若手よ、見ているか!?「負け犬根性が染みついたチームを変える」移籍組…

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 東京ドームで目の当たりにした、中日ドラゴンズの目まぐるしい3日間。借金返済の好機に意気揚々と乗り込んだはずが、悪夢のような逆転負け、そして完封負け。だが、諦めかけたその先に待っていたのは、伏兵たちのバットが織りなす奇跡の逆転劇だった。(文・チャッピー加藤)

Aクラスに昇る絶好のチャンス!東京ドームでの3連戦

 

 「うぉぉ! ホントに打った!」――― 5月18日、満員の東京ドームで行われた読売ジャイアンツ ― 中日ドラゴンズ戦。7回、三塁側+レフトスタンドに万歳三唱がこだまし、竜党は歓喜に沸いた。「山本も2発打ったんだから、もう1発打て!」という私の虫のいい願望を叶えてくれた、板山祐太郎の代打逆転2ラン。ダイヤモンドを一周する「背番号・63」に私は思わず「ありがとう!」と手を合わせた。その背中には、見間違いでなく、はっきりと後光が差していた。

 

 5月16日からの巨人3連戦、私は初戦と3戦目の2試合を内野三塁側スタンドで生観戦した。ドラゴンズはこのカード直前、東京ヤクルトスワローズに連勝して借金は2に減り、かたや巨人は主砲・岡本和真を負傷で欠いたことも響き4連敗中。貯金を食い潰して5割というドン底の状況だった。巨人を追い越し、Aクラスに昇る絶好のチャンス! 私は意気揚々と東京ドームへ乗り込んだ。

 

 

 初戦、ドラゴンズの先発はドラフト1位ルーキー・金丸夢斗。これがプロ2戦目のマウンドで、5月5日のデビュー戦はDeNAにプロ初黒星を喫したが、内容は6回2失点と上々だった。一方、巨人の先発は赤星優志。前回、金丸を援護できなかったドラゴンズ打線も今回はさすがに奮起するだろうと期待していたら……やはり打てない(苦笑)。赤星を攻めあぐねている間に、4回、金丸が増田陸にソロアーチを打たれ、先制を許してしまった。

 

 この日の赤星は決していい出来ではなかったし、ドラゴンズ打線は4回まで毎回ランナーを出していたにもかかわらず「あと1本」が出ない。金丸は6回1失点と好投しながら、プロ初勝利はまたしてもお預けとなった。ああ、じれったい! だが、そんなもどかしさを吹き飛ばしてくれたのが上林誠知だった。

 

 6回、赤星からライトスタンドに4号同点ソロを放つと、8回には昨季1本も本塁打を許さなかった大勢から、センターへ2打席連続の勝ち越し5号ソロ! 1人で試合をひっくり返してしまったのだ。さすがはソフトバンクで中軸を打った男。カッコ良すぎるだろ!

 

 さあ、あとは8回・9回を抑えるだけ。得意の継投で逃げ切り、上林のヒーローインタビューが聞けると私は確信していた。

「ヒーローになってほしかった」あまりに虚しすぎる敗戦

 

 ところが……8回、マルテが2死一、二塁のピンチを招くと、開幕から13試合連続無失点を続けていた齋藤綱記が吉川尚輝に悪夢のような逆転3ランを浴びてしまった。マウンドでガックリ肩を落とす齋藤。私も唖然、呆然である。

 

 齋藤は責められないし、あのインハイの難しい球をポール際、ライトスタンド最前列に運んだ吉川の技術と執念には脱帽するほかない。だけどなぁ……私は、上林にヒーローになってほしかった。だって、2発も打ったんだよ。それが報われないなんてあまりに虚しすぎる。チームの連敗を止め、お立ち台で涙ぐむ吉川を見ていて心からそう思った。

 

 

 翌日の第2戦は、髙橋宏斗が7回1失点と好投したが、ドラゴンズ打線がフォスター・グリフィンの前に沈黙。8回からは大勢 ― ライデル・マルティネスとつながれて0-1で完封負けを喫した。これで巨人に6連敗、しかも東京ドームでは昨季から9連敗である。いくらなんでも負けすぎだろう。

 

 しかもこの2試合、点を取ったのは上林だけ。先発ピッチャーは好投しているのだし、他の野手も打っていれば2連勝できたのだ。第3戦、「今日は死んでも打て! そして絶対勝て!」とドラゴンズベンチに念力を送りながら、私は三塁側内野席に陣取った。

「再び生で観るハメに……」的中した”嫌な予感”

 

 ドラゴンズの先発は、前回このコラムで取り上げた「松葉課長」こと松葉貴大。ここまで4勝を挙げ、私の中では部長を飛び越え「松葉専務」に昇格である。一方、巨人は今季未勝利の堀田賢慎が先発。実績・安定感は松葉のほうが数段上で、ならば余計に勝たねばならぬ。試合は2回、ドラゴンズが木下拓哉のタイムリーで先制。だがその裏、松葉も併殺の間に得点を許し、1-1のまま中盤に突入した。

 

 試合が動いたのは5回。ドラゴンズはこの回先頭の7番・山本泰寛がバットを振り抜くと、打球はグングン伸び、竜党で埋まったレフトスタンドに突き刺さった。沸き上がるスタンド。ホームランバッターではない彼が、なかなか取れなかった勝ち越し点を1発であっさりゲットしてしまうのだから野球は面白い。松葉ならこの1点を終盤まで守ってくれるはずで、あとは継投で逃げ切れる。「ヨシ、今日はもらった!」と思った。

 

 

 しかし、野球はそんなに甘くない。その裏、松葉は2死からエリエ・ヘルナンデス・甲斐拓也に連打を許し一、三塁のピンチを招くと、代打で登場した移籍ホヤホヤのリチャードが逆転3ラン! 実は彼が打席に立った瞬間、ホームランが出やすい球場だけにちょっと嫌な予感がしたのだが、それが的中してしまった。初戦と同じ敵の逆転3ランを、まさか再び生で観るハメになるとは……。

 

 この時点でスコアは2-4。まだ2点差だったが、ドラゴンズ打線の状態を考えるとここから3点以上奪って逆転するのは至難の業に思えた。このまま3連敗して、今季もズルズル下位に沈んでいくのか……。つい、そんなネガティブなことを考えてしまった竜党の方もいるだろう。だが松葉は冷静に後続を断ち、6回も続投。再びピンチを招いたものの、追加点を許さなかった。

 

 この粘りのピッチングが、試合の流れを変える。

「え、まさか!?」伏兵が見せた2打席連続ホームラン

 

 7回、巨人は昨季のセ新人王・船迫大雅をマウンドへ。1死後、打席に立ったのが山本だった。ふと「山本、もう1発打ってくれないかなぁ」なんて呟いていたら、再び左方向に大きな当たりが。「え、まさか!?」。打球はグイグイ伸びてスタンドイン! 9年間で6本しか本塁打を打っていないバッターが、なんとなんと、2打席連続でホームランを放ったのである。こういうミラクルが起こるのもまた野球の面白さで、その裏には井上一樹監督のこんなアドバイスがあった。

 

 「『小っちゃくなるな、ホームランを打つなら(1発が出やすい東京ドームの)このグラウンドしかないよ』と言っていた」(試合後、井上監督のコメント)

 

 

 これで3-4。伏兵の連続アーチで、巨人勝利に傾いていた球場のムードは明らかに変わった。続く木下拓が四球で歩き、1死一塁でバッターは松葉。もちろん代打だ。1発が出れば逆転の場面だけに、右対右ではあるがパワー優先でブライト健太もあるなと思ったが、井上監督はセオリー通り左の代打を送った。板山祐太郎である。

 

 実は板山、このカード初戦でも代打で起用されたシーンがあった。同点の7回、2死二塁のチャンスで金丸に打席が回った場面だ。しかし「代打・板山」を聞いた阿部慎之助監督がピッチャーを右の田中瑛斗から左の中川皓太に代えたため、井上監督は「代打の代打」で右打者のブライトを起用。板山は名前をコールされただけで終わった。ブライトは凡退しただけに、板山は余計モヤモヤしただろう。

 

 板山は今季、開幕直後からセカンドでたびたび先発起用されたが、5月に同じポジションの田中幹也が復帰してからは、また控えに回ることになった。再びスタメンの座を奪い返すには、バットで結果を出さねばならない。そんなこともふまえて、井上監督はこの大事なチャンスを板山に託したのである。

生まれるべくして生まれた「代打逆転2ラン」

 

 またこの試合、板山にはもう1つ発奮材料があった。そう、山本の2連発である。山本は2020年オフ、巨人から金銭トレードで阪神タイガースへ移籍し、2021年から3シーズンプレー。元阪神の板山はその間、山本とはチームメイトだった。しかも2人は同学年で、2023年オフ、ともに阪神を戦力外となりドラゴンズへ移籍。山本の活躍を目の前で見て「よぅし、自分も!」と思わなければウソだろう。

 

 阪神コーチ時代から2人を見てきた井上監督は、そのあたりの心理をよくわかっていた。冒頭に記した起死回生の「代打逆転2ラン」は、生まれるべくして生まれたのである。前2試合のモヤモヤは、板山の1発で完全に吹き飛んだ。

 

 

 試合は8回、ジェイソン・ボスラーがダメ押しの2ランを放ち、最後は守護神・松山晋也が締めて7-4で快勝。まさか、ホームラン4発の空中戦で勝つなんて。チームの連敗も、巨人戦連敗も、東京ドームでの連敗もすべて止める、久々に爽快な逆転劇だった。試合後、井上監督は、山本と板山についてこう語った。

 

 「いいところも悪いところも、僕は知っているつもり。山本ヤスは本当に素晴らしい守備をするかと思えばたまに集中力が切れる。だけど集中したときには素晴らしいバッティング、守備をする。板山もくすぶっていた阪神時代から『ドラゴンズに拾ってもらったという思いは持ち続けろよ』と言ってきた。最近は打席に飢えていた。アイツの喜びは格別だと思う」

 

 井上監督の言う通り、2人とも一長一短ある選手で、だから戦力外という苦い思いもした。だがそういう経験をした選手こそ、少ないチャンスを生かそうと目の色を変えてプレーすることを井上監督はよくわかっている。その「必死さ」が、簡単にゲームを諦めないことにつながり、負け犬根性が染みついたチームを変える ――― 井上監督が勝負所で彼らを起用する理由はそこにあると思う。

 

 生え抜きの若手たちには、彼らの野球に懸けるひたむきさをもっと学んでほしい。「なんでオレを使わないんだ!」とアピールするぐらいじゃないと、レギュラーなんか永久に獲れないぞ。

 

 

【了】