
横浜市旭区にある軟式少年野球チーム「横浜ECP ベースボールクラブ」(以下、ECP)。チームには創設4年で区内最大規模となる50人近い子ども達が集まってきています。子ども達が集まる理由はどこにあるのでしょうか? 総監督の足立健太郎さんにチーム創設の経緯や指導方針などの話を聞きました。
<口コミで広まった「プレイヤーファースト」>
——チームを立ち上げたの経緯から教えて下さい。
息子をどのチームに入れようかといろんなチームを見て回っていたのですが、でも一日中練習をやっていたり保護者の負担がものすごく大きいチームが多くて、これは下に弟、妹がいる家庭では参加できないなと思っていました。そんなときに子どもが既に別チームに入っていた現ECP代表の楮畑(勇輝)に会って、楮畑も同じようなことを考えていたこともあって「じゃあ一緒にチームを作ろうか」ということになったのががきっかけです。
——4年間で50人弱も子どもが集まった要因はどこにあると思いますか?
『プレイヤーファースト』ということを徹底していることにあるのかなと思います。それと親御さんの負担が少ないところ。その日のスタッフが少ないときには「今日、お片付けができる方はお願いします」と保護者のLINEでお願いするいうことも年に何回かはありますが、保護者の負担は基本的には送迎だけですから。そういったことが口コミで広がっていった結果なのかなと思います。あとはインスタグラムもマメに更新していますのでそれを見て来て下さる人もいます。
——チームの練習時間は?
土曜、日曜それぞれ半日ずつです。
——お父さんコーチを含めてチームスタッフの数は20人もいるそうですが、お父さんコーチはどのようお願いしているのでしょうか?
野球経験の有無は問わず、ご協力して頂ける方はお願いしたいですという感じです。各カテゴリー(5・6年/3・4年/1・2年)にはメインの指導者がいますので、お願いしたいのはそれの補助的な役割。です。子どもの人数に応じて最低限度の大人の目はやはり必要ですし、低学年になればなるほど手厚くする必要があると思っています。
——二学年ごとにチームを分けてそれぞれに監督を置いているそうですが、監督はどのようにして決めているのでしょうか?
コアスタッフが5、6名いるのでミーティングをして誰にどのカテゴリーをお願いしようかを決めています。気をつけているのはできるだけ自分の子どもがいない学年を見てもらうということ。どうしてもそこに思いが入りすぎてしまうことがありますから。それでも「どうしても一緒に見たいです」ということであればお願いしますけど。
<試合には全員で行かない、その理由>

——部員が多いですが試合には12人しか連れて行かないそうですね。
YBBLという横浜市の大きな大会と旭区内の大会には全員で行きますが、それ以外の試合は12人だけで行くようにしています。多く連れて行っても試合に出られずにベンチにずっといるのなら残って練習をやった方が良いと思っていますし、実際に試合を見ずに遊んでいる子もでてきますから。みんなで行くことになったときでも、空いているスペースを見つけてゴロ捕りをやったりするなどしています」
——保護者の負担には試合の時の車出しなどもあると思いますが、その辺はどのようにされているのでしょうか?
基本的に試合に行くのは12人ですから車が3台あれば賄えます。活動は二学年ごとの3つのカテゴリーに別れていますし、それぞれコーチが3、4人いますから大体それで足りることがほとんどです。それでも完全ではないですから、車が足りない時などはLINEグループでご協力頂ける方を募ることもあります。
——「試合には全員で行くもの」という考えから脱却すれば、配車もそんなに大きな負担にはならないということですね。
そうですね。遠征メンバーではない子達は残って練習をしますが、それも「次の機会、チャンスを掴むために残って練習をするんだよ」ということを理解してもらってやっています。
<白井一幸さんに学んだ「自責思考」>

——チーム方針に『選手全員がエースで4番!のようなスケールの大きい選手の育成を目指します』とありますが、この方針に行き着いたのはどういった理由からでしょうか?
私が学童野球をやっていたいときはYBBLという横浜市の200以上チームが参加する大会で春は準優勝して秋は3位になるくらいチームが強かったのですが、その分結構練習などは厳しいチームでした。私は打順が3番でポジションはピッチャーとかショートでいわゆる中心的な選手だったのですが、他のチームメイトはバントと待てのサインが多かったんです。大人になってから当時のチームメイトに「試合にはよく勝ったけれど野球が面白かった記憶は全くない。俺らはバントばっかりで脇役でしかなかったから」と言われたことがあって、その言葉に衝撃を受けたんです。小学生のうちはそれではダメですよね。脇役としての役割を求められるのは中学、高校に入ってからでいいんじゃないか、小学校の間はみんなが主役にならないとダメだろうと。そういった思いからですね。
——子どもを指導するに当たってスタッフ間で共有していることなどはありますか?
WBCで侍ジャパンのコーチもされていた白井一幸さんの研修にも行かせて頂いて、そこで「他責ではなくて自責」ということを学びました。「子ども達が試合で上手くできないのは彼等の責任ではなくて全部スタッフの責任だよ」と白井さんには言われました。スタッフがきちんと指導ができていないから、上手くさせられてあげてないから彼等はできないのだと。だから「何やってんだよ!」とその子を責めるのは、その責任を子どもに向けているということ。そうではなくてその責任は自分たちにあるということ。そういうふうに「自責」を持つようにしましょう。そんなことを学びました。ですから「なぜ勝たせられなかったか? なぜ成功させられなかったのか? という考えはスタッフ全員で持とうね」と言うことは話しています。
ECPは当然子ども達が宝だと考えていますけど、スタッフのことも同じくらい宝だと考えています。だからスタッフミーティングとか食事会とかも多くなりますし、資料を作ってこうやっていこう、ああやっていこうという意識共有は常にしています。
——最後に今後の抱負を教えてください。
野球をやる子どもを一人でも増やしながら、野球に携わる人を幸せにすることですね。
(取材・写真:永松欣也)