
トランプ政権は「コスト削減」がすべてだと言い張ってきた──自ら戦争を始めようとする時を除いては。アメリカ現政権の暴走は、もちろん日本で暮らす我々にとっても他人事ではない。
国防総省が今月初めに議会へ提出した報告書によると、ドナルド・トランプによる対イラン戦争の最初の6日間だけで、113億ドル(約1.8兆円)という凄まじい費用が投じられた。この金額は今後、加速度的に膨れ上がると予想されている。
ワシントン・ポスト紙が水曜日に報じたところによれば、国防総省はイランでの戦費として、2000億ドル(約31兆円)の補正予算を議会に要求する方針だという。この攻勢は、すでに米国内の国民にも犠牲を強いている。13名の兵士が戦死し、数百名が負傷した。また、イランによるホルムズ海峡の封鎖は世界的な原油価格の急騰を招いており、今後は肥料や医療用化学薬品といった他の商品にも影響が及ぶと見られている。
トランプは「反戦」「非介入主義」「アメリカ・ファースト」を掲げて大統領選を戦っただけに、この戦争に対し、すでに多くの共和党支持者が裏切られたと感じている。 彼やその政権が、連邦政府の「無駄な支出」の削減や肥大化の抑制を説いてきたことを考えれば、数十億ドルを費やす終わりの見えない泥沼状態は、彼が標榜してきたブランドと真っ向から矛盾するものだ。
第2次トランプ政権の半年間を象徴するのは、イーロン・マスク率いる「政府効率化省(DOGE)」主導の情け容赦ない歳出削減と大量解雇だった。しかし皮肉なことに、この省自体の運営や解雇に伴う訴訟、効率低下、補償金などで、結果的に200億ドル以上の公金が浪費される形となっている。イランとの戦火が拡大する一方で、DOGEのメンバーは機密データの不正利用疑惑をめぐり、宣誓供述に追われる事態となっている。
昨年可決された通称「大きく美しい法案(Big Beautiful Bill)」により、議会はトランプの後押しを受け、第1期からの富裕層向け減税を恒久化した。そのしわ寄せは社会保障制度の激変として現れている。メディケイド(低所得者向け医療保険)の12%削減により、2030年までに1000万人以上が保険を失うと予測され、食料支援を打ち切られる国民も続出している。その一方で、国防予算には1500億ドル、国境警備やICE(移民・関税執行局)拡充のため国土安全保障省には1700億ドルが追加投入された。さらに、ヘグセス長官の下で「国防総省」を「戦争省」へと改称するためだけに、数千万ドルの予算が費やされている。
現政権がコスト削減についてあれこれ難癖をつけていたのは、弱者を犠牲にして富裕層を肥え太らせるための「策略」であったことが、かつてないほど明白になっている。アメリカ国民の血税が中東で爆ぜるのを横目に、本来連邦政府がその資金を投じることができたはずの項目をいくつか挙げよう。
◎医療
昨年、議会の共和党勢力は医療保険制度改革(ACA:オバマケア)を通じて購入される保険プランへの連邦補助金の増額措置を失効させるよう動いた。その結果、数百万人の国民の保険料が跳ね上がることとなった。すでに調査では、以前ACAを通じて保険を購入していた個人の10人に1人が無保険状態に陥っていることが示されている。
連邦議会予算局(CBO)の試算によれば、この補助金増額を今後10年間継続するのに必要な費用は3500億ドル、2年間の延長であればわずか600億ドルで済んだはずである。
◎育児支援
今年1月、トランプ政権はニューヨーク、カリフォルニア、イリノイ、ミネソタ、コロラドの5州において、育児支援やその他の社会プログラム向け予算を100億ドル削減すると発表した。
政権側はこの措置について、「民主党主導の州と知事たちが巨額の不正を黙認してきたこと」への対抗策だと主張。「連邦税金が正当な目的のために使用されることを保証し、これらの州に法律を遵守させ、国民が苦労して納めた税金を保護する」と言い張っている。
◎医療債務
アメリカ国民が抱える医療債務の総額は、およそ2200億ドルにのぼる。国防総省が今回の戦争のために議会に承認を求めている資金があれば、アメリカ国内のすべての医療債務を実質的に一掃できる計算だ。そう、文字通り「すべて」である。
◎対外援助
トランプ政権は、国際開発局(USAID)を解体することで、連邦政府の対外援助インフラの大部分を形骸化させた。USAIDは、廃止される前には年間約230億ドルの予算を投じていた巨大な国際開発機関だった。トランプは、史上最も効果的だった世界的援助機関の一つを息の根を止めることに成功したのだ。この影響により、2030年までに世界中で最大940万人が死亡すると予測されている。
さらに6月、政権は世界的な保健プログラムや人道支援、国際的な市民社会の開発に向けた資金を含む、80億ドル以上の対外援助予算の回収(クロウバック)を画策した。エイズ救済大統領緊急計画(PEPFAR)や、世界エイズ・結核・マラリア対策基金といった主要なプログラムも、この予算削減によって深刻な打撃を受けている。
◎食料支援
議会がトランプの通称「大きく美しい法案」を可決した際、国内最大の食料支援プログラムである「補助的栄養支援プログラム(SNAP)」から1860億ドルが削減された。この削減は2025年から2034年にわたって実施されるため、年間約206億ドルが削られる計算だ。加えて、新たな就労要件の導入により、数百万人もの人々がプログラムから追い出された。
国防総省が示した現在のイラン攻勢への支出ペースを見れば、この紛争が始まって1ヶ月足らずで、トランプ政権は「貧困にあえぐ飢えたアメリカ人から食料支援を奪って1年間に『節約』した額」よりも、130億ドルも多く使い果たしたことになる。
◎公共放送
トランプは昨年7月、公共放送協会(CPB)の予算を11億ドル削減する法案に署名した。これによりCPBは今年1月、予算不足を受けて解散を決定。また昨年8月、議会が公共放送予算の5億ドル削減を承認したことを受け、PBS(公共放送サービス)は予算を20%以上カットした。『ミスター・ロジャースのご近所さんになろう』『セサミストリート』『アーサー』といった名作番組を生んだ老舗放送局は、100人以上のスタッフの解雇を余儀なくされた。
◎未就学児教育
トランプ政権は、「DEI(多様性・公平性・包摂)」思想が浸透していると主張し、未就学児教育向けの助成金3億1500万ドルを削減した。これは、政府が戦争の最初の1週間に費やした額のほんのわずかな断片にすぎない。
◎障害者支援
昨年、厚生省は「自立生活局(ACL)」を解体すると発表した。高齢者や障害者に「ミールズ・オン・ウィールズ(配食サービス)」などの栄養支援や移動手段を提供するこのプログラムは、予算から24億ドルを削り取られた。
イランとの戦争に数十億ドルを投じることはアメリカ国民にとって無意味に思えるが、議会もそれに同意しているようだ。超党派の議員たちが、中東での「白紙委任の戦争」に公然と反対しており、国防総省が要求する2000億ドルの補正予算に対して、先んじて「ノー」を突きつけている。
「私は反対だ。すでに執行部にも伝えた。いかなる戦争補正予算にも反対する。あちら側で金を使い果たすのはもうこりごりだ」と、ローレン・ボーバート下院議員(共和党・コロラド州選出)はCNNに語った。「コロラドには生活に困っている人々がいる。今必要なのは『アメリカ・ファースト』の政策だ」
チップ・ロイ下院議員(共和党・テキサス州選出)も、別のCNNのインタビューで政権の動きに疑問を呈した。「地上軍の派遣や、そのような長期的な活動の話をしている。もはや話の次元が違う」と彼は述べた。「どうやって費用を賄うのか、この任務の目的は何なのか。彼らはもっと多くの説明とブリーフィングを行う義務がある」
バーニー・サンダース上院議員(無所属・バーモント州選出)は、今週初めのSNS投稿で、その時点で戦費として投じられていた228億ドルを下回る予算で実現可能な項目を列挙した。「680万人の子供へのメディケイド提供。260万戸の公営住宅建設。130万人分へのヘッドスタート(就学前教育支援)資金。24万人の教員採用。100万人の借り手に対する2万ドルの学生ローン免除」と彼は綴っている。
ディック・ダービン上院議員(民主党・イリノイ州選出)は、議会の承認なしに戦争を開始しておきながら、さらなる支出の承認を求めるトランプ政権の厚顔無恥さを非難した。「我々はこのイラン侵攻について、公に議論することさえしないと議場で決議した。それなのに今になって、2000億ドルという値札を突きつけてきている。到底受け入れられるものではない」と彼は記者団に語った。「この戦争には極めて多額の費用がかかる。大統領はこの国に侵攻するために、アメリカとその家族にとっての優先事項の多くを後回しにしてきた。アメリカ人の命を筆頭に、極めて高くつく代償を払うことになるだろう」
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From Rolling Stone US.