中国地方海運組合連合会(中海連)&海と日本プロジェクトコラボイベント『練習船「広島丸」に乗って海の仕事を体験しよう!』(練習船広島丸体験乗船イベント)が、11月29〜30日に開催。広島商船高等専門学校(広島商船高専)の練習船である「広島丸」の乗船体験や造船事業者の見学を実施し、船や海に関わる仕事の魅力を親子で触れてもらうために行われた本イベント。公募で集まった小5年~中学3年24名が広島丸での船中泊などを体験した。
超大型船を建造する呉の造船所を見学
国内貨物輸送量の約4割、鉄鋼や石油製品といった産業基礎物資の物流の9割以上を担い、日常生活を支えている内航海運。一方で多くの人にとって内航船の仕事に接する機会は少なく、職業選択の候補に挙がりにくいことなどから近年は人手不足が進んでいる。
船員を養成する商船高専の練習船を活用した今回のイベントは、小・中学生が船員などの仕事を目指す原体験づくりのため、様々な体験プログラムを通じて、内航海運や造船について学ぶというもの。
2015年にスタートした日本財団「海と日本プロジェクト」の取り組みの一環として、また、「日本内航海運組合総連合会」とその構成団体である「中海連」の事業の一環として実施された。
1日目の午前9時、呉に集合した一行は早速バスに乗り込み、「ジャパン マリンユナイテッド」(JMU)の呉事業所へと向かった。
横浜に本社を置く「JMU」は、石川島播磨重工業(現IHI)の造船部門が2度の大きな再編を経て、2013年に設立した国内シェア第2位の大手造船会社で、国内6拠点に事業所と2つの技術研究所を持つ。
2021年に同社は今治造船と資本業務提携を締結。「JMU」呉事業所は今治造船とのコンソーシアムによって、海運大手ONE(オーシャンネットワークエクスプレス)が運航する全長400メートル、20フィートコンテナ2万4000個を積める世界最大級のコンテナ船2隻を建造している。
近代日本の造船の歴史が刻まれたドック
1903年に設立された造船所「呉海軍工廠」の跡地にある「JMU」呉事業所では、協力会社の社員も含めて現在約2000人が働いている。敷地の中央に位置する船穀工場は、撓鉄職人などが設計図に基づいて鉄板を加工し、大きな構造物を作り上げる場所だ。
急激な温度で変形する鋼材の特性を利用し、ガスバーナーの火と水だけで厚さ25〜100ミリの鉄板の曲げ加工を行うという。船の複雑な形状に合わせて鉄板を曲げる精密な加工には熟練の技術が求められ、撓鉄職人は造船業で欠かせない高度な専門技術者だ。
建造ドックでは特殊な台車や巨大なジブクレーンなどを使い、これらの鉄板を組み合わせた200〜300トンほどの鉄のブロックを、一個ずつつなぎ合わせるようにして船体を作り上げていくという。
1889年の「呉鎮守府」の開庁以来、130年以上の歴史がある呉の造船業だが、「JMU」呉事業所の敷地内には、「大和建造ドックの大屋根」「日露戦争の戦勝品の排水ポンプ」といった日本遺産を構成する文化財も存在する。
戦艦「大和」を秘密裏に建造するためにつくられた「大和建造ドックの大屋根」は現在も大型船の船体部分を作る工場の一部になっており、大和の建造で使われた戦前製のクレーンも現役。「日露戦争の戦勝品の排水ポンプ」もドックから海水を抜くポンプとして、今も普通に使われている。
呉海軍工廠時代に設計部が入っていたレンガ建築は現在、倉庫や歴史資料館として活用されているほか、大砲などの部品を管理していた造機部の事務所棟は、いまもIHI社の事務所になっているそうだ。
「JMU」呉事業所の敷地面積は39万平米と、日本造船最盛期に建設された有明事業所の半分にも満たず、造船所の敷地としては小規模とのこと。しかし、工場施設の配置やタイムスケジュールなどを工夫しながら効率化を追求した結果、巨大な船でも船体だけなら90日ほどの期間で完成させられる製造能力を持つという。
ちなみに呉事業所の工場は近年フル稼働状態。円安も追い風に業績は好調で、若手への技術継承も進められており、今年はボーナスが4回も出たとのこと。
未来の船員たちと甲板で昼食、操船も体験
2時間ほど掛け、約2キロにわたる造船所の各施設を見学した後は、再びバスに乗車して大和波止場へ移動。広島商船高専の練習船「広島丸」に乗船し、広島商船高専がある大崎上島を目指して呉の港を出港した。
全長57.0メートル/総トン数234トンの「広島丸」は、平成9年2月に竣工した広島商船高専の4代目の練習船。航海速力14.4ノット、最大搭乗人数56名で、船長や機関長をはじめ9名の船員で運航される。現・「JMU」呉事業所で建造されており、2027年には同校で5代目の練習船となる船が、横須賀の造船所で竣工予定とのことだ。
同船の案内役として小・中学生をサポートするのは10名の広島商船高専の3年生たち。参加者の小・中学生たちは、甲板で広島商船高専の学生たちと昼食を食べながら、すぐに打ち解けていた。
広島県大崎上島町にある広島商船高専には総合科学科と商船学科の2学科があり、5年間の就学期間で学科別に高度な専門的授業を受け、卒業生は準学士の学位を得る。航海士や機関士などを育成する商船学科では練習船による航海実習などを行い、最終学年では学生が主体となって操船や機関の運転・管理を行う実習もあるそうだ。
産業界から同校への求人票数は就職希望者の10倍以上で、就職率は100%。もちろん、専攻科や大学への3年次編入といった進学も可能だ。
昼食を済ませると、参加者たちは各居室に備えられている救命胴衣の着用方法などを教わり、班ごとの船内体験プログラムでは実際に船橋で操船なども体験した。
起き抜けに伝統の“ヤシ擦り”を体験
大崎上島の専用桟橋に到着後は、広島商船高専で「モンキーフィスト」というロープワークによるキーホルダー製作や、操船シミュレーターによる操船体験などが行われた。
帰船後は船内での夕食・入浴(シャワー)となり、参加者の小・中学生と広島商船高専の学生たちが交流する時間も。「猛獣狩り」や「じゃんけん列車」などのレクリエーションで、すっかり夜が更けるまで盛り上がっていた。
1日目の最後には参加者の小中学生たちが1人ずつイベントに参加した感想を発表することに。「金属のニオイや機械が動く音を聞いて、ワクワクしました」といった声や、中学生などからは将来の仕事や進学先の選択肢が増えたといった内容の感想も多く聞かれた。
翌朝は6時半に起床し、身支度もそこそこに甲板ですぐラジオ体操。海洋実習船などの伝統的な船体清掃の作業“ヤシ擦り”を少しだけ体験することになった。
2列で向き合い、「わっしょい」「わっしょい」と交互に掛け声を出しながら、チーク材のデッキを磨くのが広島商船高専のスタイル。寒さでかじかむような朝だったが、デッキブラシ代わりにヤシの実を使い、みんな一生懸命に木甲板を磨いていた。
朝食などを済ませて出港準備中の機関部の仕事を見学。再び2班に分かれ、船橋や機関室でクロスベアリング(交差方位法)とロープワークを学ぶ。クロスベアリングは複数の方位線を海図に記入し、方位線が交差する点から船の現在位置(船位)を割り出す航海技術。
海図上に記載された、船から視認できる陸上の固定された目標物(灯台、岬の先端、特徴的な山など)を2つ以上選び、コンパスを使って方位を測定する。GPSが発達した現代でも機材トラブルなどの非常時に大切な技術で、航海士の基本訓練の一つだという。
また、木甲板では「第1回広島丸船上運動会」と題したチーム対抗のレクリエーションも開催され、参加者たちは最後まで広島商船高専の学生や船員たちとの交流を深めたようだ。
職人が働く造船所の見学に始まり、船上での体験プログラムやレクリエーションまで、濃密な時間を過ごした小・中学生たち。それぞれに海に関わる仕事や商船高専の雰囲気を五感で感じ取ったようで、広島港に到着して下船した後も出港する「広島丸」を見送り、別れを惜しむ姿が印象的だった。





















