個別株投資は難しいと感じる方もいるかもしれませんが、自分がよく知っているエンタメ企業など、親しみのある企業から始めてみるという方法もあります。消費者目線でニーズや人気の高まりを感じ取りやすいので、その企業の成長性や将来性も実感しやすいというメリットがあるからです。

そしていま、注目を集めているのが韓国のエンターテインメント企業です。BTSやBLACKPINKなど、世界的に成功を収めているK-POPアーティストを擁する企業が株式市場でも評価されており、さらに「トランプ関税の影響を受けにくいのでは」といった観測もあり、投資先として関心が高まっています。

今回は、SBI証券の情報メディアサイト『投資情報メディア』より、韓国の証券会社LS証券のリサーチセンターによる、韓国の4大エンタメ企業に関する最新の分析をお届けします。

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音楽を超えたK-POP、ひとつの産業へ

K-POPはもはや一時的な流行ではなく、ひとつの産業として定着しました。BTSやBLACKPINKは単なるグローバルスターを超え、K(韓国)コンテンツの収益性と成長可能性を実証した代表的な事例です。

K-POPを先導する4大エンターテインメント会社(以下、エンタメ社)として、HYBE、YGエンターテインメント、JYPエンターテインメント、SMエンターテインメントがあります。これらの会社はそれぞれ独自の戦略でK-POP産業を先導し、グローバル市場の拡大に取り組んでいます。

HYBE(銘柄コード:352820)

BTSを中心に世界規模で成功を収め、SEVENTEEN、TXT、LE SSERAFIM、ENHYPEN、NewJeans、&TEAMなどのアーティストが所属しています。音楽制作にとどまらず、音楽を軸としたライフスタイルプラットフォームの構築を目指しています。

YGエンターテインメント(銘柄コード:122870)

BLACKPINK、TREASURE、BABYMONSTERなどのアーティストが所属し、ヒップホップやパフォーマンスに強みを持っています。

SMエンターテインメント(銘柄コード:041510)

RIIZE、NCT、aespa、Red Velvet、SHINee、BoA、東方神起など、K-POP界で最も多様なアーティストが所属しており、ラインアップが充実しています。

JYPエンターテインメント(銘柄コード:035900)

TWICE、Stray Kids、NiziUを通じ、グローバル市場で成果を上げています。

コロナ禍の時期に、K-POPはむしろその存在感を強めました。おうち時間中のストリーミング、オンラインファンミーティング、グッズ消費などが急増し、ファンダム(ファンの集団)はより一層拡大しました。その結果、エンタメ4社の合計売上高は2018年の約1兆ウォンから2023年には約4兆ウォンへと大幅に増加しました。

しかし、2024年初頭には一時的な停滞が見られました。コロナ禍の収束後、リアルイベントの再開や中国当局によるファンダム活動への規制強化などの影響で、中国ファンによるアルバムの共同購入が減少し、ファンダムがコアファン中心からライトファン中心へと移行して、アルバムの消費パターンに変化が生じたためです。さらに、ADOR関連の問題(※)も業種全体の期待感を下げました。

※ADOR(NewJeansが所属するレーベル)の代表と、親会社であるHYBEとの間で経営権をめぐる対立が表面化した一連の騒動のこと。企業統治やアーティスト活動への影響が懸念され、投資家心理に影を落とす結果となった

K-POPのグローバルな拡散

初期のK-POPは日本・中国・東南アジアを中心に広がっていましたが、近年では言語の壁とアメリカ・ヨーロッパ市場での低い認知度を乗り越え、全世界へと進出を遂げています。

韓国のエンタメ社は、以下のような出来事や動きを通じて、規模の拡大とともにバリュエーション(株価が割安かどうかを判断するための評価)が再評価されました。
1)2017年以降、日本市場向けの売上が本格化
2)北米市場におけるBTSの成功をきっかけに、K-POP全体が北米市場へ進出し、規模が拡大
3)グローバルプラットフォームであるYouTubeの字幕機能により、ローカライズ(現地化)の課題が解消
こうした成長に加え、現在K-POP産業はグローバルファン層の獲得や大規模なワールドツアーなど、北米・ヨーロッパ・アジアをはじめとする世界各地への進出が可能な状況となっています。

  • 図1 韓国エンタメ社の時価総額の推移 資料:LS証券リサーチセンター※HYBE、SM、YG、JYPの時価総額の合計

  • 図2 韓国エンタメ社の2024年輸出比率 資料:LS証券リサーチセンター

BTSが「Billboard Hot 100」で1位を獲得し、全世界市場の注目を浴びた後、BLACKPINKも北米市場で相次いで成功を収め、K-POPは本格的に「グローバルIP(知的財産)」としての地位を築きました。かつては国内売上が中心だったK-POPも、今ではコンサート・アルバム・コンテンツ収益の多くが海外で発生する「海外売上中心の産業」へと変化しました。

特に北米市場はストリーミング中心(市場比率80%以上)であるため、TikTokやYouTubeなどのソーシャルメディアの重要性が増し、K-POPはそれらを活用して市場シェアを拡大させています。実際、2024年だけでaespaとLE SSERAFIMのアメリカにおけるフォロワー数は2倍以上に増加しました。

2024年にはNCT WISH、KATSEYEなどのローカライズグループがデビューし、現地市場に急速に浸透しています。こうしたローカライズ戦略は、K-POPの海外ファン層拡大と市場進出のスピードを高める重要な動力となるでしょう。

K-POP産業の現況

2024年の韓国エンタメ4社の株価の動きは、コロナ禍の時期に爆発的成長を遂げたフィジカルアルバム(ダウンロード販売ではなく、手に取れる「モノ」として販売されたアルバム)の販売量が(1)コロナ禍の収束による購買力の分散(2)景気の不確実性の持続(3)中国における共同購入の減少の余波でマイナス成長に転じ、産業全体にピークアウトへの懸念が広がったことにより下落しました。(2024/9/30基準、エンタメ業種のYTD収益率(※)平均 -33% / KOSPI -3%、KOSDAQ -13%)

※YTD収益率=YTDは「Year To Date」の略。年初来の株価の変動率(その年の1月から今までの値動き)

  • 図3 実物アルバムの四半期別販売量の推移 資料:LS証券リサーチセンター ※「サークルチャートTop 400」基準

  • 図4 実物アルバムの年間販売量の推移 資料:LS証券リサーチセンター ※「サークルチャートTop 400」基準

しかし、3Q24に底をついた後、エンタメ業種はバリュエーションへの懸念解消とともに、トランプ政権の関税政策からの逃避先として注目されたことにより、買いが入り、現在まで力強い反発傾向を示しています。

2025年のエンタメ業種は、(1)良好な外部環境(2)中国「限韓令」の緩和・解除の可能性(3)2025年下半期以降のスーパーIPの完全体(グループ全員)カムバックと新世代アーティストの成長に伴う業績改善が期待されます。具体的な説明は以下の通りです。

① 良好な対内外環境

エンタメ業種は、トランプ関税の影響を受けにくい魅力的な投資先として注目されています。また、主な収益源である海外音源・コンテンツ売上に加えツアー収益も外貨で発生するため、為替レートの上昇は業績改善にプラスの影響を与えるでしょう。(2024年ウォン/ドル平均為替レート 1,363ウォン、1Q25ウォン/ドル平均為替レート 1,451ウォン)

② 中国「限韓令」解除への期待

2025年3月22日の日中韓外相会議にて「限韓令」(中国政府が韓国のコンテンツ流通を制限した政策。2016年以降、K-POPの中国活動が抑えられていた)解除に対する前向きな姿勢が示され、K-POPアーティストが参加するドリームコンサート・ワールドツアーの中国開催が正式に決定されました。これは2016年の「限韓令」発令以降、初めてK-POPアーティストが中国国内で公演を行う事例となります。「限韓令」が解除され、中国国内での公演活動が本格的に再開されれば、韓国のエンタメ社のツアー収益は急激に増加することが期待されます。

③ スーパーIPの完全体カムバックと第5世代アーティストの成長

2025年下半期には、長らく完全体での活動を休止していたBTSやBLACKPINKなど、スーパーIPであるアーティストのカムバックが予定されています。これに伴うグローバルファンダムを基盤とした売上成長が期待されます。K-POP界では約5年周期でアイドルの世代交代が行われる傾向があり、2025年は新たな成長サイクルの始点にあたります。BABYMONSTER、RIIZE、BOYNEXTDOORなどの第5世代アーティストたちも本格的にワールドツアーを開始し、既存のスーパーIPと新規IPが同時に売上成長を牽引していくでしょう。

  • 図5 中国海南スポーツセンタースタジアム(公演会場) 資料:フロムエンターテインメント

  • 図6 BABYMONSTERのワールドツアーポスター 資料:YGエンターテインメント

関連銘柄

SMエンターテインメント(銘柄コード:041510)

会社の代表アーティストとしては、BoA、少女時代、GOT the beat、EXO、Red Velvet、aespa、RIIZE、NCT 127、NCT DREAM、WayV、SHINeeなどがいます。同社は2025年第1四半期にRIIZE、NCT WISH、スルギ、SMTOWNなどのアルバムをリリースし、第2四半期にはドヨン、マーク、RIIZEなどのフルアルバムのリリースが予定されています。ベテラン(NCT DREAM、NCT 127、aespaなど)と若手(RIIZE、NCT WISHなど)アーティスト両方の収益貢献が増加すると予想されます。会社全体のコスト最適化も継続され、市場では利益成長への期待が高まっています。

  • 図7 SMの売上高・営業利益の推移 資料:LS証券リサーチセンター

  • 図8 SMの代表アーティスト「aespa」 資料:SMエンターテインメント

YGエンターテインメント(銘柄コード:122870)

会社の代表アーティストとしては、BLACKPINK、TREASURE、BABYMONSTERなどがいます。BABYMONSTERは最近ワールドツアーを行いました。デビューからわずか10か月で、K-POP界で最も知名度の高い公演会場の一つであるKSPO DOME(ケイスポドーム)で2万人を超える観客を動員しました。これは有名ベテランアーティストでも達成が難しい実績であり、新人アーティストによる音楽サービスの売上は今後も堅調に推移することが予想されます。さらに、BLACKPINKのカムバック・ワールドツアーも予定されており、その規模は前年の減収分を補える水準であるため、売上の成長が本格化する見通しです。

  • 図9 YGの売上高・営業利益の推移 資料:LS証券リサーチセンター

  • 図10 YGの代表アーティスト「BLACKPINK」 資料:YGエンターテインメント

HYBE(銘柄コード:352820)

同社は、新人アーティストの急成長とトップクラスのアーティストのグローバル進出によって業績を改善しています。2025年6月には、BTSのメンバー7人全員の兵役が終了します。BTSの完全体カムバックが実現する場合、アルバム・コンサート・MD(マーチャンダイジング、グッズ物販などのビジネスのこと)など全ての事業部門の成長を牽引するでしょう。BTS以外にもSEVENTEEN、TXT、ENHYPENのように大規模なファンダムを有するラインアップが稼ぎ頭となり、23年以降にデビューした若手アーティストの成長も続くでしょう。2025年は新人グループが3組(BIGHITレーベル、HYBE JAPAN、ラテン系ローカルアイドル)デビューすると予想されます。

  • 図11 HYBEの売上高・営業利益の推移 資料:LS証券リサーチセンター

  • 図12 HYBEの代表アーティスト「BTS」 資料:HYBE

JYPエンターテインメント(銘柄コード:035900)

同社は2024年にMD事業やファンコミュニティプラットフォームを運営する子会社「BLUE GARAGE」への投資拡大と、オーディション番組制作に伴う一時的な費用の反映により、売上高は増加したものの営業利益は減少しました。2025年にはStray KidsとTWICEの大規模なワールドツアーが予定されており、公演部門の業績が急成長すると予想されます。また、2025年1月にデビューしたKickFlipと2024年下半期にデビューした日本アイドルNEXZが、今年から本格的な活動を開始し、グローバルファン層の拡大とともに新たな収益源としての貢献が可能であると思われます。

  • 図13 JYP Entの売上高・営業利益の推移 資料:LS証券リサーチセンター

  • 図14 JYP Entの代表アーティスト「Stray Kids」 資料:JYP Ent

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『投資情報メディア』より、記事内容を一部変更して転載。

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