
この記事は「普通の人々に風変わりな車を売るという離れ業|シトロエンの「奇妙な物質」とは【DS、CX編】」の続きです。
【画像】見れば見るほど風変り。そこが魅力のシトロエンXM、C6(写真9点)
美意識が導き出したXM
アバンギャルドなXMのスタイリングは、論理よりも美意識によって生まれたものだ。関係者の話によれば、コンセプト段階でのコンペにベルトーネが提案したアイディアは”信じられない”ようなものだったという。デザイン案が承認された後、ベルトーネはエンジニアリング・パッケージをほとんど無視していることが明らかになった。ほとんど実現不可能に思われたのである。ベルトーネのデザイン案は半分カバーされたリアホイールやヘッドアップディスプレイ、6連ヘッドランプなどを特徴としていた。努力と忍耐によって解決案が見つかったとはいえ、本当ならXMはこのような形にはならなかった。XMはほとんどエンジニアリングの奇跡と言っていいのである。
この XMのオーナーであるラス・ウォリスは独特のポリシーを持っている。「XMはSMの精神的な後継者だと思う」と彼は言う。「ウェッジシェイプのノーズはSMのフロントデザインを思い起こさせるし、XMはSM以降初めてのV6エンジンも選べるシトロエンだ」
オーナーのラスのXMに対する細部へのこだわりは相当なものだ。彼は以前のXMに代えて2014年にこのターボSEDを手に入れ、今も彼自身の初期型 XMの理想形を追求している。たとえばトランスミッションをMTにコンバート(しかも現在のものは2基めのギアボックス)、さらに発売当時のシングルスポーク・ステアリングホイールに交換している。ラスはこの XMの 3人目のオーナーだというが、いまだにディーラープレートを装着している。
「できるだけスペアパーツを集めなければならない」と彼は笑う。「近頃では数少なくなっているから、部品に使える車を見つけたら、今必要かどうかにかかわらず、急いで手に入れなければならない。たとえば現在のギアボックスはスコットランドまで取りに行った。またアロイホイールは、ここだけの話、正しい組み合わせではない。最初の2年間だけ作られたV6用のホイールだが、これがいいと思うんだ。そういえば、このエンジンは市販車初の12バルブ・ディーゼルということを知っていたかい?」
幅広いダッシュには各種スイッチが合理的に配置されている。合理的でないのは、CXとは違って指先が届きにくいステアリングホイール上のボタンである。だがそれは些細なこと。この XMはまず強烈に作動するターボが特徴的だ。18万マイルは超えているというが、勇ましい過給音を発しながら元気よく加速し、しかも驚くほどかっちりとしている。さらに乗り心地も特徴的だ。ハイドロニューマチックは2世代分進化しているはずだが、まるでDS時代のように挙動は大げさで、キーを回すと怪獣のように身体を持ち上げる。それでもコーナーをなぞるように姿勢は安定しており、活気あふれるハンドリングを持つ。
革新的なC6は原点回帰なのか
この4台の中でC6はちょっと異質に見えるかもしれない。C6のハイドロニューマチックは「ハイドラクティブ 3+」に進化しており、上下の動きは控えめである。とはいえ、見れば見るほどやはり他の車同様風変わりである。CXに倣ったような湾曲したリアウィンドー、2本のレールを引いたようなフロントグリル、Cピラーはテールライトクラスターまでを覆っている。もしAIにCXの未来形を描いてくれと頼んだら、C6はまさにそれかもしれない。しかもハッチバックのように見えて、れっきとしたトランクリッドもある。
すべては社内デザイナーのマルク・パンソンの巧みな筆によるものだ。イタルデザインやピニンファリーナ、ベルトーネ、ユーリエなどの名門を相手にしてコンペに勝ったパンソンのC6リネージュ・コンセプトは、1999年のジュネーブショーに出品されたが、市販化の予定はなかったという。ところが2005年、XMの後継モデルは革新的な技術を詰め込まれて姿を現したのである。C6はヘッドアップディスプレイ、可動キセノンヘッドランプ、車線逸脱警報、アクティブリアスポイラー、そしてハイドロニューマチックの最新型であるオレンジ色のLDSフルードを使用するハイドラクティブ3+などの最新技術を満載していた。高速になると自動的に車高が下がり、スポーツボタンを押せばハンドリングが引き締まる機能とともに当然快適さも備えていた。
ショーン・ライレーは20年ほどシトロエンと暮らし、このC6については11年所有している。正確には一時友人に売ったことがあったらしいが、すぐに買い戻したという。3種類のグレード(ベース/リネージュ/エクスクルーシブ)のうちのエクスクルーシブでレザー内装とサテライト・ナビゲーションを備える。最も現代的な車ではあるが、驚くのはインテリアデザインがなお魅力的なことだ。エレガントな羊皮紙調ダッシュとウッドトリムがラグジュアリーなフランス車らしい。ただしデジタルのディスプレイはやや時代遅れに感じる。当時は未来的な装備と考えられていたのだろうが、80年代末のアストラGTEにも同じようなものが備わっていた。
走りっぷりは素晴らしい。非常に快適であると同時にコーナーでは揺るぎない姿勢を保ち、道路に空いた穴をDSのように無頓着にやり過ごす。ダンピングと姿勢制御も文句なし。3リッターV6ターボディーゼルの逞しくクリーミーなトルクは、シトロエンのエグゼクティブサルーンに相応しいが、実はC6は本質的にはSMと同様の高性能GTである。残念なのは近年著しく過小評価されていることだ。最良のCXが2万ポンド、DSではさらに倍はすることと比べると、非常に珍しいにもかかわらず、素晴らしい状態の車でも1万ポンドもしないのだ。C6を運転してみれば、その先輩たちと同様に知的で楽しいことを実感するはずだ。C6のオーナーたちが手放したがらないことも納得するだろう。要するに他に乗り換える車が見当たらないのである。
1992年シトロエンXMターボ SED
エンジン:2088㏄ 4気筒ターボディーゼル OHC12V
最高出力:110bhp/4300rpm 最大トルク:188lb-ft(255Nm)/2000rpm
トランスミッション:5段 MT、前輪駆動 ステアリング:ラック・ピニオン、パワーアシスト
サスペンション(前):マクファーソン・ストラット、車高調整付きハイドロニューマチック・スフィア、スタビライザー
サスペンション(後):トレーリングアーム、車高調整付きハイドロニューマチック・スフィア、スタビライザー
ブレーキ:ディスク(フロントはベンチレーテッド)、ABS 車重:1365kg
パフォーマンス:最高速 119mph(191km/h) 0-60mph加速:12.4秒
2010年シトロエンC6HDIエクスクルーシブ
エンジン:2993㏄ V6ターボディーゼル DOHC24V
最高出力:241bhp/3800rpm 最大トルク:332lb-ft(450Nm)/1600rpm
トランスミッション:6段オートマチック、前輪駆動 ステアリング:ラック・ピニオン、パワーアシスト
サスペンション(前):ダブルウィッシュボーン、車高調整付きハイドロニューマチック・スフィア
サスペンション(後):マルチリンク、車高調整付きハイドロニューマチック・スフィア
ブレーキ:ベンチレーテッド・ディスク、ABS 車重:1848kg
パフォーマンス:最高速 149mph(240km/h) 0-60mph加速:8.5秒
編集翻訳:高平高輝 Transcreation:Koki TAKAHIRA
Words:Daniel Bevis Photography:GF Williams