2月27日、大阪市中央区にあるホテルプリムローズ大阪にて「内航海運活性化セミナー」が開催された。

わが国の国民生活と経済活動を支える内航海運の担い手である船員は、若手の割合こそ増加傾向に転じているものの、超高齢化と人材不足が深刻だ。近畿運輸局および神戸運輸監理部が主催する同セミナーでは、教育機関による入学者増加を目指す活動や陸上職からの転職者を念頭に置いた取り組み、内航海運業界の魅力発信に精力的な民間企業による船員採用のノウハウ紹介など、海技人材のすそ野の拡大に向けた3つのテーマで講演が行われた。その模様をレポートする。

独立行政法人海技教育機構における入学希望者拡大に向けた取り組み

開会に先立ち、挨拶をした近畿運輸局次長 小澤 康彦氏は、海技人材の確保は内航海運業界の最重要課題と位置づけ、今回のセミナーの意義を強調した。

  • 開会挨拶をする近畿運輸局次長 小澤 康彦氏

    開会挨拶をする近畿運輸局次長 小澤 康彦氏

第1部の講演は、独立行政法人海技教育機構 学校教育部 募集就職課長 田中 伸也氏による「独立行政法人海技教育機構における入学希望者拡大に向けた取り組みについて」。

  • 独立行政法人海技教育機構 学校教育部 募集就職課長 田中 伸也氏

    独立行政法人海技教育機構 学校教育部 募集就職課長 田中 伸也氏

船員になるには海技士免状を取得しなければならず、学科と乗船実習が必要だ。独立行政法人海技教育機構では、海上技術短期大学校(5校)海上技術学校(2校)海技大学校(1校)の3種8校で学生を教育し、保有する5隻の練習船で乗船記録を付与している。海技資格の取得率については、海技短大の航海専科が2022年度から3年連続で100%を記録。海技短大の専修科と海技学校も2024年度は90%ほどの取得率だった。

就職率においては非常に高い目標を掲げているものの、各年度達成しているそうだが、その背景にあるのが人手不足に起因する求人数の増加だ。海技学校と海技短大の計405名に対し、2024年度は2,060名、2025年度は1月1日時点ですでに2,290名の求人が届き、その倍率は5倍を超えている。

応募者数を見てみると、2024年度に実施した海技短大の入学試験では、定員335名のところ470名が応募し、322名が入学。また、同年度の海技学校では、定員70名のところ107名が応募し、68名が入学した。応募者数は前年度に比べて海技短大は増加、海技学校は横ばいとなったが、併願による入学辞退もあり、いずれも定員を割り込んだかたちだ。田中氏は「直近の応募者数は増えているが、少子化の影響は避けて通れない」と危機感を募らせた。文部科学省の「学校基本調査(2024年度)」によると、中学生数は1986年(昭和61年)の約610万人から、高校生数は1989年(平成元年)の約560万人からなだらかに減少し、2024年度はそれぞれピーク時の半分近くまで減っている。

そんな中、独立行政法人海技教育機構は、海技短大の主なターゲットである高校生だけではなく、「既卒者」と呼ばれる大学・短大卒者や社会人経験者にまで裾野を広げている。2024年度の入学者322名のうち、およそ3割の90名が既卒者で、2023年度から増加傾向にある。その半数に当たる45名が社会人経験者だ。

少子化で、入学者の確保が極めて困難な状況ではあるが、独立行政法人海技教育機構は既卒者にも目を向けつつ、募集活動に力を注いでいる。田中氏が「黄金ルート」と表現するのが「船員を知り、船員になるための学校を知り、オープンキャンパスなどで実際に確認し、出願に結び付ける流れ」。小中学生への体験学習の実施やSNSでの情報発信、ニュースメディアやYouTubeの活用、さまざまなイベントの開催を通じて船員および学校の認知を拡大し、オープンキャンパスなどにつなげていると明かす。これらの取り組みが功を奏し、海技短大のオープンキャンパスなどへの参加者数は2023年度729名、2024年度808名、2025年度836名と、右肩上がりで増加。この約半数が応募に至っている。

オープンキャンパスなどでは、豊富な奨学金をはじめとした入学者に対する経済的支援もPRしていると話す田中氏は、3,000社を超える陸上企業が取り入れている「貸与型奨学金の代理返還」制度を紹介し、「人材採用に効果的であるため、検討してほしい」と訴えた。

最後に、学生が就活において重視するポイントとして「会社の雰囲気」「研修の有無」「乗船期間」などを挙げ、「学生はホームページには載っていないリアルな情報を求めている」と総括。田中氏は「これからも優秀な船員を輩出していきたい」と力を込めた。

生き残っていく業界・会社の特徴とは?おうら海運の事例に学ぶ

第2部の講演は、株式会社おうら海運 代表取締役 横道 数昌氏とITecMarin(アイテックマリン)株式会社 代表取締役 石川 和弥氏による「生き残っていく業界・会社とは ~海運業界の生き死にを決めるのは誰だ!?~」。

  • 第2部の講演は、横道氏と石川氏による対話形式で行われた

    第2部の講演は、横道氏と石川氏による対話形式で行われた

「海運業界をもっと魅力的に」との理念を掲げ、webメディア『アニキ船長』を運営しながら160社の船員に関する課題解決を支援しているアイテックマリンの石川氏は、内航海運業界全体を盛り上げていく必要性を指摘。発展する業界の特徴として「“完璧主義”より“実験主義”」「人材を“資産”として扱う」「共創する」の3つを挙げた。反対に「“ゼロリスク”志向」「人を“コスト”として扱う」「内向きに閉じる」業界は衰退すると警鐘を鳴らす。会社も同じだといい、伸びていく会社は環境変化を成長機会に活用できると断言。横道氏も「内航海運業界はブルーオーシャン。伸びしろしかない。それを伸ばすのも縮めるのも自分たち次第」と、同調した。

  • ITecMarin株式会社 代表取締役 石川 和弥氏

    ITecMarin株式会社 代表取締役 石川 和弥氏

石川氏は「外部環境は急激に変化している。その変化を捉え、しなやかに適応できるものが生き残る。目に見える結果の違いの下には行動の積み重ねがあり、それを支えるマインドセットが重要」と話し、学習を増やす意思決定を選び続けられるように“脳のOS”をアップデートしていくことを呼びかけた。

ちなみに、おうら海運は、トライ&エラーを繰り返した結果、船員から選ばれる会社に成長を遂げた。「40日乗船20日休暇の乗下船リズムにして、陸上勤務の年間休日数に近づけた。さらに『船乗りは子どもの学校行事に参加できない』といった昔ながらの慣習を取り払い、希望の時期に休暇を取れるように調整したところ、働く船員はもちろん、その家族からも応援してもらえる会社になった」と横道氏は語った。

  • 株式会社おうら海運 代表取締役 横道 数昌氏

    株式会社おうら海運 代表取締役 横道 数昌氏

「安全航海には、社内や船内の風通しの良さが欠かせないと考えているので、パワハラなんてもってのほか。船員を愛すると、愛社精神を持ってくれるようになった。持続的な安全航海によって荷主やオペレーターからの信頼が積み重なり、チャンスが増えている。船を運行している船員を大事にすることで会社は成長する」(横道氏)

「信用できる人間と仕事がしたい」。横道氏のこうした考え方を、石川氏が運営するwebメディア『アニキ船長』を活用して発信することで、ミスマッチのない採用を実現しているそうだ。入社前から“ファン”になってくれている船員も少なくないという。

石川氏は「最近の会社選びの優先順位は『船内の人間関係・雰囲気』と『乗下船リズム(短いリズムが好まれる)』が上位を占めている。年収や福利厚生も大切な要素だが、これからは船内のカルチャーをどう作っていくかが採用・定着の鍵を握り、それをベースに働き方や育成の仕組みを構築していくことが求められる。そのうえで、自社に合う人材を明確に要件定義して採用すべき」と提言した。

海技人材の確保に向けた行政の取り組み

第3部の講演は、国土交通省 海事局 船員政策課 課長補佐 尾崎 翔一氏による「海技人材の確保に向けた取り組み」。

  • 国土交通省 海事局 船員政策課 課長補佐 尾崎 翔一氏

    国土交通省 海事局 船員政策課 課長補佐 尾崎 翔一氏

50歳以上の船員の割合は近年減少にあり、若年船員は増えてはいるものの、直近の有効求人倍率は5倍に迫る状況で、船員ひとり当たりの総労働時間は減少している。「船員の働き方改革が着実に進展する一方で、若年船員の採用および定着促進は引き続き重要課題」と認識を述べた。

2025年6月に発表された「海技人材の確保のあり方に関する検討会とりまとめ」では、「海技人材の養成ルートの強化」「海技人材確保の間口の拡充」「海技人材の養成・就業拡大に向けた訴求強化」「海技人材の多用な働き方の促進と職場環境の改善」「新燃料に対応可能な海技人材の確保・育成」の5つの方向性に沿って、対応策を講じていくことが必要との見解が示された。

これに伴い、船員法などの一部を改正する法律が2025年4月25日に成立(同年5月14日公布)。船員職業安定制度の見直しが行われ、地方公共団体による無料の船員職業紹介事業を解禁・創設したり、快適な海上労働環境形成の促進に向けた努力義務について国が指針を策定したりする。合わせて「海技人材の養成・就業拡大に向けた訴求強化戦略」もとりまとめられ、尾崎氏は「今後は労使の関係者と連携を図り、適切にPDCAを回しながら着実な実施に取り組んでいきたい」と意気込んだ。

そして、船員行政のデジタル化にも触れ、行政手続デジタル化3原則に従った船員システムを整備するとともに、他システムとの連携も視野に入れ、さらなる負担軽減・業務効率化を推進したい考えだという。2027年4月の稼働を目指し、オンラインで申請・届出された情報を閲覧できるマイページ機能も現在構築中だ。

また、2026年4月からは各種資格証明に関する電子証明書の発行ができるようになることを受け、翌2027年4月からは船員手帳がリニューアル。身分証明に係る機能に特化する方向で検討されている。なお、今年4月から開始される船員法関係の資格手続のデジタル化に関しては、船員や事業者向けのオンライン説明会が3月に計3回開催されるそうだ。

「内航海運業界はブルーオーシャン」。明るく前向きに人手不足の解決へ

閉会の挨拶では、神戸運輸監理部長 峰本 健正氏が「どれも興味深い示唆に富んだ講演で、個人的には『内航海運業界はブルーオーシャン』というキーワードが印象的だった。さまざまな課題はあるが、関係者全員で力を合わせ、明るく前向きに盛り上げていきたい」と締めくくった。

  • 神戸運輸監理部長 峰本 健正氏

    神戸運輸監理部長 峰本 健正氏

内航海運業界は、民間企業と行政、教育機関が一体となって人手不足の難局を乗り越えようとしている。