悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「上司に意見をうまく伝えられない」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「内気なので、上司に意見をうまく伝えられない」(28歳女性/経理関連)

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そもそもこの問題に関しては、おそらくご相談者さんが気づいていないのであろう、とても重要な真実があるように思います。

じつのところ、"伝え方"に自信を持っている人はそれほど多くないということ。

話し方や伝え方にコンプレックスを持っていると、とかく自分だけが話し下手であるかのように思い込んでしまいがち。しかし現実的には、「自分は伝え方には絶対的に自信がある」と断言できる人のほうがはるかに少ないのです。

「伝え方」や「話し方」についてのビジネス書がとても多いことは、その証拠だともいえます。そのことについて困っている人がつねに存在するからこそ、そこにニーズが生まれ、関連書籍が相次いで出版されるということ。

コミュニケーションは「聞く力」「伝える力」「認知する力」

ですからまずは、「みんな同じようなものだ」という意識を持つべきです。事実、『ソーシャルスタイル理論でわかった! 10万人のデータから導き出した 上司へのすごい伝え方』(斉藤由美子 著、秀和システム)の著者も次のように述べています。

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    『ソーシャルスタイル理論でわかった! 10万人のデータから導き出した 上司へのすごい伝え方』(斉藤由美子 著、秀和システム)

「人とうまく関われない」と思う人は、コミュニケーションをその人が生まれ持った能力であると考えている場合が大半です。ですが、コミュニケーションはただのスキルに過ぎません。獲得して磨いていけば上達する、スキルです。(「はじめに」より)

「コミュニケーションはただのスキル」だと断言されれば、「伝え方が下手でもたいしたことではない」と思えるのではないでしょうか?

また、年齢も考え方も大きく異なる上司と部下は、職場においてすれ違って当然です。

上司はチームを率いる存在であり、上司の言動の目的はチームでの業績を上げること。そういった上司の立場を理解せずに部下からなにかを伝えようとしたら、行き違いが生じてしまう可能性は大いにあるわけです。

そもそもコミュニケーションという大きな枠で捉えた場合、それは「伝え方」だけでくくれるものではありません。「聞く力」「伝える力」「認知する力」の3つがあってこそ、コミュニケーションは成り立つのです。

聞く力
「聞く力」には、単に相手が話すことに耳を傾け、情報を的確に受け取るということだけでなく、そこからさらに深掘りして質問、問いかけをすることまで含まれます。質問によって、さらに情報を細かく入手したり、情報が持つ意味を理解したりすることが「聞く力」です。
伝える力
「伝える力」とは、自分の意見や考えを相手に的確に伝えるということです。ビジネスにおいて目的・目標を達成するためには、情報をいかに的確に伝えるかというのは非常に重要です。伝えるべきことを誤解のないようわかりやすくロジカルに伝えられる力が、「伝える力」です。
認知する力
「認知する力」とは、相手の存在そのものを認めること、また、相手の変化や相手の行動による結果を認めることを指します。
相手の行動を認めるというのは、挨拶をするといった日頃の小さなことを含め、相手を尊重して大切に扱うという意味合いです。(後略)(38〜39ページより)

「伝え方」以前に、コミュニケーションにはこの3つが必要となるということ。これらの能力が高ければ、仕事を的確かつスムーズにこなせるようになり、人間関係も良好に保てるようになるわけです。

そうすれば必然的に、「伝え方」に関する悩みも次第に小さくなっていくはず。

まずは、こうした「コミュニケーションの基本事項」を踏まえることが重要な意味を持つのです。それを理解したうえで、ここから先はより具体的な「伝え方」のメソッドを確認してみることにしましょう。

うまくな話せないのは緊張しているから?

『緊張しても「うまく話せる人」と「話せない人」の習慣 』(丸山久美子 著、明日香出版社)の著者は、「緊張すると話せなくなる人」だったのだそうです。それどころか現在も「緊張しい」なままなのだとか。

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    『緊張しても「うまく話せる人」と「話せない人」の習慣 』(丸山久美子 著、明日香出版社)

つまり、「内気だから伝えられない」という今回のご相談者さんに通じるところがあるわけです。しかも、緊張を克服することはできなかったのだといいます。

ところが、それを認めたうえでこう述べているのです。

緊張を克服することはできなかったから、「私は私なりに緊張と向き合ってみよう」と思いました。
緊張と戦うのではなく、ゆっくり時間をかけて受け入れることにしたのです。(「はじめに」より)

緊張とは、いうまでもなく防衛本能の一種。慣れない場所にいたり、慣れない人と関わったり、慣れないことにチャレンジするときなどに、「もしかしたら危険が潜んでいるかもしれないよ」と、体が教えてくれるのです。

とはいえ、それを知ったところで緊張を操れるようになるわけではありません。それは著者も同じで、だからこそもう少し柔らかく理解することにしたのだそうです。

「人間には防衛本能というものがあって、命が危険にさらされないよう自分の本能が自分を守ってくれている。新しい場所などでチャレンジをするときは、防衛本能が『ちょっと待って!』と体のいたる部分を緊張させてサインを出している。 緊張は、自分を守ろうとしてくれているサインであり、味方。
だから、克服しなくていい。
『守ろうとしてくれてありがとう』と受け入れて、上手に付き合っていけばいい」(21ページより)

こう理解したことで、著者は苦しみから解放されたというのです。

なるほどこうした緊張状態は、「上司にうまく意見を伝えられない」という悩みにも通じるかもしれません。うまく伝えられないのは、緊張しているからにほかならないからです。

でも、それは特別なことではなく、多かれ少なかれ、みんな似たようなものなのです。

私は、誰かとお話しするとき、よくこう聞きます。
「人前で話すとき、緊張するタイプですか?」
8割以上の人が「はい」と答えます。
世の中のほとんどの人が緊張しいです。みんな、一緒です。
緊張しながらどう工夫して、どうがんばっているのか。学ばせていただく習慣をつけていきましょう!(27ページより)

たしかにそう考えれば、気持ちに余裕が生まれて楽になるのでは? だからこそ、「ここからなにができるか?」と、自分にできる範囲のコミュニケーションを目指せばいいのです。

スキルよりも大切なのは「自分らしくある」こと

さて最後に、「話し方」についてのより具体的な考え方をご紹介しましょう。参考にしたいのは、『人を「惹きつける」話し方』(佐藤政樹 著、プレジデント社)。企業研修講師/講演家である著者が、語るための極意を明かした書籍です。

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    『人を「惹きつける」話し方』(佐藤政樹 著、プレジデント社)

うまく話そうとすると無意識のうちに、本来の自分とは異なる自分を演じていたりするものです。おそらく心のどこかで、「口下手な自分を覆い隠そう」という意識が働くからなのでしょう。

しかし著者は、演じるくらいなら「下手でいい」と断言しています。

口下手でも何の問題もありません。
なぜなら、上手に話すことと、人を惹きつけることはまったく別物だからです。(23ページより)

人になにかを伝えようという場合、もっとも心に響くのは「上手にすらすら話す人のことば」ではないというのです。たとえ口下手でも、演じるのではなく等身大の自分として話すことができれば、人の心を動かすことはできるわけです。

人を惹きつけて結果を出すためには、まず「上手く話さなければいけない」「かっこよく綺麗に話さなければいけない」といった思い込みをリセットする。これが第一歩です。(28ページより)

面接や商談やプレゼンなど、大事な場面ではついつい自分を大きく見せようと意気込んでしまうと思います。でも実は、ある意味開き直って、肩の力を抜き、大好きなことに没頭している「等身大の自分」で臨んだほうが、よりよい結果が得られる可能性が高くなるのです。
この「伝えることの本質」が腹落ちして理解できるようになれば、自分の個性や人柄が、今よりぐっと伝わるようになります。(29ページより)

いいかえれば、スキルよりも大切なのは「自分らしくある」こと。今回のご相談に当てはめるなら、内気な自分を受け入れる。そうすれば無理なく、等身大のコミュニケーションを実現できるのではないでしょうか?