悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「集中力がなく、仕事の効率が悪い」と悩む人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「集中力がなく、仕事の効率が悪い」(30歳男性/営業関連)

  • caption

なにしろ人間は完璧ではないのです。

したがって、調子のいい日があれば、逆に気分が乗らない日があって当然。ましてや毎日仕事をしていれば(それがルーティンワークであればなおさら)、ふと集中力が欠けてしまったり、「そもそも集中できない」というようなことになったとしても無理はないわけです。

とはいえそうなると、思いどおりに仕事を進められないまま時間だけが過ぎていくことになります。世間でよくいわれる「仕事効率化」とは正反対の結果につながるということですから、場合によっては気分が落ち込んでしまうかもしれません。

ですから、いくら調子に波があって当然だとはいえ、できればそれは避けたいところ。効率よく進められなかった結果として仕事はたまっていくでしょうし、さらにネガティブな気分になったとしたら、それはまったくの悪循環ですからね。

不安を感じたら「興奮(ワクワク)している」と言い換える

でも、「効率よく進めなければ」と思っているのに、なぜうまくいかないのでしょうか?

おそらくみなさんの中には、日々「やるべきことに集中できていない」「24時間があっという間に過ぎていき、何一つやるべきことを達成できていない」といった思いを抱えている人がたくさんいるはずです。
それはなぜか。
現代社会には、私たちがやるべきことに集中するのを妨げるものがあまりにもたくさん存在しているからです。(「はじめに」より)

たしかに、そのとおりかもしれません。メールやLINEは頻繁に届きますし、ネットで気になる記事があればつい読んでしまったりもする。人間関係も複雑でトラブルが頻発するし、そもそもタスクが多すぎて処理しきれなかったりするのですから。

そして、それらに関連する大きな問題として見逃せないのが「不安」です。不安はいろいろな意味で、集中を阻害することになるからです。

しかし『24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力』(堀田秀吾 著、アスコム)の著者は、「不安は、ちょっと見方を変えれば戦略的武器になりえます」とも述べています。とくにビジネスにおいては、不安を感じるような状況は、一発逆転の大チャンスでもあるというのです。

  • caption

    『24 TWENTY FOUR 今日1日に集中する力』(堀田秀吾 著、アスコム)

多くの場合、ビジネスで不安を感じるのは、大きな課題や問題に直面したときではないでしょうか?

自分の力でクリアできるかどうかわからない課題や、過去にさまざまな人が悩み、失敗した課題に取り組もうとするとき、あるいは自分の苦手な分野に関わらなければならないときなど、リスクが高ければ高いほど、人は不安を抱えることになるわけです。

しかし、不利な状況であったにもかかわらず、ビジネスを成功させたり、自分の弱点を克服したりすることができれば、大きな達成感を意識できるはず。

楽な課題をクリアしたときや自分の得意分野で成功したとき以上に、自己肯定感も得られることでしょう。また、それによって高い評価を得ることもできます。

リスボン大学の著名な神経学者である。ダマシオは、「感情を抑制することが、より良い決断につながるというのは間違いだ」と言い、ハーバード大学のブルックスは「多少の不安や緊張がなければ、人は高いパフォーマンスを発揮できない」と言っています。(92ページより)

不安が大きすぎると、仕事が手につかなくなったり、判断を誤ったりしがち。しかし適度な緊張は、状況をより客観的に、慎重に見ることにつながるというのです。

人は不安を覚えるからこそ、その不安を解消しようと努力したり、対処しようと考えを巡らせたりするものだということ。

そして、こうした考え方を前提としたうえで、著者は「誰でも簡単にできるパフォーマンスアップ術」を紹介しています。

もし不安を感じたら、「自分は今、興奮(ワクワク)している」と言い換えればいいのです。(93ページより)

「そんなことで?」と思いたくもなりますが、上述のブルックスは実験によりその効能を証明したそう。

300人の被験者を、(1)実験前に「私は興奮(ワクワク)している!」と声に出したグループ、(2)実験前に「私は不安だ!」と声にしたグループ、(3)「私は落ち着いている」と声に出したグループ、(4)「私は怒っている」と声に出したグループ、(5)「私は悲しい」と声に出したグループ、(6)実験前に何も言わなかったグループに分け、「数学のテスト」「採点付きカラオケ」「2分以上の人前でのスピーチ」などを実施しました。(94ページより)

すると、「私は興奮している」と口に出して言ったグループは数学のテストでもっとも優秀な成績を残し、カラオケの正確性、スピーチの説得力、能力、自信、持続性などの評価が上がり、スピーチの長さも伸びたのだとか。

この結果からも推測できるように、脳はリラックスしているときより、興奮しているときのほうがポジティブな状態にあるということです。

なぜならリラックスしているときはエンジンが休んでいる状態であり、興奮しているときはエンジンがかかっていて、パフォーマンスが高い状態だから。

そのため、不安や緊張を感じたときには、無理に脳を落ち着かせようとするよりも、興奮状態にしたほうが、より強い力を発揮することができますし、緊張がピークに達したときに、「私は興奮している」と口に出すと、脳をだますことができるのです。(95ページより)

つまり、こうした脳の性質をうまく利用すれば仕事の効率も高められるということになりそうです。

「シミュレーション」してみる

ところで『「すぐ動く人」は悩まない!』(和田秀樹 著、祥伝社黄金文庫)の著者は、悩んでばかりいて動けない人は、悩んだことで納得してしまうところがあるのではないかと指摘しています。

  • caption

    『「すぐ動く人」は悩まない!』(和田秀樹 著、祥伝社黄金文庫)

そこで勧めているのは、行動に移す前にまず一度、「動いてみたら、どんなことが起こり得るか」をシミュレーションしてみること。

実際はどうなるかはわかりませんが、そのとおりにいかなくても、シミュレーションができていれば、失敗原因を分析しやすいし、改善点も見つけやすくなります。(197ページより)

ここでいうシミュレーションとは、おおまかな台本、たたき台のこと。なるほどそれがあれば、あとは修正したり、微調整を重ねていくことができます。そのため、まったく白紙の状態で行動したときにくらべ、その後の作業はずっと充実したものになるでしょう。

そこまでいけば、仕事の効率がよくなっていくのは時間の問題だということです。

「朝型」に切り替えてみる

さて、最後に「生活習慣」という観点からこの問題について考えてみましょう。参考にしたいのは、『人生の主導権を取り戻す「早起き」の技術』(古川武士 著、大和書房)。注目すべきは、「できる人は朝型の圧倒的な集中力を知っている」という著者の主張です。

  • caption

    『人生の主導権を取り戻す「早起き」の技術』(古川武士 著、大和書房)

朝型のビジネスパーソンは口を揃えて、「朝一番の生産性の高さ」をメリットにあげるというのです。たしかに、「朝の1時間は夜の3時間に匹敵する」という話はよく聞きます。

では、なぜ朝は集中力が高いのでしょうか?

それは、時間は均等なペースで24時間流れていきますが、心のエネルギーは24時間で均等に消費されないからです。
心のエネルギーは朝が最も高く、徐々に消費されていき、日中の商談や上司とのやり取り、緊急業務への対応でヘトヘトに疲れてしまい、残業時間にもなると使い尽くされています。(27ページより)

だとすれば、そのあとに集中力と思考力を要する仕事をしようとしても、必要以上の時間がかかってしまいます。それどころか、ストレスも大きくなってしまうことでしょう。

朝型で好循環の生活を送っている人は、このメカニズムを体験的によく理解しています。
だから、朝一番に最も重い重要な仕事を済ませるのです。(28ページより)

その結果、まずは達成感が得られます。また、重要な仕事を主導的に済ませることで、残りの時間を自分でコントロールできるようにもなります。

午前中に、その日に最も重要で気が重い仕事が終わっている生活を想像してみてください。
随分と気持ちがよく、気分が乗ってくる感じがしませんか?
ここで強調したいのは、精神的な快適性の違いなのです。(28ページより)

たしかに朝型に切り替えてみるだけでも、仕事の効率は大きく上がるはず(余談になりますが、僕も重要な仕事は午前中に片づけるようにしています)。難しいことではないので、試してみる価値は大いにあると思います。