今年で10年目を迎える、テクノロジーやエンターテインメント、クリエイティブの複合フェスティバル「NoMaps2025」が9月10日、北海道札幌市にて開幕した。

実質的なイベント初日となった11日にはカンファレンス「ローカルから世界へ~北海道から、世界を動かす視点とは~」が開催され、Uber Japan ビジネスディベロップメントディレクターのダンカン・ライト氏が登壇。自身のルーツやキャリアを振り返りつつ、課題先進地・北海道の可能性について、グローバル視点で語った。

  • Uber Japan ビジネスディベロップメントディレクターのダンカン・ライト氏

    Uber Japan ビジネスディベロップメントディレクターのダンカン・ライト氏

毎年札幌の街を舞台に開催される「NoMaps」は、「札幌・北海道から、テック・エンタメ・クリエイティブで 世界をめっちゃおもろくするフェス」をコンセプトとして2016年より展開。「FOOD」「GLOBAL」「WELLNESS」「SPORTS」などのカテゴリが設けられており、会場内の各スペースで各分野の専門家による講演を聴けたり、さまざまなスポーツを体験できたりするイベントとなっている。

11日に開催されたカンファレンス「ローカルから世界へ~北海道から、世界を動かす視点とは~」にはダンカン氏のほかに大久保和也氏(OpenAI Japan 合同会社 公共政策・パートナーシップ担当)、渡部志保氏(シブヤスタートアップス 会長)が登壇し、それぞれの視点から「北海道」というエリアが持つ可能性について言及した。

「日本との架け橋」が自身のミッション

ダンカン・ライト氏は2025年にUber Japanのビジネスディベロップメントディレクターに就任。日本との特別なつながりは、カナダのサスカチュワン州・サスカトゥーン市で育った幼少期に始まる。

「市長を務めていた祖父は、北海道と盛んに交流をしていた。我が家には名寄市長から届いた手紙もあった」とダンカン氏。その一通の手紙が、日本との最初の接点になったと振り返る。

10代前半に交換留学生として来日して以来、中学、高校、大学とたびたび日本で過ごしたダンカン氏。日本人女性が経営するカナダ唯一の本格お好み焼き屋でのアルバイトも経験した後、カナダにて外務省の商務官および外交官としてキャリアをスタート。在日カナダ大使館、Google Japanを経て、現在に至るダンカン氏が、20年にわたるキャリアで一貫して担ってきたのは、欧米と日本の「架け橋役」だった。

「私が通っていたカナダの大学には日本庭園があり、そこには新渡戸稲造の“願わくはわれ太平洋の橋とならん”と刻まれた石碑があった」と語るダンカン氏。日本と欧米の架け橋となることは、自身に与えられたミッションだという。

  • ダンカン・ライト氏の略歴

    ダンカン・ライト氏の略歴

Uberの挑戦:小さなアイデアから世界最大のプラットフォームへ

Uberは「どうやったら、ボタンひとつで車を呼べるか?」という創始者の小さな疑問から、2010年にアメリカ・サンフランシスコで誕生した。日本では、フードデリバリーサービス「Uber eats」のイメージが強い同社だが、本業は乗客とドライバーをマッチングするモビリティプラットフォームの運営である。

小さな疑問からスタートしたUberは、トライ&エラーを繰り返しながら発展を遂げ、現在は「人」「物」「サービス」を柔軟に運ぶ世界最大のモビリティプラットフォームへと成長。70カ国以上、15,000都市で展開し、毎月1億8,000万人に利用されているという。

  • 日本でのサービス展開

    日本でのサービス展開

日本でのUberのサービス展開は約10年前からスタート。モビリティ事業はタクシー、ハイヤー、ライドシェアの3事業を中心に、30以上もの都道府県で利用されており、2025年中の全都道府県でのサービス網羅を目指している。

また、デリバリー事業ではすでに全国47都道府県で展開しており、12万の加盟店と約10万人の配達パートナーとともに、食べ物のみならず、日用品の配達も手がけている。

ダンカン氏は「たった一人の小さなアイディアからスタートしたUberは、失敗を繰り返しながら成長を遂げてきた。私たちは失敗を恐れず、地域と協力しながらさまざまな課題解決に取り組んでいきたい」と語った。

課題先進地・北海道におけるUberの可能性

北海道は、全国に先駆けて人口減少や少子高齢化が進み、産業の担い手不足やインフラの維持、冬の厳しい気候、オーバーツーリズムなど、多くの課題を抱える「課題先進地」だ。

ダンカン氏はこれらの課題をネガティブに捉えるのではなく、挑戦の余地があるポジティブな側面として捉え、プラットフォームとして行政や地域と連携しながら、解決に取り組んでいきたいと述べた。

札幌での展開も視野に例に挙げたのが、長野県白馬村での「Uber taxi」の正式導入だ。スキー客の増加により冬季のタクシー需要が6倍に跳ね上がる白馬村では、需要と供給のミスマッチが課題だった。

この課題を解消するため、Uber Japanは2024年に白馬村と包括連携協定を締結。地元のタクシー会社と連携し、Uberの優れたアルゴリズムとAI技術を活用し、乗客とタクシードライバーを効率的にマッチングする「Uberアプリ」を用いた配車サービスの実証実験を実施。実験の好評を得て2025年より正式サービスとして提供を開始している。

札幌には毎年、季節を問わずさまざまな目的で国内外の観光客が訪れる。スムーズなタクシー移動をサポートし、地元経済の活性化を促すこの取り組みを、「札幌でもより大きな規模で実現したい」とダンカン氏は意欲を示した。

さらにUber Japanは日本郵便、石川県加賀市と、国内初となる「公共ライドシェアドライバー」による貨客混載の実証事業を開始した。

配車リクエストが入らない時間帯に、ゆうパックの配達を行うことによってライドシェアドライバーの収入向上を図るほか、待機時間の有効活用によってドライバーのオンライン時間が増加し、ライドシェアの供給が安定。ゆうパック配達のリソース確保も多様化されるなど、さまざまな効果が期待される取り組みで、「貨客混載の実証事業は札幌でも有効的。地域経済への貢献にもつながる」とダンカン氏は述べた。

  • 左から登壇したダンカン・ライト氏、大久保和也氏、渡部志保氏

    左から登壇したダンカン・ライト氏、大久保和也氏、渡部志保氏

  • モデレーターを務めた札幌市の経済観光局長・坂井智則氏

    モデレーターを務めた札幌市の経済観光局長・坂井智則氏

「フロンティアスピリッツ」が北海道を変える

Uberの成長は、失敗を恐れずに挑戦を繰り返した結果であり、そのマインドこそが重要だとダンカン氏は強調。「北米には“失敗したもん勝ち”というマインドがある」とダンカン氏。開拓期より札幌に根付く「フロンティア・スピリット」は、そうした北米のマインドに共通するものがあると話す。

また、Uberが成功した背景には、カリフォルニア州の柔軟な規制と、挑戦を促す環境も大いに関係しているということを踏まえ、行政に対しても「前例にこだわらないでほしい。急速に進化する世の中に取り残されないよう、官民ともに汗をかいて、安全を担保しつつ、課題に向き合いながら挑戦をしてほしい。どういった規制設定や環境であったら地域の抱える課題の解決につながるのか。失敗を恐れずに取り組むことで解決は加速するのではないか」と語った。

「Uberに入社してすぐ、札幌市と対話する機会があった。そこで感じたのは、これほど手厚い行政は他にはない、ということ。寒い地域、厳しい環境だからこそ、多くの課題があり、それゆえにスタートアップ企業が育つ理想的的な環境である」(ダンカン氏)

札幌市のフロンティア・スピリットへの期待とともに、「Uber Japanとしても課題解決に向けて全力で関わっていきたい」と意欲をにじませながら講演を結んだ。