悩み多きビジネスパーソン。それぞれの悩みに効くビジネス書を、「書評執筆本数日本一」に認定された、作家・書評家の印南敦史さんに選書していただきます。今回は、高齢の両親の介護や相続問題が不安な人へのビジネス書です。

■今回のお悩み
「高齢の両親をかかえ、今後の介護や相続問題をどうするか不安」(33歳男性/事務・企画・経営関連)


いくつになっても元気だと思っていた母は、気がつけば85歳になっていました。父が他界した年齢をとうに過ぎており、相変わらず元気ではあるものの、以前にくらべるとずいぶん弱ってきたなぁと感じずにはいられません。

すべての子どもが感じることでしょうが、親が元気なうちに、できることはしておきたいものですね。

しかしご相談者さんは33歳ということですから、仕事の面でも脂の乗り切った時期。「親のことは気にかかるけれど、仕事が忙しいから、できることは限られてくるしなぁ……」と、いろいろな意味で悩まれているのだろうなあと思われます。

それは仕方がないことでもありますから、いまできる範囲で、できることをする。まずはそれが大切なのではないでしょうか? さらにいえば、現実問題として「できること」と「できないこと」がある以上、あまり自分を追い詰めすぎないほうがいいと思います。

とはいえ、病気や認知症、介護、相続などの問題は、いつか必ず訪れるものでもあります。そこで関連書籍に目を通し、知識は蓄えておきたいものですね。それだけでも、いざというときに役立つはずですから。

親がまだ元気なうちに行動を起こす

『70歳をすぎた親が元気なうちに読んでおく本 改訂版』(永峰英太郎 著、二見書房)は、著者自身の経験がきっかけとなって生まれた本なのだそうです。

  • 『70歳をすぎた親が元気なうちに読んでおく本 改訂版』(永峰英太郎 著、二見書房)

あるとき、お母さんが末期がんであることと、お父さんの認知症がかなり進行していることがダブルで判明。そこから、さまざまな問題をひとつひとつ、あるいは同時に片づけていかなければならなかったというのです。

お金のことでは、親のメインバンクの暗証番号がわからず葬式代などが降ろせなくなったのだとか。

遺産相続では、お父さんが認知症なのでお母さんの遺産を自由に相続できなくなったりもしたようです。

はたまたお母さんの危篤の際には、誰に声をかけ、誰に見舞いに来てもらうかなどでもあたふたしたのだそうです。

こうした事態に直面したからこそ、「親が元気なうちに対処しておけばよかった……と心から思ったというのです。

では、いつから行動を起こせばいいのでしょうか? この問いに対して著者は、「それは親が70歳になったころ」ですと断言しています。

昔は60歳が老後のスタート地点だったけど、今の60歳はみんなバリバリ元気。
でも、70歳になると、徐々に「親の衰え」を感じるもの。
親が70歳を超えたら「まあ、まだ大丈夫」という考えは、捨てたほうがよいと思います!(「はじめに」より)

ただ、親に遺産や銀行口座の暗証番号を聞いたり、葬式のための友人知人リストをつくったりするのは、なんとなく気が引けるものでもありますよね。

でも著者は、そうした考え方に強く反論しています。

では、あなた自身を考えてみてください。
自分に何かあった時、子どもや伴侶に苦労をかけたい?
もし、子どもに「何かあった時のために銀行の暗証番号を教えて」って言われたら嫌ですか?
子どもの心遣いに感謝じゃないでしょうか?
むしろ親のほうこそ言い出せないんじゃないでしょうか。
わたしが思うには、こういうことって親が元気なうちほど聞きやすいってことです。(「はじめに」より)

ここまで断言しているのは、末期がんのお母さんと認知症のお父さんの今後のことを話し合うのは、つらいことだったから。だからこそ、親がまだ元気なうちに「なんとなーく、冗談っぽく切り出すこと」が重要だというのです。

本書ではそうした考え方に基づき、「親が少し弱ってきたら、すること」「親が重い病気になったら、すること」「親が死亡したら、すること」「親が認知症になったと感じたら、すること」「有利な相続をしたいなと思ったら、すること」を、マンガでわかりやすく解説しているわけです。

こういったことを事前に把握しておけば漠然とした不安が消え、安心して親の老後と向き合うことができるようになり、「何があっても大丈夫」という自信は心に余裕を生み、万が一の時がくるのが怖くなくなって、親も子どもも笑顔!
これ、最高の親孝行じゃないでしょうか!(「はじめに」より)

たしかに、そのとおりかもしれません。

親の体調の変化を早めに察知する

私は、16年前に父を、昨年に母を見送りました。
社会保険労務士、ファイナンシャルプランナーという仕事をしているため、一般の方よりは介護保険や死亡後の手続き、相続などについて知識があると思いますが、それでも「ああしておけばよかった」と思うことは少なくありません。(「はじめに」より)

『身近な人が元気なうちに話しておきたい お金のこと 介護のこと』(井戸美枝 著、東洋経済新報社)の著者もまた、似たような思いを抱いているようです。

  • 『身近な人が元気なうちに話しておきたい お金のこと 介護のこと』(井戸美枝 著、東洋経済新報社)

したがって本書では、身近な人が亡くなったあとの段取りをうまく進めるために、「いま、なにをしておくべきか?」をまとめているのです。

たとえば冒頭で強調しているのは、親の体調の変化を早めに察知することの重要性。高齢になれば、健康を損ねるのはある程度仕方のないこと。とはいえ、できれば早めに不調を察知し、症状の進行を遅らせるのが望ましいわけです。

まずはなにより「気づくこと」が重要だということですが、それは決して簡単なことではありません。

同居している場合はとくに、少しずつ弱っていることに気づきにくいはず。離れて暮らしているなら、暮らしぶりを確認することはさらに難しくなります。また、どうであれ親は子どもに心配をかけまいと思っているため、なかなか弱音を吐かないものでもあります。

年寄り扱いするのはよくありませんが、「体調を崩したり、体力が低下したりしても不思議ではない」という意識で、注意深く見守ることが重要です。同居していない場合は、帰省した際に起床から就寝まで寄り添って行動を見守るといいですし、一泊旅行に出かけるのもいい方法です。一日中一緒にいると、着がえに手間取っている、荷物の整理ができない、食欲がない、眠れていないなど、ちょっとした異変にも気づくことができます。(21ページより)

また兄弟がいるのなら、ひとりの子に負担が集中しないよう、連絡をとって協力しあうことも大切。著者も姉や従姉妹などとスマホのLINEグループをつくっていて、重要なこと、協力してほしいことがあれば、各人がそこに報告をあげるようにしているそうです。

ひとりでできることには限界がありますし、たしかにそうしたことも大きな意味を持つでしょうね。

いずれにしても、身体能力や判断能力の低下、病気や怪我のリスク、詐欺や虐待など権利侵害を受けやすくなるという現実、あるいは成年後見、相続や遺言、亡くなったあとのことやお墓のことなど、高齢者を取り巻く問題は山積しています。

高齢者を取り巻く問題を知る

そこで、介護や医療の問題から、権利擁護や法的な問題までを幅広く取り上げて解説しているのが、『高齢者と家族のためのQ&A―法的トラブルから医療・介護支援まで』(延命法律事務所 編集、法学書院)。

  • 『高齢者と家族のためのQ&A―法的トラブルから医療・介護支援まで』(延命法律事務所 編集、法学書院)

介護・医療が必要になったときの支援、金銭の管理・確保、成年後見人制度、高齢者虐待、相続・遺産についてなど、扱われている内容は多岐にわたっています。

当然ながらそのどれもが重要ですが、そんななか、「住みなれた地域で暮らし続けるための支援」の重要性は、ともすれば見落としがちなことかもしれません。

住み慣れた地域で暮らし続けることは、高齢者ご本人やその家族の努力だけで確保されるものではありません。高齢者の置かれている状況に応じて、ご本人を取り巻く様々な人々の支援を受けることによって実現されていきます。そのため、高齢者ご本人にとって、誰から、どのような支援を受けることができるのか的確に把握しておくことが必要です。(2ページより)

しかし、高齢者本人やその家族が、そういったことを的確に把握するのは難しいもの。ですからそうした場合には、ケアマネージャーなどの専門職がコーディネートをし、高齢者に対する支援体制を構築していくことも必要となるでしょう。

「人を頼るのはちょっと……」と躊躇する気持ちもわかりますが、親を守っていくためには、自分ひとりで問題を抱え込むのではなく、周囲の人に相談してみることも大切だということです。