
ブッチャー・ブラウン(Butcher Brown)は、ジャズとヒップホップの融合が一大トピックとなった2010年代に頭角を現した。そのユニークな立ち位置は、他のバンドとは一線を画すものだ。どのメンバーも演奏レベルは総じて高く、ドラムのコーリー・フォンヴィルのように、クリスチャン・スコットやカート・エリングに起用されるトップ・プレイヤーもいる。かと思えば、〈Stones Throw〉とも契約しているプロデューサー、DJハリソンのような存在もいる。
さらに、作品ごとにサウンドの傾向も違う。ディアンジェロやJ・ディラの影響下のジャズがベースにあるのは間違いないが、そこに多彩な要素を盛り込む。ジャズファンク寄りもあれば、フュージョン寄りもあり、ビッグバンドでの録音もあった。カセットでのリリースを前提にしたものもあれば、スタジオライブをヴァイナルにダイレクト・カッティングした作品も発表している。音楽性は極めて多彩だが、にもかかわらず「ブッチャー・ブラウンらしさ」が常にある。彼らのサウンドには明確な個性があった。
現時点での最新作『Letters From the Atlantic』(2025年)で聴こえてくるのは、ハウスやドラムンベースのリズム。過去作のヴィンテージな手触りとは異なるクリアな響き。確実に新たなチャレンジを行なった意欲作であり、アメリカのミュージシャンからは本来聴こえてこないようなサウンドだ。
さる2月下旬、初来日にして多くの観客を魅了したブルーノート東京公演の出演直前に、楽屋でメンバー全員に話を聞いた。仲の良さや結束の強さも含めて感じてもらえると嬉しい。

左上から時計回り:テニシュー(Vo, Sax , Tp)、DJハリソン(来日公演には不参加)、コーリー・フォンヴィル(Dr)、モーガン・バース(Gt)、アンディ・ランダッツォ(Ba) Photo by Jacky Flav
アメリカのバンドらしくない音楽ルーツ
―まずは『Letters From the Atlantic』のコンセプトから聞かせてください。
コーリー・フォンヴィル(Dr):あのアルバムは、かなりハウス・ミュージックの影響を受けている。ソウルフルなハウス、ディープ・ハウス、ドラムンベース、アシッド・ジャズなど。俺たちが使っているグループチャットがあって、そこで音楽をシェアしているんだけど、そこで送られてくる曲の多くがハウスやその周辺のもの、ダウンテンポとかトリップホップなどだった。たとえばマッシヴ・アタック、ポーティスヘッド、Zero 7、フーヴァーフォニックみたいなグループをよく聴いていた。挙げていけばキリがないけどね。
もちろんジャズの影響もある。ウェイン・ショーターとかね。ドラムンベースと組み合わせた「Infinite」はLTJブケムの影響が大きい。「Seagulls」ではドリルも取り入れている。いろんな要素を持ち寄って、ひとつに融合させたんだ。
―UKやヨーロッパの要素が多く詰まっていると。
コーリー:そう。でも出発点になっているのは、俺たちがアメリカ東海岸(ヴァージニア州リッチモンド)の出身だということ。もともと海の近くで育ってきたしね。だからイメージとしては、北へ向かってニューヨークまで旅していく感じ。あっちはまたちょっと空気が違うんだ。
「Unwind」みたいな曲はそこから来ている。90年代後半から2000年代初め頃のロウアー・イースト・サイドとか、アルファベット・シティにいるような感覚だね。ワックス・ポエティックみたいなグループとか、ああいう音楽を聴くのが好きなんだ。あれはあれで一つのシーンだった。
それから南に下ってヴァージニアに戻れば、俺たちには俺たちなりのスタイルがある。ボルチモアにはクラブ・ミュージックもあるし、ワシントンDCにもDCのスタイルがある。さらにフロリダまで行けば、またあっちのサウンドがある。大西洋を渡れば、ロンドンのあの感じの音楽もある。俺たちが好きなサウンド、いろんな影響を全部まとめて持ち寄ったんだ。少なくとも俺にとっては、それが『Letters From the Atlantic』なんだ。
テニシュー(Marcus Tenney: Vo, Sax , Tp):(コンセプトには)旅も関係してるよね。俺たちは大西洋を越えて飛行機で移動することが結構多い。ヴァージニアで育った子どもの頃も、ヴァージニア・ビーチに行ったり、東海岸を車で行ったり来たりしていた。リッチモンド自体は内陸だけど、それでも大西洋は自分たちにとってすごく大きな存在なんだ。それに、この音楽自体も、俺の中ではどこかアクアブルーの色合いを帯びている感じがする。個人的には、海の水みたいな音に聴こえるんだよ。「Seagulls」にはカモメの鳴き声も入ってる。だから、このコンセプトでいくのが自然だと感じたんだ。

今年2月のブッチャー・ブラウン来日公演より。コーリー・フォンヴィル(Dr)Photo by Tsuneo Koga

テニシュー(Vo, Sax , Tp) Photo by Tsuneo Koga
―前にインタビューした時、プレイリストを作って移動中に好きな音楽をシェアして、それがインスピレーションになっているという話をしてくれました。それぞれが持ち寄った、インスピレーションになった曲はどんなものがありましたか?
コーリー:俺たちはインスタのグループチャットやiMessageでも曲を送り合っている。だから正直もう覚えていないんだ(笑)。(2023年の前作『Solar Music』から『Letters From the Atlantic』を制作するまでの)2年分の音楽の話だし。
モーガン・バース(Gt): ツアーでヴァンに乗って移動している時間も大きいね。誰かがDJをやったり、車のAUXにつないで曲を流したりしてさ。くだらない話をしたり、曲をかけ合ったりしている時間。そういうのも全部、この作品につながっている。
―アルバムに特に影響を与えたハウス・ミュージックだとどんなものがありますか?
テニシュー:オスンラデとか。
コーリー:オスンラデは最高だね。
テニシュー:コーリーが教えてくれるまで知らなかったよ。あと、最近よく聴いているのは、ノワール・モティーフ(noir motif)っていうアーティスト。正直、あまり詳しく知らないんだけど、Spotifyにアルバムがいくつかあるんだ。すごくいいハウスのヴァイブ。
コーリー:バイロン・ジ・アクエリアス(Byron The Aquarius)。
一同:いいよな!
モーガン:ロッチェル・ジョーダン(Rochelle Jordan)は最高。
アンディ・ランダッツォ(Ba):ラスト・ヌビアン(Last Nubian)とか。
テニシュー:SOHOの「Hot Music」も。
コーリー:テイ・トウワ。あとは日本のゲーム音楽。俺は90年代に育ったから、プレイステーション育ちで。あの頃のゲーム音楽はマジで最高だった。『鉄拳』『グランツーリスモ』とか。
テニシュー:「Turismo」って曲(『Solar Music』収録)のタイトルも、『グランツーリスモ』が由来なんだ。スタート画面に流れていてもおかしくないような感じの音だから。
コーリー:そうそう。それからトリビオ(Toribio)っていうプロデューサー/DJもいて、俺たちの友達なんだけど、すごく素晴らしい音楽を作っている。ああいうのも刺激になるね。あとはBoiler Roomのセットもよくチェックしているし、デトロイト・ハウスも好きだよ。ムーディーマンとか。
モーガン:俺たちがヴァンで流している曲もそうだけど、特に印象に残るものって、必ず何かしら大きな魅力があって一気に引き込まれるんだ。ベースの音色だったり、ホーンが強烈だったり、チョップがすごくワイルドだったり。そういうエネルギーの強い要素があると、レコードはそれぞれ独特の個性を持つようになる。それがすごく大事だと思う。でも、アルバムの曲同士のつながりがなくなるほどやりすぎてもいけない。そのバランスを見極めることが大事なんだ。そういうレコードに出会うと、俺たちはそれを細かく分析して、何がそうさせているのかを探ろうとするんだ。
エゴを捨てた自由なハイブリッド
―今作ではハウスのサウンドをバンドで演奏していますが、そういう様々なジャンルをブッチャー・ブラウンのように上手く演奏する秘訣はなんでしょうか?
コーリー:ありがとう。俺たちは、何かに興味を持ったら、とにかくそこに飛び込んでいく。そのジャンルが何であれ、みんなちゃんとリスペクトを持っているし、できるだけ深いところまで入り込もうとする。だからボサノヴァでも、サンバでも、ハイブリッドなものでも、とにかくそこにしっかり集中する。ただ音楽をたくさん聴くんだ。それに尽きるね。
アンディ:とにかくたくさん聴く。耳は二つ、口は一つだからね。
テニシュー:「聴く」っていうのはステージの上だけの話じゃない。俺たちはDJハリソンと制作していて、コーリーはいろんな人と演奏してきたから、どんなものが良いサウンドなのか熟知している。だから、DJハリソンが何かアイデアを出すと、コーリーが「こうした方がもっと盛り上がるんじゃないか」って言ったりする。それでアンディが「ここでホーンを入れてみたらどう?」って言うと、俺も「いいね、それやろう」ってなる。そういう関係性でやっているんだ。それぞれが自分のスキルを持ち寄っているけど、誰かが「それはダメだ」って言うようなエゴはない。基本的には「いいね、やってみよう」って感じなんだ。
誰かが頭の中で思い描いているものを、どうやって形にするかをみんなで探っていく。そうやっていくうちに、いろんな場所から来た音楽が混ざり合ったハイブリッドなものが生まれる。だからこそ自然にフィットするし、聴いていて気持ちいい。それを観客もちゃんと感じ取るんだと思う。「自分のためだけじゃなくて、みんなのために道を作ろうとしている人たちの音楽なんだな」って。街が作られていくのと同じだよ。一人だけでできるものじゃないし、一つの世代だけでできるものでもないんだ。
音楽を聴いて、ミュージシャンのインタビューを読んだり、映像を見たりして学ぶ。レコードやミュージックビデオだけじゃなくて、その人たちがどう歩いているのか、どんなコーヒーが好きなのか、失礼なことをされたときにどう振る舞うのか、そういうところまで見ていく。そして、見聞きしてきたものすべてを音楽に取り込んでいくんだ。そうすることで、ただの寄せ集め以上のものになるんだと思う。

モーガン・バース(Gt) Photo by Tsuneo Koga

アンディ・ランダッツォ(Ba) Photo by Tsuneo Koga
コーリー:もう一つ付け加えると、俺たちは本当に素晴らしいサウンド・エンジニアたちと組んできたんだ。
モーガン:そう、ライブでもスタジオでもね。
コーリー:正直かなり恵まれているよ。たとえばザック・フィクター。俺たちとは長く一緒にやっていて、リッチモンド出身の仲間なんだ。ここ数日のライブでもサウンドを担当してくれている。それからエイドリアン・オルセン、アレックス・デ・ヨングも。
テニシュー:オランダのサイモンもだね。ランスは?
コーリー:そうだ、ランス・コーラーもね。俺たちはそういう人たちと自然に出会ってきた。誰かが「この仕事をできるすごい人は誰だ?」って探すというより、お互いに引き寄せられるように出会う。サウンド・エンジニアは俺たちのシステムの”6人目のメンバー”みたいな存在だね。
モーガン:それに、お互いのリスペクトもすごく大きいと思う。ザックは俺たちのことを尊重してくれているし、俺たちも彼の仕事を理解していてリスペクトしている。同じことがバンドのメンバー同士にも言える。エゴは最小限で、みんなもっと大きな作品のために動いている。
「秘訣は何か?」という質問に答えると、正直かなり大きいのは、ここ10年以上、俺たちがずっと音楽で生計を立ててきたことだと思う。音楽だけで生活するってなると、コーヒーショップで働きながらたまに演奏する、みたいな感じじゃなくて、いろんな場所で演奏し続けないといけない。バーでもクラブでも、結婚式でも、バル・ミツワー(ユダヤ教徒の成人式)でも、どんな場所でも。そこでちゃんといい音楽を演奏して、人を楽しませないといけない。そういう経験のすべてがトレーニングなんだ。そういう場数を踏んでおくと、自分たちの音楽をやる時に「頑張ろう」と思わなくても自然にできてしまうんだよ。
アンディ:俺が最初にブッチャー・ブラウンと一緒に演奏したとき、すごく印象に残っているのは、「ああ、誰かの言う通りにやらなくてもいいんだ」って思ったこと。自分がやりたいように演奏すればいい。それでちゃんとフィットする。俺がベースで弾きたいことが浮かんだら、それが自然にコーリーのドラムの感覚とも合うんだ。同じことが、バンドの関係性にも言えると思う。

今年2月のブッチャー・ブラウン来日公演では、サム・フライブッシュ(Key)がDJハリソンの代理として参加 Photo by Tsuneo Koga
アシッド・ジャズ、ブラジル音楽の要素
―影響源の話に戻すと、アシッド・ジャズに言及していたのが気になりました。どういうきっかけで、どの辺のアーティストを聞いていたんですか?
コーリー:俺の場合は父親の影響だね。90年代初めの頃。あの頃はジャイルス・ピーターソンの時代だった。彼がやっていたレーベル〈Talkin' Loud〉にはジャミロクワイ、ブラン・ニュー・ヘヴィーズ、インコグニート、ロニー・ジョーダンなんかがいた。その音楽がアメリカにも入ってきたんだ。ヒップホップとかR&Bを聴いて育った人たちが、そこでまったく新しいサウンドに出会うことになった。ある意味では懐かしい音でもあったと思う。90年代初めって、キー・ベースとかフェンダー・ローズの音はあまり普通の音楽では聴かなかったからね。でも彼らはそういうサウンドを持ち込んでいた。ニュー・ジャック・スウィングとかR&Bが主流だった90年代初頭にね。だから……どう説明したらいいかな、とにかくスムース・ジャズのラジオでもよく流れていたんだ。
アンディ:この前もスムース・ジャズをかなり掘っていたよね。
コーリー:そう。だからテニシューと一緒にかなり深掘りしたんだ。彼のお父さんも、うちの父親と同じような音楽を聴いていたんだよ。俺たちはそのサウンドでつながった感じだね。たぶん「わかる人にはわかる」タイプの音楽なんだと思う。ブッチャー・ブラウンのメンバーとか、その周辺の人たち以外のミュージシャンとは、こういう話をしてもあまり通じないんだ。そもそも、その辺の音楽を聴いて育っていないからね。
そこは地域性もあると思う。俺たちはアメリカ東海岸の中部あたりで育ったんだけど、さっき言ったような音楽は親世代にものすごく支持されていた。だからラジオでずっと流れていたんだ。ロニー・ジョーダンの「After Hours」は名曲だよ。俺の周りの年上の人たちも車でよくかけていた。ヒップホップのレコードみたいに聴こえるんだ。ベースが効いていて、音量を上げるとすごくパンチがある。それに彼はビートも自分で作り、全部自分でプロデュースしていた。すごく面白いムーブメントだったと思う。そして今では、その流れが俺たちの音楽にもつながってきている気がする。
―日本はアシッドジャズをイギリスの次くらいに聴いている国で、今でも好きな人がたくさんいるんですよ。
コーリー:そうだと思ったよ! ライブで俺たちがムーディーマンのコードを少し演奏したら、みんな一気に盛り上がったもんな。「あ、好きなんだな」って分かった。
―ブッチャー・ブラウンの曲でアシッド・ジャズの影響が特に反映されているのは、例えばどの曲だと思いますか?
アンディ:「Tidal Wave」かな。
モーガン:「Unwind」もそうだと思う。あとは……。
コーリー:「Ibiza」もそう。
アンディ:「Frontline」にもその感じはあるよね。フェンダー・ローズの音がたくさん使われているものならなんでも。
コーリー:俺たちの音楽は、どんな曲でもやっぱりヒップホップの影響があると思う。ビートだったりベースラインだったり。そこにジャズの音色みたいなものが混ざってくる。そうなると、自然とアシッド・ジャズっぽい領域に入ってくるんだ。言ってみれば、インストのソウルミュージックだね。
―ここ数作はブラジル音楽の要素がかなり入っていますが、その辺りに関してはどういうものをシェアし合っていますか?
コーリー:いろいろあるよ。ジルベルト系とかね。アストラッド・ジルベルト。
テニシュー:ベベウ・ジルベルト。
コーリー:とにかくジルベルトは全部だね。
モーガン:「Changing Weather」って曲があるんだけど、『Letters From the Atlantic』の中でもいろんな要素が混ざっている曲なんだ。コーリーのドラムはトラップっぽい感じだし、ギターもそういう雰囲気がある。それにアンディのベースラインはブラジルっぽいし、レゲエっぽい感じもある。いろんなものが混ざっているんだ。
コーリー:結局、音楽のディアスポラ全体から引っ張ってきている感じだと思う。国境の南側の音楽とか、海を越えてカリブのほうとか、そういうところからね。
アンディ:他にはジャヴァンとか?
モーガン:ああ、いいね。
テニシュー:「Seagulls」はレゲエにドリルのビートを合わせた曲だけど、同時にブラジル的なリズムでもある。結局、気持ちよく感じるものなら何でも取り入れる。レコーディングの時を思い出しても、ただスタジオに入って気持ちいいと思うフレーズを弾く、そんな感覚だったよ。
アンディ:ジャンルで名前を挙げるのは、正直ちょっと難しいね。俺たちは、あまりそういうふうに考えていないんだ。何か特定の方向性を打ち出そうとしているわけでもないしね。もちろん影響源を挙げたり、どんな音楽に近いか説明することはあるけど、スタジオに入るときに「よし、今日はボサノヴァのベースラインを弾くぞ」なんて考えたことはない。
コーリー:演奏の途中で俺が「ボサ!」って言うことはあるけどね(笑)。
アンディ:たしかに、それはある。でも曲を書くときとか演奏するときの感覚は、もっと大きなスープみたいなものなんだ。いろんな材料が入った大きな鍋みたいな感じ。バンドのみんなそれぞれが持っている影響が混ざって、自然と音になって出てくる。俺たちはただ演奏するだけで、その影響のミックスがそのまま音になるんだ。
コーリー:たとえば本番前の楽屋で、誰かがアジムスを流していたとするだろ? そうするとステージに出た瞬間、急にアジムスっぽい演奏になったりする。何かがトリガーになるんだ。
テニシュー:ステージに出る直前にセットリストから曲を外して、アンディが「このベースラインを弾くから」って言うこともある。で、ライブの途中でそのベースラインが出てきたりするんだ。この前もそうだった。あれは面白かったな。
アンディ:そうそう、「みんなが『Frontline』を演奏してる時に弾くからな」って先に言っといた(笑)。
コーリー:つまり、俺たちのやり方はちょっとフリー・ジャズのバンドみたいなんだ。
モーガン:アバンギャルドな音楽をやっている感覚に近いね。
テニシュー:音楽の枠組みだけは整理してあるけど、その中での選択はかなり自由なんだ。
モーガン:俺たちは、音楽がどこへでも変化していける余地を残しておきたいんだ。『Letters From the Atlantic』も、ある程度のコンセプトを用意してスタジオに入ったけど、もしそこで違う方向に進んだら、それを止めたりはしない。音楽が求める方向に身を任せる、という感じ。その日の気分やフィーリングだったりに任せて、自然に流れていくようにする。俺たちはみんなたくさん音楽を聴いてきたし勉強もしてきた。でも音楽とは、生きて呼吸しているものなんだ。だからエゴで何かを押しつけたりはしない。音楽が行きたいところへ行くのを、俺たちは少し手助けするだけなんだ。そうやって生まれる化学反応を、そのまま受け入れる。そうすると結果的にいいものになるんだ。
コーリー:スタジオでこんなこともあるよ。誰かがちょっと買い物に行っている間にテープが回り続けていて、その間にテニシューがドラムに座ったり、モーガンがベースを弾き始めたりする。俺とアンディでスナックを買いに行って戻ってきたら、知らない間に一曲できていたりするんだ。「あれ、俺たちこの曲で演奏してないじゃん」って(笑)。でも全然いいんだ。誰も「じゃあ俺がドラム録り直していい?」とか言い出したりしない。もうそのままで最高だから。そういう即興的な部分は、これからもずっとあると思う。結局、あの部屋で起こることに任せているんだ。
エンジニアは「6人目のメンバー」
―新作は音の質感も今までとは違う感じがして、90年代のハウスとかの影響もあると思うんですけど、今作に関してはどういう質感を狙ったのでしょう?
アンディ:『Letters From the Atlantic』は、アレックス・デ・ヨングと全部一緒に作った最初の作品だったよね?
テニシュー:そう、アルバム全部を同じ場所で録ったんだ。
アンディ:あのアルバムのサウンドは、俺たちと同じくらいアレックスの存在が大きいと思う。彼が探っていた音の方向性があるんだ。アレックスはどちらかというとダブ的なサウンド感覚から来ている人で、そういう音作りが好きなんだよ。アレックスはスタジオの奥でノブをガンガン回したり、スペースエコーをつないだり、いろんな音を試したりしていた。エンジニアによっては「録音はするけど、リヴァーブやエコーを入れたければ言ってくれればやります」みたいな人もいるけど、アレックスはもう自分で楽しみながらどんどんやっていた。かなり自由にやっていたよ。
コーリー:そういうエンジニアが一番いいんだよ。
テニシュー:スキルのあるエンジニアがいるのに、俺たちから細かく指示する必要はないよね。目標だけ共有して、「そこに行くために何ができるかは任せる」っていう感じでいい。今回もそんな感じだった。俺たちはそれぞれのパートを演奏して、アレックスはスタジオ中を動き回って音を探したり、波形を動かしたり、カットしたりしていた。彼が安心してそういった作業に没頭できるような環境があることもまた大事なんだ。
モーガン:多くのバンドは、まず録音して、そのステムを別の人に送ってミックスしてもらって、さらに別の人がマスタリングするっていう形が多いと思う。でも今回は、録音もミックスも全部アレックスと一緒にやった。だから彼も俺たちと一緒に曲を作っていたようなもの。スタジオでやっていたこと全部が、そのまま曲作りの一部になっている。彼にとっても、この音楽は自分の作品みたいなものだと思う。最初から一緒に作ってきたからこそ、サウンドの細部まで深く掘り下げることができた。
テニシュー:マスタリングは、CMGのポール・ブレイクモア。エンジニアで言うと、キャム・ピーターズとジョン・チャドウィックも参加している。二人ともミュージシャンでもあって、音楽的な視点でサウンド作りに関わってくれているんだ。
モーガン:彼らとつながったのも、さっき話したザック・フィクターのおかげなんだ。ザックは今も一緒にツアーに出ていてライブのサウンドをやってくれている。エンジニアって本当に重要なんだよ。
コーリー:それに俺たちはエンジニアとも音楽を共有している。ツアーで一緒にいるから、俺たちが聴いている音楽も全部耳に入る。そうすると彼らも「よし、これを試してみよう」ってなるんだと思う。俺たちはみんな音にこだわるタイプだからね。いわばサウンド・オタクなんだよ。「このレコードのミックスどう?」とか、いつもそんな話をしている。
テニシュー:エンジニアと一緒にいるのは楽しいよ。コツとかテクニックを学べるし、自分のデモや録音もどんどん良くなる。情報を惜しまず共有してくれる人たちと一緒にいられるのは、本当にありがたいことだと思う。
―今回のアルバムはハウスっぽい曲がいくつかありますが、クラブのDJなどがかけることを想定していますか?
コーリー:かけてくれたら最高だよね。
アンディ:これを読んでいるDJのみんな、ぜひ俺たちの曲をクラブでかけてくれ。
テニシュー:俺たちの音楽を外に持ち出して、ぜひ流してほしい。好きに使ってほしい。DJでも、ラジオの人たちでも、ただ音楽を気に入ってくれた人でも、誰かがかけてくれるなら最高だよ。どんどんやってほしいね。
アンディ:俺たちは今、ブルーノート東京にいるよね。ここだとみんな席に座って、食事やドリンクを楽しみながら観ている。でも俺たちが普段やっているライブの多くは、もう少しクラブに近い雰囲気なんだ。スタンディングで、DJがいて、バーがあって、みんな踊ったりパーティーしたりしている。今回は特殊なケースだね。ショーとして観る感じで、みんな静かに、リスペクトを持って、集中して聴いてくれている。でも俺たちが普段やっているライブは、こういう感じじゃないんだ。
アンディ:もっと騒がしいよね(笑)。

ブッチャー・ブラウン
『Letters From the Atlantic』
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