11月11日、栗林商船グループのオープン・カンパニーが東京・品川にて行われた。日本国内の港から港へ貨物を運ぶ同社のRORO船「神永丸」に乗船し、船員の仕事を知るこの取り組みには大学生3年生4名が参加。物流のリアルな現場を見学した様子をレポートする。

北海道と本州を結ぶRORO船「神永丸」が運ぶものは?

1919年創業の栗林商船は、100年以上にわたり、北海道と本州を結ぶ物流の要として地域と産業の発展に貢献している内航海運会社だ。環境負荷の少ないRORO(ロールオン・ロールオフ)船を1965年に日本で初めて導入するなど、船舶運航のパイオニア的存在だ。

  • 栗林商船のRORO船「神永丸」

    栗林商船のRORO船「神永丸」

今回のオープン・カンパニーは、栗林商船で営業・管理部門の総合職を今後志望する学生を対象としている。総合職自体は船上ではなく陸上で働く職種だが、「船で働くこと」を知るきっかけにしてほしいと企画された。

見学するのは栗林商船が保有するRORO船「神永丸」。全長174.95mの巨大な船は、苫小牧~釧路~仙台~東京・清水~名古屋~大阪の定期航路を一週間かけて運航し、ロール状の紙やトレーラーを載せたシャーシ、乗用車などを運んでいる。

この複数の港を巡回する定期航路は、栗林商船独自のスタイルだという。さらに栗林商船グループの各部門が連携し、集荷場所から港、港から内陸の目的地までの輸送を一貫して担う"海陸一貫輸送"も同社の特徴だ。もちろん定期航路に限らず、不定期航路も行っている。

  • 神永丸の船首側にあるランプウェイ(傾斜路)からトレーラーが入っていく様子

    神永丸の船首側にあるランプウェイ(傾斜路)からトレーラーが入っていく様子

RORO船とは?

RORO船(ろーろーせん)とは、トラックやシャーシ(荷台)ごと貨物を輸送する船のこと。

出発する港では、トラクターヘッドが貨物を載せたシャーシを牽引し、ランプウェイから船内へ乗り込む(Roll on)。船内でシャーシとトラクターヘッドを切り離して、シャーシだけが積み込まれる。到着した港では、別のトラクターヘッドが船内へと乗り込み、シャーシを牽引して下船(Roll off)する。このように、貨物を車輪で乗下船させる(Roll on/Roll off)方式で荷役を行うことから、RORO船と呼ばれている。

専用の埠頭やクレーンが必要なコンテナ船と比較して、より効率の良い荷役(貨物の積み下ろし)が可能だ。さらに、陸上輸送よりもCO2が削減できること、トラックドライバーの拘束時間を削減できるといったメリットもある。

全国を巡る貨物船、中はどうなっている?

品川埠頭に停泊している神永丸は、見上げると首が痛くなるほどの大きさ。全国各地に貨物を運ぶこの巨大な船の中はどうなっているのだろうか? 安全のためヘルメットを着用し、トレーラーが続々と出入りするランプウェイを通って乗船していく。

ブリッジでは常に安全をチェック!

船内の階段を上り、まずはブリッジへ。ここでは船長や航海士、甲板手が神永丸の操縦や見張りを行っている。

ブリッジには計器がずらり! 航海士として働いた経験のある先輩社員・Iさんから「前方にある小さな船が見えますか? あの船がどの方向にどのくらいの速さで動いているのか、この黄色と黒のレーダーに表示されます。基本は目視ですが、レーダーも活用しながら船が衝突しないよう安全に運航しています」と説明を受ける。

  • 大きな船を操縦するハンドル。停泊中ということで特別に握らせてもらう

    大きな船を操縦するハンドル。停泊中ということで特別に握らせてもらう

  • レーダーだけでなく、双眼鏡を使った確認も大切

    レーダーだけでなく、双眼鏡を使った確認も大切

続いて細い階段を上り、船の最上部にある暴露甲板上へ。お台場や豊洲など東京湾を一望しながら、神永丸の大きさを改めて実感できる。

勤務中は職場も自宅も船!?

再び船内に戻り、船員が生活する部屋へ。神永丸をはじめ、国内を運航する貨物船(内航船)で働く船員は、約2~3カ月船上で働き、約1カ月休暇を取るスタイルで勤務している。港に寄るタイミングで買い物などに出かけられるが、勤務期間中は乗船している船が職場兼住まいだ。

  • 2021年に竣工された神永丸。通路や各エリアはどこもきれいに保たれている

    2021年に竣工された神永丸。通路や各エリアはどこもきれいに保たれている

船員の部屋は、ベッド・デスク・テレビ・冷蔵庫・シャワールームが部屋ごとに完備されており、シンプルで広々した空間。Wi-Fiも用意されているので、ネットや動画ももちろん楽しめる。

神永丸が一度に輸送できる貨物の量は?

居住空間を抜けて、再び貨物が置かれるエリアへ。神永丸は最大で250台の車を積むことができるそう。ほかにもトレーラーは最大154台、北海道の製紙工場で作られるロールペーパー積載本数は最大2,000本と、船を使った海上輸送は一度に大量の貨物を運べることがわかる。さらに、同じ重量の貨物を運んだときのCO₂排出量はトラックに比べ約5分の1程度と、環境負荷も小さい。

通路を抜け、発電機やエンジンの大きな音が響きわたるエンジンルームへ。機関士が管理している船の心臓部分だ。この日はだいぶ寒かったものの、エンジンルームは軽く汗ばむほどの暑さ。「機器も熱くなっているので注意してください」と気を付けながら見学した。

最後は船尾側へ。神永丸の内部は何層にも分かれており、各フロアに貨物を積み込む。フロアごとに設置された可動式のランプは、下層のフロアに貨物を積み込んだ後は床面に格納されるため、その上にシャーシを積載することができるそう。広い船内で無駄なく多くの貨物を運べる作りになっている。

  • 右奥に可動式ランプが見える

    右奥に可動式ランプが見える

船首側から入り、船内を見学して船尾から下船するまで約1時間程度。RORO船の内部や船員が働き・生活する様子に、学生たちは興味津々の様子だった。

先輩に聞く「海運の仕事の面白さ」

見学の後は、栗林商船の営業部に勤務するSさん・Aさん、栗林マリタイムに勤務するIさんの、3人の先輩社員から話を聞く時間も設けられた。

  • 先輩社員たちから直接話を聞く。写真左より、栗林マリタイムのIさん、栗林商船のAさん

    先輩社員たちから直接話を聞く。写真左より、栗林マリタイムのIさん、栗林商船のAさん

お話を聞いた先輩社員

●栗林商船
栗林商船の営業部では、顧客からの依頼を受け、船のスケジュール管理などを行っている。
Sさん:総合職として入社、全国の港を定期運航して貨物を運ぶ「内航定期船事業」を担当。入社4年目。
Aさん:総合職として入社、荷主の顧客からのオーダーに応える「内航不定期船事業」を担当。入社3年目。

●栗林マリタイム
船舶の管理などを行うグループ会社。船舶の管理を行っている。
Iさん:船員(航海士)として入社。船上で5年間勤務したのち、今年6月から2年間の期間限定で陸上の勤務に異動した。現在は、同社の船員がいつどの船に乗るかの管理(配乗)などの業務に携わっている。

Q.栗林商船グループに入社したきっかけは?

Sさん:大学では船に関する勉強をしていました。規模の大きな船業界への憧れと、ライブや冠婚葬祭といったプライベートを大切にしたい思いから、栗林商船の総合職を志望しましたね。栗林商船の歴史の長さと、国内物流を支えているところを魅力に感じています。

Aさん:大学の研究で海運に興味を持ち、自社でハード(船)を持っている会社に行きたかったんです。就活では人柄を見てもらったなと感じました。入社後はプライベートで仲の良い人と遊びに行ったり、横のつながりもできています。

Iさん:釣りが好きで、大学は水産学部でした。漁船に乗る乗船実習をした際、同乗した航海士の方が面白い人で、「もっとでかい船に乗って、高い給料をもらって、連続して30日や40日という休暇を取り、外車に乗って日本中好きなところに行けるんや」と言われたのをまともに受けて、栗林マリタイムの船員を志望しました(笑)。実際に、乗船して働く間は光熱費や食費がかからないですし、夢だった外車も買いました!

Q.やりがいや、プレッシャーに感じることは?

Sさん:内航定期船事業の営業は8人ほどなので、一人ごとの仕事の裁量が大きいんです。1日で何百万円もの案件を入社4年目で担当しているのは、やりがいでもありプレッシャー。でも上司に相談できる環境ですし、自分でやりたいことがあればいくらでもできますよ。

Aさん:顧客のニーズに合わせて船を手配する内航不定期船事業はお客さんとの距離も近いですし、同業他社の船と連携して貨物を運ぶこともあるんです。コミュニケーションをしっかり取りながら仕事をしています。

Iさん:以前は船に乗って船員の仕事をしていましたが、今はオフィスで配乗の管理などをしています。先ほどの神永丸に乗る船員は12名で、栗林マリタイムの船員は82名。複数の船を運航しているので、いつ誰に乗ってもらうかの調整ですね。これまで海上の仕事しか知らなかったのですが、陸上と海上をつなぐ仕事をしている実感があります。

Q.福利厚生は?

Aさん:有給休暇は相談すれば取りやすい環境ですし、7~9月には夏休みがあります。僕も5日間休んでイタリア旅行に行ってきました。また、家賃手当の額も大きいので、同世代よりも家賃負担が少なく自由に使えるお金が多いと思います。

Q.職場に若手の女性の方はいますか?

Sさん:栗林商船全体で50人ほど社員がいますが、最近は若手の女性も増えています。

大学で学んだことをどう活かしていますか?

Sさん:海運業界に関連する業界用語を使うことが多いので、そこに抵抗感がないのは大きいなと思いました。もちろん知らなくても大丈夫ですが、やりやすさはありますね。

日本の物流を支える内航海運業界の最前線

緊張感のあるブリッジ、プライベートが守られる船員の生活空間、大迫力のエンジンルーム、そして膨大な貨物を効率よく運ぶ仕組み……参加した学生たちの目に映ったのは、巨大なRORO船の迫力と、物流を支える人々のプロフェッショナルな姿でした。今回のオープン・カンパニーを通して、日本の物流を支える内航海運業界と栗林商船の仕事の奥深さとやりがいを知り、未来のキャリアを考えるきっかけになったのではないでしょうか。