青森県・五所川原圏域の2市4町とNTT東日本 青森支店は地域防災力向上の取り組みに関する連携協定を締結し、11月5日に深浦町、11月7日に五所川原市で実証訓練を行った。デジタルを活用した避難所運営と、そこから見えてきた課題を伺ってみたい。
五所川原圏域の2市4町とNTT東日本が連携協定を締結
人口減少・少子高齢化が進行する中で、労働力不足によるさまざまな問題が露わになってきた。とくに過疎化が進む地方都市においてはその傾向が顕著であり、喫緊の課題になっている。
青森県の五所川原圏域は、2022年8月の記録的豪雨によって大きな被害を出した。だが気候変動に伴う自然災害の脅威が深刻さを増すなか、五所川原圏域ではマンパワーが足りず、防災対策が行き届いていないのが現状だ。
この課題に対応すべく連携協定を結んだのが、五所川原市、つがる市、鰺ケ沢町、深浦町、鶴田町、中泊町の2市4町とNTT東日本 青森支店となる。主な連携事項は次の3つ。
- (1)災害対策関連業務の調査及び当該業務におけるリスク分析
- (2)リスクに対する解決策の検討及び実証実験
- (3)五所川原圏域2市4町の地域防災力向上に向けた協議
2市4町およびNTT東日本は、五所川原圏域の防災力向上に向けて議論を進め、11月5日に深浦町、11月7日に五所川原市で避難所の開設・運営に関する実証訓練を開催した。
訓練では防災セミナーとともに、段ボールベッドや災害用トイレの使い方がショート動画でレクチャーされたほか、マイナンバーカードや免許証、またはスマートフォンと二次元コードを使った避難所のデジタル受付、避難所の3Dデジタル化による可視化や広域避難のシナリオ確認などが行われた。
そして11月12日、2市4町とNTT東日本の代表者が五所川原市民学習情報センターに集い、この訓練を振り返る「第9回 五所川原圏域防災力向上検討会」を開催。訓練の成果とアンケート結果、そして課題と展望について話し合った。
実証訓練と検討会を踏まえ、五所川原市 総務部 防災管理課で課長補佐を務める飛嶋一輝氏、NTT-ME 東北ブロック統括本部 青森エリア統括部 エリアプロデュース担当 チーフの田名部晃氏にお話を伺ってみたい。
デジタル技術をマンパワー不足の解消に活かす実証訓練
デジタル技術を活用した地域課題の解決や活性化の業務を行っており、近年は防災分野でのDX推進の支援に取り組んでいる田名部氏。同氏はまず、地域防災力向上の取り組みに関する連携協定を締結した経緯について話す。
「2024年度に五所川原圏域2市4町のみなさまにご協力いただきまして、防災のリスクアセスメント調査を行わせていただきました。その結果から、各自治体さまにはお困りごとや悩み事に共通的な部分があることがわかったのです。そこで我々が間に入り、『共通課題の解決に取り組みませんか』とお声がけしました」(NTT-ME 田名部氏)
NTT東日本 青森支店が連携協定に加わっている理由は、そのデジタル技術をマンパワー不足の解消に活用するためだ。NTT東日本はもともと東日本全域に支店を持ち、地域との繋がりが強い。近年、同社は通信インフラの提供に加え、地域の価値創造を事業の柱としている。今回の連携協定もまた、パーパスである「地域循環型社会の共創」に基づくものと言えるだろう。
「その実行部隊として、我々NTT-MEがいます。災害対策関連業務の調査や、さきほど申し上げた防災のリスクアセスメント調査分析、それから課題に対する解決策の検討などを通して、実際に2市4町の課題解決に向けて伴走する役割です」(NTT-ME 田名部氏)
五所川原圏域の取り組みのテーマは大きく3つ。一つ目は「広域避難体制の整備」、二つ目が「避難所環境の向上」、三つ目が「防災実践力の向上」だ。より具体的には、次の3点を目指す。
- 自治体の行政区域を越えた安全で迅速な避難の実現
- 五所川原圏域内の物資シェアリングによる避難生活の質向上
- 住民を巻き込んだ防災訓練による自助・共助・公助の向上
「マンパワーが不足するということは、従来のやり方では回らなくなるということです。やり方自体を変えていかなければなりません。我々はその手段のひとつがデジタル化だと思っています。100%は難しいにしても、DXによって効率化を進め、地域住民や自治体職員のみなさんが少しでも楽になればと考えています」(NTT-ME 田名部氏)
課題はデジタル・アナログそれぞれの特徴の見極め
2市4町の防災担当とNTT東日本による議論を経て行われたのが、11月5日に深浦町で、11月7日に五所川原市で行われた実証訓練だ。
中心市である五所川原市で、自主防災会における訓練や防災研修の支援、防災関係マニュアルの策定や防災応援協定の締結、さらに消防団事務担当も担っている飛嶋氏は、次のように実証訓練を振り返る。
「そもそも避難所には、自身の家や財産を無くされたり、家族を亡くされたりと、いろいろなストレスを抱えた方が集まってきます。だからこそ受付は、少しでもスムーズにする必要があると思っています。ただ、受付をする職員もまた被災者であり、そのうえで緊急時の膨大な処理を行わなければなりません。住民のみなさまにも運営側にも負担をかけないようなデジタル技術の導入は、これから必ず必要になってくると感じました」(五所川原市 飛嶋氏)
またNTT-MEの田名部氏は、実証訓練の感想を次のように話した。
「印象に残ったのは、五所川原の訓練で各自治体の防災担当者がビブスを着て、和気あいあいと雑談していたことですね。互いの顔を見える化し、防災担当者同士の協力体制が生まれたのは、個人的にはすごく嬉しかったところです。また深浦町の訓練では、地域住民のみなさんのコミュニケーションが非常に活発で驚きました。いざというときに声を掛け合うには、常日ごろの関係が大切だと実感しました」(NTT-ME 田名部氏)
一方で、今後の課題も見えてきている。ひとつは訓練のタイミングだ。今回の実証訓練は平日に開催されたため、参加者は高齢者が中心。小学生から現役世代までもを巻き込むために、五所川原市では休祝日や夜間の開催も検討しているという。
もうひとつは受付だ。デジタル受付は緊急時の迅速な対応を可能とするが、やはり高齢者の方、スマートフォンが苦手な方は対応が難しく、どうしてもアナログの併用は避けられない。デジタル・アナログそれぞれの一長一短を見極め、有効活用できる運用を考えることは、これからの防災の命題となるだろう。
「人口減少の影響は市役所や町役場にも必ず表れてきます。将来的には、避難所を2~3名の人員で回さなければならなくなるでしょう。そういった状況で避難所を運営するためにも、防災DXは必ず進めておかなければならないものだと感じました」(五所川原市 飛嶋氏)
マイナンバーカードや免許証、または二次元コードを活用すれば、避難者の情報を迅速に登録して一元管理し、かつ外部から避難所の混雑状況を知ることも可能となる。動画などでダンボールベッドや災害用トイレの使い方を知り、3Dデジタル映像によって避難所の内部を把握できれば、避難者の自助も進むだろう。デジタル技術によって一人ひとりが災害時にできることを増やす、これこそが連携協定の目指すところだ。
そして五所川原市の飛嶋氏は、地域住民に向けて次のようにメッセージを送る。
「地域のみなさんには、ぜひ『備え』をお願いします。まだまだ『自助』『共助』という考え方は浸透していませんが、人口減少が進み『公助』だけでは支えきれなくなっているのが現状です。災害に備え、常日ごろから準備をしてほしいと思います」(五所川原市 飛嶋氏)
防災の取り組みを広げるのは根気のいる作業だ。対外的な発信も重要だが、本当に大切なのは自主防災組織や町内会などで繰り返し行われる訓練だろう。飛嶋氏は今後を見据え、NTT東日本への期待を述べる。
「地域住民のみなさまの背中を押してあげるような支援を幅広くやっていきたいんです。我々だけでは行き届かないところ、知見が及ばないところで、ぜひNTT東日本さんのお力を借りられたらと思います。もしノウハウが蓄積できるのであれば、ぜひ圏域の自治体にも横展開し、共有していただきたいですね」(五所川原市 飛嶋氏)
五所川原市、つがる市、鰺ヶ沢町、深浦町、鶴田町、中泊町の2市4町は、「定住自立圏」という協定を締結している。これは中心市が都市機能を整備することで暮らしを集約し、近隣の市町村において必要な生活機能を確保するとともに、農林水産業の振興や自然環境の保全を図るという目的を持った制度だ。
今回の地域防災力向上の取り組みに関する連携協定も、この共生ビジョンに基づいたものと言えるだろう。人口が減少していくなかで、地域連携とデジタル活用は今後ますます重要性が増していきそうだ。







