久しぶりに高齢の家族に会ったとき、「歩くのが遅くなったな」「前よりつまずきやすい気がする」――そんな変化に、ふと不安を覚えたことはありませんか。

転びやすくなるのは加齢で足腰が衰えたからと思われがちですが、60代以降の世代では、“脳の老化”や“病気のサイン”として歩き方に変化が現れることもあります。

今回は歩行変化と脳の関係を解説します。

歩き方の変化は「足腰」だけの問題ではない

  • ※画像はイメージです

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高齢になると転びやすくなると言われますが、それは「歳だから仕方ない」ことではありません。近年の研究では、軽度認知障害や認知症のある人では歩行の悪化が早期からみられる一方、健康な高齢者では変化が比較的ゆるやかであることが報告されています。歩き方が変化するのは単純に歳を取ったからではなく、認知症の症状の可能性もあります。

歩行は足腰だけで行うのではなく、脳が指令を出してコントロールしています。歩行中は運動神経だけでなく、注意力、遂行力、空間認識力など、数々の認知機能を使っています。こうした認知機能の低下や脳の運動機能を司る部分で問題が起こることで、歩き方に影響が及ぶのです。

どの年代から起こりやすい?

歩行速度は65歳を過ぎると徐々に低下するとされ、80歳前後になると日常生活に影響が出る人も増えてきます。その原因は加齢による筋力やバランス能力の低下のこともあれば、高齢になるほどリスクが高くなる病気の場合もあります。病気が原因でも本人は「歳のせい」と捉えて気にしていないことも。もしくは、認知機能も含めた自分の変化に戸惑っているのを隠しているかもしれません。帰省して久しぶりに会う子世代の方が違和感に気づきやすいでしょう。

こんな変化に気づいたら注意

特に次のような歩き方の変化は見過ごさないようにしましょう。

・すり足で歩く
・狭い歩幅で小刻みに歩く
・左右非対称に歩く(歩幅や歩行速度が左右の足で異なる)
・歩くときにふらつく
・最初の一歩がなかなか出ない
・方向転換が苦手になる
・ぶつかりやすくなる
・つまずきやすくなる
・うまく止まることができない

これらは単独で見れば軽い変化でも、複数当てはまる場合や急に現れた場合は注意が必要です。このような歩き方はいずれも転倒の危険があるため、転びにくいよう環境を整える、受診して原因を調べるといった対処が必要になります。

「歳のせい」と決めつけないでほしい理由

こうした歩き方の変化は、高齢の人にはよくあることですが「歳のせい」で片付けるのは危険です。脳や神経系の病気の可能性もあり、その病気の中には早期に見つけて治療を開始すれば回復できるものや進行を遅らせられるものもあるからです。脳の病気ではなかったとしても、フレイルやサルコペニアの状態かもしれません。この場合も、対策をすることで健康な状態に戻ることができ、介護が必要な状態になるのを遅らせることができます。

脳神経内科が注目する病気の可能性

では、歩行に変化があるときはどんな病気が疑われるのでしょうか。認知症の原因となる病気はいくつかありますが、中には歩行障害が初期症状として現れるものや、特徴的な歩き方が見られるものがあります。

高齢者に多い「特発性正常圧水頭症」は歩行障害が代表的な初期症状です。歩き方は足を開き気味ですり足や小刻みで歩くという特徴があります。ほかの症状よりもこうした歩行障害が最初に現れることが多い病気です。

50~60歳以降から発症する「パーキンソン病」では、前かがみでちょこちょこ歩きになる、歩幅が狭くなるといった症状があります。

認知症の中でアルツハイマー型認知症に次いで多い「レビー小体型認知症」では、パーキンソン症状を伴うことが多く、左右差のある歩き方がみられることがあります。

小さな脳梗塞や脳出血でも運動麻痺が起こることで左右のバランスが崩れたり、転びやすくなったりします。

受診先と声のかけ方

歩き方が気になるときは、脳神経内科で検査を受けることができます。

特に、急に歩きにくくなった場合や左右差がある場合は、脳卒中の可能性もあるため、早めの受診が重要です。言葉が出にくい、しびれを伴うなどの症状があれば、救急受診を検討してください。

歩行の変化だけでは、本人が受診をためらうこともあります。その場合は、「転びやすくなったみたいだから、一度診てもらおう」など、転倒予防の観点から声をかけるのもひとつの方法です。転倒をきっかけに一気に要介護状態になることもあるため、早めに原因を調べることが大切です。

歩き方の変化は、脳からのメッセージかも

歩き方の変化は、単なる老化ではなく脳の異常のサインの可能性があります。脳の病気には怖いイメージがあるかもしれませんが、今は早期の治療で回復したり、進行を遅らせたりすることも可能です。若い世代が気づいて行動することで、高齢者のこれからを守ることにつながるかもしれません。小さな違和感に気づいたら、念のために受診するなど専門家につなげるようにしてください。

最後に脳と歩行の関係について、脳神経内科の専門医に聞いてみました。

高齢者にみられる歩行の変化は、フレイルやサルコペニアといった加齢に伴う筋力低下のみならず、中枢神経系の障害を反映している場合があります。歩行は脳による高度な統合機能であり、運動制御に加えて注意機能や遂行機能も関与します。そのため、歩幅の減少、すり足、小刻み歩行、ふらつき、すくみ足などは、脳血管障害、パーキンソン病、特発性正常圧水頭症、小脳疾患などの初期症状として出現することがあります。

これらを「年齢変化」と自己判断せず、変化が持続する場合や左右差、転倒リスクを伴う場合には、早期に脳神経内科での評価を検討すべきです。原因を早期に特定することで、治療やリハビリテーションによる機能改善や進行抑制が期待でき、生活機能の維持につながります。家族による日常的な観察と受診の後押しが、重要な予防医療の一環となります。

栗田 尚英(くりた なおひで)先生

一宮西病院 脳神経内科医長
資格:日本内科学会 総合内科専門医、日本神経学会 神経内科専門医