
オアシスの参加が急遽アナウンスされ、アークティック・モンキーズの4年ぶり新曲も収録。錚々たるアーティストが集結したチャリティ・アルバム『HELP(2)』が3月6日にリリースされた。アルバムの収益はすべて War Child UK に寄付され、世界中の紛争地域で暮らす子どもたちの保護、教育、権利を守る活動に充てられる。その制作舞台裏に迫った。
昨年秋、アビー・ロード・スタジオは活気に満ちていた。長年レコード会社の重役を務めるリッチ・クラーク氏は、2025年11月後半のスタジオのカフェテリアの光景をこう振り返る。「ふと目を上げると、入り口のところでグリアン・チャッテン(フォンテインズD.C.)とカール・バラー(ザ・リバティーンズ)が話し込んでいる。あるテーブルではデーモン・アルバーンがジョナサン・グレイザー(映画『関心領域』で知られる映像作家)と一緒に座っている。すると突然、パルプのメンバーが全員入ってきて、ラザニアを買うために列に並ぶんだ」

Photo by Adama Jalloh
こうした大物たちが一堂に会したのは、チャリティ団体「War Child UK」を支援するコンピレーション・アルバム『HELP(2)』の制作のためだ。クラークはこの団体の音楽部門責任者を務めている。3月6日にリリースされる本作は、オリヴィア・ロドリゴ、キャメロン・ウィンター、ウェット・レッグ、サンファ、アーロ・パークス、デペッシュ・モード、ビッグ・シーフら、錚々たる顔ぶれによる新曲やカバー曲が収録された極めて豪華な内容となっている。
アルバムからの第1弾シングル「Opening Night」は、アークティック・モンキーズにとっても2022年以来となる新曲。アレックス・ターナーによる往年の名唱を彷彿とさせるボーカルが光る、完璧なまでに退廃的なアンセムとなりそうな予感に満ちた一曲だ。
1990年代初頭、ボスニア内戦の惨状に衝撃を受けた二人の映画製作者によって設立されたWar Childは、世界の紛争の影響を受けた子供たちに支援を提供している。それは食料、水、シェルターといった緊急のニーズだけでなく、メンタルヘルスや教育といった長期的なサポートも含まれる。同団体にはミュージシャンと提携してきた長い歴史があり、その象徴が1995年の『HELP』だ。ブライアン・イーノが主導した同作には、ポール・マッカートニー、レディオヘッド、ブラー、オアシス、ポーティスヘッドといった、当時の英国音楽界を代表するビッグネームによる新曲が並んでいた。「あのアルバムは、チャリティにとって絶大な効果をもたらした」とクラーク氏は言う。「当時、団体はサラエボの包囲網の裏側に物資を届けるといった小規模な活動を行っていた。アルバムのおかげで、活動を支える資金が確保でき、組織をスケールアップさせることができたんだ」
新しい『HELP』アルバムの構想は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の頃から練られてきた。「それ以来、中東での暴力の激化を目の当たりにしてきた。スーダンの内戦は、おそらく現在、世界で最大の人道危機へと発展している。スーダンでは1500万人の子供たちが支援を必要としているんだ」とクラーク氏は語る。「アーティスト・コミュニティの間には、何かをしなければならないという強い思いが確かに存在していた」
アークティック・モンキーズ「新曲」の背景
プロジェクトが加速したのは2024年後半、プロデューサーのジェームス・フォードが参加し、彼と長年密接に仕事をしてきたアークティック・モンキーズがすぐさま後に続いたときのことだ。「ジェームスが手がけるものは、何でも成功していくんだ」と、ドラマーのマット・ホルダーズは語る。「彼が何かをまとめ上げるとき、それが正しい動機に基づいたものであり、同時に質の高いものになることは分かっているからね」
アークティック・モンキーズとWar Childの関係は2018年に遡る。当時、彼らはロイヤル・アルバート・ホールで公演を行い、その収益を同団体に寄付した。その2年後にリリースされた同公演のライブ・アルバムは、戦争の被害を受けた子供たちのためにさらなる資金をもたらした。「ライブとアルバムを合わせて、寄付額は150万ポンド(約3億円)近くに達していると思う」とクラーク氏は言う。

アークティック・モンキーズ Photo by Phoebe Fox (@shotbyphox)
2025年末にバンドがアビー・ロードで再会した際、それは数年ぶりのスタジオでの顔合わせだった。彼らは、アレックス・ターナーが10年以上温めていた未完成の曲を掘り起こすことにした。ホルダーズの推測によれば、その曲が最初に現れたのは「かつてレコーディングを行っていたジョシュア・ツリー」でのことだ(熱心なアークティック・モンキーズ研究家なら、2009年の『Humbug』か2013年の『AM』のセッション中に浮上したのではないかと推測できるだろう。どちらも一部がカリフォルニアの砂漠で録音されている)。
「彼はこの曲を完成させたいという衝動をずっと解消できずにいた」とホルダーズは言う。「頭から離れない曲の一つだったんだろうね。完全なバージョンが存在したことはなかった。ジャム・セッションをしてパートを書き足そうとしたこともあったけど、結局ゴールラインを越えることはなかった。でも、そのまま放っておくにはあまりに惜しい曲だったんだ」
今回、彼らは『Tranquility Base Hotel & Casino』や『The Car』といった近作で進化させてきたスタイルで、この「Opening Night」に再挑戦した。「それが、実に見事にハマったんだ」とホルダーズは語る。「10年、15年前にやっていたら今とは違うものになっていただろうけど、仕上がりには全員が満足している。……まるで、自分たちがこの曲を形にできるほど上達するのを、曲の方が待っていてくれたかのようだね」
アークティック・モンキーズ新曲のレコーディング・セッション映像
巡り合わせの妙
アビー・ロードでの3日間に及ぶ『HELP(2)』のメイン・セッションには、他にもお馴染みの顔ぶれが揃った。1996年、パルプが時代を象徴するアルバム『Different Class』でマーキュリー賞を受賞した際、彼らはその賞金をWar Childに寄付した。自分たちではなく『The HELP Album』こそが受賞すべきだったと考えたからだ。それから30年を経て、ジャーヴィス・コッカー率いる面々は、彼ららしい皮肉の効いたロック・ナンバー「Begging for Change」を今回のプロジェクトに提供した。
ブリットポップ全盛期にリリースされたオリジナルの『HELP』には、ブラーによるインスト曲が収録されていた。今回は、ブラーのギタリストであるグレアム・コクソンがアビー・ロードに現れ、イングリッシュ・ティーチャー(English Teacher)の演奏に参加。一方でデーモン・アルバーンは、グリアン・チャッテンやラッパーのケイ・テンペストとタッグを組み、「Flags」という新曲を完成させた。
「僕にしては珍しく、かなりメジャーコード多めの曲だったんだ」と、ブラー/ゴリラズのシンガーは語る。「だからWar Childの話が出たとき、アイデアとして提示するのにちょうどいい曲だと思った」
デーモンはグリアン・チャッテンとケイ・テンペストの両者のファンであり、二人を「類まれな才能」と呼んでいる。スタジオで彼らと即興のトリオを結成できたことを、彼は心から喜んでいた。こうして生まれた「Flags」には、最終的にジョニー・マー、ポーティスヘッドのエイドリアン・アトリー、デイヴ・オクムがギターで参加。さらにジャーヴィス・コッカー、カール・バラー、デクラン・マッケンナ、マリカ・ハックマン、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのメンバーなど、その日スタジオにいた多くのミュージシャンたちがバックボーカルとして名を連ねることになった。
「バンドみたいに、みんなで一斉に演奏したんだ」とデーモンは言う。「チャリティのための音楽というのは、どういうわけか、どこかありきたりなものになりがちだ。でも、僕らが『ああ、チャリティ・レコードを作っているんだ』という意識に邪魔されることはなかったと思う。ただ純粋に、アビー・ロードで一緒にレコーディングすることを楽しんだんだ」

左からデーモン・アルバーン、グリアン・チャッテン(フォンテインズD.C.)、ケイ・テンペスト Photo by Lawrence Watson
この一連の光景は、『関心領域』や『アンダー・ザ・スキン』で知られる映画監督ジョナサン・グレイザーが、セッションを記録するためにアビー・ロードへ送り込んだ小学生チームの手持ちカメラに収められた。「子供たちの目を通して物語を伝えるためだ」とリッチ・クラーク氏は言う。「ある時はデーモンと一緒にピアノの椅子に座り、またある時はスタジオ3のボーカルブースでジャーヴィスの鼻先にカメラを突きつけたりしていた。それが現場の雰囲気に素晴らしい効果をもたらしたんだ。子供たちが走り回っていると、それだけでストレスが消えていくからね」
悲しいことに、2025年初頭に白血病と診断されたプロデューサーのジェームス・フォードは、セッションに直接立ち会うことができなかった。そのためWar Childは、マルタ・サローニやキャサリン・マークスといったトッププロデューサーを招聘してサポートを仰ぎ、フォードも可能な限りリモートで入力を続けた。
レコーディング最終日の12月17日、オリヴィア・ロドリゴがアビー・ロードを訪れ、ザ・マグネティック・フィールズの「The Book of Love」を、静謐ながらも圧倒的な歌声でカバーした。このトラックにはグレアム・コクソンもアコースティック・ギターで参加している。当時入院治療中だったフォードは、Zoomを通じてセッションを導いた。「彼は輸血を受けている最中に、レコーディング中のオリヴィアのヘッドホン越しに指示を出していたんだ」とクラーク氏は明かす。「非凡な男だよ。まさに天才だ」
クリスマスの頃、クラーク氏はアークティック・モンキーズの「Opening Night」を初めて聴いた。長年のファンであり、「キャムデンでスキニージーンズにネルシャツ、長髪姿の彼らを見ていたほど昔からのファン」である彼は、彼らから新曲を引き出すことが決して容易なことではないと分かっている。「当たり前のことだとは思わなかった」と彼は言う。「完全に圧倒されたよ。素晴らしい曲だと思わないかい?」
クラーク氏は、War Childのためにアビー・ロードで生まれたすべての音楽に対し、ファンがどのような反応を示すかを楽しみにしている。「素晴らしいのは、これらの楽曲の権利が、紛争の影響を受けた子供たちを永続的に支援し続けるということだ」とクラーク氏は語る。「音楽はレガシーであり、そのクオリティは今後30年にわたって受け継がれていくはずだ。そう願っているよ」
ビーバドゥービーはエリオット・スミス「Say Yes」をカバー
※追記
オアシスは、ファンに愛され続ける名曲「Acquiesce」の特別なライブ・バージョンを提供。昨年行われたウェンブリー・スタジアム7日間公演の最終日に録音されたもので、Live '25ツアーのライブ音源がフィジカルでリリースされるのは今回が初となる。

Photo by Joshua Halling
From Rolling Stone US.

V.A.
『HELP(2)』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15604
ブラック・カントリー・ニュー・ロード、ザ・ラスト・ディナー・パーティー、エズラ・コレクティヴも参加
『HELP(2)』/ 参加アーティスト(アルファベット順)
アンナ・カルヴィ (Anna Calvi)
アークティック・モンキーズ (Arctic Monkeys)
アーロ・パークス (Arlo Parks)
アルージ・アフタブ (Arooj Aftab)
オアシス (Oasis)
バット・フォー・ラッシーズ (Bat for Lashes)
ビーバドゥービー (Beabadoobee)
ベック (Beck)
ベス・ギボンズ (Beth Gibbons)
ビッグ・シーフ (Big Thief)
ブラック・カントリー・ニュー・ロード (Black Country, New Road)
キャメロン・ウィンター (Cameron Winter)
デーモン・アルバーン (Damon Albarn)
デペッシュ・モード (Depeche Mode)
ダヴ・エリス (Dave Ellis)
エリー・ロウゼル (Ellie Rowsell)
イングリッシュ・ティーチャー (English Teacher)
エズラ・コレクティヴ (Ezra Collective)
フォールズ (Foals)
フォンテインズ D.C. (Fontaines D.C.)
グレアム・コクソン (Graham Coxon)
グリーンティー・ペン (Greentea Peng)
グリアン・チャッテン (Grian Chatten)
ケイ・テンペスト (Kae Tempest)
キング・クルール (King Krule)
ニルファー・ヤンヤ (Nilufer Yanya)
オリヴィア・ロドリゴ (Olivia Rodrigo)
パルプ (Pulp)
サンファ (Sampha)
ザ・ラスト・ディナー・パーティー (The Last Dinner Party)
ウェット・レッグ (Wet Leg)
ヤング・ファーザーズ (Young Fathers)