採用競争の次に来るのは、定着競争か。2月12日、チャンスメーカーは、従業員への感謝やねぎらいを「仕組み」として届ける新たな福利厚生ギフトサービス「ちょこギフ」の説明会を開催した。

深刻な人手不足が続くなか、外国人労働者を含む多様な人材のエンゲージメント向上をいかに図るべきか。専門家や企業の視点を交え、新しい福利厚生のあり方が議論された。

  • 2月12日「福利厚生ギフトサービス『ちょこギフ』発表・事業説明会」が開催された

    2月12日「福利厚生ギフトサービス『ちょこギフ』発表・事業説明会」が開催された

「言語の報酬」はイノベーションを起こす組織作りに不可欠

説明会の冒頭、チャンスメーカー 取締役副社長の新堀孝一氏はサービスの開発背景を語った。1910年に印刷会社として創業した同社は、116年にわたり「想いを形にして届ける」ことを生業としてきた。その中で直面したのが、企業の離職率の高さとエンゲージメントの低下という社会課題だ。

  • チャンスメーカー 取締役副社長の新堀孝一氏

    チャンスメーカー 取締役副社長の新堀孝一氏

新堀氏は、組織内に「感謝や情報が届く人と届かない人の格差」、つまり“チャンスの格差”が生まれていると指摘。「本来生まれていたはずの行動意欲が、この格差によって失われている。感謝を個人任せにせず、確実にお届けする仕組みが必要」との信念が、新サービス「ちょこギフ」の原点となった。

  • チャンスメーカー 事業推進室長の古市哲也氏

    チャンスメーカー 事業推進室長の古市哲也氏

事業責任者の古市哲也氏によれば、同社が先行して社内で実施した取り組みでは、入社や誕生日などのタイミングでギフトを贈ることで、離職率が2%から1%まで改善したという。デジタル化が進む現代だからこそ、あえてハガキや手紙といったアナログな手法を用いることで、働く者の心理的安全性を高める狙いがある。

パネルディスカッションに登壇した福利厚生研究の第一人者、山梨大学 名誉教授の西久保浩二氏は、現在の労働市場における福利厚生の重要性を強調した。

  • 山梨大学 名誉教授/福利厚生戦略研究所 代表の西久保浩二氏

    山梨大学 名誉教授/福利厚生戦略研究所 代表の西久保浩二氏

西久保氏は、近年の学生が企業を選ぶ際、給与額以上に「福利厚生の充実」を重視しているという調査結果を示し、「賃金は他社に追随されやすく差別化が難しいが、福利厚生は各社独自の個性を出せるツールだ」と述べた。

特に「ちょこギフ」が提唱する「言語の報酬(ありがとうの言葉による承認)」について、西久保氏は次のように評価する。

「日本の伝統的な福利厚生は社員旅行のようなコミュニケーションを重視した制度が主流だったが、こうして個々に直接的な変動報酬を提供するアプローチは非常に新しい。外国人や若者など、今の労働者の価値観にも合致しているのではないか」(西久保氏)

さらに西久保氏は、「金銭や物質ではない『言語報酬』こそが心理的安全性を最も高める。イノベーションを起こせる組織作りには不可欠」と指摘しつつ、企業が提示する福利厚生が見せかけだけで終わることへの警鐘も鳴らす。「期待して入社したのに実態が伴わない『ネガティブ・サプライズ』があれば、定着意欲は激減する。社員のハートに刺さる内容をいかに提供できるかが問われる時代だ」と訴えた。

  • UTスリーエム 代表取締役社長の筑井信行氏と同社社員の若生カルロス氏

    UTスリーエム 代表取締役社長の筑井信行氏と同社社員の若生カルロス氏

「ちょこギフ」の導入企業の事例として登壇したのは、UTスリーエム 代表取締役社長の筑井信行氏だ。同社は製造業を中心に、2,000名を超える日系ブラジル人などの外国人材を派遣している。

「企業が人を選ぶのではなく、選ばれる企業にならなければならない」として「求職者ファースト」の方針を掲げるUTスリーエム。年間1,000名以上を採用する中で、社長自らが全員に挨拶することは物理的に不可能だ。そこで活用されたのが「ちょこギフ」だった。

「地球の裏側から覚悟を持って日本に来る外国人スタッフに対し、言語の壁を超えて感謝を伝えるには、ギフトを一人ひとり丁寧に届けることが非常に有効」と筑井氏は語る。実際に同社では、社長メッセージを日本語とポルトガル語で併記したハガキを贈り、家族も含めた安心感の醸成に努めているという。

現場で働くスタッフからも好意的な反応が寄せられているようで、UTスリーエムで働く日系ブラジル人の若生カルロス氏は「上司が自分の頑張りを見てくれていると実感できて嬉しい。もっと頑張ろうという気持ちになる」と明かす。日常生活での手続きや言語の壁に不安を抱える外国人労働者にとって、企業からのこうした労いは、プレゼント以上の支えになっているようだ。

「ちょこギフ」は、日本語・英語・ポルトガル語・ベトナム語・インドネシア語の5言語に対応し、1人あたり年額2,800円、または1回550円からという導入しやすい価格設定となっている。エンゲージメントを数値で測るツールが溢れるなかで、「エンゲージメントを測る前に、まずは感謝を伝える文化を育てる土壌を作ってほしい」という同社の願いの表れだという。

人手不足が深刻化し、多様なバックグラウンドを持つ人々が共に働く日本社会。感謝の言葉を仕組み化した「ちょこギフ」は、これからの時代の新たな福利厚生となる可能性を秘めている。