全国各地で勃発する嫁姑問題。Twitterでは3人の男の子を子育て中の秋山さんの義母ツイートが話題を呼んでいる。「孫の誕生日プレゼントは水ようかんの空き容器」「手土産にお菓子よりも現金を要求する」......そんな衝撃的な義母との終わらない戦いに挑む秋山さん。今回は「結婚指輪を購入したとき」の話をお届けしよう。

  • 4月は結婚記念日。思い出の中にも義母がいて......

    4月は結婚記念日。思い出の中にも義母がいて......

4月は結婚記念日

4月は私たち夫婦の結婚記念日がある。プロポーズは私からした。結婚が決まり諸々の手順を踏み、結婚式を数カ月後に控えたある日、「そろそろ結婚指輪でも買おうか」という話になった。しかし、お互い指輪に対してこだわりがなく、どこで買うのか決められない。まあ結婚するのだからあった方がいいだろう―――そのくらいの認識だった。

指輪を買う日の朝8時、電話が鳴る。当時のガラケーには受診相手によって着信ランプを設定できる機能があった。私の携帯電話のサブディスプレイが赤く点滅する。危険信号、お義母さんからの着信だ。

「今日はどこで指輪を買う予定なのかしら?」

お義母さんはいつもゴージャスな服を着ている。家には高そうなコートやアクセサリーがいくつも落ちていた。よく分からないが、たぶんポケモンと同じくらいの数のブランドを知っているはずだ。つまりこちらの出した答えによっては、ああでもないこうでもないと色々アドバイスをしたいのだろう。私が正直に「まだ決まっていない」と言うと、突然電話口から「えーー??」「うそうそ!?」とかわいこぶった声が聞こえた。

「一生に一度なのにそんなことでいいの?」
「指輪に出せる額がそのまま生活水準になるのよ」
「私が結婚する時はパパ(義父)が高級車一台分の額の指輪を買ってくれて―――」

どうでもいい話で時間を取られる。一回休み。

「しょうがないわね、それなら〇〇(駅)の〇〇百貨店にいらっしゃい」

自慢話が一通り済んだ頃にそう言われた。どこで買うかは決めていなかったが、たまたま私たちもそこに行く予定だったので、まあいいかと思い電話を切る。

指輪を買いに百貨店へ

昼前に指定された駅に着くと、私のガラケーがまた鳴った。

「そのまま百貨店に入ったらまた連絡をちょうだい」

要件だけ伝えると電話はすぐに切れた。身代金の受け渡しでも始まるのだろうか。

約束した場所まで来ると、宝石の並ぶガラスケースの前でウロウロしているお義母さんを見つけた。普通の人なら50本くらい指が必要なところを、お義母さんは10本の指にありったけの宝石をつけていた。今日は気合が違う。私たちを見つけたお義母さんは言った。

「予定をキャンセルしてあなたたちの指輪選びに付き添ってあげることにした」

頼んでいないのに、来てくれたのだ。善意で。頼んでいないのに。「やっぱり貴方たちは私がいないとダメね」と言う声は、何故だかとても嬉しそうだった。

先に言っておくが、ここからお義母さんは本当に付いてきただけで1円も出さずに帰る。

義母が勧める結婚指輪

百貨店のジュエリー売り場は光り輝いていた。私たちより先にお義母さんが「この子たちに一番いい結婚指輪を見せてくださる?」と言うと、すぐに店員がいくつか商品を手に取って来た。お義母さんは慣れた様子でカットデザインがどうだの、石がどうだの言っていたが、私はその指輪の横でチラチラ動く値札の数字が気になってしょうがなかった。

一、十、百、千、万、……小さく首を動かしながら値段を確認し、夫と二人で静かにのけ反る遊びを3回くらい繰り返した。

「ちょっと予算が……」

と言うと、横で見ていたお義母さんが「そんな恥ずかしいことを言わないで」と私を窘めた。しかし夫が「じゃあオーバーした分出してくれるの?」と聞くと急に喋らなくなってしまった。強い催眠にでもかかったのだろうか、ペッパー君のような虚ろな目をしている。

結局予算とデザインの両方で納得できるものがなく、ここでの買い物は諦めることになった。

「アキさん(夫)と二人でもう少し探してみます」

と言うと、お義母さんは案外すぐに引き下がった。その代わり「見せたいものがある」と言って私たちを上の階に連れ出した。てっきりまだブライダルの話が続くのかと思ったのだが、あるフロアの一画に着くと、財布からカードを取り出し

「ここ、百貨店のお得意様サロンなの。このカードがないと中には入れないのよ。貴方たちもこういうところでお茶を飲める日がくるといいわね。それじゃあね」

と言い残しサロンの中に消えていった。今思えば、ここに入れる自分をアピールしたくて私たちを百貨店に呼び出したのかもしれないが、当時の私にはその意図が汲めず、ただ茫然とするしかなかった。

2人で選んだ指輪

結婚指輪はその日のうちに探し直して買った。どこのブランドかももう覚えていないが、中央に小さな石のついたデザインを2人とも気に入った。対応してくれた店員も色々と提案してくれたのだが、最終的に私たちが決めた指輪を見て「本当にシンプルな物がお好きなんですね」と言うくらい質素な指輪だ。だが私たちにはそれが良かった。

会計の時、夫が「僕が払う」と言った。驚いた。宵越しの銭を持たない主義の夫が貯金をしていたのは、後にも先にもこの時くらいだろう。帰ってからお義母さんに、決めた指輪の写真とともに「アキさんがプレゼントしてくれました。嬉しいです」とコメントをつけて送ると、すぐに電話がかかってきた。

「随分地味なやつにしたのね」
「私もアキ(夫)ちゃんから幼稚園の時に絵をプレゼントされたことがある」
「いくらしたの?」
「ちゃんと値切った?」
「何かおまけはもらえたの?」

今日のお礼も言いたかったのだが、あまりの質問攻めに最後の方はどうでもよくなっていた。なんだかとても疲れた。大きなため息をついて携帯電話をベッドに投げた直後、また私のガラケーパトランプが光った。「言い忘れたんだけど!」とお義母さんが話し始める。

「秋山ちゃんに話したかしら? 私の時は高級車が買えるくらいの結婚指輪を買ってもらって―――」

どうでもいい、一回休み。