悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、「がんばっているのに仕事が楽しくない」という人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「やるべきことを先延ばししてしまう」(33歳男性/企画関連)

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自分でいうのもおかしな話ですが、僕は今回のご相談にピッタリの回答者だと思います。なぜって、先延ばしすることなく、こなすべき仕事をずっと続けているから。

といっても、別に自慢したいわけではありません(自慢できるほどの技量なんかありません)。ただ、書評の締め切りが毎日あるので、現実問題として「先延ばしするわけにはいかない」だけの話なのです。

30年以上前から文章を書いてお金をいただくようになり、その流れで"毎日が締め切り"の仕事をいただくようになったのは10数年前のこと。以来、ずっとそのペースを守っているのです。

「そんなこと、よくできますね」といわれることもあるのですが、むしろ当然の話だと思っています。なぜなら、締め切りは"約束"だから。守れなければ信用を失ってしまうことになるので、約束を果たすべく毎日書き続けているだけのこと。

しかも習慣化することができれば、それは決して難しいことではなかったりもます。力量ではなく、"慣れ"の問題だと思うのですけれど。

仕事が進まないときの2つの策

そこで非常に手前味噌ながら、まず、この問題に関する僕の著作をご紹介させてください。『先延ばしをなくす朝の習慣 コツコツ書き続けて日本一になった書評家が、絶対に締切を破らないためにやっていること』(印南敦史 著、秀和システム)がそれ。

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    『先延ばしをなくす朝の習慣 コツコツ書き続けて日本一になった書評家が、絶対に締切を破らないためにやっていること』(印南敦史 著、秀和システム)

「先延ばしを防止するためにはどうしたらいいのか?」という問題についての考え方はさまざまで、いろいろな方法が存在するはずです。しかし、少なくとも僕が自信を持ってすすめられるのは、「きのうと同じことを、きょうも続ければいいだけ」だという意識を持つこと。

「なんだ、そんなことか」と思われるかもしれませんし、「同じことを続けるなんて苦痛じゃん」という意見もあるでしょう。でも、同じことを続けることを習慣にできれば、それは間違いなく「先送り回避」につながるのです。

そもそも僕たちは、来る日も来る日も「同じこと」を繰り返しています。朝起きたら顔を洗って歯を磨くとか、ごはんを食べるとか、出勤するとか。いわば「同じこと」は生活の基本。そこで、仕事についても同じように「毎日続ける同じこと」と位置づければいいわけです。

続ければいいだけなので、慣れてしまえば意外と楽です。しかも習慣化できるようになれば、「毎日同じことを続ける」ことの心地よさをも実感できるはず。だからこそ、そうしたサイクルを自分のものにしてしまえばいいのです。

とはいっても、「それができれば苦労はしない」という方もいらっしゃるかもしれませんね。だいいち、なかなか効率的に進められない仕事だってあるもの。そうなると、さらにモチベーションは下がってしまいます。

そこで、仕事が進まないときの策として、僕は次の2つをおすすめしています。

(1)作業をキッパリやめ、まったく別のことをして頭を切り替える
(2)とりあえず、できるところまでやってみて、あとは翌日などに手をつける(57〜19ページより)

まずは(1)。進まないことは誰にでもありますから、そんなときは頭を切り替え、別のことをしてみるべき。あとからやろうと思っていた仕事を優先してもいいでしょうし、本を読むなどまったく関係のないことをするのでもOK。

そうやって"進まない仕事"から距離を置き、気持ちをリフレッシュさせることができれば、進まなかった仕事も進めやすくなるわけです。

そして(2)は、少しだけがんばってみるスタイル。できるところまでやってみて、できなくなったら留保する。そこから先に関しては、「続きはあすやろう」ということにすればいいのです。

どんな仕事であれ、続けていれば必然的に疲れてくるもの。気の進まない仕事であれば、なおさらやる気は失われていくでしょう。それが先送りにつながるわけですが、だからこそ、いったんその仕事から距離を置き別な仕事をしてみることも必要なのです。

なお、その際には大切なポイントがあります。ずばり、いままでやっていた(その結果、疲れを誘発した)仕事とは、なるべくタイプの異なる仕事をしてみるということ。(中略)性格の違う仕事を気分転換のために「利用」するべきなのです。(60ページより)

そうすれば、目先の仕事を利用しながらメリハリをつけられるわけです。

午前中に"集中する仕組み"をつくる

『どんなことでも「すぐやる」技術』(石川和男 著、Gakken)の著者は、重要な仕事を先延ばししてしまう人の特徴を指摘しています。それは、午前中の集中すべき時間帯を生産性の低い作業をしながらダラダラと過ごし、集中力が下がる午後から集中しようとすること。

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    『どんなことでも「すぐやる」技術』(石川和男 著、Gakken)

午後からは眠気に襲われ、本格的にエンジンがかかるのが定時近くからなので、いつも残業するハメになります。しかも毎日遅くまで働いているので体力的にもきつくなり、帰宅後、夜遅くに食べる食事で胃はもたれ、慢性的な寝不足状態。次の日出社しても覇気がない。まさに負のスパイラルに陥ることになるのです。(66ページより)

つまり、不規則なライフスタイルが「先延ばししたくなる気持ち」に拍車をかけてしまうのでしょう。それに上記のような"負のスパイラル"に巻き込まれてしまえば、集中力自体がそがれてしまうことになります。

そのため著者の会社では、チーム全員が先延ばししないように、午前中に優先順位の高い仕事に取り組むようにしているのだそう。優先順位の高い仕事を先に終わらせておけば、"緊急ではなく重要でもない仕事"が残ることになります。すると余裕ができるため、残業に持ち込まなくてすむわけです。

なお著者は、集中力をそがれる原因は大きく分けて2つあるといいます。それは、内部と外部からの連絡。どれだけ気合を入れて仕事に臨んでも、その原因を排除しなければ集中できないのです。

そこで、午前中の2時間を「ガムシャラタイム」と名づけ、個々人が優先順位の高い仕事に集中できる環境を作り出しました。
電話については、昼休みに電話当番がいるように、午前中も電話に出る、来客対応をする人を当番制で決めておきます。もし電話が掛かってきても、重要ではない案件なら後回しにしてもらいます。
メールは見ず、LINEなども見ないように最低でも着信音はオフにして、内外からの連絡を遮断します。(中略)
内部からの声掛けを防ぐため、事前に同僚や部下と綿密な打ち合わせをしておきます。集中している時間帯に声を掛けられることが問題なので、まとめて事前に質問事項や疑問点を解決しておくことが重要なのです。(66ページより)

重要なのは、こうして"集中する仕組み"をつくること。午前中に集中して仕事を片づけ、先延ばししていることを一気に終わらせるべきだという発想。

しかもそれをチーム単位で行えば、効率はさらに高まるということです。

ちょっと冷めた視点を持つ

『続けられる人になるための37の「やめる」』(三浦孝偉 著、ぱる出版)の著者は、ものごとを継続するうえで「モチベーション・アップ」以上に大事なのは、「やる気の根を絶やさないこと」だと考えているそうです。

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    『続けられる人になるための37の「やめる」』(三浦孝偉 著、ぱる出版)

また自身の経験則として、継続に成功した人たちを次のように定義づけています。

・淡々
・肩肘張らない
・マイペース
・クール
・ロボット的
そんなちょっと「冷たい」イメージに加え、
・心配症な人
・自分に自信がない人
が、多いです。
(49〜50ページより)

「やれるときにやる」「スタートダッシュ」「モチベーション」など、継続しようというときに多くの人が重視していそうなことは、足を引っぱる要素でしかないというのです。

気合いは短期的な視点では効力を発揮する場合もあるけれど、長期的に仕事を進めていくうえではそうもいかないはず。むしろ求められるべきは、ちょっと冷めた視点を持つことなのだとか。

仕事に向き合う際、「そんなの簡単にできるぜ!」と感じる人よりも、「難しいけどがんばってみるか」というくらいの気持ちを持っていた方が、数倍成果は出やすいということ。

ある意味「自信がない」くらいで継続に向き合うのがちょうどいいということです。(中略)少し肩の力を抜いて気楽に向き合った方が、継続成功率は格段に上がります。(52〜53ページより)

「先延ばしの習慣をなんとかしたい」という思いが強い場合、必要以上に気負ってしまいがち。でも、もっと気楽に考えて臨んだほうがいいということなのでしょう。