働き方の指針を説く新著『北極星 僕たちはどう働くか』を上梓し、3月27日には最新作『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』を公開した西野亮廣さん。芸人、童話作家、映画製作総指揮と、ジャンルを超えて縦横無尽に活躍を続ける西野さんの根底には、一貫した「働くことの哲学」があります。

今回、マイナビ学生の窓口編集長を聞き手に、新著と映画の両作品に通じるテーマ「不透明な時代を生き抜くヒント」を伺うべく、新社会人に向けた単独インタビューが実現。会社も親も教えてくれない、西野さんが考える働き方とお金の真理を余すところなくお届けします。

お金は自分の夢と命を守る術

編集長:大前提として、西野さんがお金の話を精力的に発信し続けるのはなぜですか。

西野:お金は命を守るためのものだからです。日本は地震も水害も台風も多く、被災する可能性は常にある。いつ自分が重い病気になるかも分かりません。お金の勉強をしておけば、自分の命を守る確率は上げられると僕は思っています。

それに「夢を持て」と言いますが、夢だって健康かお金のどちらかが尽きた時点で途絶えてしまうんです。その時にお金を集める打ち手を持っていなければ、諦めるしかなくなりますよね。自分のことも、大切な人を守るためにもお金のことは勉強してほしい。若者はもちろん、お父さんやお母さんにも勉強をしてほしいから発信を続けています。

結果が出にくい「11時台」をどう過ごすか

『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』より

編集長:最新作『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』で描かれていた報われない「11時台」は、新社会人が抱える葛藤に通じます。この時間を過ごすための心構えを教えてください。

西野:一発目から聞きたくない話かもしれませんが、20代のうちはまず「量」をやらないと話になりません。これは本の中でも触れていますが、量か質かと天秤にかける前に、量をこなさないと質にはたどり着けない。これは絶対の真理です。まずは、ガタガタ抜かさずに量をぶち込んでください(笑)。20代で積み上げた圧倒的な量があって初めて、30代で質を磨くことができます。

時代的にも、会社が「もっと働け」とは言えません。だからこそ、家に帰ってからがむしゃらに勉強する。こういうことは自主的にやるしかないんです。

タイパ、コスパと言っている場合じゃない

編集長:ワークライフバランスを大切にしたい、という声に対してはどう答えますか。

西野:それは考え方によりますが、もし仕事に生きるというのなら、マジでいらないと思います。50代になれば否応なく健康を優先しなきゃいけなくなりますが、まだ何も持っていない人間が張れるものの1つが体力。繰り返しになりますが、20代で投資すべきは量なんです。

健康や精神を害してまでやれと言っているのではなく、僕が言いたいのは、量をやる前に権利ばかりを主張するとチャンスが回ってこなくなりますよ、ということです。「タイパ」「コスパ」という言葉もこの時期は大事にしない方がいい。若いうちは何が無駄かを図る根拠がないからです。量をやらないと何が無駄かも分からないから、コスパと言っている場合じゃない。問答無用で量だと僕は伝えたい。

モチベーションは「正しい順序」で生まれる

編集長:働くモチベーションが出ない、という悩みについては。

西野:モチベーションとかやる気って、意志の弱さじゃないんですよね。モチベーションは小さな成功から得られる、「いけるかもしれない」という感覚から生まれると僕は考えています。つまり、モチベーションを出して結果を出すという世の常識とは逆。先に結果、そしてモチベーション。この順序を把握しておくことが、社会人1、2年目にはめっちゃ大事です。

じゃあ、どうやって結果を出すかというと、これも量なんです。成功やチャンスって頑張ったからといって平等に回ってくるわけじゃない。実は運であり、ガチャにも近い。たくさん引いた人ほど成功する確率が上がる。だから、量をたくさんやって当たる確率をあげて、モチベーションにつなげましょう。

もし、当たる確率の低い場所にいるなら、移動をおすすめします。会う人を変えたり、いる場所を変えたり、働く先を変えたり…。

編集長:働く先を変える。転職の判断も難しいところですね。

西野:自分の信じているものと会社の置いている価値が違うというジレンマを抱えている新社会人はめちゃくちゃ多いと思いますが、会社と交渉する権利もあれば、当然辞める権利も、転職する権利もある。踏ん張るのも大事だけれど、どうしてもやっぱり違うなと思ったら、自分の居場所をちゃんと探すというのも大切です。苦労して入ったかもしれないけれど、入ってみて全然違うな、ということもあるわけですから。

給料を上げたいなら「社長の困り事」を解決せよ

編集長:新著では第一章から「給料の上げ方」をテーマにしています。働く上で大切なポイントだからでしょうか。

西野:こんなに頑張ってるのに給料が上がらない、という声はよく聞きますが、お門違いなんですよね。給料というのは、自分という商品をいかに高く売るかということ。
どれだけ頑張ったか、どれだけ丁寧に仕事をしたかではなく、会社が抱える問題を解決した量への対価です。自分は誰の何の問題を解決すればいいのかを考えてください。そのためにも、PL(損益計算書)を読めるようになる必要があります。

例えば、頼まれてもないのに「ここの倉庫代、もっと安いところありますよ。これで経費下げられるじゃないですか」という提案が社長に通ったら営業利益は上がる。そういう問題を解決してくれるスタッフの給与を5万、10万上げることなんか、経営者からすれば安いものです。

社長を自分のお客さんだと思って、「今、何に困っているんだろう?」というアンテナを常に持っておく。給料を上げたいならこれが一番早い。もちろん会社の規模によって社長との距離感は変わりますが、自分の給料を上げたいなら、基本的な考え方は同じです。

編集長:商売の感覚を掴むために、おすすめの行動はありますか。

西野:小さくてもいいから商売を経験するといいですよね。フリマアプリやクラウドファンディングならプライベートの時間でできる。いくらで仕入れていくらで売るか、送料はいくらかかるか、商品説明文はどう書くのか。これってつまり「お客さん理解」、つまり相手のことを徹底的に想像できるかどうかっていう練習になります。「何がダメだったんだろう」という経験を積むか積まないかでは、将来の差がすごいんじゃないかな。

ピンチや面倒な時こそ「ニヤリ」と笑う

編集長:言い出しづらいことなど、直接的なコミュニケーションを苦手に感じる傾向があり、退職代行のようなサービスも生まれました。こうした風潮についてはどう思われますか?

西野:すごく便利なサービスだなと思いつつ、一方でそこも訓練だよなと思うんですよね。辞め方の訓練。面倒な作業を代行してしまったら、そこでの成長はもうない。謝るということも同じです。僕だって謝りに行くのは嫌ですが、スタッフが不祥事を起こした時は自分が最後に出ていきます。
何度もやっていると謝るのが上手くなるんですよ。相手をファンにさせてしまうくらいまで状況を逆転させる技術が身につく。ピンチや面倒な時こそ、自分が成長するチャンス。はなから避けていたら成長はありません。面倒くさい時こそニヤニヤできるかどうかです。

逆境を「アドバンテージ」にできるかどうか

編集長:コロナ禍の影響もあると思うのですが、未知の挑戦に飛び込むことが難しくなっている世代へアドバイスはありますか。

西野:そこも同じで、いかにニヤリとできるか。逆境は自分のアドバンテージだと考えた方がいい。挑戦やコミュニケーションが苦手だと言われる世代なら、少しやるだけで一気に抜きんでられるわけですから。もしかしたら、仕事終わりに上司に「飲みに連れて行ってください」と言うだけで勝てるかもしれない。

僕の会社にも、挨拶がままならない若手がいたのでそこは最初から注意しました。「ありがとうございます」「おはようございます」は当たり前だけどちゃんとやる。オンラインMTGでも相手の話に相槌を打つ。これは20代に限らず大切な基本ですが、やれない人が多いのなら、やるだけで次のステージに上がれる。簡単な話です。

人生、無風の時が一番むずかしいんですよ。逆風が吹いているなら、帆を傾けて前に進めばいい。嫌な風であっても、それをどう利用して進むかのゲームです。逆風だったらこれをこう傾けていけばこういけるな、という発想の転換をしてください。

真の失敗とは「データが取れないこと」

編集長:失敗について、西野さんはどう考えますか。

西野:20代の時は特にそうですが、失敗を恐れる必要はありません。まだ何者でもない新社会人ができる失敗なんてたかが知れてます。イーロン・マスクの失敗とはわけが違うじゃないですか(笑)。若い皆さんの失敗なんて全部取り返せるし、まだスピードが出ていないから大きくこけることもありません。真の失敗とは「データが取れないこと」、つまり、何もしないことや、挑戦から逃げることです。

大当たりしている経営者を見ていても、大外れしている数が半端ない。秋元康さん、ホリエモンさんの外れプロジェクトの数は、世に出ていないだけで山ほどあるんですよ。僕だってそうです。たくさん挑戦して、当たる確率を上げていくだけです。

自分だけの「北極星」を見つけるために

編集長:最後に、20代が仕事において進むべき目印となる「北極星」の見つけ方を教えてください。

西野:今、結果が出ている人の話を聞くことがいいと思います。それが自分に合うかどうかは聞いた後に判断すればいい。一旦、話を聞きに行く。「あいつ嫌いなんだよね」って情報を閉ざして人生を詰んでしまった先輩をたくさん見てきました。同じ轍を踏んだらダメです。

とにかく、知らないものに蓋をしない。相手のことが嫌いでも、結果が出ているということは一つの正解を出しているということ。その理由をちゃんと知る。それが自分の北極星を探していく近道だと思います。

編集長:本日はありがとうございました。


<プロフィール>

西野亮廣
1980年生まれ、兵庫県出身。芸人・童話作家。著書として、絵本に「Dr.インクの星空キネマ」「えんとつ町のプペル」「チックタック ~約束の時計台~」など、小説に「グッド・ コマーシャル」、ビジネス書に「革命のファンファーレ」「新世界」「ゴミ人間」「夢と金」などがあり、全作ベストセラーとなる。2020年に公開の『映画 えんとつ町のプペル』では原作・脚本・製作総指揮を務め、大ヒットを記録、海外でも高く評価される。原作・脚本・製作総指揮を務めたコマ撮り短編映画『ボトルジョージ』(2024)は、米アカデミー賞®︎のショートリスト入りを果たし、世界中の映画賞を数々受賞。 ブロードウェイで、ミュージカル『CHIMNEY TOWN』の制作を進める他、2025年にデンゼル・ワシントン主演の舞台「OTHELLO(オセロ)」の共同プロデューサーを務め、同作はブロードウェイ3週連続1位に輝く。2025年夏には製作費4.5億円のミュージカル「えんとつ町のプペル」を上演し、開幕前に3万席を完売させた。


書籍『北極星 ぼくたちはどう働くか』

2026年3月12日刊行。予約開始直後からAmazon書籍総合ランキング1位、オリコン書籍総合ランキング1位を獲得し、発売前重版も決定。西野自らが「僕がここで書かなければ、日本は重大な選択肢を失ったまま過ごすことになる」と断言するビジネス書最新作である。「投資」「心」「販売」の3章で構成され、国内外の挑戦で培った実学を網羅。不透明な時代に個人が取るべき生存戦略を「北極星」として指し示し、一歩踏み出す勇気を与える一冊だ。


『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』

『映画 えんとつ町のプペル ~約束の時計台~』より

2026年3月27日、全国公開。前作から1年後、大切な親友のプペルを失った少年・ルビッチが時を支配する異世界「千年砦」へ迷い込む物語。自身の「相方を信じて待ち続けた経験」を投影し、報われない11時台を過ごすすべての人へ「時計の針は必ず重なる」というエールを贈る。技術や効率を超えた「約束」の価値を問う、ファンタジー超大作。


取材・文:ぎぎまき
編集:マイナビ学生の窓口 編集部 降旗靖夫
取材協力:株式会社 CHIMNEY TOWN