自動車技術会が主催する「学生フォーミュラ日本大会2025 -ものづくり・デザインコンペティション-」が、2025年9月8日~9月13日の期間、愛知県常滑市のAichi Sky Expo(愛知県国際展示場)にて開催された。
出場する側から支援する側へ
第23回目を迎えた「学生フォーミュラ日本大会」だが、今年は海外チームを含めて現地参加チーム数は83チーム。フォーミュラスタイルの小型レーシングカーを、主役となる学生たちが自ら構想・設計・製作、そして操縦することで「ものづくりの総合力」を競い合う。
「学生フォーミュラ」は学生たちが主役だが、「産学官民で支援して、自動車技術ならびに産業の発展・振興に資する人材を育成する」と謳われているように、それぞれのチームを支援する産学官民の存在も大きなカギを握っている。
学生フォーミュラを支援するメーカーのひとつであるヤマハ発動機は、2003年に開催された第1回大会より学生たちの支援を続けており、今回は計16チームに対して、ガソリンエンジンやEVモーターを提供している。
ヤマハ発動機においては、体制を整えて学生フォーミュラを支援する枠組みが作られているが、過去に学生フォーミュラに携わった人材がメンバーに名を連ねてきているのが特徴となっている。
「以前は、学生フォーミュラに関わっていない人がリードしていたのですが、今では出身者が、会社に入って年を重ね、支援をする側に回ってきています」と話す、ヤマハ発動機の山田宗幸氏(ランドモビリティ事業本部 MC事業部 マーケティング統括部 マーケティング戦略部 つながる推進グループ グループリーダー)は、第1回大会に参加。現在では、「学生フォーミュラ日本大会」を主催する自技会(自動車技術会)経由で、大会運営に関わっている。一方、「学生フォーミュラ」の支援に関するリーダーとして、学生たちとコンタクトを取る同社の斎藤悠介氏(ランドモビリティ事業本部 EV事業推進部 事業戦略グループ ストラテジーリード)は、第1回から第4回まで参加したキャリアを持つ。
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ヤマハ発動機 ランドモビリティ事業本部 MC事業部 マーケティング統括部 マーケティング戦略部 つながる推進グループ グループリーダーの山田宗幸氏(左)とヤマハ発動機 ランドモビリティ事業本部 EV事業推進部 事業戦略グループ ストラテジーリードの斎藤悠介氏(右)
「問題が起きましただけではダメ」学生を支える難しさと意義
学生たちを支援するうえで、「学生フォーミュラはあくまでも教育の現場」であり、「こちらからやりすぎるのは絶対にダメ。手取り足取り教えてしまうと、学生の学びがなくなってしまう。そのあたりのさじ加減は非常に難しい」という山田氏。実際、学生フォーミュラにおいては、「安易に市販品等を用いるのではなく、できる限り学生自らが製作する」ことをモットーにしており、プロの技術者・研究者から情報を入手することは許容されているが、「設計を決定したり設計図を書いてもらってはいけない」というルールが定められている。もちろん、主役である学生にすべてを委ねるのが基本ではあるが、「エンジンやモーターをただ渡すだけで、『あとはよろしく』というわけにもいかない」と支援の難しさを打ち明ける。
特にコロナ禍で学生フォーミュラが開催中止になったときは、多くの学校でチーム存続の危機を迎え、エンジンの分解・組み立てのノウハウが継承されず、途絶えてしまったチームも少なくなかった。そこで斎藤氏は、学生たちを同社の本社に呼び、エンジンの分解・組み立てについてのレクチャーを実施。直接的に車両の設計や製作に関わることはないが、学生たちがものづくりに集中できる環境を整えることに力を入れているという。
また、提供したエンジンにトラブルが起こったときも、「助けてくださいと言われて、すぐに答えを教えても意味がない」という斎藤氏は、必ず学生に対して、「起こった現象を正確に捉え、何が原因かを突き止め、どういった対象をすれば直るかという仮説を立てる」ことを要求。「問題が起きましただけではダメ。自分たちで考えて導き出した答えから情報を得て、道を誤らないようなアドバイスを行う」ことをコミュニケーションの軸にしているという。
そして、学生たちとのやりとりだけでなく、同社内にも課題があるという斎藤氏。支援校が増えたことにより、サポートに掛かる工数をいかに捻出するかが大きなハードルとなっており、「我々はいわばバーチャルな組織なので、何らかのイベントを行うときも、各メンバーの仕事情報を把握しているわけではありません。だから仕事の割り振りがすごく難しい」との問題点を指摘する。同社の支援体制は、トップダウンではなく、学生フォーミュラOBの熱い気持ち、いわばボトムアップ型であり、「いくら熱い思いがあっても、それで本業が立ち行かなくなると、やっていることの意味を問われることになる」と続ける。
「自動車技術会経由で、協賛を求められている部分もありますが」と前置きしつつ、「実際に会社としてお金を出している中で、それがどんな効果に結びついたのかは常に問われる問題」という山田氏。ヤマハ発動機とはいえ、社員全員が学生フォーミュラを知っているわけではない。「部下が本業を差し置いて何かをやっているということになると、その意義を説明しなければならない」という地道な苦労を明かす。
「ありがたいことに、社内においても、社報やホームページ、社内で行われる技術展などを活かして、社内認知活動にも力を入れてきた」と振り返り、「ようやく醸成されてきたかなと思う」と笑顔を見せる山田氏。斎藤氏も、社内の技術展にて、学生フォーミュラを3連覇した京都工芸繊維大学のチームを招待し、車両の展示と社員向けのプレゼンを依頼。事後アンケートでは、「初めて知りました」といった意見が多い中、「すごく意義があるから頑張ってください」などのポジティブな意見もあり、まだまだ認知が足らないというのは事実としつつ、「この活動をやっていて良かった」と安堵の表情を浮かべる。
学生フォーミュラの支援を続ける同社だが、この支援を通して、「学生さんには経験を積んでほしい」という斎藤氏。「学生時代はエネルギーがあるので、その期間にどれだけ濃い経験ができるかが非常に大事」と続け、「やはりお金やきっかけがないと、せっかくの若い時間を薄い経験で過ごしがち」との危惧を示し、「我々がトリガーとなることで、濃い経験を得てもらえるとうれしい」と期待を寄せ、そのうえで「結果は勝っても負けても良いんです。必ず次に活かせるはずなので。学生の皆さんには、意味のある挑戦をして、価値のある経験をしてほしい」と熱いエールを贈る。
一方、「今しかできないことがすごく価値のある時代になった」という山田氏は、「テレビなんかいくらでも見返せるし、YouTubeだっていつでも見られる。今じゃなくても良いんです。しかし学生フォーミュラは学生時代しかできないので、その意味ではすごく価値のある大会」と断言。「大会を通じて、ものづくりを好きになってほしいですし、新しいものをアウトプットする行為そのものを楽しんでほしい」と締めくくった。
学生フォーミュラもEVシフトが進む
カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車のEV化が進む昨今だが、このEVへの転換を目指すEVシフトの流れは着実に学生フォーミュラの世界にも浸透している。昨年度までは、ガソリンエンジンとEVモーターは、同じカテゴリーでの戦いとなっていたが、本年度からICV(ガソリンエンジン)部門とEV部門に分かれ、別カテゴリーとして扱われることになった。
16のチームに部材を提供するヤマハ発動機だが、EVモーターで車両を開発するチームは、名古屋工業大学、静岡大学、富山大学の3チーム。各チームにEVモーターとインバーターの提供を行っている。そこで今回は、同社のEVモーターを使用している3チームに話を伺ってみた。
■富山大学
EVモーターを使っての車両づくりをはじめてから2年目となる富山大学。「今年の大会ではEVのチームがオートクラスで上位を独占しているのを見て、ようやくEVの時代になってきた」と富山大学のチームリーダーである村田昭人さんは今大会の印象を語る。
EV導入当初は、バッテリー周りの知識がなく、「初めて触るし、結構危険なものなので、取り回しに苦労しました」と苦笑いを浮かべる。その中でも、根気強くアドバイスを送り、技術面での支援も行ってきた同社にあらためて感謝の言葉を述べ、インバーターの自作を検討しているところから、「いろいろと質問させていただきたい」と引き続きのサポートに期待を寄せる。
EV部門で総合5位にランクインした富山大学だが、「今年は動的審査で順位を狙っていたのですが、あまり振るわなかった」と振り返りつつ、「来年は動的審査のスコアアップ、タイムアップを狙っていきたい」とすでに来年に向けての展望を明かした。
■静岡大学
ドライバー2人で10kmずつ走行し、耐久走行や燃費を競う「エンデュランス」終了後、「雨が降るという予報だったので、タイヤ選択で悩んだ」という静岡大学チームリーダーの木村優太さん。若干のトラブルがありつつも、無事完走できたことを素直に喜び、「トラブルを乗り越えながら、ドライバーとしても出せる全力を尽くして走ることができた」と笑顔を見せる。
静岡大学はEVを導入してから4年目。「4年目でようやく全種目完走できるマシンを持ってくることができた」と誇らしげな木村さんだが、「まだスタートラインに立ったところ」と冷静に状況を捉え、「今年得たものを活かしつつ、来年以降は全種目を当たり前のように完走できる大学を目指していきたい」と、来年度以降の目標を語る。
同じく同社のEVモーターを使用している名古屋工業大学の走りを見て、「かなりポテンシャルのあるモーターを貸していただいている」と感謝を述べた。また、「期待に応えられるような車を作り上げたい」との意気込みを明かし、「ヤマハさんにモーターを提供していただいているチームの中で、なかなかトップチームに追いつけない」という現状を憂い、「チームとして実力を発揮して、恩返ししていきたい」とさらなる前進を誓った。
「去年悔しい思いをしたところからステップアップして、今年はエンデュランス完走というのは素直に素晴らしい」と、同社の斎藤氏は賞賛の声を贈りつつも、名古屋工業大学とのギャップを指摘。「支援しているチーム同士が切磋琢磨して、互いに高めあってくれれば」と期待を寄せる。
今回は全種目完走したものの、フロントウイングやリアウイングのフラップが脱落したり、バッテリーの熱問題で燃費走行を強いられたりするなど、「反省すべき点が多い」と振り返る木村さん。「逆に欠点が見えているので、来年に向けて確実に解決して、ワンステップ進んだ結果を残せるようにしたい」と、すでに視線は来年度を見据えていた。
■名古屋工業大学
EVシフトしてから3年目を迎え、「EVについてわかってきたというより、できないことがわかってきた」と話すのは、名古屋工業大学 渉外リーガーの近藤樹生さん。エンデュランスの直前に強い雨が振り、かなり心配されたが、「後半はどんどん路面が乾いてきたおかげでちゃんとタイムが残せてよかった」と安堵の表情をみせる。
現在、パイプフレームに1モーターという構成だが、さらに上を目指すためには、モノコックや四駆などの選択肢もあり、「新しいことにどんどん手を伸ばしていきたい」という近藤さん。特に、エンデュランスンスを一緒に走った名古屋大学が四駆を採用しており、「濡れた路面ではやはり差を感じました」と振り返る。
ヤマハ発動機のEVモーターについて、「すごく軽量なのに50kWという出力は本当にすばらしい」と絶賛。「モーター自体が小さいので、周りのフレームも小さく、そして全体的にも軽くできる」とそのメリットについて言及する。その反面、「もっと小型で、もっと出力が出るモーターに期待したい」とリクエストも忘れない。
第1回大会から23年。ずっと同社とともに歩んできた名古屋工業大学について、「昔から学生主体のチームで、これが脈々と23年続き、しかもずっとトップチームでいるというのは、もはやひとつの企業」と評価する斎藤氏。「この文化がずっと続いていること自体が本当にすばらしい」と賛辞を惜しまない。
来年度の「学生フォーミュラ日本大会」は本年度より1カ月早い8月の開催予定。つまり準備期間が1カ月減ることを意味しており、「早め早めに対応していかなければならない」という近藤さん。ただ、1カ月の短縮により大きく変更することは困難であり、「今年うまくいったところを伸ばしつつ、欠点を直して、ブラッシュアップし、さらによいクルマを作っていきたいと豊富を述べた。
学生フォーミュラにおけるEVシフト展望
EVシフトはたしかに世の流れだが、学生フォーミュラにおけるEVシフトは、「実社会とはまた違う流れにある」と山田氏は指摘する。実社会におけるEVシフトには「充電時間」という大きな課題があるが、学生フォーミュラの大会においては、特に考慮する必要がない。また、距離に関しても、この競技に限って言えば、あまり走る必要がないため、実社会におけるEVのように「航続距離」がネガティブに働くこともない。
本大会で四連覇を達成した京都工芸繊維大学がEVシフトしない理由について斎藤氏が尋ねたところ、「学生フォーミュラという舞台で、ガソリンエンジンとEVモーター、どちらが優勝する可能性が高いかというシミュレーションを行ったところ、まだエンジンのほうが高かった」との回答を得たという。そして、「このシミュレーション結果が逆転した瞬間、みんなも考え方を変えてくるかもしれない」と予測する。
さらに、「学生フォーミュラが教育の場であり、学生に対して何を学ばせたいかも大きな理由となる」と山田氏は言及。「制御面を重視すればEVだし、メカニカルデザインであればガソリンエンジン。環境も含めて、燃料を扱うことによって何か学ばせたいものがあるはず。ガソリンエンジンとEVで、得られるものがぜんぜん違う」ということを指摘し、「大会側もまだおそらく測りかねているのではないか」との見解を示す。
「ガソリンエンジンがいきなりゼロになるという世界ではないので、しばらくはそれぞれの部門での切磋琢磨が続くかもしれないし、実際、世の中も100%EVという論調でもなくなっている」という現状から、「選択肢がある今の状況が実は一番良いのではないか」と結論付けた。
各社も企業PRブースを出展
会場内には、本大会に協賛する各社が企業PRブースを出展している。その一部をご紹介しよう。
ヤマハ発動機のブースではロードスポーツの「MT-09 Y-AMT」や自動変速トランスミッション「Y-AMT」のシミュレーターを展示。
またEVモーターに関しても、学生フォーミュア向けに提供されているものと同型の50kWクラスのものや自動車用、ハイブリッド航空機用の4連結電動モーターなども展示されていた。












