caroline、脅威の音楽集団が語る──交わらないはずの文脈が溶け合う「バグった多幸感」

2022年に〈Rough Trade〉からリリースされたデビュー作『caroline』によって、ロンドンを拠点とする8人組キャロラインは世界中の注目を浴びた。作曲と即興が交差するバンド・サウンドは、ポストロックやフォーク・ミュージック、チェンバー・ミュージックの要素を含みながら唯一無二の存在感を示し、同時代に活躍するゴート・ガールのようなバンドにも影響を与えている。

そんな彼らの最新アルバム『caroline 2』は、前作の実験性はそのままに、よりポップに開けたサウンドを獲得した傑作だ。それを象徴する楽曲として、先行シングル「Total euphoria」や、キャロライン・ポラチェックが客演する「Tell me I never knew that」が挙げられるだろう。後者に関するバンド側のコメントからも、本作が持つキャッチーなヴァイブスが伝わってくる。

「この曲は、冒頭のメロディラインがバックストリート・ボーイズの曲みたいだったから、僕らは当初『バックストリート・ボーイズ』と呼んでいた。冒頭のメロディラインを書いたとき、フックの感じからすぐに『これはキャロライン・ポラチェックが歌いそうなメロディだ』と思った。それから約1年後、未完成の曲をポラチェックに送ったら、本当に引き受けてくれたんだ!」

9月初旬に初来日ツアーも決定したキャロライン。このインタビューでは、バンドの成り立ちや受けてきた影響、作曲プロセスなど活動の全体像について聞いてみた。回答者は創設メンバーのジャスパー・ヒェウェリンと、トランペッターのフレディ・ワーズワース。『caroline 2』が彼らにとってどんな作品になったのかが浮き彫りになったはずだ。

異なる世界線が「並列」する音楽

ージャスパーはもともと、 (創設メンバーの)マイク・オマリーと一緒に、アパラチアン・フォークを演奏するデュオとして活動していたそうですね。キャロラインの音楽にはフォーク・ミュージックからの影響が感じられますが、そこにはそういった前歴やアパラチアン・フォークとの繋がりが大きいのでしょうか?

ジャスパー:僕とマイク、ドラマーのヒュー(・エインスリー)は、以前フォーク・バンドで活動していて、それはどちらかと言うと、結婚式でライブをするようなウェディング・バンドだった。その頃の影響は今回のアルバムよりも、前作『caroline』に表れていたと思う。今でも僕はギターでボーカル・メロディを書くし、ギターを弾きながら歌っている。そういうところはフォークの影響だと思う。それから、ヴァイオリン演奏者のオリヴァー(・ハミルトン)はフォーク・ヴァイオリニストで、彼はアメリカン・フォークから確実に影響を受けているし、アメリカのフィドル演奏やアパラチアン・フォークも大好きなんだ。でも僕自身は、アパラチアン・フォークには全然詳しくない。ただ、僕たちはアメリカのフォーク・ミュージックをよく聴いていて、その中にアパラチアン・フォークも含まれていた時期があった。でも最近は、それほど影響を受けていない。

ーイギリスやアイルランドではフォーク・ミュージックの再興が起こっているように見えますが、キャロラインもその動きと繋がっているように思います。メンバーのオリヴァー・ハミルトンはショベル・ダンス・コレクティヴの一員ですし、マイク・オマリーは彼らの新作をプロデュースしていますよね。前作 『caroline』のミキシング・エンジニア/プロデューサーであるジョン・"スパッド" マーフィーは、ランクムのプロデューサーでもあります。なぜ今、このような動きが出てきていると思いますか?

ジャスパー:これは複雑な話で、今挙げられた人たちの中にも「フォーク・リバイバル」と呼ばれるのに抵抗がある人がいるんだ。ショベル・ダンス・コレクティヴのメンバーも、自分達の音楽を「フォーク」と表現されることに違和感を抱いている。キャロラインは、常にその領域の少し外に位置してきたと思っている。僕たちはフォーク・バンドではないし、今までもフォーク・バンドであったことは一度もない。だけど、フォーク・バンドとは隣接している関係性にある。フレッド、君はどう思う?

フレディ:フォーク・ミュージックは今、確かに盛り上がりを見せているよね。そういう意味ではリバイバルなんだと思う。キャロラインのメンバーでは、管楽器を演奏するアレックス(・マッケンジー)もショベル・ダンス・コレクティヴに入っていて、コアメンバーだ。フォーク・ミュージックはとても政治的なものだから、彼らの音楽は政治的に混沌としている現代を反映しているのかもしれない。友人のキャンベル(・バウム:現・ソーリー)は、ブロードサイド・ハックスというグループのメンバーなんだ。ブロードサイド・ハックスは最初バンドとして始まったんだけど、それが発展して、今ではプロモーション活動みたいになっていて、ロンドンで定期的にイベントをやるようになった。

2022年のライブ映像

ーキャロラインは当初、ジャスパーを含む3人でスタートし、サウンドのスケールが広がるにつれて、フレディをはじめとする他のメンバーが加わり、現在の8人編成になったそうですね。フレディはどういう経緯でバンドに参加することになったのでしょうか?

フレディ:僕はキャスパー(・ヒューズ:創設メンバー)と昔からの友達なんだ。キャスパーは大学を終えたばかりの僕に、このバンドに参加しないかと誘ってくれた。また、ジャスパーとヒューは、僕とキャスパーと同じくらい昔からの付き合い。オリヴァーは、ジャスパーやキャスパーと同じ大学に通っていたからそこで出会った。

マグダレーナ(・マクリーン)とアレックスは意外なメンバーと思われがちだけど、今となってはバンド編成に重要なプレイヤーたちだ。マグダレーナは、ある晩、ライブに参加できなかったオリヴァーの代わりに入ったんだ。もうかなり昔の話だよ。彼女はすごくライブを楽しんでいて、一晩限りのギグだと思っていたみたいだけど、僕たちは「君も明日のリハーサルに来るんだよ?」と言ったんだ(笑)。アレックスは確か、バンドが管楽器奏者を探しているのを聞いて僕たちに連絡してくれた。そしてこのメンバーが定着したんだ。この8人で活動しはじめて6年になる。音楽があってもなくても僕らは友達だし、すごく仲がいいと思う。

ー前作『caroline』では、創設メンバーであるジャスパー、マイク、キャスパーの3人がまず楽曲の枠組みを作り、そこから8人全員で演奏した音を編集していくという制作フォーマットを取っていたそうですね。今回の『caroline 2』でも、同じような手法で制作されたのでしょうか?

ジャスパー:『caroline』でも制作フォーマットは曲によって違うね。他のメンバーが入る前は、3人で大部分が書かれた曲が多かったけど、メンバーが増えてからは、8人がコラボレーションして作曲していけるような曲の構成を作っていった。

でも今回の『caroline 2』はアプローチ自体が違った。3人で枠組みを作ってから、8人で編集して、それを3人で編集し、また8人で編集した。行き来するフォーマットは前回と同じだったんだけど、今回違ったのは「8人でアルバムを作る」という明確なスタート地点があったこと。だから、作曲プロセスにも最初からコラボレーションが組み込まれていた。そういった意味で、制作プロセスはまったく異なるものになったよ。今回は前作と違って、大人数のグループで集中的に作曲することが多かった。作曲プロセス全体のなかでも特に有意義な時間だったと思う。

あと『caroline』の時は、(〈Rough Trade〉と)アルバム契約を結ぶ前、もっと昔に書いた曲がいくつもあって、当時のキャロラインの持ち歌を集めたコンピレーションみたいなものだったと僕は捉えている。最終的には一貫性のあるものになったけどね。それに対して、今作にはもっと明確な意図が最初からあった。

フレディ:そういう流れになったのは、さっき話したように、バンドメンバーの仲がいいことが影響していると思うんだよね。僕たちの音楽においては、演奏でも作曲でも、批判というものがないんだ。誰かが失敗しても「それはダメだ」とはならない。普通だったら、緊張した状況下で音楽をやってると、そういう批判の対象になるのではないかと不安になることもある。でも、仲のいい人たちと音楽を作るのはすごく楽しいし、今回のアルバムにとっても重要なポイントになったと思う。僕たちはある一定の期間、自宅を離れてある場所に集まり、そこでみんなが一つ屋根の下で生活をしていた。一緒に暮らしながら作曲をしていたんだ。すごく良い経験になったよ。

前作『caroline』

ー前作に比べて、プロダクション・スキルが飛躍的に向上しているように思います。

ジャスパー:そうだね。僕とマイクとキャスパーのプロダクションに対する知識が深まったことが起因している。主にソフトウェアに対するノウハウだね。今回は、最終的なレコーディング・バージョンを想定しながら作曲をすることができた。前作では、演奏者たちが一つの部屋に集まって演奏するための曲を想定して作曲していたんだ。かたや今回は、アルバムとしてどんなサウンドにしたいかということを念頭に置いて作曲をした。つまり、プロダクションが作曲プロセスに含まれていたんだ。それが大きな違いだよ。それに、僕たちはバンドとしてたくさんのツアーをこなしてきたから、各メンバーがどんな演奏をするのか理解も深まっていた。そこもプロダクションの面で何ができるかというヒントに繋がった。

ーそういったプロダクションの変化や成長が、顕著に表われている曲を挙げるとすれば?

ジャスパー:おそらく「Coldplay cover」が最も象徴的だと思う。二つの事象が同時に起こっているということが明らかだから。これはアルバムの核をなすテーマなんだ。難しい言葉を使うと「ポリフォニー」だけど、つまり異なる出来事が同時に起こっている状態。「Coldplay cover」がその状態を最も洗練された形で表していると思う。でもそう考えると、「Coldplay cover」は曲の構成が重要ともいえるのか。プロダクション面でいうと……。

フレディ:「Total euphoria」じゃない? あの最後のパートとか。

ジャスパー:ああ、まさに!

フレディ:あそこはプロダクションの段階で重大な決断があった。すごくデカい、クライマックスの部分。あのパートは演奏されたものじゃなくて、プロダクションなんだよ。音としても何かすごいこと……異様なことが起きているのは一目瞭然だよね(笑)。

ジャスパー:あれはマイクのアイデアだった。「スピーカーが壊れたような音にしよう」と彼が言ってから、僕らでそれに近い音を作ろうと延々作業していたんだ。

フレディ:スピーカーが壊れて、サウンドマンが慌ててそれを直そうとしている感じのサウンド。そこにボーカルが入ってきて、すべてなんとかおさまる……そんな感じだよね?

とにかく、ジャスパーとキャスパーとマイクは素晴らしいプロダクションを手がけてくれたと思う。音作りに関して、すごくクールでランダムなアイデアを思いつくんだ。そして「とにかくやってみよう!」という姿勢で臨む。それは彼らがソフトウェアを使ってプロダクションを構築するのが上手くなったからだ。

ジャスパー:最終的なアウトプットがどうなるかを想定しながら、たくさんの実験を行ったんだ。今回は以前よりもずっと野心的に制作に臨めたと思う。前作はほとんどがライブ・テイクで、そこにオーバーダブなど少しだけ手を加えた感じ。『caroline 2』はそれと正反対で、レイヤーにレイヤーを重ねていった。

ー『caroline 2』はスタジオ録音された素材と、デモ音源やフィールド・レコーディングを対等に扱い、それらをコラージュのように配置していますよね。一つの楽曲の中で、異なる音響体験が折り重なっているのが興味深いです。

ジャスパー:そういうスタイルにたどり着いた背景は……音のジャクスタポジション(並列)やコントラストが感動的だと思うからかな。一つの世界に別の世界が混在し、ときにはさらにまた別の世界がその中に存在している。それがサウンドとして聴こえてくることに、なぜだか美しさを感じるから。ただそれだけだよ。別に何かを伝えようとしているわけじゃない。まったく異なる要素を一度に聴くという体験は、単なるジャクスタポジションを超えて、何か深い感動を呼び起こすことがあると思うんだ。

編集と即興、ポストロックとハイパーポップの同居

ー先ほど言及された「Total euphoria」は、スピーカーが壊れたようなノイズだけでなく、2本のギターが交差してからドラムが入ってくるタイミング、トロンボーン、クラリネット、ヴァイオリンの重ね方──どこをとっても素晴らしいです。あの曲におけるアンサンブルは、どこまでが「即興」で、どこまでが「編集」なのでしょうか?

ジャスパー:2本のエレキギターとドラムはライブ・テイクで、一度に録音したんだ。タイミングを合わせたわけじゃないから、その中には即興の部分も入っている。トロンボーンとクラリネットのパートは事前に作曲されたもので、2つの楽器を同時に録音した。そして、最後に録音されたのがヴァイオリン。

2本のエレキギターとドラムを録音したときに、僕のボーカル・ガイドも録音した。僕はドラムに合わせて歌っていたし、ギターも僕の歌声に合わせてコードを変えていったから、ギター奏者もボーカルが聴こえる必要があったんだ。だからボーカル・ガイドも録音したんだけど、その後でボーカル・ガイドの上に被せるように、再び僕がボーカルのパートをマグダレーナと一緒に歌って録音した。プロダクションに関しては、ディストーション・ノイズの部分は6カ月後に加えたものだよ。

ーキャロラインは「編集」とともに「即興」も醍醐味のひとつだと思います。繊細にデザインされた部分とフリーフォームな即興部分のバランスが絶妙です。バンド・サウンドに即興を導入することになった経緯と、どのような即興を心がけているのか教えてください。

ジャスパー:最初、キャロラインの活動を始めた時は、そこまで即興に関心があったわけじゃなかったんだ。でもコロナが起きる直前あたり、ちょうど前作の作曲を進めていた時期にすごく興味を持つようになった。特に、フリーフォームの即興にね。だから仲間どうしで集まって、一緒によく即興演奏をしていたんだ。それが自然とキャロラインの音楽に浸透していき、バンド・サウンドの一部になった。

『caroline』では確かに即興をたくさん取り入れているし、ツアーでも即興をよくやっていた。だから即興はキャロラインの音楽の大きな一部となったし、そのおかげで8人の素晴らしい演奏スタイルが育まれていった。でも、『caroline 2』ではあまり即興を取り入れていない。即興の役割というものが小さくなったんだ。以前ほど即興を重要視しなくなった。

フレディ:でも、(『caroline 2』の)みんなが自由に演奏するスタイルは、即興演奏をしてきた経験が影響していると思うな。

ジャスパー:確かに。

フレディ:僕たちの楽曲には拍子やビートがないものが多いけれど……もちろん、ある曲もあるけど。でも、そういった通常は楽曲の基盤となる要素がなくても、僕たちは一緒に演奏することができる。それは今までたくさん即興演奏を一緒にしてきたからなんだ。お互いに頑張ってタイミングを合わせる必要性をそんなに感じていない。拍子やビートを意識せず、自由に演奏できている感じが今回のアルバムにはあって、それは僕たちが即興演奏を今までたくさんやってきたからだと思う。

ー「即興」と「編集」の組み合わせといえば、ポストロックを思い浮かべます。プレス資料でもトーク・トークに言及されていましたが、彼らを含むポストロックの手法が、今作やバンド全体に与えた影響について、どのように捉えていますか?

ジャスパー:ポストロックというのはモグワイとかそういう感じの音楽のことを指していると思うんだけど、初期の頃の僕たちにとって、ポストロックは重要だったと思う。でも最近は、あまり重要ではないんだ。もちろん、今でもポストロックは好きだけど、そういう要素はキャロラインの一部としては少なくなっている。トーク・トークに関しては、これから作るアルバムの制作方法として参考にしたいと考えていた。つまり、即興演奏を切り刻んでコラージュみたいにまとめたいと考えていたんだ。でも、結局のところ作曲を始めたら、ちゃんとした構成のある曲を書くようになった。トーク・トークやマーク・ホリスの活動はすべて、多くのメンバーに大きな影響を与えているとは思う。でも、今回のアルバムに関しては、そこまで大きな影響を与えてはいない。

ーでは、逆に今回はどんな音楽が重要だったのでしょうか?

ジャスパー:ポップ・ミュージックだね。甘ったるいメロディとか……前作の時点では、スウィートなメロディを多用することはキャロラインにとって許されないことだと思っていた(笑)。僕としては、砂糖のように甘ったるいメロディを書きたい傾向があるんだけど、普段は自分にフィルターをかけていたんだ。でも今回は、ポップ・ミュージックをたくさん聴いていたし、自分たちの音楽にそういう要素を入れてもいいんだと気づいた。そういう要素を、どうやって自分のものとして組み込むかが重要なんだ。

だから個人的には、Dariacoreというプレイリストをよく聴いていたよ。マッシュアップされたり、コラージュされたり、スピードアップされたポップソングだよ。ポップソングのブレイクコア・エディットみたいな感じかな。すごくローファイでバグっぽい音がたくさん使われてるんだけど、多幸感もあってエネルギッシュ。そのプレイリストは、現在はジェーン・リムーバー(Jane Remover)という名前で知られているアーティスト(当時の名義はleroy)によって開設されたんだ。ものすごくたくさんの人がプレイリストに曲を追加していった。まだネットにあるのかな? 何百もの曲がアップされていて最高だった。それをたくさん聴いていて、かなり大きな影響を受けたと思う。

leroy · Dariacore

ジェーン・リムーバーは今夏のフジロック出演が決定

ー『caroline 2』を聴いて驚いたのがボーカル・メロディだったので、今のお話を聞いて納得しました。「Tell me I never knew that」には「バックストリート・ボーイズの曲みたいだった」というコメントが資料にありましたが、たしかに純粋にメロディだけを取り出して聴いてみると、メインストリームのポップスのようにも感じられます。どうしてこのような方向性に至ったのでしょうか?

ジャスパー:あの曲のメロディは、僕とキャスパーとマイクが書いたもの。さっきも話したように、そういう音楽が僕たちのなかから自然に出てきたんだと思う。なんでだろうね? 

フレディ:うまく言えないけど、とにかく素敵なメロディだよね。綺麗で、長調で、形もフレーズもいい。そういうのを、他の面白いテクニックと組み合わせることができたから、今回のアルバムのような楽曲が生まれた。ジャスパーは良いフックを書く才能があるんだよ。キャロラインが「フックが効いてる」バンドになるとは思わなかったけど(笑)、今回の楽曲の多くにはメロディックな核がある。リード・ボーカルというか、今までよりもボーカルが曲を牽引している感じがある。特に「Tell me I never knew that」に関してはね。

ジャスパー:それによって、コントラストを強調できるのも大きいよね。スウィートでメロディックなボーカル・パートを、例えば断片的なリズムと組み合わせたりして、その差をもっと激しくする。つまり、強烈なジャクスタポジションにするということだね。

曖昧な歌詞がほのめかすフィーリング

ー前作に収録された「Good morning (red)」は、2017年にジェレミー・コービンがイギリスの選挙で躍進したことに触発された部分がある楽曲だと伺いました。それから8年が経ち、世界の状況は大きく変化しています。今回の『caroline 2』には、そういったポリティカルな状況に対するレスポンスや意識が込められているのでしょうか?

ジャスパー:その答えは「ノー」だね。僕たちはみんな、現代という世界に生きていて、世界でどんなことが起きているかは確かに認識している。世界中の情勢について、知らされすぎているのかもしれない。それが制作や表現に少なからず影響を及ぼしてしまうのもわかる。でも、僕としては、今日の社会状況などを超えた領域で、人々の心に響く何かを作りたいんだ。美しい体験をしたり、感動したりする──それができたら十分なんだ。だからポリティカルなアルバムを作ろうという意図はなかったね。

フレディ:それよりも、感情に訴えるものを作りたかった。僕たちは感情で動くタイプの人間だから。最近の厳しい情勢では、誰でもそうなってしまうのかもしれないけど……みんな不満を感じているから(笑)。僕たちの曲がなぜ、このようなサウンドなのかを説明するのは難しいけど、僕たちの曲は感情に訴えるものだと思っているし、それをどう受け取るかというのはその人の自由なんだ。

ーアルバム全体の歌詞ではどのようなことを伝えようと思ったのでしょう? そもそも自分たちの音楽表現において、歌詞をどのように位置付けていますか?

ジャスパー:歌詞は曲によって、何を表現しようとしているのか異なるけれど、多くの場合、メロディを即興演奏していくうちに、音の響きが言葉になり、やがて何らかの形になって落ち着く。でも、ランダムなわけではなくて、しっくり合う感じがしないといけない。歌詞が帯びるそのフィーリングは、単なる言葉の意味だけでは言い表せないものだ。

言葉で説明するのが難しいんだけど……僕は歌詞を作っていて、その響きを聴いていると、それが曲に合っていて、完成した時がわかる。逆に、合っていない時もわかる。場合によっては、具体的なシーンやイメージについて歌っている歌詞もある。「When I get home」の終盤では、ある人が、相手のことを待っている。その人は、相手に何かを伝えたいけれど、相手は電話で話しているので、電話が終わるのをソワソワしながら待っているという状態。また「Total euphoria」では、過去に起きた何らかの出来事について話し合っている。そこには緊張感があるけれど、状況があまりクリアではない。歌詞は、シーンや状況をほのめかしているんだけど、具体的なものまでには至らないんだ。

ー「Total euphoria」の中でも、〈If you let them, Ill let them〉(君が彼らを許すなら、僕も許そう)というフレーズがとりわけ印象的でした。この一節には、どのような意味や想いが込められているのでしょうか?

ジャスパー:これも言葉を即興で作っていったら結果的に落ち着いたもので、〈If you let them, Ill let them〉は面白い響きだと思ったんだよね。

これは2人の対話だ。そういうシチュエーションの歌詞は今回のアルバムに多く登場する。曲によるけれど、2人の人間がやりとりしているという状況が想像される。そして、〈did we ever talk about how you left them〉( 話し合ったことがあったっけ? / 君がどうやって彼らから離れたか)という歌詞が続く。人物たちは何かについて話しているようだけど、それが具体的に何なのかはわからない。ファンタジーの世界で人々が話し合っている。どこかに受け入れられなかった人たちがいる、もしくは、誰かが別れを告げられた、みたいな。よく分からない状況。

ある意味、曖昧であると同時に具体的でもある。何かをほのめかしているだけ。歌詞を聴くと、その瞬間だけ頭の中にイメージが浮かんで、次の瞬間にはもう消えている。明確な文字通りの意味である必要はない。イメージを喚起させて、そのイメージをどう捉えるのかはその人次第なんだ。

キャロライン

『caroline 2』

2025年5月30日リリース

国内盤CD:解説書・歌詞対訳、ボーナストラック2曲収録

Tシャツ付きセットも販売

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=14915

caroline Japan Tour 2025

2025年9月3日(水)東京・WWW X

2025年9月4日(木)大阪・Banana Hall

OPEN 18:00 / START 19:00

前売券:8,000円(税込・別途1ドリンク代要)

※オールスタンディング、未就学児童入場不可

詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=15067