冬は、高齢者にとって心身ともに負担がかかる季節です。寒さによる活動量の低下や室内外の温度差、水分・栄養不足など、日常に見えにくい落とし穴が潜んでいます。この記事では、家庭で取り組める小さな工夫を通して、押さえておきたい5つのリスクとその対策を紹介します。
1. 転倒
高齢期の転倒は「予期せぬ介護のスタート」につながります。転倒により骨折したことで入院し、要介護状態になってしまうケースは少なくありません。LIFULL介護の調査でも、入院をきっかけに要介護度が重くなった人は4割を超えており、高齢者は入院を機に身体状態が悪化しやすいことがわかっています。
冬場は寒さで体が強張り、筋力やバランス能力が低下しやすいことに加え、室内では暖房器具のコードが増えたり、厚手の靴下で滑りやすくなったりと、環境要因による危険が高まります。夜間のトイレ時に足元が暗いまま移動し、転んでしまうケースもよく聞きます。転倒を防ぐには、「生活環境を整えること」と「身体の安定性を保つこと」などが重要です。
家庭でできる予防方法
①生活動線を見直して環境を整える
こたつなど暖房器具の配線が床に増えると、つまずきのリスクが上がります。不要な家具や敷物を減らし、滑りやすいラグには滑り止めをつけましょう。玄関・廊下・トイレに手すりを設置するのも有効です。要支援以上であれば、介護保険の住宅改修(最大20万円)が利用できる場合があります。
②夜間の足元を明るくして安全を確保する
転倒が多いのは夜間の移動時です。玄関、廊下、トイレにセンサーライトを設置し、足元をしっかり照らすことで事故の可能性を大幅に減らせます。
③口腔の健康を整え、姿勢の安定性を高める
意外に思われるかもしれませんが、口腔の健康状態は転倒予防にも関わります。歯がない人は転倒リスクが2.5倍以上高いという研究もあり、入れ歯の適切な使用や定期的な調整は姿勢の安定にもつながります。しっかり噛める状態を保つことは、安全な歩行にも繋がるのです。
2. ヒートショック
冬場に特に注意が必要なのがヒートショックです。脱衣所が冷え込み、そこで服を脱いだ後に熱い湯へ入ると、血圧が急激に乱高下し、心臓や血管に大きな負担がかかります。古い家屋では脱衣所と浴室の温度差が10度以上になることも珍しくありません。特に高齢者は体温調節機能が低下しているため、この急激な温度差に適応しきれず、失神・心不全・脳卒中など深刻な事故につながる危険があります。厚生労働省の統計によると、家庭内の入浴中の事故死は交通事故死のおよそ3倍 とされ、冬の入浴は家庭内でもっとも注意すべき場面のひとつと言えます。
家庭でできる予防方法
①寒暖差をなくす
入浴の30分前には脱衣所の暖房を入れ、シャワーを数分出して浴室全体を温めておくと、温度差が大幅に軽減されます。浴室に窓がある場合は断熱シートを貼る・すきま風を塞ぐなどの簡易な対策でも効果があります。また、湯温は41℃以下、お湯につかる時間は10分以内を目安にし、浴槽から急に立ち上がらないこともポイントです。
②IoTを活用した見守り
離れて暮らす親がいる場合、脱衣所にWi-Fi機能付き温度計を設置し、子どもが遠隔で室温確認できると安心です。もしも室温が極端に低い場合は、「入浴前にヒーターをつけてね」と注意を促すコミュニケーションもできるでしょう。また、ドアの開閉センサーを脱衣所(洗面所)に設置することで、親が万が一浴室で意識を失っていた場合でも異変に気づきやすくなります。同居の場合でも、入浴前にひと声かけ合う習慣があると、万が一の際の早期発見につながります。
3. 感染症(肺炎・インフルエンザ・ノロウイルスなど)
今年もインフルエンザが猛威を振るい、地域によっては警報レベルとなるなど、例年より流行が早いという報告も出ていますが、肺炎も注意したい病気の一つです。厚生労働省『人口動態統計』によると、肺炎による死亡者のうち約9割が65歳以上 とされており、高齢者に集中していることがわかります。わずかな風邪症状から短期間で重症化するケースもあり、基礎疾患のある方はなおさら注意が必要です。また、冬に流行するノロウイルスは吐き気や下痢だけでなく、脱水を引き起こしやすいことから、冬の水分不足と重なると体力を大きく奪うことがあります。
家庭でできる予防方法
①室内環境を整える(湿度40〜60%・換気・手洗い)
湿度を40〜60%に保つことでウイルスの増殖が抑えられます。加湿器がなくても濡れタオルを干すだけで効果があるそうです。また、帰宅後の手洗い・うがい、ドアノブやスイッチなどの共用部分の消毒も日常的に行いましょう。
②体調の小さな変化を見逃さない
高齢者は発熱や強い症状が出にくく、「なんとなく元気がない」「食事量が減った」「歩き方がいつもと違う」といったわずかな変化が初期サインであることがあります。普段から食事・睡眠・表情・歩行の様子を観察し、違和感があれば早めに医療機関へ相談することが重症化の防止につながります。
4. 脱水・低栄養
冬場に「脱水」と聞いてもピンとこないかもしれません。しかし、暖房で室内が乾燥し、喉の渇きを感じにくくなる高齢期の特性が重なることで、実際には冬こそ水分不足が起こりやすい季節なのです。さらに寒さによって活動量が落ち、食事量が減ることで低栄養につながるケースも多く見られます。「なんとなく元気がない」「歩くとふらつく」と感じるとき、その背景に脱水や栄養不足が隠れていることは珍しくありません。
厚生労働省の統計では、65歳以上の高齢者のうち、男性12.2%、女性22.4%が低栄養 の状態にあるとされています。特に高齢期の低栄養は、筋肉量の減少を通じて転倒リスクを高め、免疫力を弱めるため、肺炎や感染症の重症化にもつながります。冬場に多い体調不良の“土台”には、水分不足と栄養不足が重なっていることが少なくありません。
家庭でできる予防方法
①喉が渇く前に飲む習慣をつくる
1日1.5〜2リットルを目安に、500mlのペットボトル3本を用意して飲んだ量を“見える化”すると続けやすくなります。温かいお茶やスープは飲みやすく、体も温まるため冬場の水分補給として適しています。
②たんぱく質と水分を同時にとる食事を心がける
卵・豆腐・魚など、調理しやすく消化に負担のないたんぱく質を意識的に取り入れましょう。味噌汁や煮物などの汁物を組み合わせると、「水分+栄養」を一度に補えるため、食が細くなりやすい高齢者でも負担なく続けられます。
冬場の体調不良の背景には、水分・栄養・活動量の3つが深く関わっています。これらを整えることが、冬を安全に過ごすための第一歩といえるでしょう。
5. 認知機能の低下
冬場は外出の機会が減り、家の中だけで過ごす時間が長くなる季節です。活動量が落ちると生活リズムが乱れ、食事量の低下や昼夜逆転が起きやすくなります。さらに、人との交流が途絶えやすくなるため、会話が減り、刺激の少ない生活に陥りがち。こうした変化が重なることで認知機能に影響が出やすくなります。また、人との交流が減り孤立することは、要介護状態へ移行する中間の段階である「フレイル」のリスクを高める要素でもあります。
家庭でできる予防方法
①運動習慣をつくる
ラジオ体操やテレビ体操、YouTubeの簡単なエクササイズなど、短時間でもよいので毎日体を動かす習慣を作りましょう。筋力維持だけでなく、生活リズムの安定や気分転換にもつながります。
②定期的なコミュニケーション
電話がもっとも一般的ですが、メッセージアプリや写真共有アプリなど、デジタルツールを使って離れて暮らす家族ともつながりを保ちましょう。何気ないやりとりでも心の刺激となり、孤立の予防に役立ちます。
冬場の認知機能の低下を防ぐためには、「体を動かす」「人とつながる」「生活に変化を取り入れる」という3つの視点を意識的に取り入れることが大切。小さな習慣の積み重ねが心身の活性化につながります。
冬場の心身の不調はゆっくりと進むため、気付いたときには生活全体に影響していることがあります。だからこそ、住環境を整える、水分や栄養を意識する、人とのつながりを保つといった日々の習慣を無理なく続けられるよう、家族がサポートすることが大切です。 過度に干渉せず、見守りや声かけを重ねながら、高齢の親が穏やかに過ごせる環境づくりを一緒に整えていきたいですね。
