東日本大震災の津波で被災した仙台市の沿岸エリアの地域活性化を目的として、今野不動産が展開する「深沼うみのひろば」。「土と、水と、風と遊ぶ。そして大人も子どもも輝く」をコンセプトに、地域を再び多様な人々の笑顔あふれる居場所にしたいとの思いから、2023年10月に開設された。
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(写真左より)NTT東日本 宮城支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当の亀谷到氏、NTT-ME 社会インフラデザイン部 まちづくり推進部門 アグリエンジニアリング担当の石川大樹氏、今野不動産 執行役員 公益事業担当の本田勝祥氏
地域再生を支える水耕栽培の挑戦
「深沼の魅力を知ってほしい」「賑わいを取り戻したい」という思いから、カフェやインクルーシブ遊具を備えた屋外遊び場を整備。さらに新たな取り組みとして、小規模施設園芸を導入し、葉物野菜を中心とした水耕栽培を行っている。
東日本大震災の津波被害により、危険区域として人が住めなくなった地域を買い上げ、利活用する事業を仙台市が展開している。その一社として選定された今野不動産だが、手を挙げた理由として、「弊社の代表が、この深沼の地域に小さい頃からお世話になっていたこともあり、津波被害を目の当たりにして、非常に心を痛めた」ことが最初のきっかけだと、今野不動産 執行役員 公益事業担当の本田勝祥氏は振り返る。
同施設は震災の記憶の継承や防災教育の場としての役割も担い、「障がいの有無に関わらず遊べる場」を目指してインクルーシブパークとして展開している。
当初から農園構想はあったが、露地栽培は「収益化が難しく、事業として成立するか疑問だった」と本田氏。計画が停滞する中、NTT東日本から提案された新たなアイデアが小規模施設園芸による水耕栽培への挑戦だったという。
「深沼うみのひろば」における事業展開をサポートするNTT東日本 宮城支店 ビジネスイノベーション部 まちづくりコーディネート担当の亀谷到氏は「持続可能な事業として収益も必要で、露地栽培は現実的でない」と説明。そんなときに、ともに露地栽培を検討していたNTT-MEから、誰でも簡単に栽培して、収穫できる水耕栽培の機材があるという情報をキャッチ。今野不動産側の感触もよく、露地栽培から水耕栽培へと変更されることになった。
NTT-ME 社会インフラデザイン部 まちづくり推進部門 アグリエンジニアリング担当の石川大樹氏は露地栽培が難しかった理由として、「収益性に加え、人手不足が大きかった」と指摘。実際、カフェを含め運営の人員は限られており、「人を雇う前提だったが採算的に難しい」状況だったという。
「しかし、我々が勧める小規模施設園芸での水耕栽培というシステムは非常に少ないリソースで実現可能」と石川氏。水耕栽培は少人数で運用できるうえ、障がい者雇用の実績もありインクルーシブにも適しているという。
「深沼うみのひろば」の小規模施設園芸で使用されるビニールハウスは、一般的な仕様ながら、太陽光等によるハウス内温度に反応して遮光カーテンが導入されている点も大きな特徴。水耕栽培用に、きれいな水が常に循環するような仕組みが取り入れられているが、水の中には肥料となる溶液が入っており、常に野菜に肥料が引き渡る設計となっている。また、可動式架台などを備え、車椅子でも作業できる設計となっている。
現在はまだ実験段階ではあるが、栽培状況が確認できるカメラを設置することで見える化が図られているほか、ボイラーと水温センサーを導入し、野菜の生育に適した水温10度以上になるようキープ。また、ハウス内の温度が上がりすぎると、自動的に側面が開きハウス内の空気を循環させる構造が採用されるなど、遮光カーテンとあわせて、様々なオートメーション化が図られており、一般的な小規模施設園芸よりも「充実した生産環境を構築している」と亀谷氏も自信をのぞかせる。今後はLEDによる成長速度の検証も進める予定だ。
現在は、レタスやサンチュ、パクチーなど葉物野菜を中心に試験栽培が行われている。ビニールハウス内の温度に大きく影響されるが、環境が整えば5週間程度で収穫可能だという。
本田氏は、栽培中の野菜を口にしながら、「瑞々しくて、非常に美味しい」と笑顔をみせる。作業に応じてサポートは入るが、基本的には専任スタッフ1名で賄えているそうで、「思っていた以上に省力化」と評価。さらに、「雨不足や水不足で葉物野菜が枯れるニュースを見ると、露地栽培の難しさを実感する。努力しても枯れてしまっては意味がなく、その点で水耕栽培が最適」との見解を示した。
今後は、水耕栽培の野菜を“朝採れ野菜”としてカフェメニューの軸に据えるほか、「一株単位での収穫体験販売」も検討。また、防災教育で訪れる修学旅行生などに向け、次世代農業としての体験機会の提供も構想しており、近隣校や特別支援学校へ水耕栽培のパネルを貸し出し、栽培から収穫までを体験できる仕組みも検討しているそう。
本田氏は、「生育の過程はカメラを通して教室でも確認できますし、育ってきたら収穫体験もできる」と、将来的には教育の場としても展開していきたいとの意欲を見せる。
シェアキッチンとの連携など地域活性への期待は高いが、最大の課題は「人が来ない」こと。居住不可エリアであることや海水浴需要の低下、津波被害のイメージもあり、来訪者は想定ほど戻っていない。そのため施設運営にも影響が出ており、集客の“目玉”として小規模施設園芸の水耕栽培に期待が寄せられている。
再び人が集う場所へ
深沼を再生したいという社会貢献的思いから始まった「深沼うみのひろば」だが、「持続可能な事業としなければならない」と本田氏。単体で収益を回すためのコンテンツづくりが課題とし、知恵や人脈を生かし、外部と連携した集客施策が不可欠との考えを示した。
賑わい回復には現状を知ってもらうことが不可欠として、PR強化の重要性を指摘。亀谷氏は、地元企業や行政と連携したイベントやSNS発信などを検討し、今後はPRに注力する方針を示した。
また、本田氏はカフェで自らキッチンに立つ理由について「現場にいないとわからないことが多い」と説明。実際、カフェを訪れた方のちょっとした一言から、バウンサーを用意したというエピソードを話す。「可能な範囲で要望に応えれば、次に来たときの感動につながると思うんです。小さな積み重ねが重要」と語る。さらに子育てに優しい施設づくりを目指し、「泥臭く続けながら、継続する価値を生み出したい」と打ち明ける。
亀谷氏は、「集客面ではまだ十分貢献できていない」とし、深沼が集団移転跡地であり仙台市の脱炭素先行地域でもある点に着目。震災の記憶の継承から脱炭素社会へつなぐ発想が集客につながるとみて、「今野不動産様と一緒になって考えながら、様々な施策を積極的に進めていきたい」と意欲を示した。また、水耕栽培の成功は、決してゴールではなく、さらなる展開への布石であり、今後の継続したサポートを約束した。












