
未曽有の活況を呈しているアイルランドの音楽シーンから、またも注目すべきバンドが登場した。その名もカーディナルズ(Cardinals)。アイルランド南部の都市コーク出身である彼らは、フロントマンのユアンとボタン式アコーディオン奏者のフィンからなるマニング兄弟、彼らの従兄弟でドラマーのダラー・マニングを中心とした6人組。現行アイルランド勢のトップに立つフォンテインズD.C.のグリアン・チャッテンも、「お気に入りの新人」として名前を挙げるほどの存在だ。
そんなカーディナルズが送り出したデビューアルバム『Masquerade』は、才能がひしめく同地のシーンの中でも稀有な個性を放っている。その最大の特徴は、やはりフィンが担当するアコーディオンのサウンド。アコーディオンが入っているというと、いかにもケルティックな作風を連想するかもしれない。だが彼らの場合は、90年代風のビッグなメロディとダークでゴシックなバンドサウンドを軸とした自らの音楽性に、その個性的な音をごく自然に溶け込ませている。アコーディオンがリードギターのように激しく駆け巡る「Anhedonia」は、本作のひとつのハイライトだろう。
そしてユアンが綴る文学的で物語調の歌詞は、コークの街をロマンティックに描写すると同時に、その内面的な葛藤も露にしている。アルバムに通底しているのは、人が社会で生きるために身につける仮面を脱ぎ捨て、自分が本当に求めているものに素直でありたいという願いだ。表層と深層、誠実さとシニシズムの間で揺れ動く姿は、「Masquerade=仮面舞踏会、見せかけ」というアルバムタイトルとも呼応している。
この見事なデビューアルバムの完成に際し、今年8月にサマーソニックでの初来日も決定している彼らに、メールにてインタビューをおこなった。
―初めてのインタビューとなるので、基本的なところから訊かせてください。カーディナルズは兄弟や従兄弟、学校の友人などで結成されたバンドですよね。どのような経緯で結成へと至り、当初はどんなヴィジョンを持っていましたか?
Cardinals:僕たちはそれぞれが別のバンドで活動していて、たまたま出会ったんだ。まさに”正しい時間に正しい場所で”という感じでね。その意味では、自分たちは幸運だったと思っているよ。で、最初はただ、自分たちが聴きたい音楽を作りたかった。地元のシーンにも、他のどこにも存在しないような音楽をね。
―あなたたちはアイルランドのコーク出身ですが、コークで育ったことは自分たちの音楽性や考え方にどのような影響を与えていると思いますか?
Cardinals:この街に移り住んできたとき、僕らはその魅力にすっかり心を奪われて、インスピレーションを受けた。少なくとも今のところ、その個性がアーティストとしての自分たちを形作っている。僕らはバンドとしてどこか内向的なところがあるけど、それもコーク的な気質なんじゃないかって思っているよ。
―カーディナルズの編成で特徴的なのが、フィンがボタン式アコーディオンを演奏している点です。ケルト音楽でも伝統的に使われてきた楽器を取り入れることにした理由を教えてください。また、アイルランドの文化的ルーツを取り入れるうえで、あなたたちが意識していることがあれば聞かせてもらえますか?
Cardinals:アコーディオンの起源はオーストリアなんだ。で、フィンはトラッド音楽も演奏してきたけど、自分のパートを書いて、それを僕たちの音楽に組み込む際には、アコーディオンをベースにした音楽からも、そうでない音楽からも、幅広く影響を受けている。僕たちはケルティックパンク的な様式からは脱却して、アコーディオンをソングライティングの構造的・テクスチャー的な土台として使っているんだ。いまアイルランドで大量に生まれているような、アイリッシュトラッドっぽい最低のポップミュージックみたいなサウンドにはなりたくないからね。
―近年はアイルランドの音楽シーンが非常に盛り上がっています。フォンテインズD.C.やニーキャップやCMATなど、さまざまなジャンルのアーティストが台頭している現在の状況を、あなたはどのように捉えていますか? また、北アイルランド紛争の余波やリーマンショック後の大不況といった社会背景の中で育ったことは、いまのアイルランドのアーティストたちの表現と何か関係があると思いますか?
Cardinals:それを答えるのは難しいね。きっと何らかの影響はあると思う。でも、いまアイルランドのアーティストがスポットライトを浴びているのは素晴らしいことだし、この状況が長く続いてほしいと思ってるよ。
―カーディナルズの音楽性を形成する上で、重要な影響を与えたアルバムを3枚挙げるとすれば何になりますか? その作品のどのようなところに感化されたのかも併せて教えてください。
Cardinals:このレコードで聴ける僕たちのサウンドは、(音楽の)アルバムだけじゃなくて、さまざまなものから形作られているんだ。でも、いくつか挙げてみるよ。
ウィッピング・ボーイ『Heartworm』:アイルランドのバンドによるダークなレコードで、たくさん影響を受けた。フィアガル・マッキーは歌詞の達人だね。
アイスエイジ『Plowing into the Field of Love』:異なるアイデアを探求しながらも一貫性を保っていて、美しく心に触れるアルバム。音楽が厳格な枠組みに縛られず、流れるように展開している。
タイプ・O・ネガティヴ『October Rust』:ゴシックなレコード。ピーター・スティールのボーカルは人を魅了してやまないよ。
―デビューアルバムの『Masquerade』は、ユアンの文学的な歌詞と、ドラマティックでパワフルなバンドサウンドが結びついた作品です。あなたたちとしては、どのような作品を作りたいと考えていたのでしょうか?
Cardinals:これまでとは違う何かに触れたかった。自分たちの街、そしてその暗い側面を視野に収めるような作品にしたかったんだ。それと、レコーディングの多くで、メトロノームを使わないと決めていた。それがラフな質感につながっていると思う。よく聴けばミスもたくさんあるけど、あえて不完全さの余白を残したかったんだよね。
―2024年リリースのEP『Cardinals』と較べると、よりダークでハード、かつスケールの大きい作品になった印象があります。あなたたちは自身の変化をどのように捉えていますか?
Cardinals:ストレートなインディーロックのサウンドには少し疲れてた。もっと自分たちにとってリアルで、正直な音楽やアイデアを探りたかったんだよ。
―サウンド面で、このアルバムをインスパイアしたアーティストや作品があれば教えてください。特に「こういう音を出したかった」という具体例があれば知りたいです。
Cardinals:さまざまなアーティストや音楽、さらには映画や文学、アートからも影響を受けている。特定の作品を目指したわけではないんだ。既存のレコードのようなサウンドを目指したことはなくて、まだ聴いたことのないものを作りたかっただけだよ。
―アルバムのジャケット写真には、オダ・ソンダーランド(Oda Sønderland)の「Fristeren」という作品が使われています。この作品がアルバム全体に決定的な影響を与えたということですが、具体的にどのようなところにインスパイアされたのでしょうか?
Cardinals:美しい作品だよね。偉大なアートがそうであるように、創作を続ける衝動をかき立ててくれたんだ。
―オダ・ソンダーランドに限らず、あなたたちは音楽以外のアート作品にもいろいろとインスパイアされているそうですね。具体的にどんな作家やアーティストがあなたたちにとって重要な存在なのでしょうか?
Cardinals:ケヴィン・バリーだね。場所の感覚や環境、そしてダークな物語を構築する力に優れている。『City of Bohane』や『Night Boat to Tangier』に描かれた世界は、僕らが作ろうとした世界観や物語の形成に大きな影響を与えたよ。
―アルバム・タイトルの『Masquerade』には、どのような意味を込めましたか? タイトル曲である「Masquerade」は、自分を装うのをやめ、「本当に求めているもの」に目を向けようとしているような歌詞だと感じます。あなたたちがこの言葉に託したテーマを教えてください。
Cardinals:これ以上多くは語れないな。アルバムそのものだけが、その意味を示してくれるものだと思ってるから。リスナーの解釈に影響を与えたくない。それは有害なことだと考えているし、バンドとして強くそう感じている。
―このアルバムには二面性があるとも話していますよね。それはアルバムの前半と後半で雰囲気が変わることや、シニシズムと誠実さという歌詞から読み取れるテーマを指しているのでしょうか?あなたの意図したところを教えてください。
Cardinals:サウンド面でもテーマ面でも、異なるアイデアを探求したかった。その結果として生まれたのが二面性なんだ。デヴィッド・リンチの作品からも影響を受けているよ。表層にある理想化された姿と、その裏側にあるものを見る視点にね。言ってしまえば、テーゼ、アンチテーゼ、そしてジンテーゼ(テーゼとアンチテーゼの統合・止揚)っていうことなんだ。
―ユアンの書く歌詞は物語性が強く、表現も文学的です。歌詞を書くうえで影響を受けた作家やアーティストはいますか? また、そうした表現に惹かれる理由も教えてください。
Cardinals:ケヴィン・バリーとソングライターのフィアガル・マッキー。どちらもそれぞれの分野で卓越した書き手で、アイルランドの精神や社会を見つめている。とても誠実なんだ。彼らの作品を読むとき、あるいは聴くとき、僕はそれを心から信じられる。
―「The Burning of Cork」はコークで起きた歴史的事件を題材にしながらも、敢えて抽象的な表現にすることで、現代に起きている様々な暴力や抑圧も想起させます。と同時に、あなたたちがその被害者に連帯の意識を持っていることも伝わってきます。この曲で描きたかったこと、そしてあなたたちが歴史や政治的な問題を作品に取り込む際に意識していることがあれば教えてください。
Cardinals:いろんな解釈が可能な曲だと思う。アイルランドの植民地支配の歴史と、現在のガザの状況を重ねることもできるだろうし、自分たちと街との関係性の変化として捉えることもできる。あるいは現代アイルランドの文化的状況の文脈で見ることもできる。一つの意味に固定してしまうのは単純化し過ぎだと思う。リスナー(の解釈)に委ねたいね。
―今年の夏にサマーソニックでの初来日が決まりましたが、どんなライブを期待していいでしょうか?
Cardinals:日本に行けるのを本当に楽しみにしているよ。僕ら全員にとって、長い間いちばん訪れたかった場所かもしれない。この夏は多くのフェスで演奏してきたから、きっと素晴らしいショウになると思う。とても興奮しているし、熱意に満ちているんだ。
―初来日に向けて楽しみにしていることはありますか?
Cardinals:新しい場所を探索して、新しい経験をして、新しい人たちと出会うのが楽しみだね。でも正直なところ、何が待っているのかはまだ想像もつかないよ!

『Masquerade』
Cardinals(カーディナルズ)
So Young Records
配信中
配信リンク:https://cardinals.lnk.to/Masquerade
Tracklisting
1. She Makes Me Real
2. St. Agnes
3. Masquerade
4. I Like You
5. Over At Last
6. Anhedonia
7. Barbed Wire
8. Big Empty Heart
9. The Burning Of Cork
10. As I Breathe