若年船員の心を掴む船社の取り組みやあり方について考える「若年船員離職対策セミナー」が、鳥取県境港市の「みなとテラス」で7月11日に開催された。

新入社員の早期離職は、企業にとって頭の痛い社会問題。内航海運業界でも、若手船員の離職率を下げる方策が模索されている。内航海運事業者のリクルート担当者などを対象とした本セミナーでは、島根県立隠岐水産高等学校 進路指導部教諭の福田拓司氏を講師に招き、現役船員と船員を目指す現役学生たちのリアルな声が紹介された。

■船員を目指す生徒の強みと、現役生が抱える成長課題

100人未満の中小企業で3年以内の離職率が約50%の新卒の若者が退職する昨今。人手不足に悩む内航海運業界でも採用後、3年以内に約半数が辞め、その多くが約1年で離職すると言われている。

中には船員の職から離れ、陸上の職種に移ってしまうケースも見られるようで、経済的・時間的なコストを掛けて養成した若手船員の離職は、業界にとっても大きな損失だ。

昨年に引き続き今年で2回目の開催となった「若年船員離職対策セミナー」は、ミスマッチの抑制と課題解決のため各企業が取り組むべき対策のヒントを探ることを目的に実施されている。参加者は毎年7月に鳥取県・境港市で開催される「内航船員就職セミナー」の開催に合わせて同地に集まった、内航海運事業者の人事担当者などだ。

「隠岐水産高校の専攻科を修了後、5年間、外航船の船舶機関士として自動車専用船に乗船しました。家族の病気で船員の仕事からは離れ、現在は母校の隠岐水産高校で勤務して7年目になります」とは、本セミナーで講師を務めた福田氏。

隠岐水産高校の船員養成の学科である海洋システム科は、2年次より甲板員・航海士を目指すコースと、機関員・機関士を目指すコースに分かれ、「実習」と「資格」を柱に船員教育を行なっている。

20トン以上の船を動かすために必要な国家資格「海技士」には一級から六級まであり、級数によって甲板部では操船できるトン数、機関部ではエンジンの出力が決まる。その取得には「筆記試験」「口述試験」「乗船履歴」が必要だ。

「隠岐水産高校は中国運輸局管括の船員養成施設として、第一種5級海技士の養成施設の認定を受けており、卒業時には5級海技士の筆記免除、合わせて各種講習の修了証を発行できる学校です」

そんな隠岐水産高校に教諭として勤める福田氏は、日頃感じている船員を目指す生徒たちの強みを紹介した。

「明確な目的意識を持って努力できる子が多く、授業も素直に真面目に取り組みます。我々の時代の水産高校とは大きな違いで、とくに自分の興味のあることに関しては高い集中力を発揮し、驚かされることも多いです。また、ライフワークバランスの意識が高い世代でもあります」

こうした「強み」の裏返しとして、希薄な対人関与や低い自己肯定感といった成長における課題も感じているという。

「まずは指示待ちの問題です。先を読んだ自発的な動きが弱い傾向で、これに関しては学校教育で教員が先回りして指示し過ぎている部分も大きいと思われ、私自身も反省する時があります。自分に自信が持てず、失敗を過度に恐れて挑戦をためらう生徒が多く、挑戦することの楽しさに気づいてほしいと私は感じているところです。そのためにはもっと失敗の経験を積ませたり、小さな目標設定によって自己肯定感を向上させたりする意識が必要なのではないかと考えています」

■鍵は風通しの良いコミュニケーション環境づくり

その後、福田氏は約100名の現役船員を対象に実施したアンケート結果を紹介。若手船員が船を降りる理由にスポットを当てた。

「現役船員のアンケートで4位に挙がったのが、『人手不足と労働環境の悪化』です。船によっては、当直と荷役作業が重なるなど長時間労働になりやすい状況があること。常に危険が伴う場所での仕事があることなどが、現役船員さんが考える若者がなぜ船を降りる理由として挙げられました」

3位は「閉鎖的な環境と情報・ストレス発散の制限」。近年は衛星インターネットのスターリンク等の普及も進んでいるが、「Wi-FiがあってもYouTubeなどの利用が厳しい部分もある」「緊急時の連絡や情報収集に支障が出た」などの声も寄せられたという。

「第2位は『拘束時間の長さと休暇の取得の難しさ』でした。やはり船員の仕事は性質上、なかなか家に帰れないということが共通の悩み。家族と過ごす時間が少なく、幼い子どもがいる家庭では大きな負担となります」

「冠婚葬祭などのイベントに参加しにくい」「乗船中は24時間体制で不規則な勤務形態のため、仕事とプライベートの区別が曖昧になりやすい」という悩みも付き物のようだ。

「現役船員のアンケートの1位は、やはり『人間関係の課題』です。閉鎖的な環境が密な人間関係の難しさを際立たせてしまい、大きなストレスになりやすいということで、『パワハラ・モラハラが依然として残っている』という率直な意見もありました」

続いて、隠岐水産高校 海洋システム科1〜3年生に実施した同様のアンケート結果も発表された。

「航海中の期せぬトラブルや緊急事態の対応が不安」「プライベートでの出会いが少なく、人間関係を築く機会が限られてしまう」などの回答もあり、SNSなどで先輩たちから伝えられるリアルな情報が、概ね反映された結果となったようだ。

1位の理由として上がった「陸上との隔離と長時間の拘束」に関しては「『船員不足によって予定よりも多く船に乗ることが多いのではないか』といった意見もありました」とのこと。

福田氏が進路指導にあたる中でも、3ヶ月乗船のサイクルが長期に感じる生徒、日帰りで働ける船や港内で仕事が完結する船を選ぶ生徒が近年増えているという。

「2つのアンケート結果を比較すると、人間関係、ハラスメント、古い組織体質といった問題に関して、本校の生徒と現場で働く現役船員さんの間で認識に大きなズレがありました。生徒たちは『ハラスメントは当然ないもの』という認識が強い一方、現役船員の方々は大きな理由として挙げており、若者が船を降りる原因として少なからず存在すると感じ取られているようです」

仕事をしていく上で幸福感や充実感を大きく左右する人間関係。乗船中は限られた人間の中でハラスメントが発生しやすい環境という側面もあり、入社後、若手船員が直面する大きな壁になっているようだ。

こうした結果を受けて、セミナーの参加者は「私自身も過去にはベースの人間関係があれば、多少ツラい仕事でも乗り越えていけると感じた乗船が多々ありました」とコメント。「最近はオープンで分け隔てのない、風通しの良いコミュニケーション環境づくりに注力している会社さんも多い。そうした取り組みが今後は大事になってくるのかなと思います」と、セミナーの感想を述べていた。