鳥取県境港市「みなとテラス」ホールで7月12日、「内航船員就職セミナー2025 in境港」が開催された。中国地区内航船員対策協議会(中国船対協)の主催で、今年で3回目の開催となった本イベント。内航海運事業者約30社が企業説明などを行った。

■船員になろう! 約30社がブースを出展

中国地方で海技教育を受ける高校生(隠岐水産高等学校、境港総合技術高等学校、浜田水産高等学校の生徒)と、中国地方に本社を置く内航事業者が一堂に会する場として、2023年に第1回が開催された「内航船員就職セミナー in境港」。

船員向け就職説明会には国土交通省が全国で実施する「海技者セミナー」があるが、中国地方には国土交通省が所管する船員養成機関の海技教育機構(JMETS)が存在しない。また、船社の多くが瀬戸内沿岸部に集積する一方で、同地区の船員養成施設はいずれも山陰側に所在している地理的背景もあり、同地域では船員向けの説明会が長く開催されてこなかった。

「内航船員就職セミナー in境港」は内航総連「船員確保チャレンジ事業」として、運輸局の協力も得ながら中国船対協が主体となり、同団体の会員事業者向けに運営される企業説明会だ。 「第1回の開催以来、出展企業さんからの問い合わせが非常に多く、大きな手応えを感じています」とは、中国地方海運組合連合会 専務理事の永見慎吾氏。

本セミナーには今年も島根・鳥取で海技教育を受ける3校の生徒と、その保護者や教職員が参加し、中国地方に本社を構える内航海運事業者を中心に、30あまりの企業がブース出展した。

「去年までは15分ごとに参加者が各ブースを巡るかたちでしたが、今年は20分に伸ばしました。確固とした将来の職業観を持つ10代は少数派で、高校生は保護者が安心できる企業に就職する傾向も強い。保護者を企業に引き合わせることも狙いのひとつで、昼休みもロビーで生徒さんと保護者さんが盛んに相談し合う様子が見られました」

最初に訪れたブースは、洗剤や薬品、紙製品の製造過程における基礎原料を運ぶケミカル船を運航する「新晃船舶」。広島県呉市の会社で20代・30代の若手船員が多く、勤務体系は22日乗船8日休日を採用する。休暇のタイミングは各船員の希望・申告をもとに調整される仕組み。希望次第でより長期の乗船サイクルにも対応でき、ライフ・ワーク・バランス重視の働き方が可能なようだ。

所有船「正運丸」と管理船「神晃」「泉和丸」の3隻があり、今後は管理船が1隻増えて計4隻を運航する予定。乗船中の食費として毎月3万円を現金で支給し、それとは別にお米やお茶は会社側で用意されるという。

■「資格の大小よりも大切なのは情熱」

広島県広島市の「日徳汽船」はRORO船やセメント船、コークスを運ぶ貨物船などを運航している。船種が異なる3隻にローテーションで乗船し、それぞれの技術と経験を積めることが大きな特徴のようだ。

同社では2名当直体制を導入するなど、船員が安心できる居心地の良い職場環境とメリハリのある勤務体制の整備にも注力。乗下船サイクルは90日乗船だが、乗船中の“メリハリ”だけでなく、“計画通り30日間しっかりと休む”という体制も整えている。

2019年から陸上社員が月1回、各船を訪問してパワハラ防止研修を行っており、転職者なども含めて若手船員も定着しやすい職場とのことで、勤続10年以上の社員も少なくないそうだ。

自動車を運ぶRORO船「豊徳丸」ではスターリンクを導入済み。運航スケジュールが比較的タイトなため4直制をとる。コークスを運ぶバラ積み船「若松丸」は、運航スケジュールが比較的ゆとりがあるそうで、腰を落ち着けてスキルアップを図りやすい船のようだ。特殊な荷役装置を持つセメント運搬船「第七陽周丸」では、高い専門性をマスターできるという。全船に司厨が乗り、乗船中の食事は3食提供される。

山口県周南市に本社を置く「イコーズ」は船主5名が集まり2000年4月に設立された、内航業界における船舶管理会社のパイオニア。独自のキャリアアップ制度によって異業種・他業種から船員を目指す転職者も多く活躍している会社で、コンテナ船や油ケミカルタンカー船など現在15隻を運航する。

乗船サイクルは貨物船・タンカー船が70日乗船(20日休暇)、コンテナ船が45日乗船(15日休暇)。船員の働き方改革の一環で無人運航船プロジェクトに参画し、2022年2〜3月の実証実験を経て、現在は無人運航機能をフル装備した大型コンテナ船を新造中。2025年10月に就航する予定だという。

広島県呉市で創業85年を迎える「ワタナベライン」も、先進技術の研究開発や未経験者の採用などに積極的な会社だ。8年ほど前から本格的に事業の拡大路線をとるようになり、現在は9隻の船を保有・管理・運用しているという。

“資格よりも情熱が大切”との方針で、船員一人ひとりのペースで着実に成長できる環境づくりを重視し、女性船員や新卒者が安心して働きやすい体制を整え、27歳の女性船長も誕生したそうだ。

同社が取り扱う貨物は多岐にわたるが、特徴的なのが北海道から鹿児島や広島へ運ばれるカルビーポテトチップス用のジャガイモ。乗下船サイクルは2ヶ月乗船(20日間休み)を採用する。

■女性専用設備を全船で整備中という会社も

海難救助をはじめ、海洋土木・鉄構工事業、船舶や重量品の運搬事業、海洋開発事業などを展開している「深田サルベージ」もブースを出展していた。

海難救助では海上保安庁による人命救助がまず想起されるが、同社の海難救助部門では主に船や貨物などの財産を救助する。2022年の知床遊覧船沈没事故でも同社の無人潜水機が稼働したという。

鉄構工事部門は橋桁などの構造物の吊り上げ工事を実施する部門。クレーン船での港湾設備の新設・撤去、本州四国連絡橋の架設など巨大プロジェクトに携わってきた実績を持つ。同様にクレーン船を使って、防波堤や埋め立て地造成のための巨大な資材を設置する海洋土木工事部門のほか、作業船で海底の地盤や地形などの調査を行う海洋調査部門や洋上風力部門も存在する。

募集船員はクレーン船の乗組員(甲板員・機関員)と、巨大な起重機船の運用に欠かせないタグボートや、起重機船の錨を専門に扱う作業船「揚錨船」といった作業船の航海士・機関士。

大阪、神奈川、広島、福岡に拠点を持ち、船員は全国へ出張するというスタイル。希望などに応じて配属先が決まり、所属基地の社員寮か船内居住での共同生活が基本。家賃・光熱費が掛からず、司厨の食事も提供され、年6回まで帰省旅費も出るそうだ。巨大な起重機船は船員の居室も8〜12畳と比較的広い。

8ー17時が基本的な働き方で休日も暦通り。早出や休日出勤などもあるが、陸地との接点が多い仕事柄、終業後は陸上にも上がりやすいという。会社のバックアップを受けながら業務で必要となる多彩な資格を取得できることに、魅力を感じる船員も多いようだ。

広島県福山市に所在する「岡本海運」は、船舶貸渡業と船舶管理/船員配乗の2つの事業を展開している会社だ。現在59名の船員が籍を置き、うち5名は女性船員。女性専用設備も整えており、2027年度には全船に完備されることになるという。

年間の陸上休暇は120日で40日乗船20日休暇の乗下船サイクルを採用。転職者の8〜9割はこの休暇サイクルなどに魅力を感じて転職してくるとのことだ。保有船2隻と管理船2隻(セメント船)の全船に司厨が乗船し、提供される食事は“レストランレベル”らしく、同社のホームページでも船内の食事を毎月更新・紹介している。

国内輸送の4割を担う内航海運業界。さまざまな業界で人手不足に陥っている中、国家資格が必要な船員の平均給与は陸上職よりも4〜5割ほど高い一方で、職業選択の候補に上がりにくい傾向も強い。船員としてどんな働き方や夢を実現できるのか、高校生たちは真剣な表情で各社の説明に耳を傾けていた。