海事産業の未来を担う人材育成の一環として、今年も大島商船高等専門学校(山口県)の練習船「大島丸」による体験航海が8月10日から一泊二日で実施された。参加対象は小学4年生から中学3年生。

昨年同様、多くの子どもたちが船乗りの仕事に触れる貴重な機会となったが、今年は記録的な大雨という思わぬ試練が待ち受けていた。しかし、そんな悪天候の中でも、参加者たちは目を輝かせ、船上での特別な時間を満喫! ということで、異例の状況下で行われた今年の体験航海の様子をレポートしたい。

記録的な大雨の中、元気に出港〜!

8月10日、集合場所の山口県下関港には朝から激しい雨が降り注いでいた。

線状降水帯による記録的大雨の影響で在来線が運転を見合わせ、不参加を余儀なくされた親子も。事実、甲板(デッキ)に出ることすら憚れる状況である。

本来であれば、出港時にはデッキから岸壁を離れていく様子を見たり、潮風を感じたりと、船旅の始まりを肌で感じられるはずだった……が、今年は安全を優先し、参加者たちは屋根のある一部のエリアから雨に煙る景色を眺めることに。

生憎すぎる豪雨ではあるが、船に乗っていればこういう航海もある。出航して間もなく、かろうじて関門海峡を眺めることができたが、霧で霞む関門橋もこれはこれで幻想的。目の前には荒天の海が広がっていたが、子どもたちの表情は決して暗くなく、むしろこれからの航海への期待感が滲んでいた。

大島丸の船内を見学! 普段は見られない機関室ツアーも

昨年は青空が広がるデッキで行われた「総員退船部署操練」も、今年は船内の学生ホールで実施。万が一、船が沈没するなどの事態に陥った際に、乗員・乗客が安全に船から脱出するための訓練である。ちなみに、この訓練の実施は船員法で義務付けられているのだとか。

救命具はかなり圧迫感があり、参加者たちも顔を歪めながらどうにか装着。海に投げ出されてしまっても呼吸だけは確保できるよう、しっかり頭部が固定できる作りになっているらしい。

悪天候のため船外活動は制限されたものの、船内でのプログラムは昨年同様、充実した内容で実施。参加者たちは航海の司令塔である操舵室(ブリッジ)や、船の心臓部とも言える機関室(エンジンルーム)を見て回った。

まずは操舵室。普段はなかなか立ち入れない場所だ。レーダーや電子海図といった最新の航海計器が並ぶ様子に参加者たちの目は釘付け。子どもによっては、将来の職場として夢に見た場所でもあるだろう。ブリッジに漂う荘厳な空気感のなかに、子どもたちから溢れ出すワクワク感が入り混じる。

機関室を見学する前に、山口伸弥機関長が「船がすすむひみつ」について講義を行い、大島丸が搭載する可変ピッチプロペラや電気推進システムについて解説。その後、第二甲板へと降り、いよいよ機関室ツアーへ。

機関室では巨大なエンジンが轟音を立てて稼働していた。その迫力に子どもたちは圧倒されていた様子。機関室や制御室、空調室などは、ブリッジ以上に立ち入る機会などないはずだ。機関士たちからエンジンの仕組みや船を動かすためのエネルギーについて説明を受けるたび、興味深そうに頷く参加者たち。普段は絶対に見られない船の裏側に、大人も子どもも好奇心が刺激されてやまなかったようだ。

夕食は豪華お弁当&日清食品からうれしい提供も!

17時半頃には徳山港沖で投錨。この日の航海に区切りをつけ、ここで一泊を過ごした。

夕食には豪華なお弁当が振る舞われた。昨年のお弁当は「ちょっと物足りなかった」といった意見が寄せられたそうで、今回はその反省を活かし……

肉三昧! 食べ盛りの子どもたちにとっては特に、これくらいガッツリした食事がちょうどいいのかもしれない。

さらに今年はなんとお弁当だけでなく……

夜食も用意。しかも日清食品が今回のイベントに“協力”という形で無償提供してくれたのだという。

さらにさらに……

夜食だけでなく、お土産用のカップ麺やチキンラーメングッズも日清食品が無償で提供。お弁当自体かなりボリューミーだったが、2〜3時間後には多くの子どもたちがカップヌードルやカレーメシにお湯を注いでいた。さすが育ち盛りである。

さらにさらにさらに……

食事後のビンゴ大会の景品も日清食品が用意。さまざまなひよこちゃんグッズが並べられた。ビンゴ大会は“船の種類”に関する勉強も交えながら行われ、この日一番の盛り上がりを見せた。

「将来は船乗りになりたい」参加した中学3年生の思い

2日目も、朝から依然として大雨が続く。

昨夜はそのせいで投錨の様子を見られなかったのだが、この日は朝食後、どうにか抜錨の様子を見学することができた。

そして学生ホールでは、「船」にまつわるさまざまな授業も実施。

流通科学大学・森隆行名誉教授は海洋汚染の実態と海洋保全の取り組みについて、大阪商業大学・田中康仁教授は船を使ったビジネスの概要とその歴史について、東京海洋大学・清水悦郎教授は最新の自動運航船の基礎知識についてそれぞれ講義を行った。

2日目の正午前。終着地となる山口県周防大島町、大島商船高専の港が霞がかかった海の向こうに見えてきた。

今回の航海では、船の「揺れ」もかなり印象的だった。大雨の影響か、普段は穏やかだと言われる瀬戸内海が大きくうねり、大島丸の船内も相当な揺れを感じる場面が長時間続いた。機関士曰く、「瀬戸内海でここまで揺れるなんて、年に一回あるかないかですよ」。船酔いに悩まされた参加者もいたが、多くの人はこれも貴重な経験と前向きに捉えていたようだ。

今回参加した中学3年生の男子に話を聞いてみると、「同年代の参加者も多く、みんなフレンドリーですごく楽しかったです」と振り返り、「もともと海とか船が好きなので、将来は船乗りになりたいと思っています。来年すぐに受験ですが、大島商船高専も受けるつもりです」と意気込みを語ってくれた。もし、大島商船高専に入学した場合、再びこの大島丸に乗り込み、訓練を受けることになるが、「部屋も快適で寝心地もよかったので、早くまた乗りたいですね。寮生活も楽しみです」と笑顔で答えてくれた。

記録的な大雨という異例のコンディションでの開催となった今年の大島丸体験航海。デッキに出られず、予定していたプログラムにもズレが生じるなど、当初の予定とは異なる部分も多かった。

しかし、そうした制限があったからこそ、参加者たちは船内での活動に集中し、船という巨大な乗り物の仕組みや、そこで働く人々の仕事をより深く知ることができたとも言える。

悪天候という試練は、海の穏やかな一面だけでなく、厳しさも教えてくれた。どんな状況でも顔色ひとつ変えず、安全に船を動かし続ける船員たちの姿は、子どもたちの目に頼もしく映っただろう。今回の体験は、参加した子どもたちの心に深く刻まれ、将来、海事産業の扉を叩くきっかけとなるに違いない。