藤井聡太名人に永瀬拓矢九段が挑戦する第83期名人戦七番勝負(主催:毎日新聞社・朝日新聞社)は、藤井名人3連勝で迎えた第4局が5月17日(土)・18日(日)に大分県宇佐市の「宇佐神宮」で行われました。千日手にもつれ込んだ本局は、指し直し局を永瀬九段が141手で勝利。劣勢の終盤を跳ね返して反撃の狼煙を上げました。
6年ぶりの千日手
3連敗とあとがなくなった永瀬九段は後手番で迎えた正念場の一番で再度△3三金型腰掛け銀を採用。堂々と4筋の歩を突いたのが第2局との違いで、いつ仕掛けられても大丈夫という自信のほどがその早い指し手からもうかがえます。対する藤井名人は持ち時間を潤沢に投入して仕掛けを模索しますが、後手に先攻を許し不本意な千日手を余儀なくされました。名人戦では6年ぶりとなる千日手は17時3分に成立。1日目を終えた藤井名人は「先手番なので千日手は本意ではない」と肩を落とします。
指し直し局は2日目の朝からスタート(封じ手はなし)。先手番を得たうえ持ち時間で3時間近くリードする永瀬九段が主導権を握るのは自然な流れでした。相早繰り銀から角銀総交換になるのはおたがいに力の出せる中盤戦で、なかでも6筋にいた永瀬玉が戦いの中で初期位置(居玉)に戻る手が印象的なねじり合いとなりました。先手が手持ちの飛車を、後手が自陣に引き付けた馬の手厚さを主張して戦いは終盤へ。持ち駒の多い藤井名人がペースを握っており、持ち時間もいつの間にか1時間弱で並んでいます。
逆転への伏線
藤井名人の攻勢で迎えた最終盤で永瀬九段が勝負手を放ちます。21時すぎごろ、攻めの要の竜を見捨てて金をはがしたのが当然とはいえ好手。急に後手玉が危険になった印象で、先手にも反撃の希望が出てきました。1日目からの時間消費が伏線となり、超難解な寄せ合いを前に両者秒読みになっていたことにより、わずかに藤井名人の指し手にひずみが生じた構図です。永瀬九段はこのあと自陣に桂を打つ攻防手で逆転に成功。一度は即詰みを逃したことで怪しい雰囲気が出たものの、再逆転にはいたらず踏みとどまりました。
終局時刻は22時16分、最後は自玉の詰みを認めた藤井名人が投了。千日手で先手番を得て持ち時間のリードを活かしつつ戦うという、永瀬流の勝負術が終盤の逆転を招いた一局となりました。敗れた藤井名人が「(最終盤で)自玉に詰めろが続くのが読み抜けだった、千日手局も含めて内容が良くなかった」と反省を口にするとファンも「藤井名人も人間なんだ」「永瀬九段の終盤すごかった」と熱戦を称えました。注目の第5局は5月29日(木)・30日(金)に茨城県古河市の「ホテル山水」で行われます。
水留啓(将棋情報局)