シリーズ以降、ご本人の趣向と役柄が一致してきている。映画、ワイン、読書好きなインドア趣向に加えて、アラフィフとは思えない無駄肉のないスタイル。うらやましい。
最近出演された作品でいうと『燕は戻ってこない』(NHK総合・2024年)で演じた元バレエダンサーで、資産家の草桶基役は、ぴったりと寸分違わず役柄にハマっていた。金に糸目はつけず、妻の代わりに代理出産を他の女性に迫る草桶の貪欲ぶり、ワインを嗜む様子。役柄が本人にすり寄ってきているようだった。
演じるとはさまざまな人生を生きぬき、都度、違った表情を求められる。でも稲垣さんのように時間をかけながら、本人に役を近づけている俳優もいるし、見ていて楽しい。そう尾崎役を見ながら感じた。そして久々に10代のファン心を思い出した。夏に飲んだSMAPジュース(佐藤可士和作ではなく、森永から発売された製品)の、はちみつレモン味、おいしかったなあ。
